もしもし未破裂脳動脈瘤

くも膜下出血を起こす未破裂脳動脈瘤
脳 卒 中 の 中 で も 最 も 致 死 率 が 高 く 恐 れ ら れ て い る の が 、
く も 膜 下 出 血 で す 。そ の 原 因 の 多 く は 脳 の 動 脈 に 瘤 が で き
た脳動脈瘤という疾患です。近年、MRIやCTなど放射線診断
機 器 の 進 歩 に よ り 、く も 膜 下 出 血 を き た す 前 に こ の 脳 動 脈
瘤が見つかることが多くなりました。このような動脈瘤を「未
破裂脳動脈瘤」といいます。このコーナーでは数回にわたっ
です。タバコを吸う人や、大酒飲みの人、
てこの未破裂脳動脈瘤について解説し、どのような注意、ど
高血圧のある人、親戚にくも膜下出血
のような治療法があるかお話したいと思います。
になられた方がいる人は、脳動脈瘤に
未破裂脳動脈瘤ができやすい人とは?
います。
完全に切除できないケースでは
放射線治療、補助化学療法も
一方、がんの進行がひどく根治手術(がんを完全に切除す
大腸がん治療には
お腹を切らずに
手術する方法もある
脳動脈瘤は子供にできることもありますが、多くは成人に
脳動脈瘤は必ず破裂する?
発見されます。その原因はいろいろ考えられていますが、脳
従来、欧米や日本で調べられたデータによると、未破裂脳動脈
の血管の分かれ目の弱くなった部分に血の流れがぶつかり、
瘤は概して年平均1%くらい破裂すると言われてきました。すな
瘤を形成すると考えられています(図参照)。
わち10年間で10%、20年間で20%ということになります。破
裂する(=くも膜下出血をきたす)と致死率は50%ですので、そ
未破裂脳動脈瘤の危険要因
●高血圧 ●喫煙 ●過度の飲酒癖 ●家族性(遺伝性)
くも膜下出血
しない!」という調査結果が出され、私たちもそれまでの考えを
ことで出血、腹痛、腸閉塞などの症状を回避する手術が行わ
手 術 以 外 の 補 助 療 法 と し て 、直 腸 が ん に 対 し て 手 術 の 前
今回は、治療の話です。大腸がんと診
や後に放射線治療を行って病巣の縮小を図ったり延命効果
断されても必ずお腹を切るわけではあ
を上げたりすることもあります。
りません。
また補助化学療法で抗がん剤を幾つか組み合わせて使用
例えば小さながんで腸管の内側の粘膜に留まっているよ
することもあります。
う な が ん の 場 合 は 、内 視 鏡 を 使 っ た 治 療 で 充 分 な 治 癒 が で
大 腸 が ん の 場 合 、大 腸 が ん 研 究 会 か ら 治 療 ガ イ ド ラ イ ン
き る よ う に な っ て き ま し た 。ま た 内 視 鏡 で 見 な が ら 肛 門 か
が 示 さ れ て い て 、国 内 で の 治 療 方 法 の 標 準 化 が 図 ら れ つ つ
ら挿入した器械で直腸のポリープや早期がんを切除する治
あり、抗がん剤の使用方法も統一されてきています。
療法(TEM)も行われています。
し か し ど ち ら の 方 法 で も 、切 除 し た も の の 病 理 検 査 で が
の半分の死亡率があるわけです。
しかし1998年に米国から「10mm未満の瘤はほとんど破裂
る手術)ができない場合でも、病変の手前に人工肛門を造る
れます。
なる可能性が高いといわれています。
血管の
分かれ目に
血流が衝突
人口の2∼3%は
瘤ができる
そのうち
年平均1%は
破裂
変えなければならない事態となりました。ただ私たちが通常見
ているくも膜下出血をきたした脳動脈瘤は、ほとんどが10mm
未満で話が合わないという問題も生じました。
動脈硬化が激しかったり、高血圧があると血管壁が傷みやす
そこで現在、日本では、全国404施設で見つかった未破裂脳動
くなります。また生まれつき血管の壁の弱い人もおり、ご家族に
脈瘤患者7,000人にご協力を仰いで、
治療しなかった場合の経過、
何人か脳動脈瘤をお持ちの方がいる場合、血管の壁が生まれつ
治療した場合の経過を調べさせていただいています。その調査
き弱い体質であるとも言われています。
は私が総括をしており、調査結果は2007年ごろ出版される予定
日本で調べられた結果では、脳ドックを受けられた患者さん
です。
「以前言われていた数値
(年約1%)
はおおむね誤りではない」
のうち、脳動脈瘤は多くて5∼6%の人に発見されたという報告
と結論されそうです。
もあります。そのほかの欧米や日本の調査では2∼3%くらい、
ではどのような瘤が破裂しやすいのか、
治療にはどんなオプショ
すなわち100人に2∼3人が未破裂脳動脈瘤を持っているわけ
ンがあるのかについては、次回まとめさせていただきます。
患者さんに最適な医療環境を提供できればと、2005年秋から
たときに診てもらえる近くの医院が知りたい」、
「 近くで往診
当科と地域の診療所を結ぶネットワーク、
「 J-NeTT」を立ち上
してくれる医院を見つけたい」などの要望には、このネットワー
げました。Jは循環器のJ、NeTTはネットワークを意味します。
クを利用してご近所の診療所を紹介できます。地域に密着し
ん が 深 く 進 ん で い る こ と が わ か っ た 場 合 に は 、外 科 的 な 腸
切除が必要になります。
外科手術が必要な場合も
肛門機能温存が行われる
では、外科的治療とはどんなことをするのでしょう。大腸
発生部位)と、まわりに付属しているリンパ節を含めた広い
近所のかかりつけ医と
病院の主治医を使い分ける
範囲の切除です。
専門的な検査や治療が必要な場合は、お近くの先生からの
に 限 ら ず 、が ん に 対 す る 外 科 手 術 の 基 本 は 、主 病 変( が ん の
直腸以外の大腸、すなわち結腸のがんの場合は、がんのあ
る腸とリンパ節を含めて病変を中心に約20cmの腸管切除
を行います。最近では、この手術操作を開腹しないで腹腔鏡
で見ながら専用の器械を使用して行うこともあります。
当院と診療所を結ぶ
ネットワーク
「J-NeTT」
循環器外来の担当医にお気軽にご相談ください。
したら、再び通院の便利なお近くの先生に。具合が悪くなれば、
再び紹介でスムーズな当院再診。
地域の先生方とのこの様な緊密な連携プレーを可能にする「J-
病気の名前ではありません。当
NeTT」に参加いただいている診療所は、品川、目黒、大田、世田
腸を切除するが肛門は残す)と直腸切断術(直腸と肛門を切
院循環器内科(病院)と地域の開業医(診療所)の先生方とを結
谷など近隣の診療所で、現在は計99ヵ所にのぼります。これら
除して、S状結腸の端で人工肛門を造る)があります。
ぶネットワークのことです。専門的な検査や治療は得意でも、
の診療所の先生方と当科は、年に数回の勉強会を共同で定期
術後の生活の質の改善のためにできる限り肛門機能温存
何となく敷居が高く待ち時間も長い“病院”。一方、自宅近くで
的に開催し、共通の診療基盤で一人の患者さんの医療ができ
が 行 わ れ る よ う に な っ て き て い ま す し 、神 経 の 損 傷 を 注 意
通院に便利、普段から気軽に受診できる地域の“診療所”。
るようにお互いの連携、意志疎通を図っています。
深 く 避 け る こ と に よ り 性 機 能 、排 尿 機 能 を 保 つ よ う 努 め て
両者がお互いに欠ける部分を緊密な連携でカバーし合い、
「自宅の近くにかかりつけ医が欲しい」、
「急に具合が悪くなっ
2006.May./Jun.
持つことがJ-NeTTの理想です。興味をお持ちになりましたら、
紹介でスムーズな当院受診。診断が確定し治療で病状が安定
直腸がんでは、肛門とがんの距離により肛門機能温存術(直
06 もしもし
た診療所のかかりつけ医と、病院の主治医。
「 二人の主治医」を
07 もしもし
2006.May./Jun.
こぶ
どんな瘤が破裂しやすい?
現代日本人の死因の6割を占める
「がん」「心臓病」「脳卒中」。
その予防法や最新治療などを
専門医がわかりやすく解説します。
今回は「未破裂脳動脈瘤」の2回目として、どんな未破裂脳動脈
瘤が破裂しやすく、どのような治療があるかについてご説明します。
最近の欧米や日本の研究から、未破裂脳動脈瘤の中でも、特に
大きなもの(直径7mmを超えるもの)やごつごつしていて不規則な
形をしているもの、脳底動脈、内頸動脈―後交通動脈分岐部、前交
通動脈の動脈瘤は比較的破れやすいことが明らかになってきました。
とや、クリップによって動脈瘤以外の血
また年 齢が高くなる
管が閉塞され脳損傷をきたしたり、手術
破れやすい動脈瘤の特徴
に従い、瘤の破裂率は増
その他に、ごく少数ながらがんのポリープもあり、これは当然
治療が必要です。
このように、胃ポリープといってもその成り立ちにより対策が
異なります。どのタイプのポリープなのかを担当医に聞いて対
処法を教えてもらいましょう。
ピロリ菌による慢性胃炎が
引き起こす
「過形成性ポリープ」
胃底腺ポリープ。
ピロリ菌がいないため背景の胃粘膜は
慢性胃炎がない。
がんが治療を要することには異論はな
●7mm以上の大きいもの えていきます。そのほか ●瘤の場所が脳底動脈、
内頚動脈―後交通動脈、
ご本人やご家族がくも
前交通動脈
膜下出血にかかったこと ●ごつごつしたもの
がある方や、喫煙習慣、 ●高齢(60歳以上)
●くも膜下出血の既往・家族歴
高血圧症のある方の瘤 ●喫煙
は破裂しやすいようです。 ●高血圧
入れ、非常にやわらかく細いプラチナなどでできたコイルを動脈瘤
できます。デメリットとしては、ほかの血管を損傷、閉塞する危険性、
法があります。それぞれの方法とメリット・デメリットについてご説
コイルをつめる際に瘤を破ってしまう可能性、また瘤につめたコ
明いたします。
イルや血栓がずれて再び瘤に血液が流れ込み破裂しやすくなる
のを言い、いくつか種類があります。
さな洗濯ばさみのようなクリップという器具をかけて、動脈瘤に
胃ポリープの約半数は「過形成性ポリープ」というものです。
血液が流れていかないようにする治療法です。
慢性胃炎。
体や頚部の動脈を経て頭蓋内の動脈瘤に細い管を
この方法によれば頭を開けなくても瘤を破れにくくすることが
に害の少ないチタンやニッケル合金)でできた小
ピロリ菌がいて、背景粘膜は
この治療法は最近開発されてきた方法ですが、
ける方法と②血管の中にコイルなどの物質をつめて閉塞する方
よいのでしょう? ポリープとは粘膜の表面がこぶ状になったも
が胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどのもとになっています。
②血管内治療:コイル塞栓術
脳動脈瘤の治療法には大きく分けて、①開頭してクリップをか
①開頭クリッピング
過形成形ポリープ。
症の発生率は瘤の治療の困難さや治療の経験数によって異なり
ますが、おおむね数%です。
のなかにつめて瘤の中に血栓をつくって瘤を固めてしまう方法です。
動脈瘤の首の部分(ネックといいます)に金属(体
胃粘膜に住み着く細菌で、慢性胃炎の原因です。この慢性胃炎
のあることです。手術による重篤な合併
治療法ごとのメリット・デメリット
いでしょう。しかしよく聞く「ポリープ」というものはどうすれば
ヘリコバクター・ピロリ
(ピロリ菌)という言葉をご存じですか?
による脳損傷・瘤の破裂をきたす可能性
ことなどが挙げられます。特に大きな瘤ではこのような問題が発
生することが多いようです。
また動脈瘤の中には部位や形のためにこの治療法が使用でき
ない瘤もあります。この治療の合併症も瘤や治療経験数によっ
て異なりますが、おおよそ数%と考えられます。
この方法はすでに50年以上にわたって行われており、完全に瘤
以上のような治療法に加えて、もうひとつの重要な治療選択
を閉塞すれば出血のリスクをほぼゼロにすることができます。
は慎重な経過観察です。次回は、その治療選択の決断について
デメリットは全身麻酔下に開頭手術を行わなければならないこ
まとめたいと思います。
この病気は突然発症し、その際に胸や背中にこれまで経験し
能性があるため退院後も定期的なCT検査などでフォローは重要で、
たことのない激烈な痛みを感じます。痛みは大動脈の解離が伸
急性期のみならず慢性期にも手術が必要となる場合も多くあります。
過形成性ポリープはこの慢性胃炎の一つの表れ方です。こ
のポリープは良性で、ほとんどは急いで治療する必要はありま
せんが、大きくなることがあります。大きくなると表面から出血
しやすくなり、そのため貧血になってしまう人もいます。大きくなっ
た末にポリープの中にがんができてしまうことも、たまにあります。
展する腰部・下肢へ移行し、数時間から数日間続きます。この病
このように、過形成性ポリープは良性だけれども、ある程度注意
気は、命に関わる重篤な病気です。病院到着以前に死亡される
が必要です。
場合もあり、救急搬送されてからも急変の可能性があります。
胃ポリープの半分は“ラッキー ”
がんになりにくい「胃底腺ポリープ」
胃ポリープの残り約半数は「胃底腺ポリープ」といいます。そ
の大多数はピロリ菌のいない胃にでき、このポリープは全く無
原因は生活習慣病による動脈硬化
思い当たる方は生活改善を
この病気の原因は、先天的に大動脈の組織が脆弱な方を除
CT検査の結果によっては
ただちに緊急手術も
けば、高血圧・肥満・喫煙などいわゆる生活習慣病によって大動
病院到着時の主な症状は、胸背部痛・ショック・意識障害です。
長年の高血圧を認めます。
脈に動脈硬化が生じた結果です。特にほとんどの患者さんに、
診断にはCT検査が重要で、その結果から治療方法( 手術か薬
急性心筋梗塞や脳卒中と同じように、この大動脈解離もある日
のような胃の病気にならない、という意味で“幸せポリープ”と
突然発症し、
胸や背中に激痛が…
による降圧治療)を選択します。
突然に襲ってきます。生活習慣病を指摘されたら、真剣に生活習慣
呼んでよいものです。
心臓から出た血液は、大動脈と呼ばれる直径約2∼3cmの血
①解離が心臓の近くの上行大動脈に波及、②大動脈からの
の改善や薬などで重大な病気の発症を未然に防ぐことが大切です。
20年くらい前までは、日本人の胃ポリープは大部分が過形成
管を通じて全身へ送られます。この大動脈壁の内側に亀裂が
分枝が偽腔によって圧迫され重要臓器への血流が低下( 臓器
大動脈解離でフォローを受けている方も、塩分制限・減量・服
性ポリープでした。このため、以前は大きくなった胃ポリープは
害です。無害どころか、このポリープがある人は胃がん、胃潰瘍
入ると、血液が大動脈壁の中に進入し、大動脈の壁の間を裂く
虚血)
、③大動脈周囲へ出血を認める、などの重篤な場合は、生
薬継続 などによって
内視鏡で切除することが多かったのです。ところが、近年ピロリ
ように広がっていきます。これが大動脈解離です。本来1枚の壁
命に対する危険が切迫しており緊急手術が必要です。
動脈への 負担の 少
菌の保有率が低くなったのに伴い、過形成性ポリープが減って、
だったものが2枚に裂けた状態になり、大動脈の中に新たに偽
発症から2週間以上経過すると急変のリスクは減少しますが、解
ない生活維持はとて
胃底腺ポリープが大幅に増えました。
腔と呼ばれる血液の流れる道ができます。
離した大動脈は年単位で拡大することが多く、再解離や破裂の可
も重要なことです。
06 もしもし
2006.Jul./Aug.
解離の発生と進展
07 もしもし
2006.Jul./Aug.
どう みゃく りゅう
よく
がん
心臓病
脳卒中
わかる
未破裂脳動脈瘤の治療はどう決める?
今回は治療方針をどのように決めるか? 特にどのような瘤
は治療が勧められるかについて説明します。未破裂脳動脈瘤の
治療を決める場合、下記のような点に注意します。
①未破裂脳動脈瘤は症候性か無症候か?
(動脈瘤による症状があるかないか?)
②それぞれの未破裂脳動脈瘤の破れやすさ?
③それぞれの未破裂脳動脈瘤の治療の難しさ?
④患者さんのご本人の年齢と健康状態
⑤ライフスタイル
現代日本人の死因の6割を占める
「がん」「心臓病」「脳卒中」。
その予防法や最新治療などを
専門医がわかりやすく解説します。
治療するほうがよい動脈瘤とは
乳がんのお話(4)
手術部 部長
外科 主任医長
針原 康
がん
最近の乳がん治療の
考え方「集学的治療」
乳がんに対する有効な治療手段と
しては、表に示すように、局所的療法
としての手術と放射線治療、全身的療法としての化学療法(抗
がん剤治療)と内分泌療法(ホルモン療法)が挙げられます。
手術は手術操作を加えたところだけに、また放射線治療は放
射線を照射したところだけに効果がありますので、局所的療法
に分類されます。一方、抗がん剤治療やホルモン療法は全身の
どこに病変があっても効果が期待できますので、全身的療法に
分類されます。
有効な治療手段が4種類あるといっても、それぞれ単独で治
療するわけではなく、患者さんの病態に合わせて、最も治療効
果が上がるように組み合わせて治療するので、集学的治療と呼
ばれます。
局所的治療から全身的治療へ
従来、乳がん治療は手術が中心で行われてきました。拡大手
術といわれる乳房切除に加えて、腋窩(わきの下)から鎖骨の上、
さらには胸骨の裏側のリンパ節までを一緒に切除する術式も積
極的に行われました。
しかし多数例の検討結果より、そのように乳房の周辺を大き
く切除しても、治癒率の向上には寄与しないことが明らかとな
りました。
乳がんは比較的早期の段階から目にみえないレベルのがん
細胞が全身に回る「全身病」との考え方がされるようになりま
した(フィッシャー理論といわ れます)。そのような全身に回っ
たがん細胞に効果のある抗がん剤やホルモン剤を手術と組み
合わせて投与すると治癒率が向上することが明らかとなってい
ます。
乳がんの治療では全身的治療が重要視されるようになり、抗
がん剤治療やホルモン療法が治療の中心となりつつありますの
で、その分手術の役割が相対的に低下しているのが実際のとこ
ろです。
$
もしもし
2006.Sep./Oct.
術式としても切除範囲を縮小した乳房温存療法が広く行わ
れるようになっており、乳房切除術と同等の治癒率が得られる
ことが明らかとなっています。
表 乳がんの治療法(集学的治療)
局所的治療
全身的治療
手術治療
(抗がん剤治療)
放射線治療
内分泌療法
化学療法
(ホルモン療法)
上記の各治療法を、症例ごとに得られた情報に基づいて、
最も良い結果が得られるように組み合わせて治療する。
乳がんの話(3)は本誌vol.9に掲載されました
“硬い動脈硬化”に
対するカテーテル治療
心臓病
循環器内科
医師
松下 匡史郎
今回は、狭心症患者さんの冠動
きょうさく
脈( 心 臓を栄 養する血 管 )狭 窄に
対するカテーテル治 療の 中で、回
転性アテレクトミー(ロータブレーター TM )について説明させて
いただきます。
DESにより再発は減少したものの… 再発( 再狭窄)の原因となる新生内膜増殖を抑えるために、
免疫抑制剤が塗られた薬剤溶出性ステント
(Drug Eluting Stent:
以下DES)の登場により、狭心症に対するカテーテル治療は大
きく変わりました。海外の研究でもDESの再発率は5%前後、当
院でも3%程度であり、従来のステントが20%程度の再発率であっ
たことを考えると、DESがいかに優れたステントかお分かりいた
●症候は?
まずもし動脈瘤が症状を出している場合(ものが二重に見える、
麻痺の進行やひどい頭痛など)
、治療リスクがよほど高い場合を
除き、ほとんどの患者さんに治療をすることをお勧めします。無
症候性の場合、じっくり他のファクターについて考えることです。
●破れやすさ?
次に瘤の破れやすさですが、瘤の大きさが7mm以上のもの
は一般に治療が勧められます。またそれより小型でも動脈瘤の
うち場所としては真ん中にあるもの、前交通動脈、内頚動脈−
後交通動脈、脳底動脈の瘤は小さめでも破れやすいようです。
しかし大型の瘤は破れやすくもあり、一方で治療リスクも他の
瘤より高い場合が多く、治療を決断するには、慎重な判断と理解
が必要です。また治療を行う場合、経験の豊富な施設で治療を
受けることをお勧めします。
どのような動脈瘤の治療も(開頭クリッピング手術も血管内
治療も)
リスクを伴います。重い場合は麻痺や意識障害、命にか
かわることもゼロではありません。そのリスクを理解したうえで
治療または観察してゆくか決めましょう。
だけるかと思います。
しかし、そのような優れたステントであっても、ステントが十分
に広がらないと、再発を起こしたり、突然ステントの中に血栓がで
きて(ステント血栓症)心筋梗塞を生じることがあります。また、ス
テント自体を狭いところまで運ぶことができないとどうしようもあ
りません。つまりDESの効果を活かした治療を行う必要があります。
石灰化を削る「回転性アテレクトミー」
ではどのような動脈硬化でステントが広がらないことがある
かというと、石灰化といってカルシウムの沈着が強い動脈硬化
です。想像がつきにくいかも知れませんが、動脈硬化と一言で言っ
ても、
“硬い動脈硬化”や“柔らかい動脈硬化”が存在します。
硬い動脈硬化では、風船で非常に高い圧力をかけても、石灰化
が邪魔をして血管が十分に広がらないことがあります。場合によ
り突然亀裂が入り、血管自体が裂けてしまうこともあります(血管
解離、血管穿孔)。とくに血液透析を行っている患者さんが多いです。
このような硬い動脈硬化を広げるために、石灰化の一部を削
り取ることで血管の拡張をよくする器械(デバイス)があります。
これが「回転性アテレクトミー」といわれるものです。国内では
1998年より保険認可が下りて使用されております。人工ダイ
ヤモンドチップでできたドリルが16万∼20万回転/分の回転速
未破裂脳動脈瘤(3)
脳卒中
脳神経外科 部長
脳卒中センター長
森田 明夫
●治療リスクと破裂率の理解
たとえば、ある動脈瘤( 6mmの前交
通動脈瘤を例に挙げます)の破裂率が
約年間1%であると考えられる場合、一
方で治療による重篤合併症の 発生率
はその治療をする術者によるリスクが5%であるとします。単純
には合併症のほうがリスクより高くなるわけですが、これは1年
間での計算です。
たとえばその患者さんが最低10年間はまだ生きられると思
わ れる場合、その間の破裂率は10%、破裂により亡くなったり
社会復帰できないような合併症が5%以上出現する可能性があ
るわけです。手術は1度行えばほとんど出血する可能性がなく
なりますので、もし10年以上長く生きるのであれ ば、確率的に
は手術のほうが安全となるわけです。
でもこれがたとえば破裂率が0.3%で治療リスクが10%もあ
れば、瘤の発見後に30年生活されても、破裂の危険性は9%に
すぎず、治療リスクよりも低くなります。しかし、一方で、動脈瘤
は年々大きくなる可能性も示唆されており
(破裂率も増加する)
、
話はそれほど単純ではありません。
このような考えから患者さんの年齢と健康状態が、瘤のいか
んにかかわらず重要なファクターにもなります。当院では通常、
破裂する可能性に高い瘤をお持ちで、かつ健康で年齢が70歳
以下の患者さんに治療をお勧めしています。
次回は治療せず観察する場合のポイントについてまとめます。
度で石灰化を削ります。
この器械を使った後では石灰化が削れて、風船やステントがより
広がりやすくなり、治療成績の向上につながることが期待されます。
基準を満たした施設だけが使用可能
現在、カテーテル治療そのものには明確な施設基準がなく、さ
まざまな施設で行われています。その一方で、回転性アテレクトミー
は年間のカテーテル治療件数が200件以上で、かつ心臓外科の
バックアップがある施設のみで使用が可能となっております。
当院では数 年 前からこの 施 設 基 準を満たしており、全 体の
5%程度の患者さんの治療に使用している状況です。回転性ア
テレクトミーによる特有の合併症がありますが、今まで重大な合
併症にいたった患者さんはおりません。
今後も硬い動脈硬化の患者さんに対するカテーテル治療に使っ
ていくことになります。
%
もしもし
2006.Sep./Oct.
患者さん本人として治療方針をどう決める?
これまで3回にわたり、危険性や治療方法、
リスクの視点から
未破裂脳動脈瘤の治療方針決定について書いてまいりました。
最終的に治療を決定するのはご本人です。今回は、そのもっと
も大切な患者さん本人としての治療に対する考え方、また経過
観察の重要性についてまとめたいと思います。
普通の血液検査や
レントゲンでは発見できない
胃がんは、胃カメラやバリウム検査を受けな
いと、早期では発見されないことをご存じで
すか? 普通の血液検査やレントゲン検査では、発見されないこと
をご存じですか? かなりの進行がんでなければ、血液検査で胃が
んが疑われるような結果が出ないことをご存じですか?
人間ドックや検診で、胃カメラやバリウム検査を受けて胃がん
と診断される患者さんは、早期胃がんであることが多く、早期が
んであるがために多くの人が手術で完治します。もちろん、自
覚症状がなく検診で発見されても、すでにかなり進行した状態
で見つかる場合もあります。
図2に、最近の当科での進行再発胃がんの患者さんの生存率の
グラフを示します。進行再発胃がんとは、最初に胃がんと診断され
た時点で、すでに手術ができないほどに進行していた患者さん、手
術をしたけれども取り切れなかった患者さん、手術で取り切れた
ように思えたが再発した患者さん、そういった患者さんの総称です。
抗がん剤の進歩により、このような進行再発胃がんの患者さ
んの成績は随分良くなりました。しかし、残念ながら、今の医学
の力では、手術で取り切れない限り胃がんは治らないのです。
早期発見が第一なのです。
図2 進行再発胃がん生存率(2000∼2004症例、n=74)
100
累
積
生
存
率
︵
%
︶
80
60
40
20
0
0
200
400
600
800 1000 1200 1400 (日)
●年齢をどう考える?
前回から患者さんの余命のことを判断の基準にしてきました
が、これは単純に年齢や性別で割り切ることはできません。女性
の平均寿命は日本で85歳、男性で78歳です。でも喫煙をされる
方や肥満の方、高血圧や糖尿病の治療をしっかりしていない方は、
これよりずっと短くしか生きられないことがわかっています。
したがって治療を決める際には、このようなファクターを考
慮して決めるべきとされています。以上のような経緯から、当
院では、基本的には未破裂脳動脈瘤の 治療適応 は「健康 な
70歳以下の患者さん」としています。
●ライフスタイルも重要
また一方で、患者さんのライフスタイルも重要です。動脈瘤
が見つかっても治療せず、のびのび生きられる患者さんもた
くさんおいでです。一方で脳動脈瘤が見つかったために、これ
までのライフスタイルをガラッと変えてしまい、ふさぎこんで
旅行にも行かなくなってしまう人もいます。
このようになる必要はありません。治療しない場合も、元気
に過ごしましょう。ふさぎ込んだりストレスが強ければ血圧が
上がり、生活習慣が悪くなります。不健全な生活はおのずと動
脈瘤にもよくありませんし、また新しい動脈瘤を作る成因にも
なるようです。適度な運動、社会生活が重要です。
●どうやって決める?
最終的にはご本人の決断になります。以前NHKの番組で「自
分まかせ」と題されましたが、その通りと考えます。これまで明ら
かになっている知見をよく聞き、自分の動脈瘤に対する不安、
また
治療に対する不安をかんがみて決断する、ということになります。
また治療のリスクと自分の生き方を
よく担当医と相談し、信頼している医
師に「ご本人であればどうするか? ご
家族ならどうするか?」ということを聞
いて、参考にされるのもよいでしょう。
ただこれはあくまで参考にしかなりません。
経過観察の重要性について
動脈瘤は大きくなる可能性があります。経過を見る場合は必
ず喫煙を避け、高血圧をよく治療し、健康に十分注意しましょう。
それでも瘤は大きくなる可能性があるので、少なくとも年1回は
経過観察の画像チェックを受けましょう。
当院では、下表のように経過観察のプログラムを組んでいます。
もし大きくなった場合や症状が出現した場合、時期を逃さず治
療を再検討する必要があります。
NTT東日本関東病院 未破裂脳動脈瘤 経過観察プログラム
(MRAまたは3DCTAのタイミング)
5mm未満の瘤
3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、以後1年ごと
内頚動
5mm以上の瘤(5mm未満でも前交通、
脈−後交通、脳底動脈の瘤)
3ヶ月、6ヶ月、1年、以後6ヶ月ごと
未破裂脳動脈瘤について、4回に分けて解説しました。この
病気については今、日本をはじめ多くの国で積極的な調査がさ
れています。我々はこのような新しい知識と経験を積み重ねて、
最善の医療を提供してまいりたいと思います。
なぜ早期発見が重要なのか?
胃がんの進行度(Stage)は、1A、1B、2、3A、3B、4に分けら
れます。Stage4が一番進行した状態です。肝転移や腹膜転移
といった胃から遠く離れた臓器への転移があるかないか、なけれ
ば、がんが胃の壁のどのくらいの深さにまで達しているか、胃の
近くのリンパ節転移があるかないかによってStageが決まります。
図1に、当科での胃がん患者さんのStage別術後生存率のグ
ラフを示します。早期胃がんの患者さんは、ほとんどがStage
1Aか1Bで、その5年生存率(がんが治る確率とほぼ考えてよい
数値)は90%以上です。最も早い段階で見つかった人は、手術
をせずに内視鏡的治療で治すこともできます。
図1 胃がん切除例(1994∼2000症例) Stage別生存率(予後追跡可能例)
100
ステージ(症例数)
5年生存率
80
ⅠA(n=258)97.5%
累
積 60
生
存 40
率
︵
% 20
︶
ⅠB(n=106)88.4%
Ⅱ(n=67)82.0%
ⅢA(n=64)44.9%
ⅢB(n=31)18.8%
0
Ⅳ(n=34)11.8%
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 (年)
典型的な症状は、下肢のだるさやむくみ(特に夕方)
、かゆみ、
夜間のこむら返りなどです。重症化すると、足の皮膚が黒ずん
だり( 色素沈着 )
、硬くなったり( 硬結 )
、潰瘍ができたりと皮膚
に病 変が出 現し、そのような場 合に は何らかの 治 療が必 要と
なります。もちろん皮膚に病変がない場合でも、美容面から手
術を希望される場合もあり、そういった需要にもお応えするよ
うにしています。
主な症状は下肢の
だるさやむくみ
下 肢 静 脈 瘤 は、下 肢 に あ る
こぶ
静脈が瘤化したもので、良性の疾患であり生命を左右するよう
なことはほとんどありません。男性では10∼20%に、女性では
20∼25%の人に認められ、年齢とともに増加します。
原因の多くは、下肢の表面にある静脈の弁が正常に働かな
くなることによります。本来、静脈の血液は足先から心臓方向
にしか流 れ ないように 調 節されていますが、弁が正 常に 働か
ないと血液の 逆流がおこり、静脈に負担がかかった結果、瘤化
してしまうのです。
静脈瘤の程度によって選択されます。
治 療 は症 状の 改 善だけでなく、美 容 的 側 面も考 慮して行っ
ています。気になる方は心臓血管外科外来までお越しください。
心臓
正常に機能している
静脈弁
根本的な治療には手術が必要
治療には、弾性ストッキングの 着用や、静脈瘤に薬を注入し
て静脈瘤をなくしてしまう硬化療法、レーザー治療、そして手
術があります。ストッキングは症 状の 改 善 は期 待できますが、
根本的な治療ではないので、最終的には手術が必要となります。
当院では、外来で下肢の超音波検査を行って静脈瘤の程度
を確 認し、治 療 方 針を決 定しています 。小さな静 脈 瘤 の 場 合
はレーザー治 療( 当院と連 携している美 容 整 形 外 科で行って
います)を、それ以外の方では手術を行います。
手術 は局所麻酔で弁の 悪い部分だけを糸でくくって切除す
けっ さつ
る結 紮 切 離 術(日帰り手 術 )と、腰 椎 麻 酔 下に弁の 悪くなった
血管を丸ごと抜去する静脈抜去術( 3泊4日の手術)とがあり、
足先
伏在静脈
壊れてしまった
静脈弁
正常
静脈瘤