航空自衛隊最高幹部による侵略戦争の正当化は 再び海外で戦争をする

航空自衛隊最高幹部による侵略戦争の正当化は
再び海外で戦争をするための準備である
民間企業の懸賞論文で最優秀賞に選ばれた
航空自衛隊トップの田母神航空幕僚長が書い
た「日本は侵略国家であったのか」と題する「論
文」が大きな政治問題となっている。その問題
点を摘出する。なお、実際の「論文」の記述順
に骨子を抜粋した「論文要旨」を別掲した。参
照されたい。
歴史事実の誤認ではなく、歪曲・偽造
「論文」内容には 3 つの問題点がある。(1)
記述内容は「歴史事実に反するでたらめ」(朝
鮮日報)かつ「粗雑な」(読売新聞)ものであ
る。「論文要旨」に示した 8 つの短文はすべて
誤っている。しかし、これは不勉強による事実
誤認や妄言などというものではなく、意図的な
歴史の歪曲・偽造である。張作霖列車爆破事件
も日米戦争もコミンテルンの仕業であり、仕掛
けた罠だという。アジア、アフリカ諸国が白人
国家の支配から解放されることになったのは、
日本の力によるものであるという。荒唐無稽な
ことを書き散らしている。
侵略戦争と植民地支配を正当化
(2)旧日本軍が行ったアジア侵略戦争や朝
鮮・台湾・満州の植民地支配を正当化している。
「相手国の了承を得ないで一方的に軍を進め
たことはない」、「我が国は…日中戦争に引き
ずり込まれた被害者なのである」、「我が国は
…極めて穏健な植民地統治をした」、「廬溝橋
事件(は)…侵略にはほど遠い」、「日米戦争
…罠にはまり真珠湾攻撃を決行」した、「東京
裁判はあの戦争の責任を全て日本に押し付け
ようとしたものである」、「日本軍の軍紀が他
国に比較して如何に厳正であったか多くの外
国人の証言もある」など、事実に反するウソ・
偽りが並んでいる。「驚きを通り越して、あき
れるほかない。いや、旧日本軍の亡霊が生き返
ったかのような錯覚さえ覚えて、あぜんとする
思いだ」(琉球新報)、「心胆が寒くなるよう
な事件である」(朝日新聞)とマスコミは書い
ている。まさに同感だ。
我が国が侵略国家だったというのは濡れ衣?
長谷川 了一(FC事務局長)
(3)独善的な歴史認識を展開している。
「我
が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込ま
れた被害者なのである」、「満州も朝鮮半島も
台湾も…日本政府と日本軍の努力によって、現
地の人々はそれまでの圧政から解放され、また
生活水準も格段に向上した」、「日米戦争…も
ルーズベルトの仕掛けた罠にはまり真珠湾攻
撃を決行」した、「多くのアジア諸国が大東亜
戦争を肯定的に評価している」など、独善的な
歴史認識は随所にみられる。
田母神氏は「日中戦争・日米戦争で日本は被
害者であり、むしろアジアの解放に尽力した。
悪いのは日本を戦争に引きずり込んだ中国、ソ
連、アメリカだ」と主張しているのだ。彼が歴
史事実を歪曲・偽造してまでも主張したかった
言い分は、「我が国が侵略国家だったなどとい
うのは正に濡れ衣である」という一点につきる
のである。
日本国憲法をふみにじっている
「論文」の発表はいくつかの政治問題を惹起
した。1 つは、自衛隊の制服組のトップが過去
の日本の侵略を否定し、戦後の出発点を否定す
るという、日本国憲法をあからさまに踏みにじ
る主張をしたという問題である。日本国憲法は
戦前の侵略戦争を反省し、「政府の行為によっ
て再び戦争の惨禍が起こることのないやうに
することを決意する」と明記している。田母神
氏の行為は、憲法 99 条で、憲法遵守義務があ
る現職の自衛官として許されるものではない。
改憲・戦争をめざす「靖国派」が任命
第 2 は、「亡霊が生き返ったような錯覚さえ
覚え」る(「琉球新報)ような、驚くべき歴史
認識と歴史観が、けっして彼一人だけのものだ
とはいえないことである。そもそも、こうした
偏頗な認識を公表して悪びれない人物が、なぜ
5 万人の航空自衛隊の最高幹部に上り詰めるこ
とができたのか。日本政府の任命責任が問われ
る。「田母神氏は自衛隊内部あるいは、政府・
与党の一部に根強くある考えを代弁したとも
とれる」(毎日新聞)、「このような考え方が
トップだけ、というのは想像しづらい」(琉球
新報)との指摘は正鵠を射ている。田母神氏は
安倍内閣時代に、久間防衛相によって航空幕僚
長に任命されている。侵略戦争を美化し、憲法
を改悪して海外で戦争できる軍隊を持とうと
いう「靖国派」によってポストにつけられたの
である。同氏はすでに 4 年前から、「我が国政
府が、自衛隊を諸外国軍と同様に使う日が予想
以上に早く訪れるかもしれない」(自衛隊内誌
『鵬友』04 年 7 月号)と「戦争する自衛隊」
への転換・飛躍に期待をにじませている。しか
し、想定外の反撃にあう。自衛隊のイラク派兵
を違憲と判断した名古屋高裁判決である。いら
だった同氏は「そんなの関係ねえ」と非難し、
物議を醸したのである。
シビリアンコントロールが機能不全
第 3 の問題点は、自衛隊での文民統制(シビ
リアンコントロール)が機能していない事態が
露顕したことである。田母神氏の「論文」内容
は、1995 年の村山談話を踏襲している麻生内
閣の見解(村山談話:戦前の植民地支配と侵略
について「国策を誤り」「アジア諸国の人々に
多大な損害と苦痛を与えた」とし、「痛切な反
省」と「心からのおわび」を表明した)を真っ
向から否定している。また、政府が現行憲法上、
行使できないとしている集団的自衛権の行使
や攻撃的兵器の保有まで主張していることは、
これも憲法遵守義務がある現職の自衛官とし
て許されるものではない。
自衛隊の暴走を許してはならない
第 4 は、このように自衛隊の制服組のトップ
が、歴史事実を歪曲してまでも過去の戦争を正
当化し、戦争への反省を投げ捨てるのは、日本
国憲法を踏みにじってでも、アメリカとともに
海外で戦争をするためだということを認めて
いるように思える。こうした状況は、アジアの
国々からは、日本が本質的に軍国主義からいま
だに脱していないとみなされ、引き続き警戒さ
れる事態をもたらすことは必至である。自衛隊
幹部のこうした暴言にふれるにつけ、天皇制政
府のもとでの軍部独裁と横暴、悲惨な侵略戦争
の悪夢を思い出さざるを得ない。自衛隊の暴走
を絶対に許さぬよう、市民による監視を強めて
いかなくてはならない。
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日本は侵略国家であったのか(田母神「論文」要旨)(文頭の符号は便宜的に筆者がつけた)
<ア>日本は 19 世紀の後半以降、朝鮮半島や中国
大陸に軍を進めることになるが相手国の了承を得
ないで一方的に軍を進めたことはない。…我が国は
日清戦争、日露戦争などによって国際法上合法的に
中国大陸に権益を得て、これを守るために条約等に
基づいて軍を配置したのである。
<イ>我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり
込まれた被害者なのである。1928 年の張作霖列車
爆破事件も関東軍の仕業であると長い間言われて
きたが、…最近ではコミンテルンの仕業という説が
極めて有力になってきている。…日本だけが侵略国
家だといわれる筋合いもない。
<ウ>我が国は…極めて穏健な植民地統治をした
のである。満州も朝鮮半島も台湾も…平和な暮らし
が、日本軍によって破壊されたかのように言われて
いる。しかし実際には日本政府と日本軍の努力によ
って、現地の人々はそれまでの圧政から解放され、
また生活水準も格段に向上したのである。
<エ>(廬溝橋事件は)…侵略にはほど遠い。幣原
喜重郎外務大臣に象徴される対中融和外交こそが
我が国の基本方針であり、それは今も昔も変わらな
い。
<オ>日米戦争…も今では、日本を戦争に引きずり
込むために、アメリカによって慎重に仕掛けられた
罠であったことが判明している。実はアメリカもコ
ミンテルンに動かされていた。日本はルーズベルト
の仕掛けた罠にはまり真珠湾攻撃を決行すること
になる。
<カ>大東亜戦争の後、多くのアジア、アフリカ諸
国が白人国家の支配から解放されることになった。
…それは日露戦争、そして大東亜戦争を戦った日本
の力によるものである。
<キ>東京裁判はあの戦争の責任を全て日本に押
し付けようとしたものである。そしてそのマインド
コントロールは戦後 63 年を経てもなお日本人を惑
わせている。…自衛隊は…集団的自衛権も行使出来
ない、武器の使用も極めて制約が多い、また攻撃的
兵器の保有も禁止されている。
<ク>私たちは多くのアジア諸国が大東亜戦争を
肯定的に評価していることを認識しておく必要が
ある。…日本軍の軍紀が他国に比較して如何に厳正
であったか多くの外国人の証言もある。我が国が侵
略国家だったなどというのは正に濡れ衣である。