山口隆は、知能をもった有機的で生成的な建築を一貫して求めている。遺伝子のように生 成プログラムをもち、進化し、環境に呼応して動く建築である。それは建築を超えて、も はや生物であると言えるだろう。さらに、彼は、自身が求めている生物は美しくなければ ならないと考えていることが見て取れる。 本展覧会では、 「建築とは何か」を問い続け、建築の存在形式を求め続けている山口隆の思 考を紹介する。会場構成は、時系列に並べられたパネル、空間が理解できる透視図法的な 模型、生成プログラムと作品の美しい映像、単純化された構法システムによるインスタレ ーションからなる。これらから、山口隆の思考を読み解くことができるようになっている。 【展覧会】 ○日時:2015 年 12 月 1 日(火)~12 月 20 日(日) ○展覧会会場:上海森ビル(上海环球金融中心) 1Fオフィスエントランスロビー 私は、1997 年の「参照空間としてのサイバースペース」の発表から、生物的な建築を求め てきた。それは進化し、生成する建築であった。 従来の建築は、不連続なシステムであった。それは唯一の宇宙観を表明する西欧的建築概 念の延長上にあったと言える。そのシステムにおいては、人間は、固定化された建築に収納 される存在であり、疎外され、操作される単位でしかなかった。 生物において、各部分は全体の系の中で決定され、連動している。また遺伝子情報は環境 の変化を学習し、新たな情報が絶えず書き換えられていく。私は、そうした固定化されない 生命の連続的な動きに惹かれる。私の求めるものは建築というより、生物のようなものであ ろう。生物が自身の特性を多様に決定していくように、仕組み、マテリアル、形態はそうし た生物的な動きの中で決定されるべきものと思う。 生物としての建築は過渡的に知能をもった自律したロボットのような存在となるだろう。 さらに、私は人間の身体を空間へと拡張させ、ロボットとしての建築と身体内部の意識とを 融合させたいとも考えている。そうした過程を経て、人間の身体は外部と連続し、生物とし ての建築に向かうだろう。そのために、脳波から信号を抽出し、身体と建築を連動させるこ とを求めて、こうしたテクノロジーを建築に導入する研究を続けている。 不連続な意識には、場所と時間の問題が絡んでくる。場所性と時間性を破壊していく危険性 を孕むのである。それを防ぐためには、美しさを求めなければならないと私は考える。美し さを得られた時こそが、こうした問題を解決した瞬間だからである。 -山口 隆-
© Copyright 2024 ExpyDoc