一人一人が互いの思考に寄り添いながら課題解決を目指す算数指導

実践のまとめ(第5学年
算数科)
南魚沼市立赤石小学校
1
教諭
熊谷
圭
研究テーマ
一人一人が互いの思考に寄り添いながら課題解決を目指す算数指導
2
研究テーマについて
(1)テーマ設定の意図
算数の学習においては、理解の早い児童も理解に時間がかかる児童も、自分なりに課題を解釈
している。課題に対し、ある児童はまずノートに計算をしようとし、ある児童は「分かった」と
手を挙げて考えを述べようとする。また、多くの児童は、みんなには聞こえない声でも、自分な
りの考えをつぶやいている。このことからも、課題に対しての児童の思いや考え方は多様である
ことがうかがえる。
しかし、これまでの指導を省みると、課題提示の後は自分の意見を積極的に発表する児童が、
解決への道筋をすべて説明してしまい、他の児童は自分の考えを捨て、1つの考えに追従してい
くことが多かった。また、理解に時間を要する児童は、解決の道筋の説明を理解することができ
ず、思考が混乱し考えることをあきらめてしまうことがあった。このような指導を継続していて
は、互いの思考に寄り添おうとする気持ちは生まれず、自分の考えを大切にして解決を進めよう
という意欲をなくしてしまうと考える。
私が考える「一人一人が互いの思考に寄り添う」とは、積極的に意見を発表する児童や自信な
くつぶやいている児童の思い考えをきっかけとして、その児童が見据えている解決への道筋をお
互いに想像し理解に努めながら、共に課題解決の喜びを味わうということである。この時、つぶ
やきや意見を「きっかけ」とすることで、1つの考え方に追従するのではなく 、「自分だったら
・・・」という新たな道筋が生まれたり、考え方の間違いに気がつき指摘できたりすることもあ
ると考える。
そこで、今回の研究を通して、誰かがつぶやきや意見をきっかけとし、そこから互いの思考を
摺り合わせながら全員で課題解決を目指す学習スタイルを確立させていく。つぶやきや意見が考
え方として不十分なものであっても、その考えにスポットを当て、学級全体が寄り添い、課題解
決の喜びを味わせていきたい。
(2)研究テーマに迫るために
研究テーマに迫るために、以下の点を手立てとしていく
①児童に「あれっ?」と思わせる発問の工夫(課題提示の工夫)
児童の思考が多種多様に生まれ、つぶやきや意見が出るきっかけは、既習事項で簡単にで
きていたことが通用しなくなった時である。そこで、課題を提示する際には「簡単にできる
課題(復習的なもの)→レベルアップした課題(本時の課題 )」という流れを作る。レベル
アップした課題を見た時に出る児童のつぶやきや意見を教師が拾っていきたい。
②「聞く力」を高めるための日常的な工夫
一人一人の思考に寄り添うために、友達の発言を聞き取ることは不可欠な力である。しか
し、学級の様子を見ていると、まだ聞く力が身についておらず、解決のための重要な発言を
聞き逃している場面もある。そこでポイントとなる発言があった場合、他の児童に発言を復
唱させることで全体の理解度を見取っていきたい。
③量感を視覚的に捉えさせる工夫
分数の大小を比較する本時では、量感を頭の中だけで捉えることが難しい児童がいると
予想される。また、言葉だけでは自分の考えの正しさを主張する根拠に乏しくなるのでは
ないかと考える。そこで本単元では、数直線、紙を折りたたむ、分数ますなどの具体物の
活用や操作を通して、分数の大小を比較させていきたい。
3
単元と指導計画
(1)単元名
「分数」
(2)単元の目標
分数についての理解を深めるとともに、異分母の分数の加法及び減法の意味について理解し、
それらを用いることができるようにすること。
(3)単元の評価規準
関心・意欲・態度
数学的な考え方
異分母分数の大小を
技能
異分母分数の大小比
知識・理解
約分や通分ができる。
約分・通分の意味、
比べる方法に関心をも 較の方法を考えている。 分数を小数や整数で表 異分母分数の大小比較
っている。また、分数 また、整数の除法の結 したり、小数や整数を のしかたや、整数の除
を用いると整数の除法 果を分数で表す方法や、 分数で表すことができ 法の結果が分数で表せ
の結果が1つの数で表 分数・小数・整数の相 る。
ることを理解してい
せるよさに気づいてい 互関係について考えて
る。また、分数の大き
る。
さについての豊かな感
いる。
覚を持っている。
(4)単元の指導計画と評価計画
次
学習内容
学習活動
主の評価の観点と方法
1
と等しい大きさ
、
2
3
○1つの分数を、分母を変え
(時数)
1
等大
○単位分数をいろいろな分数
で表す。
○
しき
1
の分数を見つける。
ていろいろな表し方ができ
る。
いさ
○大きさの等しい分数を見つ ○大きさの等しい分数の分母 ○分母と分子に同じ数をかけ
分の
け、分母同士の関係を調べる。
数
や分子が何倍になっている
ると、大きさの等しい分数
かを調べる。
ができることを理解してい
( 1)
る。
○異分母分数の大小の比べ方
を考える。(本時)
○
2
3
と
3
4
の大きさの比べ
方を考える。
にあるきまりについて考え ○同値分数の分母と分子のき
○正方形の紙を折って、異分
母分数の大小を比べる。
まりを考える。
○正方形の紙を折って、
と
3
4
らないことを利用して、異
分母分数の大小比較の方法
を考えている。
2
○正方形の紙を折って、異分
3
母分数の大小を比べようと
の大小を比べる。
○ 正方 形 の紙 を使 っ て、いろ い
2
をかけても、同じ数でわっ
ても、分数の大きさは変わ
○ 同値分数の分母と分子の間 ○いろいろな同値分数を見つける。
同値分数について理解する。
○分数の分母と分子に同じ数
ろな分数の大小を比較する。
している。
○通分の意味を理解する。
分
○
3
4
と
4
の大きさを比べ
5
○通分の意味を理解している。
る方法を考える。
数
○通分の意味を知る。
○通分して
の
2
3
と
4
7
の大き
さを比べる。
大
○通分のしかたを理解する。 ○異分母分数の大小比較をする。 ○通分の仕方を理解し、通分
○いろいろな分数を通分して
小
して大小比較ができる。
大小を比較する。
○帯分数と仮分数の大小比較
をする。
○約分の意味と約分のしかた
を理解する
○
2
4
3、6
を、もっと簡単な
○約分の意味としかたを理解
している。
分数で表す方法を考える。
○約分の意味を知る。
○1回で約分するには、分子
と分母の最大公約数で約分
すればよいことに気づく。
○いろいろな分数を約分する。
○2Lの牛乳を3人で分けた ○2Lの牛乳を1~5人で等 ○整数の除法の結果を分数で
時の1人分の量の表し方を
分した時の1人分の量を整
考える。
数や小数で表す。
表す方法を考えている。
○2Lの牛乳を3等分した1
3
つ分の量を分数で表す表し
方を考える。
分
○3mのひもを4等分したと ○3mのひもを4等分したと ○整数の除法の結果が常に分
数
きの1本分の長さを分数で
きの1本分の長さを分数で
数で表せることに気づき、
と
表すことを通して、整数の
表す。
そのきまりを一般化してま
小
除法の結果が常に分数で表 ○整数の除法の結果は、分数
数
せることを理解する。
で表すことができることを
・
整
とめている。
知る。
○2mのテープを5等分した ○2mのテープを5等分した
数
ときの商を分数と小数で表
ときの、1本分の長さを小
(5 )
したり、数直線上に表した
数と分数で表す。
りして相互関係を理解する。
○
3
5
○a÷b=
a
b
を逆に活用して
分数を整数や小数に直すこ
とができる。
Lと0.7Lの大小比
較をする。
○分数を小数や整数で表す。
○整数や小数を分数で表す。 ○2,5を分数で表す。
○ 0.19、 1.7 を分数で表す。
○同じ直線に、小数と分数を
表す。
○
1
10
= 0.1、
1
100
= 0.01
などを活用して、整数や小
数と同じ数の仲間であるこ
とを理解している。
○分数を3つの仲間に分類す ○分数を整数や小数に直した ○数直線を用いて、分数も整
る。
○数直線を用いて、分数も整
ときの違いによって、3つ
数や小数と同じ数の仲間で
の仲間に分類する。
あることを理解している。
数や小数と同じ数の仲間で ○整数・小数・分数を同じ数
あることの認識を深める。
直線に表す。
○分数は、小数に直すと大き
さの見当がつけやすくなる
ことを知る。
練習 ○既習事項の理解を深める。
(1 )
力
○既習事項の確かめをする。 ○既習事項の確かめをする。 ○循環する数字の並びから、
だ
○分数の中には、循環小数に ○循環小数について調べる。
め
なるものがあることを知る。 ○循環小数のある位の数字を
し
○循環小数のある位の数字を
(1 )
4
考える。
ある位の数字を考え、説明
している。
循環する数字の並びから考
える。
単元と児童
(1)単元について
本単元では、同じ大きさの分数が、分母・分子を変えることによって、いろいろに表されるこ
とに着目させるなどして、数概念の拡張を図ることがねらいである。また、単位をそろえること
で、分数の大小比較が既習の内容と同じようにできることを理解させる。
分数の大小を比べる場面では、様々な方法で分数の大小比較を試みたい。また、前単元で学習
した「倍数と約数」の考え方を使い、分母を共通な数字で比べたいと主張する児童がいると予想
される。その考え方に全員で寄り添いつつ、大小比較が本当に正しいか調べる具体的操作活動も
取りいれていきたい。その上で、もとの分数と比べ、分子・分母に同じ数を乗除すればよいこと
に気づかせたい。
(2)児童の実態(男子7名
女子8名
計15名)
学習の理解に時間を要する児童は個々に丁寧に説明していけば、基礎的な理解は得られる。し
かし、一人では課題解決ができないことの方が多い。一方で、理解力の高い児童も多い。日頃の
学習では、どうしても学習支援の必要な児童のペースに合わせてしまいがちで、理解力の高い児
童の考えを生かせないことが多くなっている。
学習課題をやり遂げようとする意欲は全体的に見て高い。算数への苦手意識の大きい児童であ
っても、課題が提示された時には自分の考えをつぶやいている場面もあり、決してはじめからあ
きらめている様子ではない。そういった児童のつぶやきを上手く拾い、学級全体で課題解決に至
った時ほど、その後の定着度が高いという結果が見られた。
また、学級全体では「聞く力」が弱い。友達が考えを説明している時によく聞いていなかった
り、分からなかったことを聞き返すことができなかったりする児童がいる。今回の研究テーマで
ある1人1人の思考に寄り添うためにも、「聞く力」を身につけていかなければならない。
5
本時の展開
(1)ねらい
2
3
ℓと
3
4
ℓでは
1
□
ℓ 違うのかを考え、確かめる。
(2)展開の構想
まず、本時では、同分母分数同士の大小比較から始め、児童の課題解決への意欲を高める。そ
の後、異分母分数の大小比較を提示し、異分母分数同士の数量関係を視覚的に捉えさせていく。
さらに 、「大きさの違いはいくつなのか」と児童の思考にゆさぶりをかけることで、分数の大小
比較から分母の数値をそろえようとする活動につなげていきたい。そして、ゆさぶりをかけたこ
とで生まれたつぶやきを拾い、それぞれの考え方について検証していくようにする。その際でき
るだけ多くの児童同士がお互いの考えを伝え合うため、ペアでの対話をしたり、黒板を使って全
員の前で説明させたりしてお互いの思考が活発に行き交うように支援をしていく。
なお教科書において本時では、公倍数の考え方で異分母をそろえる考え方までふれられている
が、児童の中からその考え方がでなければ、本時の中では取り扱わず、次の時間に提示していく。
(3)展開
学習活動
時間
①
2
と
3
3
4
□評価
T:教師の働きかけ C:予想される反応
はどちら
が大きいか考える。
T: 2/4 と 3/4 の大きさを比べます。
☆留意点
○分数の大きさは、分母がそろって
C:3/4 の方が大きい。
いればくらべられたことを想起さ
T: 2/3 と 3/4 ではどちらが大きいで
せる。
しょうか。
10
○支援
○黒板前に面積図と分数マスで
C:3/4 だよ。だって見た目で分かる。
と
4
3 2
と の大きさを提示しておく。
4 3
T:どうすると見た目で分かりますか
C:図をかけばいいよ。
C:やっぱり 3/4 の方が大きいね。
2
☆つぶやきを拾い、全体でどちらが
大きいのかを確認する。
②
2
と
3
3
4
の大きさ
T:3/4 と 2/3 の大きさの違いは 1/□で
しょうか。
の違いを考える。
C:1/4 か 1/3 じゃない?
T:違いが何分の1になるかを自分で ○違いの部分がどの大きさなのかを
図で確認して予想させる
予想し、理由もノートに書いてみ
ましょう。
2
3
と
3
4
の大きさの違いは何分の 1 なのか考えよう。
・ 大 体 何 分 の 1 か を 面積 図 で T:自分の予想した大きさが何分の ☆児童のつぶやく疑問や考え方を全
確 認 し な が ら 違 い が何 分 の
1になるのかを考える。
1かを教えてください。
C:1/4
・ 予 想 を 出 し 合 い 、 同じ 予 想 C:1/5
体に紹介し、課題解決を目指す。
☆様子を見て、ペアで考えを確認し
合う時間をとる。
の 人 同 士 で 自 分 の 考え を 固 C:1/12
める。
T:同じ答えを予想した人同士で集
まって、理由を考えて発表します。
・予想の理由を発表しながら、 C:1/4 だと思います。
大 き さ の 違 い を 検 証し て い C: 1/4 だと、図の違いの部分よりず
く。
っと大きくなってしまうよ。
・図と照らし合わせながら検証して
いく。
・1/12 という予想が出るまで続ける
・ 大 き さ の 違 う 分 を 色々 な 分 T: 1/4 の大きさを違いの部分に合わ □大体の大きさを予想しながら考え
母 の 分 数 に 合 わ せ なが ら 比
せると、確かに大きすぎるようで
ているか。
較 し 、 分 母 が い く つに な る
すね。
→子ども達を黒板前に出して確認
かを予想する。
C:1/12 だと思います。
C:分母の大きさが違うから、分母の
30
数を 2 倍、3 倍していって 12 にし
ます。
・2 倍、3 倍していくことは、 T:では、 2 倍、 3 倍していくと、何 ○児童からこのやり方では面倒だと
図 の 中 で 何 が 変 わ って い く
が変わるのかな。
声が出なければ、もっと分母の数
のかを確認する。
C:分母の部屋の数だ。
が大きい場合や具体物がない時の
T:2/3 の分母を 2 倍にすると 6 だね。
ことを想起させる。
分子の数は 2 のままかな。
C:分子も 2 倍するから 4 です。
T:確かに分子の量は部屋の 4 つ分で
すね。
C:分母が 6 では、3/4 の方と合わな
さそう。
C:じゃあ、3 倍にして 6/9 にしよう。
C:まだ合わないね。
C:じゃあ、4 倍にしてみよう。
C:8/12 になるね。
C:3/4 = 9/12 だから、分母の部屋の
数が同じだ。
T:分母の数が 12 の時に大きさが比
べられるのですね。
・ 2/3 の量が、 3/4 まであとい T:大きさの違いは何分の 1 かな。
くつ足りないかを確認する。 C:3/4 まで 1/12 足りないから、1/12
だ。
T:これで大きさの違いがはっきりし
ましたね。
・ 分 母 の 数 が 違 う 分 数の 大 き T:今日の学習をまとめます。
○2つの数の分母を何倍かずつして、
さ の ち が い を 知 る には 、 分 T:「 分母同士の数が違う分数では、
同じ倍数を分母とします。そのあ
母 の 数 を 揃 え る 必 要が あ る
○○すると、大きさの違いが分か
と、分子も分母と同じだけ倍数に
ことを確認する。
る。」
して表す。
この空いている部分を自分の言葉
→分母の揃え方を子ども達の言葉
で書きましょう。
でまとめる。
③ 分 母 の 大 き さ が 違 う 分 T: 3/4 と 4/5 ではどちらがどれだけ ○面積図を用意して、大体の違いの
5
数の大小比較を確かめ
大きいか、分母・分子を 2 倍、3 倍
大きさを把握させる。
る。
していって確かめましょう。
→ 1/12 よりも違いが小さくなりそ
C:4/5 の方が大きい。
う。ということは、分母の数は
C:分母の数を揃えれば、すぐに大き
12 よりも大きそうだ
さが比べられて、違いがはっきり □分子・分母を何倍かずつしても大
分かるね。
きさは変わらないことを利用して
考えているか。
☆理解が十分でない児童を見取り、
助言をする。
(4)評価
異分母分数の大きさの差を分母をそろえることで確かめられるようになったか。
6
実践を振り返って
(1)児童の様子から見える成果
①発問の工夫について
本時の導入では、以下のように段階的に発問を投げかけ
ていった。
(ア)
2/4 と 3/4 では、どちらの量が多い?
↓
(イ) 3/4 と 2/3 では、どちらの量が多い?
↓
(ウ)
3/4 と 2/3 の大きさの違いは何分の1?
(ア)の発問は既習事項であり、誰もが自信をもって 3/4 の方が大きいと解答できた。また、図
で視覚的に確認でき、誰もが納得している様子であった。
(イ)の発問では、数名の児童が 2/3 の方が多いと答え、1つ目の「あれっ?」という場面が訪
れた。ここでは 、「 2/3 の図もあれば大きさが比べられる 。」というつぶやきから、 2/3 の図を提
示し、「3/4 の方が大きい。」という結論につながっていた。
最後に(ウ)の発問をすると、2つ目の「あれっ?」という場面が出てきた。どちらが大きいか
は図を見れば分かるのに、「大きさの違いは?」と聞かれたことで児童の思考が揺さぶられ、「○
○じゃないかな・・・」と考えを巡らせ始める様子が見られた。
こうした流れを省みると 、「導入段階で発問を段階的に提示し、児童の思考に揺さぶりをかけ
たこと」は効果的であったと考えられる。
②量的感覚を視覚的に捉えさせる工夫について
本時において、量的感覚を捉えさせるための図の提示は、以下の場面において効果が見られた。
(ア)導入時における大きさ比べをする場面
(イ)○分の1の大きさを確認する場面
(ウ)大きさの違いが○分の1かを確認する場面
(ア)の場面では、2/3 と 3/4 の量感が想像できな
い児童にとっては有効であったし、何となく 3/4 の
方が大きいと考えた児童にとっても自身の量的感
覚が正しかったということを再確認できた。
(イ)の場面では、 1/2、 1/3・・・と○分の1の大
きさを提示することで、大きさの違いがどれくら
いなのかまったくイメージできていない児童にと
って、おおよその数値を予想することに役立って
いた。
(ウ)の場面では、2/3 と 3/4 の差が 1/12 だとぴったりと埋まることを確認する場面で役に立っ
ていた。
分数の学習では、今まで児童が大きさを想像しにくい場面がよく見られた。しかし今回の授業
においては、視覚的に分数の大きさを想像できたことで、おおよその大きさの違いを見当つけな
がら活動に取り組むことができたと考えられる。
(2)研究テーマについての考察
本時の活動では、「3/4 と 2/3 の大きさの違いは何分の1」という課題が見えた時、1人1人の
思考が動き出し、自身の考えをもちながら意見を交流させることを想定していた。しかし、思考
が動き出した時、以下の点において支援が不足していた。
(ア)自力解決の場がない
(イ)思考を深めるためのツールが不足していた
(ウ)ペアでの意見交換が多すぎて、全体が一人の意見をしっかり聞く時間が足
りない。
・「 (ア)自力解決の場がない」について
「3/4 と 2/3 の大きさの違いは何分の1か」を課題として提示した時、児童は 1/4、 1/10 など
と様々な予想をつぶやいていた。本来であれば、そこで各自が自分の考えを確かめるために自
力解決の時間をとるべきであったが、その場面では教師がつぶやきを拾いながら1つ1つの分
数の大きさ( 1/4、 1/5、 1/6、 1/7、 1/8、 1/9、 1/10、 1/11、 1/12)を黒板で確かめ、違いの部分と
合致するかどうかを確かめた。
その結果、児童はただ単に見た目の大きさだけで違いが 1/12 であることを判断してしまい、
1/12 を導き出すための個々の算数的活動がなくなってしまった。そのため、 2/3 や 3/4 は 1/12
がいくつ分集まったのかという発問に対して、戸惑う児童がたくさん出た。
本時では、 2/3 を 8/12、 3/4 を 9/12 と判断し、大きさの違いを求めることが重要である。児
童が様々な予想をつぶやき出し、思考が動き始めた時こそ自力解決の時間を設定するべきであ
ったと考える。
・「 (イ)思考を深めるためのツールが不足していた」について
黒板には、 3/4 や 2/3 の大きさが提示され、 1/2 ~ 1/12 までの大きさについても提示されてい
た。しかし、児童が自力解決を図るためのツールが児童の手元にはなかった。例えば、マス目
の方眼紙を準備し、児童に作業させていくだけでも児童の思考はそれなりに深まっていたはず
である。(ア)で述べたことにもつながるが、児童が課題に対して思考を始めた時、それを支援
できるツールを準備しておくべきであったと考える。
※次時に、確かめの課題として「 3/4 と 4/5 の大きさの違いは何分の1か」という課題に取り組ん
だ。そこで、本時ではできなかった「自力解決の時間を設定する」「思考を深めるためのツールを
与える」ことを実践した。
以下は、その時の様子をまとめたものである。
・課題:「3/4 と 4/5 の大きさの違いは何分の1か確かめよう」
・自力解決の時間:10 分
・児童に与えた解決のためのツール:方眼用紙
(方眼紙に書き込まれた児童の考え)
児童の方眼用紙には、自分なりに思考を巡らせ、説明をしようとしている様子が見て取れた。前
時では不十分であった、「 3/4 は 1/12 のいくつ分か」という見方についても、大きさの違いの部分
の長さを計測し、それが 3/4 にいくつ分入るかを数える姿が見られるようになった。また、個々の
思考を各グループで検討した時も、方眼用紙を見せながらお互いの考えを聞き合い、さらに考えの
質を高めていく様子が見られた。
このことからも、やはり本時において「自力解決の時間を設定する 」「思考を深めるためのツー
ルを与える」ことが必要であったと考える。
・(ウ)「ペアでの意見交換に時間を割き、全体が一人の意見をしっかり聞く時間が足りない」に
ついて
今回の研究テーマの大きな柱として「一人一人の思考に寄り添う」ことがあげられる。それは
今回の実践だけではなく、日常の学習活動全体において意識し、実践していることである。本時
でも、友達の発言を繰り返して確認させたり、自分の考えが不安な時にペアで意見を確認させた
りする場を設定した。
しかし、本時の活動においてはペアでの意見交換の目的が「互いの考えを確かめ合う」のでは
なく 、「考えを出すための話合い」のように流れていってしまった。その原因は、個々の思考が
十分に深められていなかったことにある。個々の思考を深められずに学習活動が流れてしまい、
全体での交流で柱となる意見や考え方が出てこない状況が生まれてしまった。
今後も「一人一人の思考に寄り添う」ことを大切にして学習活動を進めていくにあたって、個
々の思考を深めるための支援を見直し、確実に行うことから始めていきたいと考える。
(3)今後の課題
これまでの算数指導において大切にしてきた「一人一人が互いの思考に寄り添いながら課題解決
を目指す」ことを今後も継続していきたい。そのための課題として以下のことがあげられる。
①児童の思考をゆさぶる発問から「自力解決」をはさんでの意見交換
これまで発問の工夫という点では概ね達成できていると考える。本実践においても「児童の
思考をゆさぶる発問の工夫」という点においては効果的であったと考える。
しかし、本実践を含めてこれまでの指導をふり返ると、ゆさぶりから出てくるつぶやきを拾
い、紹介するだけで、それを個々が確かめるための「自力解決の時間」が足りなかったのでは
ないかと思う。
発問による思考のゆさぶり→児童のつぶやき→ 自力解決 →意見交換→全体での確かめ
上記のような学習活動の流れができてこそ、研究テーマである「一人一人が互いの思考に寄
り添いながら課題解決を目指す算数指導」につながるのだと分かった。今後の研究において、
発問の工夫をさらに追究するとともに、学習活動中にどのような自力解決をさせていくべきか
考えていきたい。
②自力解決を促すためのツール(手段)をいかに示すか
学習活動の流れに「自力解決の時間」を設定するにあたって、児童にどのような形でツール
を提供するかを考えていく必要がある。ただし、教師が進んで児童にツールを与えるのではな
く、児童から必要なツールを求める状況を作り上げる必要がある。
そのためには、発問の出し方をよく考え、出されたつぶやきから必要なツールを与える流れ
を作れるような学習展開を心がけていきたい。