国立天文台天文シミュレーションプロジェクト成果報告書 渦巻き銀河の大局的磁場構造再現のための 磁気流体シミュレーションソフトウェアの開発 中村 翔 (東北大学大学院理学研究科天文学専攻) 利用カテゴリ XC-Trial [概要] 申請者は、渦巻き銀河の磁場の成長の鍵となる磁気流体現象を明確にすることを目的とした研 究を行っている。そのための、銀河のバルジ・ディスク・ハローの作る軸対象な重力ポテンシャ ルに、非軸対象な渦状腕ポテンシャルを加えた重力中での3次元磁気流体数値実験を行ってきた。 シミュレーションでは、申請者は等温の仮定を置かずに、エネルギー方程式を解いた。また、銀 河円盤内のガスの放射冷却を導入することにより、渦巻きの部分で発生する等温の銀河衝撃波を 長時間維持することに成功した。エネルギーの方程式を解くことで、低温度(約104K)のディスク 成分と高温度(約106K)のハロー成分の正しい発展の様子を観察することができた。 これらの物理設定のもとで、長時間(銀河円盤が7-8回転する程度)シミュレーションを行った。 このような長時間のシミュレーションを必要とした理由は、銀河磁場が宇宙年齢よりも前に、定 常状態に落ち着くかどうかを見極めるためである。 [成果] 上述の通り、渦状腕ポテンシャルと放射冷却を導入したことで、渦状腕に沿ってほぼ等温の銀 河衝撃波を長時間持続させることができた。銀河衝撃波部分で圧縮をうけるガスは密度・温度が 上昇する。そのため、放射冷却の効果が大きくなり、この圧縮は等温過程となる。その後、衝撃 波を通過した流体は放射冷却の効果がなくなり、断熱過程へと移る。衝撃波の前後で異なる過程 を経ることにより、磁場が増幅されることを示した。これらの過程を何度も経ることで、円盤全 体で磁場が劇的に増幅され続けることを示した。これにより、磁気回転不安定性のみによる磁場 の増幅のタイムスケールよりも、はるかに短い時間で銀河磁場を増幅される結果を得た。 同時に、磁場の方位角成分の反転が、この短いタイムスケールの間に起こることを示した。こ れは磁場の反転機構の本質が渦状腕によるものであることを意味している。(i)円盤内で反時計回 りの成分が強められる->(ii)強められた反時計回りの成分が磁気浮力不安定性によりハローへ浮上 する->(iii)元々あった磁場とは反対向きの磁場すなわち時計回りの磁場が円盤内に取り残され、そ れが銀河衝撃波によって増幅される->(iv)強められた時計回りの成分がハローへ浮上する->(i)へ戻 る。(i)-(iv)が繰り返され、渦巻き銀河では磁場の幾何学構造は準定常状態に落ち着くことを示し た。 [これからの研究課題] 1. 現在までの研究は、ある一つの渦状腕のパターン角速度(以下, Ωp)の場合についての詳細な物 理過程を考察することに尽きていた。Ωpを変えると共回転半径の位置が変化する。共回転の 位置では、流体が銀河衝撃波を通過することがない。このため、衝撃波による磁場の増幅で はなく、磁気回転不安定性による磁場の増幅とそれに伴う乱流が卓越することが予想される。 現在は共回転半径をRCR∼15kpcと大きい半径(およそディスクの外縁部分)にΩpを設定してい る。Ωpを大きく変えたシミュレーションを計画している。具体的には (i) RCR∼7kpcの場 合、(ii) RCR∼4kpc(ディスクとバルジの境界程度)の場合、のシミュレーションを行うことで、 系統的に渦状腕の働きを調べる。 2. 現在のシミュレーションコードはMPIによる並列化率に改善の余地がある。これを向上するこ とで、シミュレーションのコストパフォーマンスを上げていきたい。 3. 現在のシミュレーションコードでは、divergence cleaning法を用いてdiv Bを限りなくゼロに 近づけている。しかし、div B=0を保つもう一つの方法としてCT法がある。今後、現在のシ ミュレーションコードにこれを実装し、計算結果にどの程度影響が現れるかを比較したい。
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