燃料補助金削減と利上げを断行~経済運営の健全

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情報提供資料
アジア投資環境レポート 2014年11月25日号
Focus
アジア投資環境レポート
国際投信投資顧問/経済調査部
2014年11月25日号
http://www.kokusai-am.co.jp
経 済 調 査 部
インドネシア:燃料補助金削減と利上げを断行~経済運営の健全化はルピアを支えるのか
【図1】 約1年ぶりの利上げと約1年半ぶりの燃料価格引上げを実施
(%)
14
政策金利と銀行間金利 (日次)
(千ルピア/リッター)
12
注) 直近値は
2014年11月24日
【図2】 民間部門の消費と投資の鈍化に伴い減速する景気(右)
(億米ドル)
ガソリン小売価格 (月次)
1,500
1,400
補助金無し
10
12
銀行間
翌日物金利
10
8
(細線)
(政策金利)
8
6
6
FasBI金利
2
(コリドー下限)
2
2006
2008
2010
2012
2014 (年)
直近値:2014年11月24日
1,300
ルピア高
1,200
ルピア安
8,000
12
8,500
10
9,000
8
9,500
6
10,000
4
10,500
2
11,000
0
11,500
-2
12,000
-4
12,500
-6
13,000
-8
1,000
4
4
(ルピア/米ドル)
ルピア相場 (線:右軸)
1,100
補助金付
BI金利
(
(
為替相場と外貨準備
(%)
実質GDP前年比と寄与度(四半期)
GDP
純輸出
在庫投資
固定資本
投資
政府消費
民間消費
900
800
注) 補助金付: RON88
補助金無: 「プルタマックス」RON92
RON(Research Octane Number)は、
ガソリンのオクタン価の指標
直近値は、補助金無し: 2014年10月
補助金付: 同年11月見込値
0
2003 2005 2007 2009 2011 2013
(年)
出所)インドネシア鉱物資源省(MEMR)、PT Pertamina、インドネシア銀行(BI)、CEIC、Bloomberg
先週18日、インドネシア銀行(BI)は、緊急会合で政策金利を7.5%から7.75%に引上げ。
利上げは昨年11月以来約1年ぶりです(図1左)。今回の利上げは、政府による燃料小売
価格の引上げを受けたものです。17日の夜、政府は翌18日より燃料小売価格をリッタ
700
600
500
外貨準備(棒:左軸)
直近値:2014年10月
400
2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年)
統計誤差
注) 直近値は
2014年7-9月期
2004 2006 2008 2010 2012 2014
(年)
出所)インドネシア中央統計局(BPS)、インドネシア銀行(BI)、CEIC、Bloomberg
今回の燃料価格と政策金利の引上げによって、景気は一時的に減速、物価も一時的
に上昇するであろうものの、財政構造は安定し経常収支は改善すると予想されます。
7-9月期の実質GDP前年比は+5.0%と前期の5.1%より減速(図2右)、昨年の連続利上げ
ーあたり2,000ルピア引上げることを決定。ガソリン価格は1リッター6,500ルピアから
の効果が浸透し民間部門の消費と投資が鈍化した影響です。今回の燃料価格引上げに
8,500ルピアに(図1右)、軽油価格は同5,500ルピアから7,500ルピアに引上げられました。
よる家計の購買力の低下や一次産品価格に伴う農業所得の落込みもあり、民間消費は
燃料価格の引上げは、昨年6月以来約1年5ヵ月ぶりです。同国では政府がルピア建
今後も鈍化を続けるとみられます。今年通年のGDP成長率は+5.1~5.2%と昨年の
て燃料価格を固定しており、内外の価格差(海外価格>国内価格)は財政資金による補助
+5.8%を下回り、来年の成長率も+5%台前半と、景気回復の速度は緩慢でしょう。一
金でカバーされています。これまでも、原油価格の上昇やルピア相場の下落で価格差
方、10月の総合消費者物価は前年比+4.8%と前月の+4.5%より上昇(図3左)。10月のLP
が広まり補助金負担が増した際には、小売価格の引上げが行われてきました。昨年6
ガス料金の引上げや香辛料価格の上昇などの影響です。今後は、今回の燃料価格の引
月の同価格引上げ後、ルピアの対ドル相場が大きく下落したため(図2左)、補助金負担
上げに伴って同物価は年末に+7%台半ばまで上昇するとみられ、来年終わりにかけて
は拡大していました。今回の価格引上げで、燃料補助金は年間100兆ルピア(GDP比
もベース効果の影響で+7%前後で推移すると予想されます。しかし、内需が鈍化して
0.9%)程度削減される見込みであり、これに伴って政府の歳出余力は増加します。
いるため、コア物価の前年比は10月実績の+4.0%から大きくは上昇しない見込みです。
巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」を必ずご覧ください。
KOKUSAI Asset Management Co., Ltd.
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国際投信投資顧問/経済調査部
アジア投資環境レポート 2014年11月25日号
【図3】 貿易黒字の縮小に伴って、近年経常収支の赤字が定着(右)
 燃料価格引上げで期待される石油ガス貿易赤字の縮小
燃料価格の引上げに伴って、貿易収支と経常収支(図3右)の改善も見込まれます。
これまで国内燃料価格が国際価格を大きく下回っていたため、燃料の過剰消費、近隣
20
諸国への密輸、将来の価格引上げを見越した退蔵などを誘発していた模様であり、石
18
油ガス貿易収支は近年悪化していました(図4左)。今回の価格引上げによって内外価
16
格差が縮小するため、今後は燃料輸入量が抑制される見込みです。景気減速による輸
14
入全般の鈍化や国際的な原油価格の低下にも助けられ、経常赤字のGDP比は昨年の
12
3.3%から今年は3%前後に、来年は2.6~2.7%程度にまで縮小することが予想されます。
今回の臨時政策会合で、BIは政策金利を7.5%から7.75%に、金利コリドー上限のレ
ポ金利を7.5%から8%に引上げた一方、金利コリドー下限のFasBI金利は5.75%で据置
き。また、銀行の預貸率の計算方法を変更し、証券発行調達額を預金額に含めました。
(億米ドル)
消費者物価の前年比 (月次)
100
80
60
40
総合物価
2
企業部門への融資を促すためのものとみられます。過剰な民間消費を警戒する一方、
0
0
サービス
-20
-40
6
立を求められていました。上記の措置は、預貸率の上昇した銀行の準備負担を和らげ、
経常移転
財貿易
20
8
4
経常収支 (四半期)
120
注) コア物価:生鮮食品と
管理価格品目(燃料、
電力等)を除く
直近値は2014年10月
10
近年、銀行の預貸率は上昇(図4右)、同率が92%を超過した銀行は追加的な預金準備積
経済の供給能力を高める企業投資を重視するBIの考えを反映したものと思われます。
(%)
所得
-60
コア物価
経常収支
-80
-100
注) 直近値は
2014年7-9月期
-120
2004
2006
2008
2010
2012
2014
(年)
2004 2006 2008 2010 2012 2014
(年)
出所)インドネシア中央統計局(BPS)、インドネシア銀行(BI)、CEIC
 経常収支改善期待などからルピア相場は底堅く推移か
【図4】 原油と精製品収支が悪化し赤字となった石油ガス貿易収支(左)
現在、銀行間の流動性は比較的潤沢であり、銀行間翌日物金利はFasBI金利と同水
準で推移(図1左)。今回、FasBI金利が据置かれたため、短期金利も大きくは動かない
(億ドル)
25
でしょう。BIは、市場の予想外の利上げによってインフレ警戒的なシグナルを送り、
20
燃料価格引上げに伴う期待インフレ率の上昇を抑えようとしたとみられます。BIは、
15
当面、金利を据置きつつ、燃料価格上昇の波及を慎重に見守ると予想されます。
10
ルピアの対ドル相場は、7月末から10月15日にかけ▲5.3%下落した後、今週24日に
5
かけ+0.6%上昇するなど安定化しています(図2左)。10月20日のジョコ大統領就任の直
0
前にかけて高まった政治不安の懸念がその後収束したこと(本レポート11月10日号 参
-5
照)、就任直後の同大統領が政治的に不人気な燃料価格の引上げに踏み切り、BIも予
想外の利上げを行うなど、新大統領の下での経済運営の健全化を強く印象付けたこと
などが背景と考えられます。国際的な一次産品価格は低迷しているものの、同国が輸
入超過である原油の価格は、同国が輸出超過であるパーム油や石炭を上回る速度で低
下。今回の燃料価格引上げによる燃料の退蔵や密輸の減少も、貿易収支の改善を助け
るでしょう。ルピア相場は当面、底堅く推移することが予想されます。(入村)
巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」を必ずご覧ください。
預金・貸付の前年比と預貸率 (月次)
(%)
石油ガス貿易収支 (月次)
(%)
45
注) 直近値は
2014年9月
100
貸付(左軸)
40
預貸率
(右軸)
90
35
ガス(a)
80
30
原油(b)
総合
(a+b+c)
-10
25
70
20
60
15
50
10
-15
精製品
(c)
-20
-25
2008
2010
2012
2014
(年)
5
預金(左軸)
40
注) 直近値は
2014年9月
0
2005
2007
30
2009
2011
2013
(年)
出所)インドネシア中央統計局(BPS)、インドネシア銀行(BI)、CEIC
KOKUSAI Asset Management Co., Ltd.
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本資料に関してご留意頂きたい事項
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○ 本資料の内容は作成基準日のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
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○ 本資料に示す意見等は、特に断りのない限り本資料作成日現在の国際投信投資顧問経済調査部の見解です。
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