グローバル化の中での経済活性化

 今月の視点
グローバル化の中での経済活性化
─ 大航海時代の幕開けから600年に寄せて ─
安倍政権の経済政策「アベノミクス」の効果もあり、この 2 年半ほど円安基調が続い
てきた。期待された輸出の伸びが十分に実現しているとは言えないが、企業業績の改
善がもたらされている。もう一つ円安の影響とみられるのが、外国人観光客の増加で
ある。外客増という「内なる国際化」から世界との結び付きの過去と今後を考えたい。
みずほ総合研究所 政策調査部 部長 内藤啓介
ポルトガルのアフリカ進出
今年2015年は、戦後70年、阪神・淡路大震災から20
年、2 度目の東京五輪まであと 5 年といった様々な節
目の年であるが、
「大航海時代」の幕開けから 600 年
の年にも当たる。大航海時代は、ポルトガル、スペイ
ン、オランダ、フランス、英国など西洋諸国が、大西
洋、インド洋、太平洋を渡る遠洋航海に乗り出し、こ
れらの国々がアジアやアフリカ、そして北米や南米
といった新大陸に進出するようになった歴史上の一
時代を指す。一般に15世紀から16世紀とされるこの
時期に旧大陸と新大陸が初めて広く結び付けられる
ようになり、世界スケールでの貿易活動が行われる
ようになった。その意味で、グローバル化の先駆けの
時代に位置付けられよう。
大航海時代の第一歩は、1415 年におけるポルトガ
ルのセウタへの侵攻とされる。セウタはアフリカ大
陸の北西端近くに所在する古くからの港湾都市で、
現在はモロッコに囲まれたスペイン領の飛び地であ
る。ポルトガルはこのセウタの橋頭保化を手始めに
アフリカ大陸西岸沿いに探検航海を続け、これが後
にインドへの航路開拓につながった。セウタ攻略に
も参加したポルトガル王室の一員であるエンリケ航
海王子は、探検航海の立案・指導者として大航海時代
を演出した同国史上の偉人である。このポルトガル
を追うようにして、スペインはコロンブスによる大
西洋横断への挑戦を支援し、南北米大陸に多くの植
民地を獲得するに至る。
大航海時代の光と影
大航海時代が光と影の両面をもたらしたことは周
知の通りだ。ヨーロッパ人による地理上の「発見」は、
広大な世界の全容を明らかにした。世界を結ぶ交易
網が築かれて各国各地域の産品が広く取引されるよ
うになり、経済活動の活発化につながった。新大陸原
産のジャガイモやトウモロコシ、トマトなどが旧大
陸の人々の食卓にも上るようになった。
一方で、ヨーロッパ勢の世界各所への進出は、古く
からそこに暮らしてきた住民にとっては過酷な影響
ももたらした。激しい収奪が繰り返されたほか、持ち
込まれた疫病により命を落とした先住民も多いとさ
れる。植民地での労働力として、アフリカから新大陸
へ奴隷が送られるという事態も招いた。
このように明暗両面の多大な影響を与えつつも、
世界を結び付ける画期となった大航海時代の始まり
から600年が経過する中で、グローバル化は広がり・
深さともに著しく進展し、今日に至っている。
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今月の視点
訪日外国人観光客が大幅増
さて、欧州諸国が上述のような航路開拓に乗り出
した誘因の一つが、
「黄金の島ジパング」のエピソー
ドといわれる。13 ∼ 14 世紀のイタリア人商人マル
コ・ポーロなどにより伝えられたとされる世界の最
東方に位置する豊かな国日本の逸話が、ヨーロッパ
の冒険者達を探検航海に駆り立てたというのだ。
その伝承の真偽はさておき、近年多くの外国人が
わが国を訪れるようになった。2014 年の訪日外客数
は前年比29.4%増の1,341万人となり、過去最高を記
録した。中国やタイ、マレーシア、フィリピン、ベトナ
ムなど東・東南アジアからの来日が大きく伸びた。そ
の背景には、冒頭で述べたように円安で日本への旅
行が割安となったことがあろうが、他にも要因が挙
げられよう。第一に、日本に地理的に近いアジアの
国々の経済が発展して各国民の所得水準が高まり、
海外に旅行できるようになったことがあろう。第二
に、日本がビザ要件の緩和など規制改革を進めた効
果が表れていると考えられる。第三に、観光事業の関
係者や自治体などが積極的に外国人を受け入れよう
と環境整備などに力を入れ始めたことも加えられ
る。人口減少時代を迎えたわが国は、需要を維持・拡
大するために海外から人を呼び込むことが効果的な
手段となりつつある。
2014年国際収支にみる大きな変化
訪日外客増を含む内外の結び付きの移り変わり
は、先頃発表された 2014 年の国際収支にも象徴的に
表れている。一昔前までわが国は巨額の貿易黒字を
計上してきた。しかし、東日本大震災後の原子力発電
所の稼動停止に伴う火力発電用燃料輸入の拡大な
どもあり、2011 年からわが国は貿易赤字に転じてい
る。安倍政権発足前後からの円安基調の下でも、昨年
までは輸出数量が伸び悩んできた。このため、昨年の
貿易収支は▲10.4兆円と4年連続の赤字になった。た
だし、製品等も含めて輸入が拡大している現状は、日
本における内なるモノの国際化と捉えることもでき
るかもしれない。
他方、日本はサービス収支の赤字国で、同収支の構
成要素の一つである旅行収支も大幅な赤字を計上し
てきた。日本人の出国者数が、わが国に入国する外国
人の数を大きく上回ってきたからだ。しかし、足元で
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大きな変化が生じている。円安の影響もあり海外へ
の渡航者は減っている(2014年は前年比▲3.3%)。一
方で、先述の通り日本を訪れる外国人が大きく増え
ている。こうした中で 2014 年の旅行収支の赤字額は
1,251億円と3年連続の減少となり、前年(2013年)の
5 分の 1 にまで縮小した。現在の国際収支統計となっ
てから最小の水準である。すでに 2014 年には単月で
旅行収支が黒字となった月もあり、2015 年は年間
ベースで旅行収支が黒字に転じる可能性もある。
2014 年の国際収支についてもう 1 点付言すると、
日本企業が海外の子会社等から受け取る配当金や利
子等の増加により、第 1 次所得収支の黒字額が既往
最大の 18 兆円になった。企業の事業活動の多国籍化
が進行し、そこから還流するカネが貿易赤字を補っ
て、経常収支の黒字を支えている構図だ(2014 年の
経常黒字は前年比18.8%減の2.6兆円)
。
世界で進む結び付きと日本経済
以上のように、日本は輸入や訪日外国人の増加と
いったモノやヒトの受け入れ拡大で「内なる国際化」
が進み、海外からの資金還流も厚くなっている。モ
ノ、ヒト、カネのグローバル化の渦中にあると言えよ
う。
今 後 に 目 を 向 け る と 、環 太 平 洋 経 済 連 携 協 定
(TPP)交渉の行方は予断を許さないものの、各国と
の経済連携が先行き深まる方向性は疑えず、輸出入
ともに拡大していくことが見込まれる。国内人口の
減少の中で訪日外国人のさらなる増加が期待され、
政府も 2020 年に訪日外国人 2,000 万人という目標を
掲げている。また政府は、外国からの対内投資拡大を
図るべく動いている(安倍政権の成長戦略「日本再興
戦略」など)。グローバル化の中で、その流れを上手に
生かしつつ、経済活力を維持・向上させていくことが
ますます重要になっているのだ。
大航海時代の開幕から 600 年を経て、世界はモノ、
ヒト、カネさらに情報などすべての面で強く結び付
けられるようになった。そのことが、昨今世界各地で
散発しているような対立やリスクを生み出している
一面があるかもしれないが、一方でつながり合うこ
とでもたらされる恩恵もまた、経済に限らず大きな
ものがあろう。大航海時代の先駆者であったエンリ
ケ航海王子が切り開いた今日につながる時代の潮流
が、これからのわが国にとっても、また世界にとって
も恵みのあるものとなることを望みたい。