実践のまとめ(第2学年 数学科)

実践のまとめ(第2学年
数学科)
長岡市立東中学校 教諭 佐藤 直哉
1
研究テーマ
数学的表現を用いて根拠を明らかにすることによって、考えを伝え合う活動を充実さ
せ、数学的な思考力を育成する。
2
研究テーマについて
(1) テーマ設定の意図
学習指導要領における数学科の目標は「数学的活動を通して、数量や図形などに関する基礎的な概
念や原理・法則についての理解を深め、数学的な表現や処理の仕方を習得し、事象を数理的に考察し
表現する能力を高めるとともに、数学的活動の楽しさや数学のよさを実感し、それらを活用して考え
たり判断したりしようとする態度を育てる。
」である。数や図形の性質などを見いだす活動、日常生
活で数学を利用する活動、数学的に説明し伝えあう活動等に例示される数学的活動の一層の充実が求
められている。
これまで、まずは「できる」ことが大切であると考え、基本をていねいに教え、それが身に付くよ
うに練習することを重視してきた。そのため、問題を解くためのスキルは身に付いても、「なぜそう
なるのかは分からない」という生徒も多く、数学科の目標が十分に達成されていない。そこで、根拠
を明らかにする必要性を感じさせ、生徒同士が根拠をもとに考えを伝え合う活動を授業に取り入れる
ことで、数学的活動を充実させ、思考力を高められると考え、テーマを設定した。
(2) 研究テーマに迫るために
① 根拠を明らかにするために、学習の見通しが持てる授業を構想する。
「課題をつかむ」→「自分の考え(予想)をもつ」→「観察や操作を通してくわしく調べる」
→「わかったことを説明する」→「学習の成果をまとめる」という学習サイクルを定着させる。
また、
生徒の思考がスムーズに流れるよう、
視覚的に捉えやすいよう教材・教具を工夫したり、
板書やワークシートの構成を工夫したりする。
② 考えを伝え合う活動を日常的に取り入れる。
前時の復習や関連する既習事項の復習を継続して行い、生徒の思考がつながるようにする。
またその中で、ペアで教え合いながら学習する場面を設け、分からないことを質問したり、自
分の考えを相手に説明したりすることに慣れさせる。
(3) 研究テーマにかかわる評価
数学的表現を用いて根拠を明らかにして、自分の考えを説明している生徒が 80%以上。
1
3
単元と指導計画
(1) 単元名
「1次関数」
(2) 単元の目標
① 事象の中には1次関数として捉えられるものがあることを理解することができる。
② 1次関数について、表、式、グラフを相互に関連付けて理解することができる。
③ 2元1次方程式を関数を表す式とみることができる。
④ 1次関数を用いて具体的な事象を捉え説明することができる。
(3) 単元の評価規準
数学への
関心・意欲・態度
様々な事象を1次関数と
して捉えたり、表、式、グ
ラフなどで表したりする
など、数学的に表現する
ことに関心をもち、意欲
的に数学の問題の解決
に活用して考えたり判断
したりしようとしている。
数学的な見方や考え方
数学的な技能
1 次関 数につ いて の基
礎的・ 基本的な知 識及
び技能を活用しながら、
事象を見通しをもって論
理的に考察し 表現し た
り、その過程を振り返っ
て考えを深めたりするな
ど、数学的な見 方や考
え方を身に付けている。
1次関数の関係を表、
式、グラフを用いて的確
に表現したり、2元1次方
程式を関数関係を表す
式とみてグラフに表した
りするなど、技能を身に
付けている。
数量や図形などに
ついての知識・理解
事象の中には1次関数と
して捉えられるものがあ
ることや、1次関数の表、
式、グラフの関連などを
理解し、知識を身に付け
ている。
(4) 単元の指導計画と評価計画(全時間、本時13/14時間)
節・項
時数
学習内容
1 1次関数
1 1次関数
1
・具体的な事象の考察を通して、1次関数の意味を理解する。
2 変化の割合
1
・変化の割合の意味を理解し、1次関数の変化の割合について調べる。
3 1 次関 数の グ
4
・1次関数のグラフは直線になることを理解する。
ラフ
・1次関数のグラフと比例のグラフとの関係を理解する。
・1次関数の変化の割合とグラフの傾きとの関係を理解する。
・グラフを基にして、1次関数の変域を調べる。
4 直線の式の求
2
め方
・直線のグラフから、1次関数の式を求める。
・1点の座標と傾きから1次関数の式を求める。
・2点の座標から1次関数の式を求める。
2 方程式と1次関数
1 2元1次関数
2
のグラフ
・2元1次方程式のグラフの意味を理解する。
・2元1次方程式は1次関数とみることができることを理解する。
・いろいろな2元1次方程式のグラフについて調べる。
2 連立方程式の
1
解とグラフ
3
1次関数の
活用
・連立2元1次方程式の解は、座標平面上の2直線の交点の座標であるこ
とを理解する。
3
・1次関数を活用して、具体的な事象を捉え説明したり、問題を解決したり
する。
2
4
単元と生徒
(1) 単元について
関数の学習について、小学校においては、数量の関係を□やxなどを用いて式に表し、それらに
数をあてはめて調べたり、変化の様子を折れ線グラフで表し、変化の特徴を読み取ったりして、比
例と反比例の関係について学習している。また、中学校第1学年では、具体的な事象における二つ
の数量の変化や対応を調べ、関数関係について理解し、比例、反比例を関数として捉えなおした。
本単元では、具体的な事象の中から関数関係を見いだし、表、式、グラフ等に表したり、1次関
数を利用して問題を解決したりすることにより、ともなって変わる二つの数量の変化の様子をより
深く捉えることを学習する。1次関数の学習は、第1学年の学習の発展と捉えることができ、この
学習を通して、関数についての理解を深めるとともに、関数関係を見いだし、表現し、考察する能
力を養っていく。加えて、日常生活や社会には、関数関係として捉えられる事象が数多く存在する
ため、変化や対応の様子を考察したり予測したりして、身のまわりにある問題を解決していくこと
ができるようになるための重要な単元である。
(2) 生徒の実態(男子17名、女子13名、合計30名)
落ち着いた態度で、真面目に学習に取り組んでいるが、進んで発言したり、周囲の生徒と相談し
たりする生徒は少なく、学習態度は受け身である。これまでの授業では、主に問題演習の場面でペ
アや班で相談しながら問題を解く活動は行っているが、課題解決的な学習は行っていない。
情意面では、数学が苦手・嫌いと感じている生徒が多く、6月に実施した学習アンケートでは、
「数学の授業がわかりますか」という質問に対して肯定的評価(5と4)が約 65%、
「数学の学習
に一生懸命取り組んでいますか」という質問に対しては、肯定的評価(4と3)が約 93%であっ
た。この結果から、学級の3割ほどの生徒は、
「一生懸命取り組んでいるが、よく分からない」
「授
業が分からないから、学習意欲が湧かない」と感じていると考えられる。
※6月の学習アンケートの結果(数値は%)
数学の授業がわかりますか。
5
4
3
2
1
20.7
44.8
31.0
3.4
0
48.3
44.8
6.9
0
数学の学習に一生懸命取り組んでいますか。
4月に実施した全国学力調査の結果を見ると、2学年では学習内容の定着について2極化の傾向
があり、4組も同様である。関数領域では、比例の式を求めたり、グラフをかいたりする、基本的
な問題の得点率が 60%以上と比較的良く、全国平均を上回っている。
「点が直角三角形の辺上を動
くときの時間と面積の関係」の問題の得点率は、全国平均
偏差値分布
を上回るものの、33%と低い。
これらの実態を踏まえ、本単元においては、既習事項で
ある比例と関連付けて指導したり、視覚的に捉えやすいよ
うに教材教具を工夫したりして、基礎基本の定着を図る。
また、学力差のある生徒同士が関わり合い、学ぶ機会を設
け、双方にとってプラスとなるような授業を目指す。
3
20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80
5
本時の展開
(1) ねらい
点が長方形の頂点を出発してからの時間と、そのときにできる三角形の面積の関係を表や式、グ
ラフを用いて表し、その関係が1次関数になることを基にして、三角形の面積の変化の様子を説明
することができる。
(2) 展開の構想
〇生徒が課題をつかみやすくするため、また、課題を解いてみたいという意欲を喚起するために、
長方形の辺上を点が移動するようすを動画で提示する。
〇表、式、グラフから、よりくわしく面積の変化の様子を説明できるよう、個人追求、ペアで確認、
グループで相談という段階を踏んで活動する。
〇発表の場面では、発表用のワークシートを書画カメラで写し、自分たちの考えが相手に伝わるよ
う意識した発表をさせる。
(3) 展開
時間
(分)
2
分
13
分
学習活動
○生徒の活動 ◇教師の支援
□評価 ◇留意点
<つかむ>
・1次関数の表、式、グ
ラフについて復習する。
<見通す>
・点が動くときの三角形
の面積の変化を予想す
る。
・面積の変化の様子を大
まかに捉える。
◇既習事項をまとめたものを事前に
掲示しておく。
○面積の変化を予想する。
◇動画を用いて、視覚的に捉えられる
ようにする。
□面積の変化の様子を
調べようとする。
【関心・意欲・態度】
(観察)
・本時のテーマの提示
三角形の面積の変化の様子を、表、式、グラフに表し、それらを用いてくわしく説明
しよう。
・課題の提示
◇「くわしく」とは、根拠を明らかに
して、具体的に、数学的な表現を用
いて説明することであることを確
認する。
右の図のような長方形ABCDの周上を、点P
は毎秒1㎝の速さで、BからA、Dを通ってC
まで移動します。
PがBを出発してからx秒後の△BPCの面積
をy㎝2とするとき、xに伴うyの値の変
化のようすを説明しましょう。
4
A
D
P
4㎝
毎秒1㎝
B
6㎝
C
◇予想した3つの場合に分けて考え
ることを確認する。
◇表を用いてx=0、1については全
体で求め、これから行うことの見通
しをもたせる。
○個人で、表、式、グラフを作成する。
30 <練り合う>
・yの値の変化の様子を、 ◇努力を要する生徒には、①から③そ
分
表、式、グラフから考察
れぞれの場合の三角形を具体的に
する。
示したヒントカードを用いて表を
完成させ、その表から式やグラフを
求めるよう助言する。
・ペアで説明し合う。
・班で話し合い、発表用
シートに説明をまとめ
る。
・全体で確認する。
5
分
<まとめる>
・本時の学習のまとめを
する。
□yの値の変化の様子
を表、式、グラフに表
すことができる。
【技能】
(ワークシート)
◇数学的な用語を用いて説明するよ
う助言する。
○発表用シートをまとめる。
□表、式、グラフを用
いて、yの値の変化の
様子を説明することが
できる。
【数学的な見方や考え方】
◇書画カメラでワークシートを映し、 (観察・ワークシート)
それを基に発表させる。
○本時のまとめをワークシートに記
入する。
(4) 評価
・三角形の面積の変化の様子を、表、式、グラフを用いて表すことができたか。
・ペアやグループで考えを交流し、よりよい考えを練り合うことができたか。
6
実践の振り返り
(1) 授業の実際
①
課題提示の工夫
まず、長方形の周上を点が移動し、それにともなって三角形の面積が変化するようすを視覚的
に捉えられるように、プレゼンテーションソフトで作成した動画を示した。ここでは、△BPC
の形の変化、それに伴う面積の変化にだけ注目させるため、長方形の各辺の長さや、点Pが動く
速さなどの情報を生徒に示さなかった。点Pを動かしていき、生徒に問いかけながら、三角形の
面積の「大きくなる→変わらない→小さくなる」という変化のようすを全体で確認した。面積の
変化のようすを捉えるのに、動画は有効であった。
長方形ABCDの周上を、点PはBからA、Dを通っ
てCまで移動します。このとき、△BPCの面積はど
のように変化するでしょうか。
長方形ABCDの周上を、点PはBからA、Dを通っ
てCまで移動します。このとき、△BPCの面積はど
のように変化するでしょうか。
長方形ABCDの周上を、点PはBからA、Dを通っ
てCまで移動します。このとき、△BPCの面積はど
のように変化するでしょうか。
A
D
A
D
A
D
B
C
B
C
B
C
5
しかし、課題追求の場面では、点Pがどこにあるのか、そのときの△BPCがどんな形かなど
を考えず、y の値が3ずつ増加し続ける表をつくる誤答が多く見られた。最初の確認の動画と、
数値を設定した本時の課題がきちんと結びついていないためにこのような誤答が生じたと考え
ると、初めから数値を設定したほうが、生徒の思考はよりスムーズであったかもしれない。
また、課題提示までをプレゼンテーションソフトで行ったことで時間を短縮することができ、
生徒の活動時間を十分に確保することができた。反面、スライドが次々に進んでいくために、本
時のテーマや課題などが画面に残らなかった。それらは掲示物にして黒板に貼っておくなどの準
備が必要であると感じた。
②
個人追求→ペア学習→グループ学習という段階を踏んだ活動展開
本時は、どのように説明するか考えさせる活動をペアやグループで
行わせたいという考えから、先に述べた個人追求の段階でのつまずき
は教師が個別に支援した。しかし、そこで多くの時間を費やしてしま
い、グループ活動の時間を十分に確保することができなかった。つま
ずきが見られた段階で、早めにペア学習に切り替えて生徒同士で確認
させた方が、よりペア学習が効果的であったと考える。ペアやグルー
プでの活動では、分かる生徒が分からない生徒に教えたり、よりくわ
しく分かりやすい説明になるように言葉を吟味したりと、積極的にか
かわり合いながら活動していた。
③
書画カメラを利用した発表場面の工夫
生徒のワークシートをそのまま拡大して見せることができ、有効で
あった。今後、生徒自身に重要なポイントなどを書き加えさせながら
発表させるなど、さらに発表場面を充実させたい。また、発表場面だ
けでなく、個人追求の場面でよい考えの生徒のノートやワークシート
を全体に例示するなどの活用方法も考えられる
(2) 研究テーマについて
本時の実践により、研究テーマに迫ることができたかどうかを、ワークシートの記述内容や授業
後の振り返り用紙をもとに考察する。
授業後の振り返り
質
問
4
3
2
1
4+3
①
三角形の面積の変化のようすを、表、式、グラフで
表すことができましたか。
27
63
10
0
90
②
三角形の面積の変化のようすをくわしく説明するこ
とができましたか。
40
27
33
0
67
③
ペアやグループでの活動で、積極的に自分の考えを
述べたり、他の人の考えを聞いてよりよい考えを練
り合ったりすることができましたか。
53
30
17
0
83
4(できた) 3(まあまあできた) 2(あまりできなかった) 1(できなかった)
6
数値は%
質問①では、肯定的評価が90%である。動画による課題提示が効果的であった。生徒のワーク
シートを見ると、表とグラフはすべての生徒が書くことができていた。動画で課題提示したことに
より、視覚的に訴えたことが効果的であった。
質問②では、肯定的評価が67%である。根拠となる表、式、グラフはできたものの、それらを
用いてどのように説明するかがわからず、自力で説明を考えられた生徒は少なかった。日頃の授業
で、表、式、グラフを書くことにとどまり、それらから考察する活動が不足していることが大きな
理由であると考える。
質問③では、肯定的評価が83%である。グループ活動の場面では、分かる生徒がリーダーシッ
プをとり、考えをまとめようとしていた。わからなかった生徒も友達の説明に耳を傾け、ワークシ
ートにメモをしたりして、理解しようと努力する姿があった。より分かりやすい説明になるように、
「次に」や「そして」などの接続詞を入れるべきかどうか、といった言葉の吟味をしているグルー
プもあった。学習態度が受け身で、少し難しい課題を与えるとすぐに諦めてしまうことが多い生徒
たちと捉えていたが、課題の設定や授業の展開、学習形態を工夫することで、こんなにも生き生き
と学習に取り組むことができるのかと考えると、日頃の実践を反省させられる。本時の生徒の取組
は素晴らしいものであった。
以上のことから、課題提示や学習形態を工夫して学習意欲を喚起し、根拠を明らかにして考えを
伝え合う活動を計画的に行っていくことは、思考力・表現力の育成につながるものと考える。
(3) 今後の課題
〇魅力ある課題設定
グループ活動を通して、生徒が自分の考えを説明したり、考えを練り上げたりして思考力・表現
力を高めるためには、
「この課題について考えてみたい」
「自分の考えを友達に説明したい」「友達
の考え方を知りたい」のように、生徒が主体的に学習に取り組むことが不可欠である。本時の課題
は、点Pがどの辺上にあるかによって三角形の面積の変化のようすが変わることがおもしろさなの
だが、生徒にとっては難しさ感じる問題である。ただ「この問題を解きましょう」では、多くの生
徒が途中であきらめてしまい、この問題の本質的な価値に迫ることはできなかっただろうが、導入
場面を工夫し、グループ活動を取り入れることによって、生徒の関心を引き付けることができた。
今後は、
「日常生活や社会の中にある課題」や「多様な考え方で解決に迫ることができる課題」、
「数学の美しさや楽しさを感じられる課題」を研究し、各単元で計画的に実施することで、数学的
な思考力・表現力をさらに高められるようにしていきたい。
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