行政の動き - 危険物保安技術協会

最 近 の
建築物の屋上に航空機給油取扱所を設置する場合
の安全対策について
行政の動き
消防庁危険物保安室
危険物施設係長
金
子
洋
建築物の屋上に航空機給油取扱所を設置す
はじめに
る場合の安全対策に係る指導指針
近年、救急医療用ヘリコプター(救急医療用
ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する
−
特別措置法(平成19年法律第103号)第
⑴
条に規
設置基準及び許可範囲等について
航空機給油取扱所は、壁、柱、床、はり
定するものをいう。)の需要が高まり、全国的な
及び屋根が耐火構造である建築物の屋上に
配備が進められています。
設置することとしました。
⑵
このため、病院等の建築物の屋上に設けられ
航空機給油取扱所として規制を受ける部
たヘリポートに給油設備を設置する事例が見ら
分は、建築物全体ではなく、給油設備、航
れ、危険物の取扱量を踏まえ市町村条例に基づ
空機に直接給油するための空地、配管、そ
く少量危険物貯蔵取扱所として認められ運用さ
の他危険物関連機器等とすることとしまし
れています。
(全国でドクターヘリを運航して
た。すなわち、給油設備、航空機に直接給
いる病院は、共同運航も含めて47施設あり、そ
油するための空地、配管、その他危険物関
のうち、主として病院の屋上で燃料補給を行っ
連機器等を除く建築物の部分は航空機給油
ている施設が16施設ありました(平成26年12月
取扱所の規制を受けません。
また、危険物を貯蔵し、又は取り扱うタ
消防庁調べ)。
)
ンク(以下「危険物タンク」という。
)は屋
このような中、同種の施設において、災害時
の対応等を念頭に、
外タンク貯蔵所、屋内タンク貯蔵所又は地
日の最大取扱量が指定数
量以上となることも想定し、危険物の規制に関
下タンク貯蔵所として許可するものとし、
する政令(昭和34年政令第306号。以下
「危政令」
ポンプ機器はこれらの許可施設に附属する
という。)に基づく航空機に給油する給油取扱
設備として取り扱うこととしました。すな
所(以下「航空機給油取扱所」という。
)として
わち、危険物タンクは屋上の航空機給油取
設置したいという要望が増加しています。
扱所とは別の許可施設として取り扱うこと
になります。
このことを踏まえ、施設の実態や米国防火協
なお、
会 作 成 規 格 で あ る NFPA407(Standard for
において、例として病院等の建
Aircraft Fuel Servicing 2012 Edition)を参考に、
築物の屋上と示しましたが、建築物の用途
建築物の屋上に航空機給油取扱所を設置する場
を病院に限定するものではありません。
⑶
合の安全対策に係る指導指針(以下「指導指針」
という。)をとりまとめ、平成27年12月
ポンプ機器及び危険物タンク(指定数量
の
日に通
分の
以上指定数量未満の危険物を貯
蔵し、又は取り扱うタンクを含む。
)は
知しました。
階
以上の階に設置しないこととしました。こ
ここでは、指導指針の内容について解説しま
れは、危険物が大量に流出する危険性があ
す。
3
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るポンプ機器及び危険物タンクについて
は、
階以上の階に設置しないこととした
⑶
配管は、危政令第
条第
項第21号の規
定の例によるほか、次によることとしまし
た。危険物や可燃性蒸気の流出の危険性が
ものです。
貯蔵し、又は取り扱う危険物は、Jet A-
ある配管やポンプ機器等における安全対
(日本工業規格 K2209の航空タービン燃
策、必要以上の危険物が屋上に送油されな
⑷
料油
号)とすることとしました。日本で
いようにする措置等について示したもので
ヘリコプター燃料として広く使われている
す。
Jet A-
ア
の給油を想定したものですが、引
配管から危険物が流出した場合におい
火点が低く火災危険性の高い航空ガソリン
て、危険物及び可燃性蒸気の建築物への
等の給油は想定していません。
流入を防止するため、以下のいずれかの
また、航空機給油取扱所の許可数量につ
いては、建築物の屋上で航空機に給油する
場合の
措置を講ずること。
・
さや管又はこれに類する構造物(パ
イプシャフト等)の中に配管を設置す
日の最大取扱量により算定するこ
る。
ととしました。
なお、当該取扱量が指定数量の
分の
・
屋外に配管を設置するとともに、建
以上指定数量未満となる場合は、市町村条
築物の開口部及びその上部の外壁部分
例に基づく少量危険物貯蔵取扱所としての
への設置を避ける。
基準が適用されることになります。この場
イ
点検が容易でない場所に設ける配管及
合、地震等の災害時に指定数量以上の危険
び建築物外に設置された危険物タンクと
物を取り扱う際は、「震災時等における危
建築物との連絡部分に設ける配管の接合
険物の仮貯蔵・仮取扱い等の安全対策及び
は、溶接その他危険物の流出のおそれが
手続きについて」(平成25年10月
ないと認められる方法によること。
日付消
防災第364号・消防危第171号)を参考に対
ウ
配管が建築物の主要構造部を貫通する
場合は、その貫通部分に配管の接合部分
応することが可能です。
を設けないこと。
−
エ
航空機給油取扱所の設備について
⑴
給油設備は、危険物の規制に関する規則
配管には、見易い箇所に取り扱う危険
物の物品名を表示すること。なお、当該
項
表示については、屋内に設けられる配管
号ロの規定による、給油配管(燃料を
にあっては、点検のために設けられた開
移送するための配管をいう。)及び当該給
口部にある配管ごとに、屋外にある配管
油配管の先端部に接続するホース機器(以
にあっては、見易い箇所に
下「給油配管等」という。
)とすることとし
示すること。
(昭和34年総理府令第55号)第26条第
第
ました。
オ
箇所以上表
屋上に電磁弁を設ける等により、給油
手動開閉装置を開放状態で固定する装置
量を管理し、必要以上の危険物が屋上に
を備えた給油ノズル(ラッチオープンノズ
送油されないための措置を講ずること。
⑵
ル)を設けないこととしました。これは屋
カ
ポンプ吐出側直近部分の配管に逆止弁
上における危険物の流出量を抑えるための
を設ける等により、配管内の危険物がポ
措置です。
ンプ機器付近で大量に流出することを防
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⑶
止するための措置を講ずること。
屋上からの避難経路については、複数設
ポンプ機器を停止する等により危険物タ
置することが望ましいこととしました。施
ンクからの危険物の移送を緊急に止めるこ
設の実状に合わせて、万が一の災害発生時
とができる装置を設け、当該装置の起動装
に安全に避難が実施できるよう配慮する必
置は、火災その他の災害に際し、速やかに
要があります。
⑷
操作することができる箇所に設けることと
おわりに
しました。これは、⑴で給油設備が給油配
指導指針においては、指定数量以上の危険物
で、緊急停止装置が必要となるものです。
の取扱いを想定して航空機給油取扱所とする場
消火設備については、危政令第20条の基
合の安全対策について示しました。安全対策の
⑸
管等である航空機給油取扱所としたこと
準によるほか、第
基本的な考え方は、取り扱う危険物を比較的引
種の消火設備を設置す
ることが望ましいこととしました。これ
火点の高い JET A-
とするとともに、ラッチ
は、屋上に設けられた既存のヘリポートを
オープンノズルを設けないこと、緊急停止装置
航空機給油取扱所とする場合、第
種の消
の設置等による漏えいの危険性を低減させる対
火設備の設置義務はないものの、既存の消
策をとるものです。これらの安全対策をより有
火設備(※)を活用することができること
効なものとするためには、教育や訓練等のソフ
から示したものです。
ト面の対策が不可欠であることは言うまでもあ
※防火対象物の屋上部分で、回転翼又は垂
りません。
直離着陸航空機の発着の用に供されるも
指導指針で示した給油取扱所は、地震等の災
のは、消防法施行令(昭和36年政令第37
害時において、ドクターヘリ等の給油に利用さ
号)第13条により、泡消火設備又は粉末
れることが期待されます。指導指針を参考に、
消火設備が設置されます。
安全で災害にも強い施設が整備されることを期
待しています。
−
⑴
その他
給油は、火災その他の災害が発生した際
に危険物の移送の緊急停止、初期消火、通
報等の必要な対応が速やかに実施できるよ
う適切な体制で行うこととしました。給油
者のほかに、緊急停止装置の起動装置等の
付近に人員を配置するなど、施設の実状に
合わせて緊急時に適切な対応をとれる体制
で給油することが重要です。
⑵
災害その他の非常の場合に取るべき措置
として、危険物の移送の緊急停止、初期消
火、通報等に関する事項を予防規程に定め
屋上に設けられたヘリポートに給油設備が設置さ
れた少量危険物貯蔵取扱所の例
ることとしました。
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