リサーチ TODAY 2015 年 3 月 13 日 アジアもインフレ率低下で連鎖的金融緩和、通貨戦争へ 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 先週のシンガポール中心のアジア出張では、アジアの急な発展を実感すると同時に、中国の減速の影 響が予想以上に進んでいると感じた。一方、アジア各地では原油価格下落に伴い物価の安定が進み、金 融緩和が続いているのが特徴的である。みずほ総合研究所は『みずほアジア・オセアニア経済情報』を発 表している1。今回のアジア経済見通しは、下記の図表に示したとおりである。中国経済は、生産能力の過 剰問題や不動産市場の調整がもたらす景気下押し圧力を財政・金融政策で一定程度緩和しつつ、3月の 全人代で示された2015年の7%前後の成長目標に向けて緩やかに減速する見通しだ。輸出依存度が高 いNIEsは、輸出先の欧州や中国、産油国・資源国の景気減速に伴い、緩やかな成長に止まる。ASEAN5 は、原油安により悪影響を受けるマレーシアや、政治情勢が景気拡大の重石となるタイの成長が緩やかに 留まるものの、その他の国は原油安メリットなどから底堅く推移するとみられる。 ■図表:みずほ総合研究所のアジア経済予測総括表(2015年3月) (単位:%) 2011年 (実績) アジア 2012年 (実績) 2013年 ( 実績) 2014年 ( 予測) 2015年 ( 予測) 2016年 ( 予測) 7.6 6.2 6.1 6.0 6.0 5.9 中国 9.5 7.7 7.7 7.4 7.1 6.8 NIEs 4.1 2.3 2.9 3.3 3.2 3.1 韓 国 3.7 2.3 3.0 3.3 3.1 3.2 台 湾 3.8 2.1 2.2 3.7 3.8 3.5 香 港 4.8 1.7 2.9 2.3 2.2 2.0 シンガポール 6.2 3.4 4.4 2.9 2.9 2.8 4.5 6.1 5.1 4.6 5.1 5.0 6.2 6.0 5.6 5.0 5.2 5.5 ASEAN5 インドネシア タ イ 0.1 6.5 2.9 0.7 3.7 3.0 マレーシア 5.2 5.6 4.7 6.0 4.7 4.2 フィリピン 3.7 6.8 7.2 6.1 6.5 6.1 ベトナム 6.2 5.3 5.4 6.0 5.8 5.9 NA NA 6.4 7.2 7.6 7.9 7.7 4.8 4.7 5.2 5.6 5.9 2.6 3.7 2.0 2.7 2.2 2.7 インド( 2 0 1 1 年度基準) (参考:2004年度基準) オース トラリ ア (注)1.実質 GDP 成長率(前年比)。2.平均値は IMF による 2012 年 GDP シェア(購買力平価ベース)により計算。 3.2014 年の網掛けは予測値。網掛けなしは実績値。4.インドの旧基準の 2014 年成長率は当社推計による。 5.アジア合計の伸び率を算出する際、インドは 2004 年度基準の GDP を用いている。 (資料)各国統計、CEIC Data、みずほ総合研究所 世界経済の減速が続き、その結果生じた原油価格の下落によって、次ページの図表にあるように、アジ 1 リサーチTODAY 2015 年 3 月 13 日 ア各国のインフレ率は低下している。すでにシンガポールやタイではインフレ率がマイナスになっているの に注目だ。 ■図表:アジアのインフレ率推移 (前年比、%) 12 インド インドネシア ベトナム 韓国 シンガポール 中国 タイ 10 8 6 4 2 0 -2 2013 14 15 (年) (注)インドの 1 月の値は 2012 年基準、それ以前は 2010 年基準の値。 (資料)各国統計によりみずほ総合研究所作成 インフレが抑制された結果、すでに中国、韓国、インドネシア2、ベトナム、インド、タイでは金融緩和政策 が実施された。下記の図表のように、これまでアジア諸国の金融政策の間には強い連動があったことから、 今後はその他の国々でも緩和が続く可能性も高い。アジア諸国は、これまで賃金上昇圧力がもたらすイン フレ懸念などから総じて金融引締めスタンスを続けていたが、金融緩和余地が生じた現在は景気下支えの 機会を掴みつつある。一方、金融緩和競争による通貨戦争がアジアの新興国にまで波及したことは、世界 が抱える難しさと経済の脆弱性を示すものともいえる。 ■図表:アジアの政策金利の相関係数マトリックス 中国 中国 韓国 イ ンド ネシ ア 韓国 0.8 イ ンド ネシ ア 0.0 0.5 ベト ナム 0.4 0.1 ▲ 0.3 イ ンド 0.5 0.3 ▲ 0.1 0.3 タイ 0.5 0.8 0.7 0.1 0.5 台湾 0.8 0.9 0.4 0.0 0.4 0.7 0.7 0.8 0.5 0.0 0.7 0.8 0.8 0.2 0.7 0.9 ▲ 0.2 ▲ 0.1 0.8 0.6 マ レー シア フィリ ピン ベト ナ ム イ ンド タイ 台湾 マ レー シア フィリ ピン 0.5 (注)サンプル期間は 2006 年 1 月から 2014 年 12 月。濃い網掛けは 0.7 以上、薄い網掛けは 0.5 以上。国名の白抜きは 2014 年 10 月以降に緩和策実施。 (資料)CEIC Data よりみずほ総合研究所作成 1 2 『みずほアジア・オセアニア経済情報』(2015 年 4 月号 2015 年 3 月 12 日)、 菊池しのぶ 「穏やかな利下げに転じるインドネシア」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 3 月 6 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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