景気循環研究所レポート 消費者心理は改善も、インフレ期待は頭打ち 2015 年 4 月 17 日 内閣府が 17 日に発表した 3 月の消費動向調査によると、「消費者が予想 1 年後の物価見通し する 1 年後の物価見通し(一般世帯、原数値) 」をもとに算出される期待 インフレ率(当研究所試算値)は、2 月と同水準の 2.9%だった。期待イ ンフレ率は、消費税率引上げ直前の 14 年 3 月に 3.2%まで上昇したもの の、その後は頭打ちの動きとなっている(図 1、表 1)。 日本銀行が同じく 15 年 3 月に実施した「生活意識に関するアンケート 日銀調査でも低下 調査」をみても、今後 1 年間の期待インフレ率(当研究所試算値)は、前 回 14 年 12 月調査からやや低下している。両調査はアンケートの回答方式 や期待インフレ率の算出手法が異なるため、期待インフレ率の水準自体を 比較することは出来ないが、インフレ期待の改善がこのところ頭打ちとな っている点は、両調査の結果に共通している。 日銀調査では、「今後 1 年間」とあわせて「今後 5 年間」の期待インフ 「今後 5 年間」も低下 レ率も調査・集計している。15 年 3 月の「今後 5 年間」の期待インフレ 率は 0.94%と、「今後 1 年間」の 0.60%を上回ったものの、前回 14 年 12 月の「今後 5 年間」の期待インフレ率(1.08%)からは下落した。「今後 嶋中 雄二 景気循環研究所長 鹿野 達史 景気循環研究所副所長 シニアエコノミスト 1 年間」の前回調査からの低下幅が 0.01%ポイントだったのに比べ、「今 後 5 年間」の下落幅は 0.14%ポイントと比較的大きい。 図 1. 家計の期待インフレ率が頭打ちに 浩 miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp 0.60 5 圭亮 fukuda-keisuke@sc.mufg.jp 0.0 景気循環研究所 東京都千代田区丸の内 2-5-2 三菱ビルヂング -0.5 1年後(日本銀行、右目盛) 2.9 2 -1.0 -1.5 1 1年後(内閣府、左目盛) 0 06 本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。 0.5 4 (前年比、%) 3 シニアエコノミスト 03-6213-2608 1.5 1.0 6 シニアエコノミスト 03-6213-6573 福田 15年3月 0.94 5年後(日本銀行、右目盛) 7 宮嵜 (前年比、%) 8 07 08 09 10 11 12 13 14 -2.0 15(年) (注1)内閣府の期待インフレ率は「消費動向調査」をもとにした加重平均値(一般世帯ベース、当研究所試算値)、月次データ。 加重平均は、「-5%以上低下」を-5%、「-5%~-2%低下」を-3.5%、「-2%未満低下」を-1%、 「2%未満上昇」を+1%、「2%~5%上昇」を+3.5%、「5%以上上昇」を+5%と仮定して計算。 12年7月から、調査方法を訪問留置調査から郵送調査に変更。 (注2)日本銀行の期待インフレ率は修正カールソン・パーキン法を用いて当研究所が算出、四半期データ。 (資料)内閣府「消費動向調査」、日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所作成 1 2015 年 4 月 17 日 期待インフレ率が低下した最大の要因は、昨年夏以降のエネルギー価格の下 原油安が消費を下支える 落だ。エネルギー価格の下落は消費者心理の改善に繋がっており、3 月の消費 動向調査によると、消費者の心理動向を示す消費者態度指数は前月比 0.8 ポイ ント上昇している(一般世帯、季節調整値)。過去をみると、消費者態度指数は、 個人消費の前年比変動率と連動する傾向がある(図 2)。エネルギー価格の下落 は、足元の個人消費の落ち込み加速に歯止めをかけている模様だ。 消費者心理とインフレ期待 今回と同様に、消費者態度指数が短期の期待インフレ率(1 年後)と逆の動 きになっているケースは、過去に少なからず見受けられた。ただし、長期の期 待インフレ率(5 年後)が低下している局面では、消費者態度指数は上がりに くく、下がりやすい(図 3)。足元でも、短期の期待インフレ率は低下したが、 長期の期待インフレ率は短期以上に低下している。長期の期待インフレ率の低 下によって、エネルギー価格下落の消費押し上げ効果は弱まった可能性がある。 表 1. 期待インフレ率と個人消費の動向 期待インフレ率(%) 日本銀行 (1年) 14年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 15年 1月 2月 3月 (5年) 0.75 内閣府 消費者 態度指数 実質消費 総合指数 (1年) (ポイント) (前年比、%) 3.2 3.2 3.2 3.0 2.8 2.7 2.9 2.8 2.9 3.0 3.1 3.0 3.0 2.9 2.9 0.92 0.54 0.83 0.52 0.98 0.61 1.08 0.60 0.94 40.7 38.8 37.6 37.0 39.0 40.6 40.9 40.7 39.8 39.1 38.4 39.3 39.5 40.9 41.7 3.3 1.0 6.2 -3.8 -2.6 -2.0 -3.1 -2.6 -2.7 -2.7 -2.3 -1.5 -3.4 -2.4 - 図 2. 消費者マインドと個人消費の関係 12 10 8 6 4 2 0 -2 -4 -6 -8 (ポイント) (前年比、%) 消費者態度指数(右目盛) 50 40 30 20 10 個人消費(左目盛) 0 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 図 3. 期待インフレ率と消費者マインド、株価の関係 100 日経平均株価(右目盛②) 80 70 15 (年、月次) (注)個人消費は実質消費総合指数。 (資料)内閣府「消費動向調査」「月例経済報告」をもとに三菱UFJモルガン・ スタンレー証券景気循環研究所作成 (注)期待インフレ率の算出方法については図1の注を参照。 (資料)日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」、内閣府「消費動向調査」「月例経済報告」 をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成 90 期待インフレ率(5年後、右目盛①) 60 期待インフレ率 (1年後、右目盛①) (ポイント) 50 40 ① ② (%) (円) 2.5 20,000 2.0 15,000 1.5 10,000 1.0 5,000 0.5 0 0.0 -0.5 30 消費者態度指数(左目盛) 20 06 07 08 09 60 10 11 12 13 14 (注)期待インフレ率は修正カールソン・パーキン法を用いて当研究所が算出、四半期。その他は月次。 (資料)日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」、内閣府「消費動向調査」などをもとに三菱UFJモルガン・ スタンレー証券景気循環研究所作成 巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。 2 -1.0 -1.5 15(年) 2015 年 4 月 17 日 個人消費回復の条件として、期待インフレ率は「長期上昇・短期低下」の組 長期と短期のスプレッド み合わせが最も望ましい。逆に、「長期低下・短期上昇」は、消費者心理を冷え 込ませることになる。当研究所が、長期(今後 5 年間)の期待インフレ率から 短期(今後 1 年間)の期待インフレ率を差し引いた、いわゆる「期待インフレ 率の長短スプレッド」を算出したところ、同スプレッドは消費者態度指数に対 し、約 3 四半期先行して動くことが確認されている(図 4)。消費者心理と密接 な関係にある株価の前年比に対しても、概ね同様の関係にある(図 5)。 追加緩和の必要性 期待インフレ率は、消費者心理と株価が今後弱含みに転じる兆候を示してい る。日本銀行は今のところ「中長期の予想物価上昇率(期待インフレ率)は比 較的維持されている」(黒田総裁、4 月 8 日の会見)との認識だが、中長期の期 待インフレ率を引上げる追加金融緩和の必要性は高まりつつあるといえよう。 図 4. 消費者マインドと期待インフレ率の関係 (%) 1.4 (ポイント) 期待インフレ率 「今後5年間」-「今後1年間」 (3期先行、四半期、左目盛) 1.2 1.0 55 50 45 0.8 0.6 40 0.4 35 0.2 30 0.0 消費者態度指数(月次、右目盛) -0.2 -0.4 25 20 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (年) (注)期待インフレ率は修正カールソン・パーキン法を用いて当研究所が算出。 (資料)日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」、内閣府「消費動向調査」をもとに 三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成 図 5. 株価と期待インフレ率の関係 1.4 (%) (前年比、%) 期待インフレ率 「今後5年間」-「今後1年間」 (3期先行、四半期、左目盛) 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 -0.2 日経平均株価(月次、右目盛) -0.4 07 08 09 10 11 12 13 14 120 100 80 60 40 20 0 -20 -40 -60 -80 15 (年) (注)期待インフレ率は修正カールソン・パーキン法を用いて当研究所が算出。 (資料)日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」、内閣府「消費動向調査」をもとに 三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成 (以 上) みやざき ひろし (15.4.17 宮嵜 巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。 3 浩) 2015 年 4 月 17 日 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。本 資料で直接あるいは間接に採り上げられている有価証券は、価格の変動や、発行者の経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部評価 の変化、金利・為替の変動などにより投資元本を割り込むリスクがあります。ここに示したすべての内容は、当社の現時点での判断を示している に過ぎません。本資料は、お客様への情報提供のみを目的としたものであり、特定の有価証券の売買あるいは特定の証券取引の勧誘を目的と したものではありません。本資料にて言及されている投資やサービスはお客様に適切なものであるとは限りません。また、投資等に関するアドバ イスを含んでおりません。当社は、本資料の論旨と一致しない他のレポートを発行している、或いは今後発行する場合があります。本資料でイン ターネットのアドレス等を記載している場合がありますが、当社自身のアドレスが記載されている場合を除き、ウェッブサイト等の内容について当 社は一切責任を負いません。本資料の利用に際してはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。 当社および関係会社の役職員は、本資料に記載された証券について、ポジションを保有している場合があります。当社および関係会社は、 本資料に記載された証券、同証券に基づくオプション、先物その他の金融派生商品について、買いまたは売りのポジションを有している場合が あり、今後自己勘定で売買を行うことがあります。また、当社および関係会社は、本資料に記載された会社に対して、引受等の投資銀行業務、 その他サービスを提供し、かつ同サービスの勧誘を行う場合があります。 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の役員(会社法に規定する取締役、執行役、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が、以下の会社の役員 を兼任しております:三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱倉庫。 債券取引には別途手数料はかかりません。手数料相当額はお客様にご提示申し上げる価格に含まれております。 本資料は当社の著作物であり、著作権法により保護されております。当社の事前の承諾なく、本資料の全部もしくは一部を引用または複製、 転送等により使用することを禁じます。 c 2015 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd. 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