海流散布植物の系統地理学的研究 〜 波に浮かんで

2015 年度 第1回理学セミナー
2015 年 8 月 6 日 (木) 16:30~18:00 百 504 教室
海流散布植物の系統地理学的研究 〜 波に浮かんで地球一周 〜
琉球大学熱帯生物学研究センター 教授
梶田 忠
「植物と動物の違いは何だろうか?」
この問いに対して、「植物は動かない。動物は動く」と
答える人は少なからずいるだろう。植物のほとんどは固着生活を基本としているため、たしかに、
自由に移動することはできない。一方、植物の中には、日本全土だとか、東アジア全域だとか、か
なり広い範囲に分布しているものが多数ある。自分では動けない植物が、これほど広い分布域を
持つことができたのはどうしてだろうか?それは、多くの場合、植物が固着生活に入る前の、種子
や果実などの時期に、受動的に移動できるからだ。果実がはじけて飛ばされるもの(機械的散布)、
動物にくっついて運ばれるもの(動物散布)、鳥に食べられて運ばれるもの(鳥散布)、風に飛ばさ
れるもの(風散布)など、種子散布の方法はさまざまで、運ばれる距離にも大きな違いがある。
様々な種子散布様式の中で、私が特に注目してきたのが、海流散布だ。これは、散布体が海
流に流されて移動するものであり、植物にとって簡単には超えることのできない海を、動く通路とし
利用するところに特徴がある。島崎藤村によって「名も知らぬ遠き島より流れ寄る」と詠まれたココ
ヤシはその代表格だ。でも、海流散布植物は、ヤシ科以外にも、植物の様々な科から知られてお
り、海流散布という形での海への適応が、平行的に生じたのは間違い無いだろう。
これら海流散布植物の研究を進める過程で、熱帯域で地球を一周するほど広い分布域を持つ
ものが複数あることに気づき、それらを「汎熱帯海流散布植物」と名付け、分布域の維持や成り立
ち、種分化の歴史の研究(系統地理学的研究)を行ってきた。世界中の熱帯域を対象とするフィー
ルドワークと分子マーカーを用いた網羅的解析により、以前は知り得なかった、地域間の種子に
よる移動の程度や、それが、どのようにして起こったかについて、ある程度の推定が可能になった。
本セミナーでは、海流散布植物の研究例をいくつか紹介するとともに、種子散布が地球を一周す
るほどの分布域を維持している事例について解説する。
図 1. 汎熱帯海流散布植物の一種
グンバイヒルガオ.
図 2. グンバイヒルガオの遺伝構造(Structure 解析)と地域集団間の
移住方向と移住率(矢印と数字)。 Miryegane et al. Plos ONE (2014)