兵庫県版 第三種郵便物認可 2015 02 16 mon. 03 弁護士法人神戸シティ法律事務所 弁護士 高島 浩 (兵庫県弁護士会所属) 第58回 労使間における「常識」という基準 1 テレビ局がアナウンサーとして採用する大 学生の内定を取り消し、大学生がテレビ局に 対して地位の確認を求めていた訴訟は、双方 が和解することにより一件落着となりまし た。訴訟にまで発展した今回の事件ですが、 幸いにも和解により解決された以上、入社後 はアナウンサーとして大いに活躍されること を期待したいと思います。 2 ところで、上記事件を通じて、企業がどの ような場合に内定を取り消すことができるの か、そもそも内定とはどのような法律関係を 意味するのかが注目されました。 この点、本採用前なので企業と労働者との 間には正式な労働契約は成立していないと考 える方もおられるかもしれません。 しかし、内定通知をもって企業と労働者と の間に労働契約は成立するというのが裁判例 の一貫した立場です。このため、企業による 内定の取り消しは、労働契約の一方当事者に よる解約権の行使と評価されることから、内 定の取り消しが認められるのは「採用内定当 時、企業側で知ることができず、また知るこ とが期待できないような事実があり、これを 理由として内定を取り消すことが客観的に合 理的で、社会通念上相当として是認できる場 合」に限られるとされています(最高裁昭 和54年 7 月20日判決)。難しい言い回しです が、結局は常識的に考えて内定取り消しがや むを得ないかどうかを判断するということで す。そして、常識という基準が用いられる以 上、その判断は時代の流れや社会の変化に よって変更されうるものです。 我が国は、急速な少子高齢化の進展に伴い 財政も非常に厳しい状況にあります。国が社 会保障に十分な予算を確保できない中で、政 策的に定年を延長し、解雇を制限することに よって、民間企業にセーフティネットの役割 を期待しているとも考えられます。そして、 そのような社会の変化に伴って常識や判断基 準も変容していくことから、我々には数年後 の社会常識を予測して、今の経営判断が正し いかどうかを常に検証し続けることが求めら れていると思います。 3 話は変わりますが、先日、東南アジアへの 進出を計画されている企業の方々と共に、ベ トナムとカンボジアの工業団地や経済特区を 訪問しました。国民の平均年齢はベトナムが 29歳、カンボジアは25歳と、非常に若い国で す。両国の労働者の賃金は中国やタイに比べ るとまだ低額ですが、最低賃金は一年間で 30%近くも伸びており、労働者は賃金が少し でも高い他社へすぐに転職してしまい会社へ の帰属意識が低いことに、現地に進出した日 系企業は頭を悩ませています。 終身雇用制のもと企業と労働者との結びつ きが強固であった我が国の常識は必ずしもこ れらの国々で通用するものではないことを実 感すると同時に、経済の急速な発展ととも に、これらの国々における常識もまた急速に 変化していくことを予感しました。 平成27年 2 月プノンペンの工場で筆者撮影
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