米利上げ 9 月説減衰、年末説が隆盛

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米利上げ 9 月説減衰、年末説が隆盛
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日銀は強気姿勢継続、低下した追加緩和の蓋然性
米利上げ「6 月説」が 3 月 FOMC を契機に減衰し、
3 月雇用統計で「9 月説」が後退、ここに来て「12
月説」の蓋然性が高まり、
「越年説」まで徘徊する。
確かに、米経済は 3%成長や雇用改善は続くがディ
スインフレ下では理念的な利上げは「1937 年の亡
霊」を呼び込みかねない。4 月末日銀の追加緩和期
待の減退も「強すぎるドル」の修正、円安抑制を支
援しよう。
インフレ加速なき「NAIRU」5.0%割れ懸念
あるヘッジファンド代表は、「米 FOMC メンバーが
3 月 FOMC でインフレの加速しない失業率『NAIRU』
( Non-accelerating
inflation
rate
of
unemployment)を 5.0%に引き下げたが、強いドル
がディスインフレを助長、再度『NAIRU』を引き下げ
る可能性があり、米利上げは今秋でなく年末 12 月に
後ズレ、もしくは越年する可能性すらある」と打ち
明ける。
同ファンド代表はタカ派としてかつて「米利上げ
6 月説」を前提にドルロングを積み上げていた。し
かし、3 月 FOMC(3 月 18 日)を契機にハト派に転じ、
3 月雇用統計の悪化を目の当たりにして今や「米利
上げ 12 月説」に宗旨替えした。
しかも、米利上げ「越年説」の方が「9-10 月説」
より蓋然性が高まったと付言する。やはり、
「米国『1
本足打法』では、試合に勝てない(世界経済を牽引
できない)という」(同ファンド代表)のだ。
確かに、悪天候など一時的な要因との受け止め方
がコンセンサスとなって、3 月雇用統計悪化にも利
上げ延期を好感して週明け 6 日の欧米株式市場は軒
並み上昇した。だが、米経済の回復の鈍さは、3 月
雇用統計の悪化だけではない。
米 3 月 ISM 製造業景況指数は 51.5 と昨年 10 月の
57.9 をピークに 5 ヶ月連続で悪化、しかも 50 は超
えているものの 2013 年 5 月以来の低水準にある。小
売売上高も 2 月まで 3 ヶ月連続で前月を下回り、住
宅市場も全体としては緩慢な成長ペースにとどまっ
ている。
問題は、「3 月 FOMC でメンバーの多くが従来の
5.2-5.5%から、5.0-5.2%に引き下げた完全雇用状
態を示す長期的な失業率『NAIRU』の 4%台へのさら
なる引き下げ懸念である」
(同ファンド代表)。
FOMC メンバーによる「NAIRU」引き下げは、雇用
環境に依然として「緩み」があり失業率がさらに低
下しても未だ完全雇用でないと判断している証左に
他ならない。市場への影響は皆無だったが、7 日の
米ミネアポリス連銀コチャラコタ総裁の「年内の利
2015/4/13
上げは間違い」との発言は慧眼かも知れない。
イエレン FRB 議長は 3 月 27 日サンフランシスコの
講演で「米経済の回復が続けば、今年後半にかけて
利上げが適切になろう」との見通しを示す一方、
「賃
金や物価の上昇が鈍いようなら、利上げは好ましく
ない」と臨機応変に判断するとした。
シカゴ連銀エバンズ総裁とハト派の両雄として知
られる米アトランタ連銀ロックハート総裁が 3 月 20
日、
「輸出と成長に対するドルの影響への懸念が拡大
した」と発言、
もっとも、「米利上げ 12 月説」は原油価格に大き
く左右される。米 EIA は 7 日発表した米国内の 15
年原油生産見通しを 923.4 万バレルと 3 月見通し
(日
量 934.8 万バレル)から下方修正、さらに 2016 年も
931.2 万バレルに下方修正した。
他方、米 EIA は 2015 年の世界石油需要見通しを 1
日当たり 6 万バレル引き上げ、日量 104 万バレルへ
と上方修正した。生産見通しを引き下げ、需要見通
しを引き上げたということは原油需給の好転を意味
し、7 日の NY 原油先物は 53.98 ドルへと前日比
3.53%の大幅続伸となった。
原油下落が反転すれば、リスクオンのドル高再燃
の可能性があり、米シェールガス・オイル関連設備
投資の大幅減を食い止め、ディスインフレからマイ
ルドインフレへと期待インフレ率牽引に繋がる。
「米
利上げ 12 月説」が再び「9 月説」へと前倒しされる
可能性もある。
だが、
「新債券王」ダブルライン・キャピタルのジ
ェフリーガンドラック CEO(最高経営責任者)は、
「FRB は金融・経済的な要因でなく、思想的な理由
で利上げすると見る。しかし、それは長く続かず、
イエレン議長は再び利下げを余儀なくされるだろ
う」と述べている。
物価「ゼロ%程度」へ下方修正も強気崩さぬ日銀
一方、日銀の黒田東彦総裁は 8 日、政策決定会合
後の会見で、
「企業業績拡大や賃上げ、輸出の伸びな
ど景気プラス材料が多く、経済全体の先行きは緩や
かな回復基調を続ける」と引き続き強気見通しを示
した。
しかも、消費者物価(生鮮食品除く)前年比上昇
率について「消費税増税の影響を除くとゼロ%程度」
と前回会合で示した「ゼロ%台前半」から下方修正
した。昨秋から下落した原油安の影響で今年 1 月以
降、4 会合続けて物価見通しを引き下げた上での「強
気」姿勢の継続である。
しかも、消費者物価の先行きについては、予想物
価上昇率は長期スパンでみれば「全体として上昇し
ている」と言い切った。
足元の景気認識については、前回会合の見方を踏
襲した。先進国など海外経済の回復で輸出は「持ち
直している」とし、設備投資についても「(企業収益
が改善するなかで)緩やかな増加基調にある」と述
べた。鉱工業生産は「持ち直している」との表現を
変えなかった。個人消費についても、低水準で推移
する失業率や民間企業の賃上げなどを受け「雇用・
所得環境が着実に改善している」とし、
「全体として
底堅く推移している」との見方を維持。住宅投資も
昨年4月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反
動減から「足元で下げ止まりつつある」とした。企
業、家計ともに「所得から支出への前向きな循環メ
カニズムが作用している」とコメントした。
いずれにせよ、4 月 4 日で異次元緩和から 2 年を
経た評価を記者から質され、
「異次元緩和は、企業部
門、家計部門ともに前向きな好循環が続いており、
初期の効果を発揮している」と胸を張った。黒田総
裁の先行きへの楽観的かつ強気姿勢は不変であり、
「展望レポート」公表の 4 月 30 日の決定会合での追
加緩和の蓋然性は大きく低下した。
米 FRB の利上げ大幅遅延、日銀の追加緩和期待の
減衰は「強すぎるドル」の修正、円安抑制を後押す
ことになろう。
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