園児向けICT教育プログラムの開発と、幼稚園・保育園への導入

分科会G2
園児向け教育プログラムの開発と、幼稚園・保育園への導入
- 「こどもモードKitS(キッツ)」で、“21世紀をいきる力”を育む -
株式会社スマートエデュケーション 広報責任者 井上 篤
キーワード:園児,ICT教育,タブレット,いきる力,21世紀型スキル
1 .は じ め に ~ 2 1 世 紀 型 ス キ ル を 育 む
小中学校でのICTを活用した教育はもはや珍しく
ないが、当社が対象としたのは未就学の園児である。
子どもたちの「いきる力を育てたい」というビジョン
のもと、園児の“21世紀型スキル”を育むことを念
頭に、
「ICTを活用した教育カリキュラム」を開発。
2014年度から、幼稚園・保育園へ導入し、年間運
用している。
2~4人で1台のタブレット端末を“共同使用”し、
チームワークを養う環境作りもしている。各園とも園
長をはじめ、教諭や保育士が園児の活動を細かくフォ
ローしている(指導者が常時3名以上居る)
。
表1:指導者の役割
一般的
教える
2 .カ リ キ ュ ラ ム の 概 要 と 運 用 に つ い て
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2013年度の幼稚園・保育園での試験運用を経て、
「1、十人十色の個性が活きる、創造力」
、
「2、力を
合わせてゴールを目指す、チームワーク力」
、
「3、2
1世紀にふさわしい、ICT活用力」の、
『3つのいき
る力』を育むことを狙いとし、タブレット端末と当社
開発の知育アプリなどを活用した、年長(5歳児)向
けのICTを活用した教育カリキュラムである。これ
を「こどもモード KitS(キッツ)
」と名付け、毎
回の活動内容や狙いを定めたマニュアルを作成し、2
014年4月から計3園※で正課カリキュラムとして
導入運用されている。
なお、この『3つのいきる力』は、国際的な団体
「 ATC21S (Assessment and Teaching of
21st-Century Skills)」が掲げ、多方面で注目を集める
“21世紀型スキル”の習得を念頭にしている。
※[導入施設]①聖愛幼稚園(東京都福生市)、②コビ
ープリスクールよしかわ(埼玉県吉川市/認可保育所)、
③コビープリスクールかみめぐろ(東京都目黒区/認
可保育所)
<Teaching>
本カリキュラム
力を引き出す
考えさせる
<Coaching>
4.カリキュラム内容
カリキュラム内容は以下の通り。タブレット端末を
活用する、
“創造力”
カリキュラムと
“チームワーク力”
カリキュラムを通じて、結果的にICT活用力も養え
るようになっている。なお、2014年度の全授業(聖
愛幼稚園とコビーよしかわの2園)には、当社スタッ
フが立ち合って状況チェックと記録を行い、カリキュ
ラムのブラッシュアップにつなげている。
4.1『創造力 カリキュラム』
(1)プレゼンテーション
「自分の好きなモノ」の写真をタブレット端末と接
続したプロジェクタで投影し、スワイプや、特に見て
もらいたい部分をピンチアウトし、園児が皆の前で好
きな理由などをプレゼン。他園児の質問にも答える、
自己表現活動。
図1:3つのいきる力
3.実践の特長とICT活用の工夫
授業は当社マニュアルをベースに各園長が主導し
て行い(指導力があれば、教諭や保育士が運用しても
なんら問題ない)
、1回40~60分程度実施。年間の
授業回数は20~30回で、継続的且つ計画的に行わ
れる。なお、これまで園で行われてきた他の活動が著
しく減るなどの、影響を与えるものではない。
また、指導者(園長、教諭、保育士)の位置づけは、
「教える」
役割では無く、
「力を引き出す/考えさせる」
役割である事も特長と言える。
各園とも園児人数分(または1クラス人数分)のタ
ブレット端末(iPad)が用意され、1人1台の使
用環境になっているが、
カリキュラム内容によっては、
写真1:プレゼンする園児(右)と質問する園児(左)
(2)お絵描き
お絵描きアプリ(当社開発/※1)を活用し、タブ
レット端末上で自由に描き、ネット上で絵を共有(園
関係者のみのクローズド環境)
。仲間の絵を鑑賞し、ハ
ートマークをつけて褒め称えあい、鑑賞力も養う創作
活動。アプリならではの「筆跡再生」の特徴を理解し
て、
「動く絵」を描く園児もいる。
※1「Goccoらくがキッズ」
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JAPET&CEC成果発表会
(3)色塗り&工作
色塗りアプリ(当社開発/※2)を活用し、タブレ
ット端末上でゾウを思い思いに塗り、展開図化された
画像をプリントアウトし、ハサミとノリを使って組み
立てる創作活動。
「3Dおりがみ」と名付けられた、デ
ジタルとアナログが融合したこの活動は、保護者から
の評価も高い。
※2「Goccoどうぶつえん」
(2)問題解決(社会学習)
1台のタブレット端末を2~3人で囲み、地図上で
「困っている人」とそれを「助ける人」を探し出し“つ
なげる”ことで問題解決する社会学習アプリ(当社開
発/※4)
。誰が誰を助けられるのか、皆で情報収集し
相談しながら進める協調型問題解決活動。なお、アプ
リ上のカードを実物のボードに加工し(当社から園に
提供)
、ボードを持った園児同士が実際に“つながる”
、
「リアルつなげっと」も行っている。
※4「みんなで つなげっと」
写真2:描いたゾウは自動で展開図化、印刷して工作
写真5:タブレット上で学んで、体を使っても学ぶ
5.実践の成果と今後
写真3:園児らの個性が発揮された作品が並ぶ
写真4:3人で挑戦する園児らと、見守る担任
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4.2『チームワーク力 カリキュラム』
(1)合奏
1台のタブレット端末を3~5人で囲み、楽器演奏
アプリ(当社開発/※3)で各自1~2つパートを受
け持って合奏。チーム毎に競い合うため、分担を確認
し各人の息を合わせることで高得点を得る協調活動。
※3「リズムえほんDX」
4月当初の「園児と先生」のやり取りから、
「園児と
園児」での相談・対話が見られるようになった。特に
“チームワーク力”カリキュラムでは、良い結果を得
るための「相談・分担」という流れも形成され、互い
の考えに耳を傾けるような成長も見られるようになっ
た。また、クレヨンなどで描く「お絵描き」が苦手だ
った子が、アプリを活用して満面の笑顔で思い思いの
画を描いていることも報告されている。また一人で描
くものの、周囲の仲間と描き方(アプリの使い方)を見
せ合うなどして、皆で「より楽しい画」にするように
刺激し合っている。
そして、
先生の指示があるまでは、
タブレット端末を一切触らないというように、秩序(ル
ールマナー)も守れるようになった点も挙げたい。
このカリキュラムを通じ、
「タブレット端末は単なる
ゲーム機では無く、学習にも大いに活用できる」とい
うことを、幼少期から体験させることで、将来、学習
や共同作業の手段として、ICTやタブレット端末を
適正且つ積極的に活用できるようになると考えている。
問題解決・目的達成のために、ICTやタブレット端
末を含めた様々な手段を活用できる英知は、
まさに
「い
きる力」と考えている。
なお、東京大学大学院の先生を中心に運営される、
「情報化社会における学習環境」について研究普及啓
発を行うNPO法人エデューステクノロジーズと共に、
本カリキュラムで学んだ園児の成長ぶりについて検証
を進めている(レポート完成次第公表予定)
。カリキュ
ラムのブラシュアップも継続的に行っており、201
5年度からは更に多くの幼稚園・保育園に普及導入を
進めたい。