フィリピン和平プロセス停滞のままアキノ大統領退任へ

2015年のフィリピン
和平プロセス停滞のままアキノ大統領退任へ
すず
き
ゆ
り
か
鈴 木 有 理 佳
概 況
₂₀₁₅年 ₁ 月に発生した国家警察特殊部隊とイスラーム武装集団との衝突事件に
よって,モロ・イスラーム解放戦線
(MILF)との和平プロセスが停滞した。ミン
ダナオ和平を任期中の最大の成果にしたかったベニグノ・アキノ大統領にとって,
大きな痛手となった。
そのアキノ大統領は₂₀₁₆年 ₆ 月末に任期満了で退任する。任期最終年となった
₂₀₁₅年も支持率は総じて高く,議会ではアキノ大統領が所属する自由党を軸とし
た複数の政党による与党連合が多数派を形成し,長らく懸案となっていた法律を
いくつか成立させた。その一方で,バンサモロ基本法案など可決に至らなかった
法案も複数残った。汚職撲滅を掲げるアキノ政権下で,政治家や地方政府首長,
それに中央・地方政府職員などに対する汚職追及が司法・捜査当局によって続け
られている。そして₂₀₁₅年も終わりに近づくと,₂₀₁₆年大統領選挙の候補者が出
そろった。
経済面では,実質 GDP 成長率が₅.₈%と前年より鈍化した。とはいえ,内需の
拡大は加速しており,その強さは健在である。金融政策では動きがなく,フィリ
ピン中央銀行が政策金利を据え置いた。インフラ整備や貧困対策などは,アキノ
政権成立当初に期待されたほどには改善が進んでいない。すべて次期政権に課題
として残された。
対外関係では ₁ 月にフランシスコ・ローマ法王が来訪し,₁₁月に APEC 首脳
会議がマニラで開催されるなど,国内で大きな外交行事があった。 ₆ 月にはアキ
ノ大統領が日本を国賓として訪問した。南シナ海領有権問題をめぐっては,同問
題が付託されていたオランダ・ハーグの仲裁裁判所がフィリピン側の訴えの一部
につき同裁判所の管轄権を認め,審理を開始した。
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