画家として

はじめに
島根県は北東から南西に海岸線が続く。海の風景を楽しみながらの
山陰道。その山陰道の安来インターを出て南に二十分ばかり山あいに
入っていくと飯梨川の川沿いに安来市加納美術館が見えてくる。その
かのうひろき
美術館は、一九九六(平成八)年に加納辰夫の長男加納 溥基が、ふる
さと布部の発展を願い、文化の拠点として設立したものである。
かんらい
加納美術館は、加納辰夫(雅号 莞蕾)の油彩、墨彩、書などの作
品を展示するための美術館としてつくられた。周囲に広がる四季の彩
り豊かな田園風景の中のこの美術館は地域の人ばかりではなく遠くか
らもたくさんの来館者を迎えている。
美術館には加納辰夫の絵や書を気に入って来てくださる人がある。
また加納辰夫の恒久平和を求め続けた画家としての生き方に共鳴して
来てくださる方も少なくない。
加納辰夫が三十年求め、歩み続けた平和への道--私がこれを書き
遺しておきたいと思ったのは一人の画家の一枚の大きな絵として来館
者の方に見ていただきたいと思ったからである。フィリピンの大統領
に向けて「私は、平和を求める画家として絵筆を持つことができない
のです」とメッセージを送り、 B C 級戦犯の助命嘆願活動をしてきた
加納辰夫は、三十年かかって実は大きな一枚の絵を描いていたのかも
しれないと私は思っている。
平和を希求する想いは、時を経ても変わることなく永遠に続かなけ
ればならない。辰夫の願いが限りなく次の世界に続いていくよう心か
ら願ってやまない。その願いからこの本は生まれたと言ってよいと思
う。
「赦し難きを赦す」「世界児童憲章(世界の子どもを愛する)」など
の言葉が生かされる世の中になっていくことを心から念じつつ::。
加納佳世子
所在地
電話
島根県安来市広瀬町345-27
0854-36-0880
雛祭りの昼下がり一冊の本が送られてきた。加納美術館館長の加納佳代子さん
がお父様の加納辰夫(莞蕾)の生い立ちと足跡を書きとめられた「画家として、
平和を希う人として」という本でした。
加納莞蕾に関しては一双会たより第13号55頁および第16号46頁に郷土
の誇るが画家として紹介いたしましたが、本書は著者の子供の時お父様と一緒に
過ごした頃の思い出や戦中戦後の苦しい生活などが語られていると同時にBC級
戦犯赦免運動に心血を注ぎフィリピンのキリノ大統領と交わした書簡などが掲載
されています。これを読んでいて妻と3人の子供を戦争で失っていたのにも拘わ
らず赦し難きを赦したキリノ大統領の心の廣さを知ると同時に釈放まで書簡を送
り続けた莞蕾のヒューマニズムに大きな感動を憶えました。また憲兵に命を狙わ
れながら重臣会議で開戦に反対し、ポツダム宣言早期受諾を進言した若槻礼次郎
など郷土には平和につくした人たちがいたことを誇りに思います。そして戦争を
経験した私たちはしっかりと次の世代に平和の大切なことを伝えねばならないと
思います。本書はその貴重な一冊ではないでしょうか。
一双会たより編集室
中沼
尚