精神科長期入院患者の地域移行における課題と支援の方向性の検討

精神科長期入院患者の地域移行における課題と支援の方向性の検討
~精神科病院 PSW 及び地域活動支援センターPSW からの聞き取り結果から~
〇 中川優馬、室田美由紀、宮内麻理*、又木真由美**、濵田京子、和田陽市
(都城保健所、*中央福祉こどもセンター、**日南保健所)
Ⅰ 目的
我が国における精神科病院入院患者数は平成 24 年 6 月 30 日現在、302,156 人と未だ 30 万人を
超える状況がある。厚生労働省においては、平成 26 年から「長期入院精神障害者の地域移行に向
けた具体的方策に係る検討チーム」を立ち上げ、全国的にも精神障がい者の地域移行に向けた支援
が重要視されている。
都城保健所管内(以下、
「管内」とする。
)における平成 25 年精神科病院の平均在院日数は 538.2
となっており、宮崎県全体の 343.7 及び、全国の 284.7 と比較すると高い値となっている(図1)
。
先行研究において、精神保健福祉資料
(630 調査)等から地域移行の課題につい
て考察したものは多くあったが、精神科病
院 PSW への聞き取りにより検討したもの
は少なかった。
そこで今回、精神科病院及び地域活動支
援センターⅠ型に対して聞き取りを実施し、
管内における地域移行の課題と支援の方向
性を検討したので報告する。
Ⅱ 対象と方法
対
象:管内精神科 4 病院及び地域活動支援センターⅠ型の PSW(相談室長級)各 1~2 名の
計7名
方
法:半構造化インタビューにより、管内の長期入院患者の地域移行における現状及び課題
について聴取した。また、聴取し得られた課題を地域における課題、病院における課
題、患者本人における課題に分類した。
質問項目:①地域移行の体制(スタッフの数、流れ)
、②長期入院の要因、③地域移行に結びつき
やすいケース、④地域移行が困難なケース、⑤病院(事業所)内での地域移行に向け
た取組、⑥地域事業者との関わり
調査時間:1 病院(事業所)につき 60 分程度
Ⅲ 結果
聞き取りの結果、管内における地域移行支援の現状としては、入院患者の 7~8 割が 1 年以内に退
院をしていることがわかった。また、地域においては精神疾患に対する偏見が未だ根強く残ってい
る現状があることが明らかになった。
聞き取りの結果得られた課題を以下のように分類した。
分類
課題
・家族の受け入れが悪く、本人が自宅に戻ることに対して否定的な感情を
抱く場合がある。
地域における課題
・地域におけるグループホームや施設の受け入れ先が少ない状況がある
・退院時、患者本人が賃貸物件を借りる際に、保証人が得られずに入居
ができない場合がある。
・患者本人と地域住民との間で起こった過去の出来事(トラブル)に対
して、地域住民が不安を抱いている場合がある。
・病院スタッフの業務量が多いことや地域移行に関する教育が十分でな
いことで、患者本人の意向を汲み取ることのできる環境が整っていな
い。
病院における課題
・看護職側において退院支援のノウハウが十分でない場合がある。
・病院スタッフが地域の作業所や施設の内容を十分に把握できていない
場合がある。
・病院スタッフが長期入院患者の退院を諦めている場合がある。
・長期入院により生活能力が低下している場合がある。
患者本人における課題
・患者本人が地域に出てからの生活のイメージが湧かない状況がある。
・患者本人が制度(地域移行支援事業等)を知らない状況がある。
・退院することを諦めている場合がある。
Ⅳ 考察
今回の聞き取りの結果から、精神科病院及び地域活動支援センターⅠ型の考える地域移行への課
題を抽出することができた。また、抽出された課題を細かく分類することにより、地域の課題を明
確化することができた。地域における課題としては地域住民(家族、地域)の受け入れが良くない
こと、病院における課題としては患者の意向を汲み取る環境が整っていないこと、患者本人におけ
る課題としては制度を知らないことや退院後のイメージが湧かないことが明らかになった。
分類した課題に対する支援として、地域に対しては、地域の住民を対象とした精神疾患の理解や
地域移行に関する研修会の開催、居住サポート支援事業(社会福祉協議会)への働きかけ、家族教
室の開催による家族に対する知識の普及等が考えられる。
病院に対する支援としては、病院職員に向けた退院支援に関する勉強会の開催や院内での事業所
説明会を開催することによる支援者に向けた社会資源の整理といった支援が考えられる。また、病
院内で開催される退院支援会議に地域支援者が参加できるよう働きかけを行うことで、より効果的
な地域移行支援を行うことができると考える。
患者本人に対する支援としては、ピアサポート活動を推進することによって、患者自身が退院後
の生活をイメージしやすい環境づくりを進めていくことが考えられる。しかし、管内においては、
現在ピアサポート活動が活発ではない。ピアサポーターは現在精神保健福祉分野において重要視さ
れていることから、今後、管内においてもピアサポーター等の育成やピアサポートに関する研修等
の開催も行っていく必要があると考えられる。
Ⅴ 最後に
今回の聞き取りから、精神科医療の現場における地域移行の現状と課題について、実務担当者の
視点から明らかにすることができた。今後、精神保健福祉資料や既存の資料と併せて関係機関と検
討を重ねていくことで、精神科長期入院患者の地域移行支援がより促進されていくことが示唆され
た。関係機関との検討の場としては、精神障がい者地域移行支援協議会(保健所にて開催)を活用
しながら管内における長期入院患者の地域移行支援に取り組んでいきたい。
参考文献
1)厚生労働省:平成 24 年度精神保健福祉資料
2)井上優美子:地域移行支援における管内の課題と方向性について~630 調査資料から~,第 26
回宮崎県地域健康推進研究会
3)社会福祉法人 南高愛隣会:精神障がい者ピアサポート専門員養成ガイドライン,p7,2013