グローバル時代の投資戦略 世界経済 3.市場の歪み:ボラティリティの拡大に要注意 過剰流動性 世界的な金融緩和から生じた過剰流動性は、お金の値段とも言える金利、特にリスクフリーレート と呼ばれる世界の無リスク金利の低下を促しました。今や主要先進国の金利は極めて低水準です。 資産運用において無リスク金利以上の投資成果(プレミアム)を得るには、投資年限の延長で追加 的に取る期間リスク、又はより信用リスクの高い資産への投資で取る信用リスク、あるいはより換 金が難しい資産への投資で取る流動性リスク、の何れかのリスクを負う事が求められましょう。 市場の歪み 過剰流動性の影響を受け世界の無リスク金利(リスクフリー金利)は急速に低下 7 米国経済 6 過剰流動性の影響を受け低下するリスクフリー金利 (%) 米政策金利 低リスクフリー金利 リスク蓄積 低リスクフリー金利 リスク蓄積 アジア 通貨危機 2002年 2005年 4 欧州経済 3 ロシア 危機 現在 2009年 5 米同時多発テロ リスクフリー金利 米ワールドコム 破綻 リーマン・ショック 米TARP発表 イラク戦争 米QE1 2 日本経済 ECB マイナス 欧州債務問題 米QE3 金利導入 欧州OMT 日銀QQE2 米OT 米QE2 ECB PSPP導入 日銀QQE 1 0 1996/12 2001/12 2006/12 2011/12 2016/12 (年/月) 新興国 金利の期間構造もフラット化が進み、期間リスクプレミアムははく落している 各国経済 5 米国債イールドカーブ (%) 5 2014年1月2日 4 2014年1月2日 4 3 3 2 2 2015年3月6日 主要金融資産 1 1 0 0 -1 2015年3月6日 -1 5 10 15 20 25 日本国債イールドカーブ (%) 30 5 (残存年限) 5 4 4 3 3 2014年1月2日 2 投資戦略 1 30 (残存年限) 2014年1月2日 2 1 2015年3月6日 0 (%) 10 15 20 25 ドイツ国債イールドカーブ 2015年3月6日 0 -1 -1 5 10 15 20 25 30 5 10 15 20 25 30 (残存年限) (残存年限) 注)最上図リスクフリー金利は、BofA ML Global Sovereign Broad Plus 1-3 Years Indexの複利最終利回りとした。図中、米TARPは「Troubled Asset Relief Program」の略で米国の不良債権救済プラグラムを、米QE1~QE3は「Quantitative Easing1,2,3」の略で米量的金融緩和策を、米OTは「Operation Twist」の略で米 短期国債売り長期国債買いを行う金融緩和策を、欧州OMTは「Outright Monetary Transactions」の略でECBによる国債買切策を、日銀QQEは「Quantitative and Qualitative Monetary Easing」の略で量的・質的金融緩和策を、ECB PSPPは「Public Sector Purchase Programme」の略で国債等買入策を指す。下部日米英独国債イ ールドカーブはスプライン関数を使い補完し算出。いずれも直近値は2015年3月6日。 出所)FRB、 BofA ML 、Bloombergより当社経済調査部作成 巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」および 「本資料中で使用している指数について」を必ずご覧ください。 15 KOKUSAI Asset Management Co., Ltd. 為替相場 5 英国債イールドカーブ (%) KOKUSAI Asset Management Co., Ltd. 世界経済 投資家は期間リスク・信用リスク・流動性リスクプレミアムの享受を試みる 過剰流動性 投資年限の延長で期待された期間リスクプレミアム獲得がイールドカーブ平坦化で困難になった 昨今、投資家は信用リスクプレミアム獲得を積極化させています。米商業不動産融資や自動車ロ ーンの増加、これらを担保とする証券化商品の発行増はリーマン・ショック前の状況に似ています。 信用リスクプレミアムを求める動きが投資家の間で積極化し信用リスクへの需要が増えると、その プレミアムは縮小します。そして投資家は流動性リスクプレミアムの獲得へと動いています。 米国商業不動産向け融資残高と価格指数 (億米ドル) 30,000 (2007年8月=100) 120 2500 米国商業不動産担保証券(CMBS)の 発行額と投資リターン (億米ドル) (%) 価格指数(右軸) 25,000 100 80 15,000 60 2000 60 40 20 1500 0 1000 10,000 -20 40 20 商業不動産向け 0 2010 2015 2000 (年) 注)直近値は、商業不動産向け融資残高は2014年9月、商業不動産価 格指数は2015年2月。 出所)FRB、Green Street Advisorsより当社経済調査部作成 出所)BofAML、Bloombergより当社経済調査部作成 米国資産担保証券(ABS)の 発行額と投資リターン 14,000 (億米ドル) (%) 800 10,000 信用力の高い 顧客層 760 以上 620 未満 0 5 6,000 0 4,000 2,000 推定 -5 (左軸) ABS発行残高 0 -10 2000 2005 2010 2015 (年) (年) 注)図中数値はFICOスコア。FICOはクレジットカード支払い履歴や自動 注)ABS投資リターンは、 BofAML ABS Master Fixed Rate Indexの年次リターン。 車ローン借入状況から個人の信用リスクを計るいわば通信簿とも言え 2015年は3月9日までの年初来リターン。 ABS発行額は、自動車ローンやクレ る。米国では760点以上の高FICOスコア層がプライム層と呼ばれるが、 ジットカードローン等を担保にした証券化商品の発行額で、2015年推定値は その優劣は必ずしも明確ではないとも言われる。直近値は2014年6月。 2月までの発行額(実績)を当社経済調査部が年率化。 2000 2005 2010 2015 出所)米NY連銀より当社経済調査部作成 巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」および 「本資料中で使用している指数について」を必ずご覧ください。 出所)BofAML、Bloombergより当社経済調査部作成 16 投資戦略 659620 信用力の低い 顧客層 10 為替相場 719660 400 15 8,000 759720 600 200 (右軸) ABS投資リターン 主要金融資産 12,000 1,000 20 各国経済 (億米ドル) 2010 注)CMBS投資リターンは、BofAML CMBS Fixed Rate BBB- Indexの年次リター ン。2015年は3月9日までの年初来リターン。CMBS発行額のうち2015年推 定値は2月までの発行額(実績)を当社経済調査部が年率化。 米国FICOスコア別自動車ローン残高 1,200 2005 新興国 2005 -60 -80 2015 (年) 0 0 2000 推定 (左軸) CMBS発行残高 融資残高(左軸) 日本経済 5,000 -40 500 欧州経済 20,000 (右軸) CMBS投資 リターン 80 米国経済 商業不動産 市場の歪み 投資家の利回り追求の動きは次第に信用リスクプレミアムへ グローバル時代の投資戦略 世界経済 投資家のリスクプレミアム追求で金融仲介機能を担う投資信託等 過剰流動性 世界中の投資家が取引する米国債は、何時でも極めて低い売買コストで現金化可能な資産で、そ の流動性リスクは低くプレミアムも最小と言えましょう。この対極にあるのがレバレッジドローン市場 等といえます。流動性リスクの高いレバレッジドローン等の発行額は再拡大に転じています。 2008年のリーマン・ショック時、ヘッジファンド等がリスクプレミアムを求め金融機関が市場との橋渡 し役でした。今次局面では個人投資家がリスクプレミアムを求め投資信託がその仲介をしています。 市場の歪み 投資家の利回り追求志向は既に流動性リスクプレミアムへと波及 米高利回り債(HY)発行額と投資リターン 米レバレッジドローン発行額と投資リターン (億米ドル) (%) 12,000 米国経済 8,000 50 (右軸) 米レバレッジド ローン投資リターン 10,000 60 40 (左軸) 米レバレッジド ローン発行額 30 20 欧州経済 6,000 10 0 4,000 -10 日本経済 -20 2,000 推定 0 新興国 2000 2005 2010 -30 -40 2015 (年) 注)米レバレッジドローン投資リターンは、CS Leveraged Loan Indexの年次リ ターン。2015年は3月12日までの年初来リターン。米レバレッジドローン 発行額のうち、2015年推定値は2月までの発行額(実績)を当社経済調査 部が年率化。 出所) Credit Suisse 、Bloombergより当社経済調査部作成 4,000 (億米ドル) (%) 60 (右軸) 米HY債投資リターン 3,500 70 50 3,000 40 推定 2,500 30 20 2,000 10 1,500 0 -10 1,000 -20 500 (左軸) 米HY債発行額 -30 0 2000 2005 -40 2015(年) 2010 注)米HY債投資リターンは、BofAML US High Yield Master II Index の 年次リターン。2015年は3月9日までの年初来リターン。米HY債発 行額のうち、2015年推定値は2月までの発行額(実績)を当社経済 調査部が年率化。 出所)BofAML、Bloombergより当社経済調査部作成 各国経済 変わらぬ構図。今次局面では投資信託等シャドーバンキングが仲介役 リーマン・ショック時と今次局面における リスクの取り手とその仲介役(概念図) 主要金融資産 リーマン・ショック時 資金の 出し手 ヘッジファンド SPV(銀行から独立 今次局面 世界の投資信託における 高リスク投資信託の規模 (億米ドル) 7,000 (参考)米HY市場における投資信託のシェア 投資信託 18.2% 投資信託 33.2% 6,000 その他 投資家 81.8% 個人投資家 5,000 した運用機関等) その他 投資家 66.8% 2014年 2008年 (参考)欧州HY市場における投資信託のシェア 金融 仲介機能 4,000 投資信託等 金融機関 (シャドーバンキング) 3,000 投資信託 8.9% 投資信託 18.0% その他 投資家 91.1% その他 投資家 82.0% 2008年 投資戦略 過度な リスクテイク 信用リスク、流動性リスクの高い金融商品 投資 商品 サブプライム住宅ローン CLO(ローン担保証券) CDO(債務担保証券) CMBS(商業不動産担保証券) レバレッジドローン(低格付融資) HY(高利回り社債) 出所)各種資料より当社経済調査部作成 2,000 米国 バンクローン 2014年 米国 HY債 1,000 0 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014(年) 注)棒グラフは、世界の投資信託(ETF(上場投資信託)含)における各図 中の表示資産残高を、円グラフは本頁上右図のIndex、及びBofAML Euro High Yield時価総額を市場規模とし投資信託が占める比率を当社経済調査部 が計算し比率化。 出所) BofAML、国際通貨基金より当社経済調査部作成 巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」および 「本資料中で使用している指数について」を必ずご覧ください。 17 KOKUSAI Asset Management Co., Ltd. 為替相場 資金提供や レバレッジ提供 欧州 HY債 KOKUSAI Asset Management Co., Ltd. この副作用への対応は、日常生活における天災への備えにも似ています。その見極めには、金融 商品の変動率(ボラティリティ)急上昇を警戒し、自らのリスク許容度の再確認が最善となりましょう。 過剰流動性 こうした運用のミスマッチは、主要先進国による空前の規模での量的金融緩和策により蓄積された 過剰流動性がもたらした、金融政策の副作用と言えましょう。リスクフリーレートが事実上のゼロ近 傍となったのは歴史上も例が無く、金融政策当局もこうしたリスクに警戒感をあらわにしています。 世界経済 量的金融緩和政策の副作用に警戒感を示す金融当局、そして我々も。 市場の歪み 金融政策当局も投資家による過度なリスクテイク意欲を警戒 米FRB(連邦準備理事会)主要メンバー等のコメント ブレイナード理事 FOMC(連邦公開市場委員会)議事録 ジョージ・カンザスシティ連銀総裁 フィッシャーFRB副議長 「低金利は金融安定のリスクとなる可能性がある」(2015年2月27日) 「(利上げに対する金融市場の反応が小さいならば)よりアグレッシブな金融政策の正常化が適切となるだろう」 (2015年2月27日) 出所)FRBより当社経済調査部作成 市場を止めることは出来ず。投資家は市場変動を常に警戒する姿勢が必要か 米S&P500、米国債券、ユーロドルの変動率(ボラティリティ) (bps:長期平均とのかい離) 40 30 (左軸) 米S&P500 ボラティリティ インデックス (VIX) 120 90 60 30 0 0 (左軸) ユーロドル インプライドボラティリティ1年 -10 -20 1990 1995 2000 2005 -30 -60 2010 2015 (年) 注)網掛け部は米金融政策の利上げ局面。直近値はいずれも2015年3月11日。ユーロドルインプライドボラティリティ1年は1999年1月より。右軸 のbpsは「ベーシスポイント」の略で、1bps=0.01%。 出所)Bloombergより当社経済調査部作成 巻末の「本資料に関してご留意頂きたい事項」および 「本資料中で使用している指数について」を必ずご覧ください。 18 投資戦略 10 為替相場 20 (右軸) 米国債券 ボラティリティ インデックス (MOVE) 150 主要金融資産 50 (%:長期平均とのかい離) 各国経済 注)FRB高官のコメント和訳は当社経済調査部による。 新興国 ダドリー・NY連銀総裁 日本経済 「金融政策とマクロ安定化政策を相互補完的に捉えることが、金融システムの安定と安定的な経済成長を達成す るための、最善のアプローチである」(2015年2月10日) 欧州経済 「価格上昇圧力は、社債市場で最も顕著」「商業用不動産市場にも、価格上昇圧力が出てきている」 「債券およびバンクローンの投信が存在感を増しているが、そのような資産に対する投資家のリスク選好姿勢が弱 まった場合に、関連市場に流動性を得るための売却圧力が生じるリスクがある」(2015年1月27日) 米国経済 「経済が低迷しているにもかかわらず金融の不均衡が急速に拡大しているのであれば、FRBは金融安定のために 金融政策を用いることを、他の国々よりも容易に考えるかもしれない。われわれの資本市場はより重要で、マクロ 安定化のための道具は多くはないからだ」(2014年12月3日)
© Copyright 2024 ExpyDoc