『これだけは知っておきたい国際金融』(PDF/356KB)

リサーチ TODAY
2015 年 4 月 3 日
『これだけは知っておきたい国際金融』
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
このたび金融財政事情研究会より『これだけは知っておきたい国際金融』1を発刊した。今回の著作は、
筆者が過去6年にわたり社会人向け大学院で行ってきた国際金融の講義をベースにしている。2000年代
後半以降の筆者が抱いてきた問題意識は、戦後一貫したトレンドとは異なる新たな時代の到来で、「こんな
に面白い時代はない」局面が生じたということである。本論でテーマとしたのは、1970年代以降の経済金融
の発展を支えたパラダイムが、大きく転換したことである。この転換は下記の図表で示したように、「物の拡
大」の時代から「金融の拡大」の時代の潮流に大きく転換していくことを意味する。それは、経済構造が金
融に過度に依存する時代の幕開けである。我々は今、好む好まざるに関わらず金融の影響を大きく受ける
時代におり、「尻尾が犬を振り回す」ような状況が生じている。こうした現実を少しでも多くの方々にわかって
いただき、国際金融が誰にとっても身近なものであることを示すことが本書の目的だ。また、市場の時代の
なかで、誰もが市場変動を受け入れざるをえない状況にあることをわかっていただきたかった。
■図表:70年代以降に進んだ市場化・グローバル化のプロセス
大恐慌
第二次世界大戦
1970年代
2000年代
近隣窮乏化
【為替】
為替切り下げ
固定相場制(SDR)
変動相場制
物の拡大
【貿易】
保護主義
自由貿易(GATT)
【金融】
物の自由化拡大(多国籍企業)
金融の自由化
ヘッジファンドの拡大
グローバル化
シャドウバンキング
金融の拡大
【政治】
国際紛争
米ソ体制
サ
ブ
プ
ラ
イ
ム
危
機
保護主義化の懸念
金融規制の強化見直し
金融バブル発生
多様化の時代
一段の多様化へ
1989年ベルリンの壁が崩壊
(資料)『これだけは知っておきたい国際金融』より
ここで1970年代の転換とは、ニクソン・ショックと戦後の国際金融システムの変化だ。そこでは、変動相場
制への移行、さらにフロート制がもたらされ、米国ドルは金との連動から切り離された。国際収支の制約が
なくドルの供給が進むが、その結果ドルの価値下落が生じた。原油価格は事実上ドルにリンクした制度に
あったなか、ドル安に伴う産油国による反発が1970年代の石油危機となり原油価格の大幅な高騰につなが
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2015 年 4 月 3 日
った。通貨価値の変動に加え、原油価格の高騰がもたらした世界的な経済変動に対処する動きが、先進
国が団結する政策協調だった。1974年には、先進国首脳会議、いわゆるサミットが発足し、そのメンバーと
して先進国のG7が創設され、マクロ政策の連携(政策協調)が生じる新たな時代になった。1970年代に国
際金融の概念が大きく変わるのはこうした時代背景があったからである。
マッキンゼー社の調査(下記の図表)では、世界全体のGDPを実物経済の尺度とすれば、それを金融資
産と対比をした場合、1980年には実物経済と金融資産の額はほぼ同じ額であった。それが、80年代以降、
金融資産の急膨張のなか、2007年には金融資産がピークとなり、実体経済の3.7倍まで達した。先述の「尻
尾が犬を振り回す」環境は、このように金融資産が実体経済対比で急拡大したなかで起きた状況といえる。
■図表:世界のGDPと金融資産の推移
200
(%)
(兆ドル)
180
400
350
160
300
140
エクイ
ティ
民間
デ ット
120
250
100
200
公的
デ ット
80
150
預金
60
100
40
50
20
0
0
(暦年)
1980 1990 1995 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
対GDP
比率
(右軸)
(資料)マッキンゼーよりみずほ総合研究所
国際金融に関して筆者は1980年代から30年以上、実務家の立場で現場を見てきたが、今日ほどその意
義が高まった局面はない。多くの人々は自ら国際的な金融とは縁遠いと思っても、結局、誰もが市場での
活動を通じ実質的に国際的な金融に関与する状況にある。今日、日本が抱える多くの政治課題も多かれ
少なかれ国際的な市場問題にたどり着く。
昨今、中国が主導し年内の設立が予定されるアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、戦後の国際金融のレジ
ームに変更を迫る1ページと考えることができよう。それは、戦後の米国を中心とした国際金融のレジームか
ら多極化の出現である。また、1970年代に生じた先述の国際協調の枠組みにも軋みが生じ始めている。世
界最大の経常収支を抱えるユーロ地域は、本来であれば政策協調が機能すれば内需拡大に向かうところ
が、実際にはそうはなっていないところに、今日の世界の停滞問題が生じている。欧米の間には微妙な見
解の相違が生じ、国際政治にも軋みが生じている。それらは、同時に新たな時代の到来を意味するものと
も言える。改めて、「こんなに面白い時代はない」ことが本書を通じて少しでも体感していただければ幸いで
ある。
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『これだけは知っておきたい国際金融』 (高田創 一般社団法人金融財政事情研究会 2015 年)
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/book/150410.html
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