グローバル時代の投資戦略 世界経済 2.過剰流動性:今後2年間は良好な投資環境が続く見通し 過剰流動性 足元で見られる利下げの動きは一段と広がるのでしょうか。2000年以降で見ると、世界的な金融緩 和の流れが定着したのは、ITバブル崩壊・9.11テロ・米国企業会計不信・イラク戦争などが続いた 2001~03年、国際金融危機に見舞われた2008~09年など、世界的な景気悪化時に限られます。 各国の物価に影響を与える原油価格の動向は今後も注視されますが、各国の景気が底堅さを増 している点を考慮すれば、米国を筆頭に金利正常化への動きが次第に強まるものと想定されます。 市場の歪み 利下げ国の増加は景気悪化ではなく原油安によるインフレ率の低下に起因 主要国 金融政策姿勢および実質GDP成長率とインフレ率 米国経済 欧州経済 主要30ヵ国 政策金利を 変更した国 の割合 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (%) 金利据置き国 利下げ国 (量的金融緩和) 日本経済 2000 8 利上げ国 2003 2006 新興国 各国経済 2009 2012 2015 2009 2012 2015 (年) (%) 6 4 G20 (20ヵ国・地域) 実質経済成長率 2 0 -2 -4 実質GDP(G20、前期比年率) -6 -8 主要金融資産 2000 7 2003 2006 (年) (%) (%) 消費者物価 (G20、前年比、左軸) 6 150 5 100 4 50 3 0 2 投資戦略 1 -50 原油価格(前年比、右軸) 0 2000 2003 2006 2009 2012 2015 (年) -100 注)上段:対象国数は30ヵ国(ただし時系列データ取得が不可能な国も存在するため30ヵ国に満たない期間もある)。 各国の政策金利(前月差)がプラスなら利上げ、不変なら据え置き、マイナスなら利下げと分類。 なお、量的金融緩和(国債などの資産買入れ)を開始または規模を拡大した国は利下げに分類している。直近値は2015年3月20日時点。 中段:直近値は2014年10-12月期時点。 下段:原油価格はWTI先物価格(期近物)。直近値は消費者物価が2015年1月、原油価格が同年2月時点。 出所) OECD、Bloombergより当社経済調査部作成 巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」および 「本資料中で使用している指数について」を必ずご覧ください。 9 KOKUSAI Asset Management Co., Ltd. 為替相場 G20 インフレ率 200 KOKUSAI Asset Management Co., Ltd. 原油価格が落ち着きを取り戻せば、エネルギー価格のインフレ率に対するマイナス寄与度は徐々 に縮小するとみられます。加えて、各国とも緩やかながら景気回復が続くと見込まれるなかでは、 財・サービスの需要も拡大し、需給面からのインフレ圧力が次第に高まる展開を予想します。 市場の歪み 原油安に伴うエネルギー価格の鈍化が総合物価押し下げの主因に 消費者物価(総合、前年比)および項目別寄与度 (%) 財(エネルギー除く) 2012 2015 (年) 財(エネルギー除く) 総合 サービス 2006 エネルギー 2009 2012 2015 (年) 主要金融資産 2003 各国経済 (%) 財(エネルギー除く) 総合 為替相場 ユーロ圏 2009 (%) 2000 サービス 2000 2003 2006 エネルギー 2009 2012 2015 (年) 注) 英国は欧州統計局公表値(HICPベース)。 総合(前年比)に対する各項目の寄与度は米国が2014年12月、英国・ユーロ圏が2015年のウエイトに基づき算出。 各項目の合計値は必ずしも総合(前年比)に一致しない。 直近値はユーロ圏が2015年2月、米国・英国が同年1月時点。 出所) 米労働省、欧州統計局より当社経済調査部作成 巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」および 「本資料中で使用している指数について」を必ずご覧ください。 10 投資戦略 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2 -3 2006 新興国 英国 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2 -3 2003 エネルギー 日本経済 2000 欧州経済 サービス(エネルギー除く) 総合 米国経済 米国 6 5 4 3 2 1 0 -1 -2 -3 過剰流動性 原油安で各国エネルギー価格(電気・ガス・各種燃料など)が低下、原材料コストに連動しやすい財 物価の伸び率が鈍化しました。一方、賃金を反映しやすいサービス物価は比較的安定しています。 世界経済 インフレ率は原油安で低下も、景気回復を背景に徐々に下げ止まりへ グローバル時代の投資戦略 世界経済 2014年後半からの原油安をどう見るか 過剰流動性 2014年後半からの原油安の背景として、米国のシェール・オイル生産急増が挙げられます。原油 安を受け、米国シェール開発企業は非効率な石油掘削装置の停止などで採算性維持を図ってい ますが、産油量の拡大は続いており、原油市場における供給過剰懸念は根強く残る環境です。 供給過剰懸念の緩和には米国原油の在庫調整が進むかも焦点です。例年、在庫は冬の暖房需要 一巡後に増加、夏のレジャーシーズンにかけてのガソリン需要増に伴い減少する傾向があります。 市場の歪み 原油価格は持ち直すか? - 米国シェール・オイルの増産ペースが鍵に 米国 石油掘削装置の稼働数 と掘削装置1基当たりの産油量 原油先物価格および見通し (米ドル/バレル) 米国経済 欧州経済 日本経済 160 150 140 130 120 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (基) 米EIA予測 2008年7月11日 147.27 3,000 2015年12月 64米ドル 主要シェール・オイル油田 掘削装置当たり産油量(右軸) 2,500 2016年12月 71米ドル シェール・オイル生産採算レート (1バレル当たり、2014年) 2,000 40~60米ドル 約66% 80米ドル超 約3% 1,000 石油掘削装置 稼働数(左軸) 500 新興国 2000 2003 2006 2009 2012 2015 (年) 注) 原油先物価格はWTI先物価格(期近物)。 2008年のザラバ高安値を表記。 実績の直近値は2015年3月20日時点(日次)、以降(点線)は予測。 予測(月次)はEIA Short-Term Energy Outlook(2015年3月)に基づく。 出所) 米EIA(エネルギー情報局)、Bloombergより当社経済調査部作成 2014年 10月10日 1,609 60~80米ドル 約18% 40米ドル未満 約13% 1,500 2008年12月19日 32.4 (バレル/日) 2015年 3月13日 866 2009年6月5日 179 0 2000 2003 2006 2009 2012 2015 2,200 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 (年) 注) 掘削装置当たり産油量は主要7油田(Bakken、Eagle Ford、Haynesville、 Marcellus、Niobrara、Permian、Utica)の合計。生産採算レートは IEA MEDIUM-TERM OIL MARKET REPORT 2014に基づく。直近値は 石油掘削装置稼働数が2015年3月13日(週次)、掘削装置当たり産油量が 同年3月(月次)時点。 出所) 米EIA、IEAより当社経済調査部作成 各国経済 2014年終盤から目立つ米国原油の在庫過剰 - 例年は夏場に向け減少傾向だが 米国 原油の生産量と在庫 (万バレル/日) (億バレル) 主要金融資産 6 1,000 国内生産量(左軸) 900 (億バレル) 米国 原油在庫の年間推移 (2010~2015年) 4.8 2015年 (点線はEIA予測) 4.6 800 5 700 4.4 4.2 500 4 400 2014年 4.0 3.8 300 投資戦略 3 200 100 在庫(戦略備蓄分除く、右軸) 0 1983 1991 1999 2007 2015 3.6 3.4 2 (年) 注) 直近値は2015年3月13日時点(週次)。 2010~2013年の変動域 3.2 1 3 5 7 9 11 (月) 注) 実績の直近値は2015年3月13日時点(週次)、以降(点線)は予測。 予測(月次)はEIA Short-Term Energy Outlook(2015年3月)に基づく。 出所) 米EIAより当社経済調査部作成 巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」および 「本資料中で使用している指数について」を必ずご覧ください。 出所) 米EIAより当社経済調査部作成 11 KOKUSAI Asset Management Co., Ltd. 為替相場 600 KOKUSAI Asset Management Co., Ltd. 世界経済 日米欧先進国、中国・インドなどは原油安による景気浮揚効果を享受へ シェール革命で原油市場における米国の存在感は高まりましたが、中長期的にOPEC(石油輸出国 機構)つまり中東産油国の動向が市場を左右するという構造自体に大きな変化はないと考えます。 市場の歪み 原油安で純輸出国から純輸入国への所得移転が進み、世界経済にはプラスか 原油・石油製品価格下落による所得移転効果(対名目GDP) (%) <原油・石油製品価格が50米ドル/バレル下落した場合> 10 0 純輸入額の減少 1.0 0.7 1.6 2.5 1.1 4.6 米国経済 5 0.8 -5 ▲0.7 ▲2.5 ▲5.7 純輸出額の減少 日本経済 中東・ 北アフリカ ▲11.2 旧ソ連 新興国 原油・石油製品 の純輸入国・地域 西・ 東南アフリカ 中南米 カナダ オセアニア その他アジア インド 中国 日本 欧州 米国 -15 欧州経済 ▲5.9 -10 過剰流動性 国際金融市場では当初、原油安は産油国やエネルギー産業への打撃というマイナス面が意識さ れました。ただし、世界経済の大半を占める米国・中国など原油純輸入国への所得移転効果(交 易条件改善を通じた消費・投資増)を考えると、世界経済へのプラス面が顕在化すると想定します。 注)原油・石油製品純輸出額×▲50米ドル÷名目GDP、で算出。原油・石油製品純輸出額は2013年、名目GDP(米ドルベース)は2014年値を利用。 オセアニアはオーストラリアとニュージーランドの合計値。 出所)BP、IMFより当社経済調査部作成 世界の産油量全体に占める 主な国・地域の割合 米国 産油量および見通し (万バレル/日) 2019年 961万バレル 1,000 全体 800 600 その他 400 シェールオイル 0 2011 2017 2023 2029 2035 (年) 注) 値は2011~2040年。 EIA Annual Energy Outlook (2014年5月)に基づく。 41 40 OPEC(右軸) 米国(左軸) 15 中南米 11 10 ロシア カナダ ※OPEC以外は全て左軸 2010 2020 中国 2040 (年) 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 -5 -10 注) EIA International Energy Outlook (2014年9月)に基づく。 中南米はOPEC加盟国除く。OPECと米国のみ値を表記。 出所) 米EIAより当社経済調査部作成 巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」および 「本資料中で使用している指数について」を必ずご覧ください。 出所) 米EIAより当社経済調査部作成 12 投資戦略 200 44 為替相場 2021年 480万バレル (%) 主要金融資産 1,200 26 24 22 20 18 (%) 16 14 12 10 8 6 4 2 各国経済 米国の産油量は2019年がピーク、中長期的な原油市場動向は中東産油国が左右 グローバル時代の投資戦略 世界経済 米国利上げ開始後、世界の流動性は縮小に向かうのか? 過剰流動性 2014年10月に米国の量的金融緩和(QE)第3弾が終了、2015年には米国の利上げ開始が見込ま れ、2009年以降の世界的株高を演出した流動性相場が終焉すると指摘する声もあるようです。 一方、2014年10月に日本がQE規模を拡大、2015年3月にはユーロ圏がQEを開始するなど、先進 国中銀による金融市場への大量の資金供給は今後も続く見込みです。新興国を含めた世界全体 で見ても、市場の流動性は潤沢であり、株式などのリスク資産市場を当面下支えると想定します。 市場の歪み 日本・ユーロ圏の量的金融緩和策を背景に流動性相場は当面継続へ 米国経済 欧州経済 日本経済 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 (兆米ドル) 日米欧中央銀行バランスシートと先進国株価 (ポイント) 先進国株価(右軸) 2,000 1,800 (見通し) 1,600 1,400 1,200 1,000 日米欧中央銀行 バランスシート(左軸) 800 ユーロ圏 600 日本 400 200 米国 2003 2005 2007 2009 2011 2013 (年) 2015 0 新興国 注) 先進国株価はMSCI WORLD(米ドル)、直近値は2015年2月。 日本とユーロ圏の中央銀行バランスシートはドル円・ユーロドル相場で米ドル換算。 各国とも2015年2月までが実績、2015年3月~2016年12月が当社経済調査部による見通し。 バランスシート(現地通貨)の見通しは、米国が2015年2月から12月まで一定で2016年1月より減額(※)、日本が年間80兆円ペースで増加、 ユーロ圏が2016年9月まで毎月600億ユーロ増加し以降は一定、為替をドル円相場とユーロドル相場が2015年2月以降一定、とそれぞれ仮定し算出。 なお、米国のバランスシート減額(※)については、Seth B. Carpenter et al. “The Federal Reserve’s Balance Sheet and Earnings: A primer and projections” FEDS 2013-01 Federal Reserve Board、およびFOMC出口戦略(2014年9月17日公表)などに基づき、当社経済調査部が一定の前提の下で推計。 各国経済 出所) 日本銀行、FRB、ECB、Thomson Reuters Datastreamより当社経済調査部作成 世界全体で見ても流動性は潤沢、リスク資産市場の下支えに寄与 世界 株価・名目GDP・マネーサプライ(M3) 主要金融資産 300 (2002年10-12月期=100) マネーサプライ 250 株価 200 150 100 投資戦略 50 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 (年) 注) 株価はMSCI AC(米ドル)。名目GDPとマネーサプライの対象国は米国・ユーロ圏・日本・英国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・ スイス・スウェーデン・ノルウェー・中国・インド・ブラジル・ロシア・インドネシア・メキシコ・トルコ・ポーランド・ハンガリー・南アフリカ。 各国の値(現地通貨)を米ドル換算し合算。指数化は当社経済調査部による。名目GDPの値は1997年1-3月期以降、マネーサプライが1999年1-3月期以降。 直近値は株価が2014年12月、名目GDPとマネーサプライが同年7-9月期時点(すべて四半期データ)。 出所) OECD、IMF、Thomson Reuters Datastreamより当社経済調査部作成 巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」および 「本資料中で使用している指数について」を必ずご覧ください。 13 KOKUSAI Asset Management Co., Ltd. 為替相場 名目 GDP KOKUSAI Asset Management Co., Ltd. 世界経済 リスク資産市場と米欧金融環境の関係を考える 過去2回の米国利上げ局面を振り返ると、利上げ開始が直ちにリスク資産の値崩れにつながった わけではないようです。リスク資産価格が本格調整を迎えるとすれば、利上げがある程度続き、銀 行部門が融資基準を引き上げるなど、民間部門でも金融引き締め色が鮮明化してからと考えます。 (1993年末=100) 平均収益率(年率、%) リスク資産市場と米国金融環境 2015 ((融資基準を)引き締めた割合-緩和した割合、%) 米国 ハイ・イールド 社債 7.6 新興国株式 5.5 先進国国債 5.1 (年) (%) 16 14 12 10 8 4 米国政策金利(右軸) 2 0 2015 (年) (%) ユーロ圏銀行の企業向け融資基準 (左軸) 16 14 12 10 ユーロ圏政策金利 (右軸) 6 4 為替相場 8 主要金融資産 2010 各国経済 6 ((融資基準を)引き締めた割合-緩和した割合、%) 2 0 2000 2005 2010 2015 (年) 注)上段:各資産の対象インデックスは先進国株式がMSCI World(配当込み)、新興国株式がMSCI EM(配当込み)、先進国リートがS&P先進国REIT 指数(配当込み)、先進国国債がシティ世界国債インデックス、新興国債券(データは1993年12月以降)がJ.P. Morgan EMBI Global Diversified、 米国ハイ・イールド社債がThe BofA Merrill Lynch US High Yield Index(すべて米ドルベース)。1993年末=100として当社経済調査部が指数化。 直近値は2015年2月時点。 中段:融資基準の対象は大・中堅企業。直近値は米国商業銀行の融資基準(四半期)が2015年1月調査、政策金利(FF金利、月次)が2015年2月時点。 下段:データは政策金利(リファイナンス金利、月次)が1999年1月以降、ユーロ圏銀行の融資基準(四半期)が2003年1月以降。 直近値はユーロ圏銀行の融資基準が2015年1月調査、政策金利が2015年2月時点。 出所) MSCI、S&P、FRB、ECB、Bloombergより当社経済調査部作成 巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」および 「本資料中で使用している指数について」を必ずご覧ください。 14 投資戦略 100 ユーロ圏の金融環境 80 60 基準引き締め 40 20 0 -20 -40 基準緩和 -60 -80 -100 1990 1995 9.7 7.6 新興国 100 米国商業銀行の商工業向け融資基準 米国の金融環境 80 (左軸) 60 基準引き締め 40 20 0 -20 -40 -60 -80 基準緩和 -100 1990 1995 2000 2005 10.4 新興国債券 先進国株式 日本経済 2010 先進国リート 欧州経済 2005 (1993年末~直近) 米国経済 900 リスク資産価格(米ドル) 800 700 ■ 米国商業銀行による融資基準引き締め期 600 500 400 300 200 100 0 1995 1990 2000 市場の歪み リスク資産市場を見る上で、米欧銀行部門の融資態度の変化にも注目 過剰流動性 2015年に入り、米国の利上げ開始が視野に入ってきました。2013年に米国の量的金融緩和の早 期縮小観測で市場が動揺したように、利上げ開始がリスク資産価格急落を招くとの懸念もあります。
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