スワームロボティックシステムにおける適応的機能創発過程の解析

平成 26 年度 修士論文概要
スワームロボティックシステムにおける適応的機能創発過程の解析
Analysis of Emergent Processes of Adaptive Functions in Swarm Robotic Systems
機械システム工学専攻 生産システム A 研究室
M132928 内倉 慶介
【背景と目的】
スワームロボティックシステム(Swarm Robotic Systems:SRS)とは,多数の自律ロボット間の局所
的な相互作用を通して群れ行動を創発するシステムである.これは,特徴的な大きな冗長性を利用する一
方,創発される振る舞いは単純ではなく,現在,観測する有効な方法がない.そこで,本研究では SRS の
群れ行動の解析ツールを開発することを目的とする.創発現象は局所的かつ分散的に起こることから,各
振る舞いの構成単位を “サブグループ” としてクラスタリングを試みる.さらに,実際の社会性生物も取
り扱う動物行動学で利用されている行動連鎖の解析法を適用することでロボット群に発現する機能を明ら
かにする.
【実験設定】
Large obstacle
本研究では Fig. 1 に示す協調採餌問題を解析対象として取り扱
う.これは,環境の中央に設置された巣の内側にロボット群を初期
Robots
配置し,環境内に置かれた餌を障害物を避けながら巣に持ち帰るこ
とをタスクする.それぞれの餌は,複数台のロボットが力を加えな
Nest
ければ動かないため,ロボット群の協調が必要不可欠である.また,
ロボット群は同一の制御器を搭載し,制御器には進化型人工神経回
Small obstacles
路網が使用されており,協調採餌する群れ行動を獲得させる.
Food resources
解析手法は二段階のアプローチをとる.まず,複雑ネットワーク
Fig. 1: Cooperative foraging task
の理論に基づくクラスタリングにより,サブグループを抽出する.
クラスタリングは,ロボットのセンサ情報から作成したネットワークに対して施す.続いて,そのサブグ
ループに対して動物行動学における行動連鎖の解析法を適用する.行動連鎖の解析では,抽出したサブグ
ループごとに各ロボットを用意した行動タイプに分類し,その推移を観察する.観察した結果に対し,検
定を行うことで有意性のある行動推移かどうかを判断する.
【実験結果】
一試行中の初期,進化中盤,そして最高適応度を獲得した世代の三つの群れ行動の解析を行った結果を
Fig. 2 に示す.初期では餌を一つも巣に持ち帰ることができず,進化中盤では採餌に成功し,最高適応
度を獲得した世代ではより多くの餌を巣へ持ち帰ることができた群れ行動である.図の中の Pf,Ga,Tf,
To,Sf はそれぞれ餌の運搬,餌の運搬補助,餌に接触,障害物に接触,そして餌の探索に対応する行動タ
イプとする.実線は,その行動タイプ間の推移が高い頻度で起こっていることが有意であることを,破線
は推移が低い頻度で起こっていることが有意であることを示す.このようにまとめることにより,進化で
獲得した振る舞いが発現する機能を可視化することができた.
Sf
Pf
Pf
Sf
Ga
Ga
Ga
To
Tf
(a) Early generation
Sf
Pf
To
Tf
(b) Middle generation
Fig. 2: The state transition diagrams
To
Tf
(c) Late generation