内容要約:PDF - 東洋大学社会福祉学会;pdf

記念鼎談Ⅰ
東洋大学における社会福祉学教育・研究の歴史的意義と展望
登壇者:古川孝順氏、天野マキ氏、佐藤豊道氏
司会:森田明美
会員
天野氏:
研究当初は、ドヤ街における日雇い労働者の課題に関心があり研究を始めた。いわゆる貧困についてで
ある。その中で実践を行いながら、原理を生み出すというスタンスが研究手法になった。理論的な方法を
教わりながら貧困問題について考えてきた。
教員時代、障害を抱えている大学院生も、その方にあった研究方法を模索することで、その方は最終的
に教授にまでなった。
東洋大学において 45 年間勤務してきたが、大正時代から新しいことを行い、男女共学の大学にしたと
いう流れ、つまり新しいことを行っていくという姿勢が東洋大学らしさである。しかし一方で、理論的、
学問的にきちんと押さえるという点も大事にしているので、この点も東洋大学における伝統である。東
洋大学大学院のアイデンティティを持つ教員の姿を目の当たりにしてきて、学生をフォローする姿勢が、
東洋大学の良さであると感じている。
佐藤氏:
当時の大学院は、科目と指導、演習が分かれていた。現在のシステムは、科目と指導が合同になってい
るが、本来は分かれた方がよいのではないだろうかと感じている。大学院時代を振り返ると、臨床系の先
生たちからは、真実はどこにあるのかという問いがあった。そこには自分の経験が真実だというスタン
スがあった。
また、大学院生時代、主査と副査の中で悩んだ経験もあった。社会学から学んだ先行研究をしっかり読
むということ、また一方で現場での学びの大切さも学んだ。精神科の PSW として働いた経験もあるが、
実践を論文にするということは難しかったと記憶している。
東洋大学大学院らしさとは、まさに機会の提供である。間口を広げ、学びの機会を広く提供する。しか
し結果の平等を保証しているのではなく、その後は一人一人の努力に課されている。そして出来るだけ
外との関係性も大事にし、実力をつけてもらいたい。
古川氏:
政策派、技術派というが両方を取り入れるという流れはあった。学生を見ていると伸びしろはあるのだ
が、どうやって伸ばせばよいのかがわからないという学生が多い。それらを気づかせるような研究指導
を行ってきた。おたがいが議論できる場をつくっていかなければならない。
東洋大学には伝統がある。若い研究者も入れて、その方が中心になっていくことも必要である。学生が
伸びるためには、教員も伸びないといけない。教員の姿勢が、大きな成果につながる。社会学の流れのな
かで、社会福祉学を学んできたのはあるけれど、対等に発言できるようなプレゼンス力をつけていくこ
とが必要である。発言すべきことを発言し、存在感をだしていく足場をつくりながら、社会福祉の側から
包摂していけるような研究領域が必要になる。
時代の中で新しい方向性を探っていくことが大事であり、次なるステージに飛躍してほしい。
森田氏・総括:
徹底的に寄り添う、東洋大学が好きといえるような大学でありたいと常に思っている。3万人の学生が
いる現在はなかなか難しいかもしれないが、自由闊達な研究が土台にあり、徹底的に寄り添いながら切
り開いていくという姿勢を踏襲しながら、歴史をつくってもらいたい。
改めて東洋大学らしさとは何であるのか。東洋大学は大正時代から、先駆的な行動を行っている。新し
いことを行う、自由に活動ができる。その当時としては先駆的な男女共学の設置・理論的な学問を徹して
学ぶ、学生への対応をきちんと行うなど、これらからみえることは東洋大学には「開拓性と自由」という
ものが根拠にあるのではないだろうか。
また、社会福祉の奥行きの深さということも重要で、時代に早すぎてもいけないし、遅れてもいけな
く、その辺りの見極めも大事になってくる。そして、東洋大学での福祉における研究を辿っていくと、や
はりそこには「当事者に徹して寄り添う」という姿勢での研究が脈打っている。これから研究を行ってい
く者に対して、
「グローカルな視点」を用いた人材に成長してほしい。グローカルな視点とは幅広い視点
を持ちつつも、しっかりと地に足をつけた研究を進めてほしい。現場では経験や感性では理解できるが、
それを他人に伝え、論文にすることは難しい。初志貫徹して、学位取得に挑んでほしい。議論できる場が、
大規模化するに少なくなってきている印象がある。多様な人材を受け入れ、多様な人材を輩出する。
大学で学ぶ財産を大事にしてほしい。