みずほインサイト マーケット 2015 年 4 月 3 日 2015 年度金融市場展望 市場調査部主席エコノミスト 株式・債券相場とも底堅く、ドル高基調継続 03-3591-1244 武内浩二 [email protected] ○ 2015年度の金融市場では、グローバルな金融緩和傾向が予想され、株式・債券相場とも底堅い地合 いを見込む。金融政策スタンスの違いから為替は対円、対ユーロともドル高地合いの継続を予想 ○ リスクシナリオとしては、景気面では中国や欧州の下振れに加え、米国景気の下振れにも一定の警 戒が必要。また、米利上げに伴う米金利上昇や株安、新興国通貨安などの金融市場の混乱にも留意 ○ 国内市場では、国内景気と日銀追加緩和の有無が注目材料。物価上昇率は日銀の想定から大きく下 振れすることが見込まれ、日銀がスタンスを変えなければ、2015年度内の追加緩和が想定される 1.2014 年度の金融市場は株高・債券高・ドル高が進行 2014年度の金融市場は、株高・債券高の展開となり、為替市場ではドル高が進行した。中国や欧州 を中心に世界的な景気下振れリスクが意識され、更に原油価格の下落によるディスインフレ圧力も加 わったため、グローバルに金融緩和の動きが広がった。こうした金融緩和圧力の強まりを背景とした 緩和マネーの流入が、株高・債券高を支えたといえよう。特に日本銀行の追加緩和(2014年10月)や ECBの量的緩和導入(2015年1月)は世界的な金利低下を促し、ドイツは7年ゾーンまで、日本も一 時5年ゾーンまでがマイナス圏に沈み、長期金利は歴史的な低水準にまで低下した。利上げが意識され る米国でさえも相対的な利回り水準の高さから投資マネーが流入し、長期金利は低下傾向で推移した。 図表1 145 135 (2014年3月末=100) 3.0 日(日経平均) MSCIエマージング 独(DAX) 米(ダウ平均) 主要マーケットの推移 (%) 2.8 米国10年国債(左目盛)(%) 日本10年国債(右目盛) ドイツ10年国債(右目盛) 1.7 2.6 2.4 125 2.2 2.0 105 95 14/6 115 1.3 110 円 ドル ユーロ 105 0.9 100 1.8 0.7 1.6 0.5 1.4 0.3 1.2 14/4 14/8 14/10 14/12 15/2 (2014年3月末=100) 120 1.5 1.1 115 85 14/4 125 1.9 14/6 14/8 14/10 14/12 15/2 (年/月) 0.1 15/4 (年/月) 95 90 85 14/4 14/6 14/8 14/10 14/12 15/2 (注) BOE名目実効為替レート。 (資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成 1 (年/月) 2.2015 年度のメインシナリオは株式・債券相場とも底堅く、為替はドル高基調が持続 2015年度についても、年内の利上げ開始が見込まれる米国や通貨安が懸念されるブラジルなど一部 の国を除いて金融緩和傾向の維持・強化が予想され、特に日欧の量的緩和の影響から株式・債券相場 とも底堅い地合いが続く見通しである。米国の利上げ開始時期については年央以降がメインシナリオ であり、金融政策スタンスの違いから為替は対円、対ユーロともドル高地合いの継続を予想する。 利上げに伴って米国長期金利は上昇する見込みであるが、日欧との利回り格差や流動性などを考慮 すれば、引き続き投資マネーは流入しやすく、金利上昇幅は限定的となろう。一方、日独の長期金利 については、総じて低位での推移が続くことになろう。景気の回復基調や米国長期金利の上昇などを 背景に年度を通してみればやや上昇を見込むものの、日本やドイツでは長期ゾーンでグロスの国債発 行額を上回る中央銀行による国債購入が見込まれるため、米国以上に金利上昇抑制圧力は強いといえ る。年度平均でみれば、日米が概ね横ばい、ドイツは低下の予想である(次頁図表2)。 株価については、日米ともに上昇を見込んでいる。日米の景気回復や企業業績の改善に加え、グロ ーバルな緩和マネーの流入が相場を支えるとみている。ただし、企業業績に関しては、全体として円 安や原油安の恩恵を受け易い日本に対して、米国ではドル高や原油安が一部の企業の逆風となるため、 増益ペースに差が出る見通しである。したがって、株価についても日本株のアウトパフォーム傾向が 続き易いとみられる。予想PERなどのバリュエーション面から米株にやや割高感が台頭しているこ とや利上げ前後には株価が調整圧力を受けやすいといったことも米株の上昇を慎重にみている理由で ある。日本株についても、年明け以降の上昇ペースが速かったことから、米株の調整局面などで利益 確定売りが出やすく、年度半ばにかけての上昇ペースは慎重にみている。年度半ば頃に大型のIPO が予定されていることも需給面から株価の上値抑制要因となろう。ただし、日銀の追加緩和と円安進 行などを背景に徐々に下値を切り上げ、年度後半には日経平均2万円台が定着していく展開を予想して いる。 3.海外景気の下振れや米利上げに伴う金融市場の混乱などには留意が必要 今年度も様々な不安要素があり、景気面では、過剰生産能力と過剰債務の解消のため「新常態」を 目指す中国や、ギリシャ問題、ロシア・ウクライナ問題などを抱えた欧州の景気下振れリスクが残存 している。また、特に年度前半に関しては原油安による投資抑制やドル高による企業マインドの悪化 が長引くことによる米国経済の下振れリスクにも一定の警戒は必要であろう。イベントとしては、米 利上げに伴う金融市場の混乱リスクがある。低位で推移している米長期金利の急上昇とこれを嫌気し た株価の急落懸念に加え、新興国からの急速な資金流出に対しても留意が必要であろう。 4.国内市場の注目は日銀追加緩和の有無 国内市場では、国内景気と日銀追加緩和の有無が注目材料である。国内景気に関しては、①昨年10 月の日銀追加緩和以降の円安・株高、②消費税先送りや経済対策などの財政要因、③原油安といった 2 「トリプルメリット」が押し上げ要因となり、2015年度の成長率は2%台に回復する見通しである。た だし、足元の個人消費や設備投資の回復は鈍く、日銀短観3月調査でも先行きに対する企業の慎重姿勢 が示された。今後、内需の回復が想定以上に弱い中で海外景気が下振れるようなことになれば、国内 景気の持ち直しシナリオにも黄色信号が灯ることになろう。その場合、これまでの相場上昇の反動も あり、海外投資家の売りなどを契機に日本株の下落圧力が強まることも想定される。ただし、国内景 気が下振れるとすれば、日銀による追加緩和実施の蓋然性が高まることになろう。 日銀の金融政策に関しては、年明け以降、政府関係者からは「インフレ率低下は原油安による影響 が大きいため追加緩和の必要はない」といった追加緩和期待の高まりを牽制する発言が増えてきてい る。中小企業を中心に円安警戒論は根強く、追加緩和によって過度に円安が進行することを懸念して いるとみられる。勿論、日銀が2%の物価目標達成時期を「2015年を中心とする期間」から延長するか、 物価目標自体を引き下げるのであれば、あえて追加緩和をする必要はないであろう。しかし、日銀は 期待インフレ率を重視しており、物価の上昇自体が期待インフレ率を上昇させるといったスタンスで ある。昨年10月の追加緩和でも決定理由として「原油価格の下落により期待インフレ率が低下するリ スクの顕在化を未然に防ぐ」ことを挙げている。みずほ総合研究所では2015年度の消費者物価(除く 生鮮食品)の上昇率を前年比横ばいと見込んでおり、1月の日銀展望レポート中間評価における政策委 員見通しの中央値とは1%の開きがある。特に年度後半にかけてこの乖離は拡大していくとみられ、黒 田総裁がこれまでのスタンスを変更しないとすれば、2015年度中に追加緩和を実施することになろう。 図表2 金融市場見通し総括表 2013 2014 2015 年度 年度 年度 2015 1~3 4~6 2016 7~9 10~12 1~3 日本 0~0.1 0~0.1 0~0.1 0~0.1 0~0.1 0~0.1 0~0.1 0~0.1 (3か月、%) 0.22 0.20 0.17 0.17 0.17 0.17 0.17 0.17 (5年、%) 0.40 0.26 0.25 0.24 0.25 0.25 0.25 0.25 無担保コールO/N (末値、%) ユーロ円TIBOR 金利スワップ (10年、%) 0.69 0.48 0.51 0.34 0.45 0.50 0.50 0.60 (円) 14,424 16,272 20,000 18,175 19,500 19,700 20,200 20,500 FFレート (末値、%) 0~0.25 0~0.25 0.25~0.50 0.25~0.50 0.50~0.75 0.75~1.00 新発国債 (10年、%) 2.54 2.33 2.38 1.96 2.15 2.30 2.45 2.60 (ドル) 15,542 17,191 18,300 17,806 18,100 18,200 18,300 18,400 ECB主要政策金利 (末値、%) 0.25 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 ドイツ国債 (10年、%) 1.67 0.90 0.41 0.35 0.30 0.40 0.45 0.50 (円/ドル) 100 110 124 119 123 123 125 126 (ドル/ユーロ) 1.34 1.27 1.01 1.13 1.03 1.01 1.00 1.00 新発国債 日経平均株価 米国 ダウ平均株価 0~0.25 0.75~1.00 ユーロ圏 為替 ドル・円 ユーロ・ドル (注) 網掛けは予測値。予測値は期中平均。但し、無担保コールO/N、FFレート、ECB主要政策金利は期末値。 ユーロ円TIBORは360日ベース。スワップ5年は6カ月LIBORに対する固定金利払。為替相場はニューヨーク終値ベース。 (資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 3
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