鴻 総 第341号 平成26年12月2日 鴻巣市長 様 鴻巣市情報公開・個人情報保護審査会 会長 答 申 伊 藤 一 枝 書 平成26年10月16日付け鴻市街第246号の鴻巣市長からの「㈱エルミ 鴻巣の貸借対照表 平成22年度及び平成23年度分(以下「本件対象市政情 報」という。)の部分公開決定(以下「本件処分」という。)」に対する異議 申立てに係る諮問について次のとおり答申します。 第1 審査会の結論 本件異議申立てに係る平成26年4月22日付け鴻市街第29号により 鴻巣市長(以下「実施機関」という。)が行った処分は妥当である。 第2 異議申立人の主張の要旨 1 異議申立ての趣旨は、おおむね以下のとおりである。 平成26年4月8日付けで鴻巣市情報公開条例(平成13年鴻巣市条例第 4号。以下「条例」という。)第6条第1項の規定に基づく本件対象市政情 報の公開請求に対し実施機関が行った本件処分を取り消し、全部を公開する よう求める。 2 異議申立ての理由 異議申立人が主張する異議申立ての理由は、おおむね以下のとおりであ る。 ⑴ 実施機関は、条例第7条第3号に該当させ「公にすることにより、法 人の正当な利益を害するおそれがあるため」との理由であるが、㈱エルミ 鴻巣は単なる法人ではなく、鴻巣市から住民の血税が資本金として49. 85%が出資されている。さらに、社長として原口市長が経営責任をもっ ており、その経営情報は住民に全面的に公開する義務がある。 ⑵ 条例第1条 の目的 及び 第9条の公益上の理由による裁量的公開等か らも公開が適切である。鴻巣市自治基本条例(平成24年鴻巣市条例第2 4号)に定める市民との情報共有による開かれた市政の推進や市政の透明 化が図れるなど市民に公開することにより、市政への信頼が得られ、市の 利益ともなるものであり公益上の理由があると考える。 ⑶ 商業施設へのテナント・出店など公開により著しく不利益を生じるた めや㈱エルミ鴻巣の賃貸借契約が1社のためとは理由にならない。㈱エル ミ鴻巣のみで会社経営が成り立っているわけではない。市が出資した資金 の引上げ計画もない中で部分公開が適正ではない。 第3 実施機関の説明の要旨 実施機関は、おおむね以下のとおり説明している。 1 本件対象市政情報について 本件対象市政情報は、㈱エルミ鴻巣の決算書の貸借対照表である。㈱エル ミ鴻巣は、鴻巣駅東口A地区第一種市街地再開発事業の保留床(商業区画) を権利者が権利変換等により取得した床を活用し、賃貸業を主の目的に設立 した権利者法人である。その事業内容は、法人が保有している床だけでなく、 グンゼ㈱及びエルミこうのす商業共有組合から床を借り受け、三者を代表し て賃貸を行っているものである。また、鴻巣市は、㈱エルミ鴻巣に対し、国 の都市開発資金貸付要領等に基づき、抵当権設定をした上で無利息の貸付け を行い、定期的な返済を受けている状況である。このような法人である㈱エ ルミ鴻巣の資本金のうち49.85%を鴻巣市が出資している第三セクター の会社であるため、㈱エルミ鴻巣が株主に限って発行した決算書のうち貸借 対照表を市政情報として保有しているものである。 2 部分公開とした理由 上記1のとおり、本件対象市政情報は、㈱エルミ鴻巣で発行した法人の情 報である。市は、株主として本件対象市政情報を保有しているため、公開決 定に先立ち、当該情報を発行した㈱エルミ鴻巣に対し、意見照会を行い、法 人として不利益を被るおそれのある部分について確認した結果に基づき、次 のとおり部分公開決定の判断を行ったものである。 流動資産、固定資産及び流動負債の小項目については、㈱エルミ鴻巣は賃 貸業が主であり、契約の賃貸先が少数であることから、賃貸先との交渉及び リーシング(空き店舗や商業施設に新しいテナントを探し、誘致のための交 渉を行い、出店契約を結ぶまでの一連のプロセス)を行う上で不利益を与え る可能性があるため非公開とした。 また、固定負債の小項目の「長期借入金」、「預り敷金」については、㈱ エルミ鴻巣は賃貸業が主であり、設立当初の平成19年度から平成23年度 までは1社との賃貸借契約による賃料収入のみによる運営であったため、契 約先との賃貸借契約の金額が推測されることや床を借り受けている会社及 びエルミこうのす商業共有組合に対し、公開することによる不利益を与える 可能性があることにより非公開とした。 3 異議申立人の主張について 異議申立人は、「㈱エルミ鴻巣は単なる法人ではなく、鴻巣市から住民の 血税が資本金として49.85%が出資されている。さらに社長として原口 市長が経営責任をもっており、その経営情報は住民に全面的に公開する義務 がある。」と主張しているが、㈱エルミ鴻巣は通常官報に公告義務のある貸 借対照表の要旨は情報公開請求に基づき公開している。 なお、非公開とした部分は、鴻巣市以外の50.15%出資している株主 25名(法人含む。)に対し不利益を与える可能性がある項目であることか ら非公開決定としたことは適正であると考える。 4 異議申立てに対する実施機関の対応について ⑴ 異議申立人は、平成26年5月19日付けで、実施機関に対し本 件処分の取り消しを求める異議申立てを行った。 ⑵ 実施機関は、同年9月3日付けで、異議申立人に対し、異議申立書の 不備のため、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第48条に おいて準用する同法第21条の規定により、補正命令を行った。 ⑶ 異議申立人は、同月10日付けで、当該補正命令に対し、補正を行っ た。 ⑷ 実施機関は、同月19日付けで、異議申立人に対し、異議申立書の不 備のため、行政不服審査法第48条において準用する同法第21条の規 定により、再補正命令を行った。 ⑸ 異議申立人は、同日付けで、当該再補正命令に対し、再補正を行った。 第4 審査会の判断の理由 1 条例第7条第3号の該当性について 実施機関は、条例第7条第3号に該当するとして、本件対象市政情報のう ち、㈱エルミ鴻巣の貸借対照表 平成22年度及び平成23年度分のうち流 動資産、固定資産、流動負債、固定負債の小項目を非公開としているので、 以下、同号の該当性を検討する。 ⑴ 条例第7条第3号について 条例第7条第3号は、「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方 公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関す る情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げ るもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公に することが必要であると認められる情報を除く。ア 公にすることによ り、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を 害するおそれがあるもの」と規定している。同号は、法人等の正当な事 業活動の自由を保護する観点から、事業に関する情報のうち、公開する ことにより事業者の正当な利益を害するおそれがあるものは、非公開と することを定めたものである。 ⑵ 非公開部分について 本件対象市政情報については、会社法(平成17年法律第86号)第 440条第1項は、「株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時 株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表 及び損益計算書)を公告しなければならない。」と規定しており、同条第 2項は、「前項の規定にかかわらず、その公告方法が第939条第1項第 1号又は第2号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照 表の要旨を公告することで足りる。」と規定している。 ㈱エルミ鴻巣については、会社法第2条第6号の大会社には当たらず、 また、定款で公告方法を官報に掲載する方法により行うことを定めている ことから、会社法上、「貸借対照表の要旨」の公告で足りることになる。 一方、本件の貸借対照表中の「貸借対照表の要旨」に当たる記載事項を 除く流動資産、固定資産、流動負債及び固定負債の小項目記載事項に関し ては、その一部について株主及び債権者に限り閲覧や写しの交付の請求権 が認められているものの(会社法第442条第3項)、不特定多数の者に 対する公表が義務づけられているものではない。 実施機関によると、上記に加え、本件対象市政情報は、㈱エルミ鴻巣が 株主総会において株主に限定して発行した資料であるため、当該情報を公 開するに当たり、㈱エルミ鴻巣に意見を求めている。㈱エルミ鴻巣からは、 「法人所有の床だけでなく、他の法人等から床を借り受け、代表してその 賃貸を行う事業を行っていること」、 「平成22年度及び平成23年度につ いては、床の賃貸先が1社であったことから、本件対象市政情報から賃貸 借契約の金額等の法人の内部に係る情報を推測できてしまうこと」、 「賃貸 借契約やリーシング活動を行うに当たり、法人の内部の情報を公開するこ とによりその交渉の際に不利になるおそれがあること」、 「他の多数の株主 の同意を得るのが困難なため」等の法人に係る事情により、公開すること で利益を害するおそれがあるため、官報に公告義務のある貸借対照表の要 旨のみ公開してほしい旨の回答が口頭であったとしている。 これら当該法人の特殊な事情及び公告義務のある情報以上の詳細な情 報の取扱いであることを考慮すると、情報を公開するに当たっては、法人 の事情を考慮し、その権利・利益を最大限保護しなければならない。 本件対象市政情報は、㈱エルミ鴻巣を始めとする賃貸借事業に関連する 法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報と 言える。 以上のとおりであるので、本件対象市政情報のうち非公開部分は、条例 第7条第3号に該当すると認められる。 2 条例第9条について 異議申立人は、口頭意見陳述において、本件対象市政情報のうち非公開部 分は、条例第7条第3号に該当するかもしれない旨も述べていることから、 次に条例第9条の非公開情報の公益上の裁量的公開の該当性について検討 する。 条例第9条は、「実施機関は、公開請求に係る市政情報に非公開情報が記 録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、公開 請求者に対し、当該市政情報を公開することができる。」と規定している。 異議申立人は、非公開情報を公開するための公益上特別な理由があると主 張しているが、法人の情報を部分公開とすることにより保護される利益に優 越する公益上の特別な必要があるとは認められない。 3 よって、本件異議申立てについて本審査会は、上記第1の結論のとおり答 申する。 第5 調査審議の経過 当審査会は、本件諮問事案について次のとおり調査審議を行った。 1 平成26年10月16日 諮問の受理 2 同年10月16日 実施機関からの理由説明書受理 3 同年11月 異議申立人からの意見書受理 5日 同年11月13日 4 異議申立人及び実施機関からの意見聴 取 審議 5 同年11月20日 審議 6 同年12月 審議 2日 答申に関与した鴻巣市情報公開・個人情報保護審査会委員 職 名 氏 名 備 考 会 長 伊 藤 一 枝 弁護士 委 員 酒 巻 弘 英 行政経験者 委 員 松 岡 昇 司法書士
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