答申第717号

別紙
諮問第903号
答
1
申
審査会の結論
「ドライブレコーダー画像」を非開示とした決定は、妥当である。
2
審査請求の内容
(1)審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は、東京都情報公開条例(平成 11 年東京都条例第5号。以下「条
例」という。)に基づき、審査請求人が行った「平成 25 年○月○日○時○分頃、都営バ
ス○○系統で○○区○○付近で運転手の健康起因事故の前後のバスのドライブレコーダ
ーの映像」の開示請求に対し、東京都交通局長が平成 26 年5月 13 日付けで行った非開
示決定について、その取消しを求めるというものである。
(2)審査請求の理由
審査請求書における審査請求人の主張を要約すると、以下のとおりである。
ア
条例は、公開を大原則かつ義務とし、非開示は例外であるから限定的に把握され、
開示請求対象文書が存する以上、可能な限り公開されるべきところ、個人情報(条例
7条2号)についてみれば、本件画像にモザイク等の加工をして個人に関する情報の
部分を不開示としてその他の部分を開示すればよく、さらに、他の公営交通では、バ
スの車内外の様子を撮影したドライブレコーダーの映像の個人に関する情報の部分
にモザイクを入れて、その他の部分を開示しており、「非開示情報を容易に区分して
除くことができない。」との原決定には全く根拠がなく、安易な理由で全部について
不開示決定を行ったものであるから、条例に違反する判断である。
イ
条例7条6号の「事務又は事業の性質上」という表現は、宇賀克也著「新・情報公
開法の逐条解説(第4版)」によれば、「当該事務又は事業の内在的性格に照らして保
- 1 -
護に値する場合のみ不開示にし得ることを明確にする趣旨である。『適正』という要
件を判断するに際しては、開示のもたらす支障のみならず、開示のもたらす利益も比
較衡量しなければならない。(中略)『適正』の要件の判断に際して、公益上の開示の
必要性も考慮されるからである。『支障』の程度については、名目的なものでは足り
ず、実質的なものであることが必要であり、
『おそれ』も抽象的な可能性では足りず、
法的保護に値する程度の蓋然性が要求される。したがって、一般的にいって、本号(行
政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成 11 年法律第 42 号)5条6号)は、
行政機関に広範な裁量を与える趣旨ではない(情報公開法要綱案の考え方4(6))。」
とされるのであるから、仮に不開示決定を行おうとすれば、その理由を相当な根拠を
示して具体的に示さなければならないところ、原決定は、モザイク等の加工をして個
人に関する情報の部分について不開示とした場合の検討すらしておらず、個人に関す
る情報の部分を不開示としてその他の部分を開示した場合にいかなる支障があるの
か具体的事実等の指摘もないまま、安易かつ抽象的な理由で不開示決定を行ったもの
であるから、条例に違反する判断である。そもそも、一般的にバスの乗客は「公にさ
れないとの認識」を持っているのは個人に関する情報の部分であり、個人に関する情
報を事故防止以外の目的で使われないかどうか懸念しているのであって、モザイク等
で加工して個人に関する情報を不開示とし、その他の部分を開示する場合について検
討すらしないまま、映像を公にすれば、すなわち信頼関係を損なうとの原決定は安易
かつ根拠がなく、条例に違反する。
その上、開示請求書には、
「必要とする理由」に「取材」と示しており、担当窓口で
ある交通局自動車部営業課員に対して取材の目的は「事故の防止」であることを伝え
ており、バス車内にステッカーを貼付している「事 故防止のためカメラで車内を撮影
しています。映像は目的以外に利用することはありません。」とする文章には反せず、
ステッカーを貼付しているからといって全部について不開示とする理由にはならな
い。
さらに、バスの「車外」を撮影しているドライブレコーダーについては、車体に「撮
影している。」という事実のみ書かれたステッカーが貼付されていて、「事故防止のた
めカメラで車内を撮影しています。映像は目的以外に利用することはありません。」
とのステッカーは車内のみに貼付され、車外には貼付されておらず、歩行者等の個人
の情報をモザイク等で加工すれば何ら問題はなく、したがって、車外の映像について
- 2 -
はそもそも本号に該当しない。
ウ
ドライブレコーダーは、事故防止に生かすために設置されているもので、こうした
事故の情報は広く一般に知らされて初めて再発防止に役立つものであり、当該事業者
内部のみで共有していても、有効性は極めて限定的であるといわざるを得ない。税金
や運賃によって設置されたドライブレコーダーは、広く都民、国民の生命身体の安全
を確保するために活用されなければならず、バスという公共交通機関の安全に関わる
情報について、東京都の担当部署だけでなく都民、国民全体で共有化し議論すること
で事故の予防を図っていくことが必要であり、事故の情報を都民、国民に対して秘す
る必要も合理性も皆無である。
特に、今回、開示請求した映像はバスの運転手の健康起因事故であり、平成 26 年
3月には富山県の北陸自動車道のサービスエリアで2人が死亡する事故が起きるな
ど、広く関心が持たれており、都民、国民の生命身体の安全を確保するためにも、健
康起因事故の情報を明らかにし、都民、国民全体で議論して事故の再発防止につなげ
ていく必要があり、秘する必要性も合理性も皆無である。
ドライブレコーダーは、最終的に都民、国民の安全を確保するためにあり、その安
全確保のためには、映像に残された事故の具体的事実は開示・共有されなければなら
ないものであり、これらの観点からも不開示とする理由は見出し難い。
3
審査請求に対する実施機関の説明要旨
理由説明書及び口頭による説明における実施機関の主張を要約すると、以下のとおりで
ある。
(1)本件対象公文書には乗客や歩行者等の容姿等が含まれており、顔がよく映っていない
場合でも、当該映像の日時及び場所は特定されており、この場所を運行しているバスは
都営バスのみであることや、かばんなどの持ち物、風景など他の情報と照合することに
より、特定の個人を識別することができるため、これらは個人に関する情報で、特定の
個人を識別することができるものである。よって、条例7条2号に該当する。
都営バスの車内には、ドライブレコーダーが設置されている車両であること、また映
像の使用目的を限定していることを乗客に知らせるために、「事故防止のためカメラで
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車内を撮影しています。映像は目的以外に利用することはありません。」と記したステ
ッカーを貼付しており、乗客は映像が公にされないことを前提に都営バスに乗車してい
る。
よって、本件対象公文書を公にすることは、実施機関の信用・信頼が失われ、実施機
関の事業の適正な遂行に支障を及ぼすことになるので、条例7条6号に該当する。
また、本件対象公文書は動画であり、全般に乗客や歩行者等の容姿が映っており、非
開示情報を容易に区分して除くことができない。
以上の理由から、本件対象公文書を非開示とした。
(2)審査会の諮問に当たって、以下の理由を追加する。
ドライブレコーダーは事故防止等のために導入したものであるが、運行中は社内外の
映像を常時記録しているため、副次的な効果として防犯カメラ的な機能を有している。
しかし、ドライブレコーダーのカメラには車内外とも死角があり、本件対象公文書を
公にすることによって、これが具体的に明らかになると、種々の犯罪を容易にするおそ
れがあるので、条例7条4号に該当する。
(3)他の公営交通では、バスの車内外の様子を撮影したドライブレコーダーの映像の個人
に関する情報の部分にモザイクを入れて、その他の部分を開示している事例もあるとの
ことであるが、都営バスのドライブレコーダーシステムは、モザイク処理等の編集をす
る機能を備えていないため、現有の機器では非開示情報に係る部分を区分して除くこと
ができない。
しかし、非開示情報を分離するための処理を専門の業者に委託したり、新たなプログ
ラムを導入するには多額の費用を要するため、本件対象公文書に関して一部開示はでき
ない。
4
審査会の判断
(1)審議の経過
審査会は、本件審査請求について、以下のように審議した。
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年
月
日
審
議
経
過
平成26年
7月17日
諮問
平成26年
9月17日
新規概要説明(第152回第一部会)
平成26年11月
7日
実施機関から理由説明書収受
平成26年11月20日
実施機関から説明聴取(第154回第一部会)
平成26年12月16日
審議(第155回第一部会)
(2)審査会の判断
審査会は、審査請求の対象となった公文書並びに実施機関及び審査請求人の主張を具
体的に検討した結果、以下のように判断する。
ア
都営バスにおけるドライブレコーダーについて
都営バスにおけるドライブレコーダーは、都営バスの車両に設置した5台のカメラ
により、走行時の前方、左右の側面及び車内の状態の映像・音声を記録する装置であ
る。
東京都交通局では、ドライブレコーダー設置運用基準(平成 23 年3月 31 日付 22
交自第 2171 号。以下「運用基準」という。)を定め、事故防止及び苦情処理に活用
し、乗務員の安全教育・安全意識の向上を図ることを目的として、ドライブレコーダ
ーを都営バスに設置し、適正な運用を図っている。さらに、ドライブレコーダーによ
って記録された映像・音声のデータには個人情報が含まれていることから、運用基準
に基づいた「ドライブレコーダーの活用マニュアル<平成 24 年度版>」(自動車部
営業課
平成 24 年5月)においてデータの収集及び活用等の詳細に関して定め、適
正な運用の徹底を図っているところである。
イ
本件対象公文書について
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本件審査請求に係る開示請求は、「平成25年○月○日○時○分頃、都営バス○○系
統で○○区○○付近で運転手の健康起因事故の前後のバスのドライブレコーダーの映
像」である。
実施機関は、本件開示請求に対し、ドライブレコーダー画像(平成 25 年○月○日
○時○分頃、都営バス○○系統、○○区○○付近で発生した事故に係るもの。以下「本
件対象公文書」という。)を対象公文書として特定し、条例7条2号及び6号に該当
するとして、非開示決定を行った。また、理由説明書において、同条4号にも該当す
ると主張して、非開示理由の追加を行っている。
ウ
条例の定めについて
条例7条2号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情
報を除く。)で特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することに
り、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を
識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそ
れがあるもの」を非開示情報として規定している。また、同号ただし書は、「イ
法
令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」、
「ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認
められる情報」、「ハ
当該個人が公務員等…である場合において、当該情報がその
職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職
務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報については、同号本文に該当す
るものであっても開示しなければならない旨規定している。
条例7条4号は、「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、
刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が
認めることにつき相当の理由がある情報」を非開示情報として規定している。
条例7条6号は、「都の機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しくは
地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、
…当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ
があるもの」を非開示情報と規定している。
エ
本件対象公文書の非開示妥当性について
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(ア)条例7条2号該当性について
審査会が見分したところ、本件対象公文書には、全般にわたり多数の乗客及び通
行者の顔等並びに通行車両及びその登録番号が間断なく記録されていることが確認
できた。
そこに記録されている乗客及び通行者の顔等は、個人に関する情報で特定の個人
を識別することができるものである。また、顔が明瞭に映っていない場合であって
も、当該画像の記録された日時及び場所を特定した請求であることから、車外の風
景、乗客の持ち物の映像等他の情報と照合することにより、特定の個人を識別する
ことができるものであると認められる。
通行車両の登録番号については、車両ごとに異なる記号・番号が交付されている
ことから、車両の所有者を識別することができる情報であり、車両の所有者が個人
の場合には、特定の個人を識別することができるものであると認められる。
したがって、乗客及び通行者の顔等並びに個人所有の通行車両及びその登録番号
の情報は、条例7条2号本文に該当し、その内容及び性質から同号ただし書のいず
れにも該当しない。
(イ)条例7条6号該当性について
審査会が確認したところ、都営バスには、車外にドライブレコーダーを搭載して
いる旨、車内に事故防止を目的にカメラが設置されている旨及び映像は目的以外に
利用しない旨を明記したステッカーが貼付されている。このため、乗客は個人情報
を含む映像が公にされないことを前提に乗車していることから、本件対象公文書を
公にすることにより、乗客との信頼関係が損なわれ、バス運行事業の適正な遂行に
支障を及ぼすおそれがあると認められる。
また、実施機関の説明によれば、ドライブレコーダーには運行中のバス車内外の
映像が常時録画されるが、車内外のカメラともに死角があるとのことである。この
ため、本件対象公文書を公にすることにより、バス車内外において窃盗を始めとす
る種々の犯罪の実行が容易になるなど、防犯対策上支障を生じるおそれが認められ、
バス運行事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、条例7条6号に
該当する。
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以上のことから、本件対象公文書は、条例7条2号及び6号に該当し、同条4号該
当性を論ずるまでもなく、非開示が妥当である。
オ
一部開示の可否について
審査請求人は、個人に関する情報の部分は画像にモザイク等の加工をして非開示と
し、その他の部分を開示すべきであり、全部について非開示決定を行ったのは条例に
違反する旨主張するので、審査会は、この点について検討する。
条例8条1項は、
「実施機関は、開示請求に係る公文書の一部に非開示情報が記録さ
れている場合において、非開示情報に係る部分を容易に区分して除くことができ、か
つ、区分して除くことにより当該開示情報の趣旨が損なわれることがないと認められ
るときは、当該非開示情報に係る部分以外の部分を開示しなければならない。」と規
定している。本項における非開示情報に係る部分を容易に区分して除くことができる
場合とは、開示請求に係る公文書から非開示情報に係る部分とそれ以外の部分とを区
分し、かつ、非開示情報に係る部分を物理的に除くことが、当該公文書の中の非開示
情報に係る部分を記録した状態や一部開示のための複写物を作成するために必要な
時間、経費等から判断して、容易である場合をいう趣旨である。
東京都情報公開事務取扱要綱(平成 11 年 12 月 27 日付 11 政都情第 389 号。以下「事
務取扱要綱」という。)において、ビデオテープ及び録音テープの写しの交付は、現
有の録画再生機器又は録音再生機器等を用いて複製物を作成する方法により行う旨
定められている。本件対象公文書は、都営バス走行時の車内外における状態を記録し
た画像であることから、写しの交付は事務取扱要綱に定められたビデオテープ及び録
音テープと同様の方法で行うこととなる。
実施機関の説明によると、現在、保有しているドライブレコーダー機器には、録画
の非開示情報に係る部分にモザイクをかけるなどの方法により区分して除く機能が
備わっておらず、非開示情報に係る部分を除いた部分の録画の写しを作成することは
極めて困難であるとのことである。そして、これを可能にするためには、非開示情報
に係る部分を分離する機能が備わった機器を新たに導入することが必要となるが、こ
れには多額の費用がかかる上、ドライブレコーダー5台のカメラに記録された画像を、
1フレームごとに非開示情報に係る部分を1つずつ指定して処理していく作業には、
相当な時間を要するとのことである。
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以上を勘案すると、審査請求人が求める一部開示は、条例8条1項にいう非開示情
報に係る部分を容易に区分して除くことができる場合には該当しないと認められる
ことから、審査請求人の当該主張は採用することができない。
よって、「1
審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
秋山
收、浅田
登美子、神橋
一彦、隅田
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憲平