長谷川 臣介[麹町支部

【13】
年〔平成
年〕 月 日〔水曜日〕
東 京 税 理 士 界
〔第三種郵便物認可〕
Volume No.702
経営革新等支援機関
相談委員
長谷川
顧問先から経営改善計画策定を
依頼された場合の対応について
顧問先から、
「取引金融機関から
経営改善計画策定を要請されたが、
どうしたら良いか」との相談を受けました。私
は、既に認定支援機関登録を行っていますが、
経営改善計画策定は今回が初めての取り組みと
なります。具体的な進め方などをご教示下さ
い。
経営改善計画(以下、
「改善計画」
回答
という。)は、「事業計画」のような
ものと思われる方も多いが、認定支援機関制度
による改善計画は、それより多くの準備と検討
が必要となる。そして、①会社の概要、②窮境
要因分析、③実態財務状況説明、④具体的改善
施策、⑤具体的数値計画、⑥金融機関への依頼
する金融支援の内容などを盛り込んだ「経営改
善計画書」を作成することとなる。改善計画策
定の目的は、会社における今後の活動指針にな
ると共に、金融機関における金融支援の妥当性
を説明づける根拠資料として用いられるものと
理解すべきである。
.初めに実施すべきこと
検討
金融機関との面談を実施し、顧問
先に改善計画策定を要請した背景や要因、金融
機関側の意向等を確認することである。普段の
顧問先との接触において、金融機関取引の実
態、日々の資金繰り状況を把握しているならば
何ら問題ないが、そうでない場合は、改善計画
策定依頼時に、初めて、顧問先の厳しい資金繰
り実態や、金融機関から過剰債務解消施策の検
討を求められている事実などを把握することと
なる。この点、特に中小企業の経営は、表面的
に多少利益が出ているから安心というのではな
く、むしろ、日々の資金繰りが、金融機関支援
によって繋がっているとの認識を持つことが必
要となる。すなわち、金融機関が改善計画策定
を要請する状況は、むしろ、改善計画がないと
これ以上の支援は難しい局面にあると理解すべ
きだろう。
.金融機関取引の実態把握
取引の実態把握には次のステップをふむこと
となる。
① 顧問先の金融機関取引実態に関する正確な
把握:この点、日々、顧問先の月次試算表作
成に関与する立場ゆえよく分かっているとの
認識は、むしろ正しくない。例えば、既に元
本弁済の一部軽減を図って、当初の約定弁済
を実行出来ない長期借入金がある、短期の手
形借入金も、何度も何度も折り返しを続けて
いて、結局、元本残高が殆ど減っていないな
ど、足もとの営業利益では、金利を支払うの
がやっとで元本弁済は相当厳しいとの実態に
も直面することになる。
② 債務償還可能年数の確認:すなわち、既存
借入債務につき、足もと業績を前提とした場
合、果たして何年で完済出来るか正確に把握
することにある。
③ 現状を前提とした場合の将来の会社財務状
況の予測:②で明らかとなった実態をもと
に、この先 年後はどうなるか、更にもっと
先はどうなるのかを、顧問先社長の本音を聞
きながら、数値的なイメージを共有すること
である。
「このままでは、 年経っても元本
残高は 割も減らない」
「新規の資金調達が
できない状況で、今後やっていけるか?」な
どの会話を進めて欲しい。税理士目線で、い
事例
臣介(麹町支部)
)
わゆる節税目的の会話を行なうものとは異な
る業務と理解されたい。いずれにしても、改
善計画は、税理士自らが経営者と共に作り上
げるものと理解すべきである。
.単独取引先か複数取引先か
顧問先が複数金融機関と取引している場合、
改善計画の難易度は格段に上がることとなる。
なぜなら、金融機関ごとの取引スタンスが異な
るため、実現可能性の高い抜本的な改善計画(す
なわち改善の実現可能性が高いもの)でないと
同意しない金融機関が出てくるからである。従
って、計画策定の初期段階から、認定支援機関
として改善計画策定に協力するメイン金融機関
とよくコミュニケーションを図ることが重要に
なる。
.顧問先との具体的計画方針の協議
まず、顧問先が想定する数値計画(損益計画、
資金繰り計画など)の確認から始めることとな
る。一般論だが、現状資金繰りが厳しい顧問先
が、計画策定において、一気に損益が改善する
シナリオを金融機関に提示しても、その信頼性
はかなり疑義を持たれてしまう。従って、当初
協議で顧問先が営業目標的な数値計画を我々に
提示したとしても、そのまま受け入れることは
避けるべきである。この点は、改善計画につき、
認定支援機関が専門家として関与することか
ら、それなりに信頼性が高い内容であると金融
機関も期待することを理解すべきである。やは
り、会社の実態をきちんと把握し、
「これなら
手堅く行ける」と思う数値計画や具体的改善施
策を用意する必要がある。いずれにしても、例
えば売上を「来期は %伸ばそう」などと安易
に比率設定することは避けるべきである。この
点は、後述する具体的改善施策、アクションプ
ランなどと関連づけて、損益の改善内容を語る
必要がある。従って、顧問先社長とは「何を実
施したら計画を実現出来るか」を真剣に話すべ
きだろう。
.実態純資産の把握
改善計画では、足もとの純資産がどの程度あ
るか把握するため、いわゆる実態貸借対照表へ
の引き直しが求められている。中小会計要領等
による適正決算を行なう先では、調整は少ない
ものだが、そうでない場合には、例えば減価償
却不足の計上、在庫評価損、回収懸念債権評価
損、その他資産項目の回収可能性について再評
価を行なう必要が生じる。留意すべきは、税法
上損金計上できないから評価替えしないという
のではなく、清算価値評価に近い考え方で、資
産価値を見直すことが求められているという点
である。金融機関の求める実態貸借対照表は、
税法基準とは切り離されたものと理解すべきで
ある。
.具体的な改善施策の検討
いきなり数値計画を策定するのではなく、ま
ず、顧問先のビジネスに関し、定性的な分析と
定量的な分析の多面的検討を行なう必要があ
る。重要なのは、ビジネスモデルの把握であり、
この把握と分析を行なうことで、現状売上を維
持出来るのか・出来ないのかが見えてくる。ま
た、現状に至る窮境要因を分析することも、改
善施策抽出のヒントになるだろう。顧客状況や
製品・サービス内容の理解、他社との差別化要
因、対象業界における位置づけ等々の分析を進
める中で、顧問先のビジネス実態を明らかにし
て、強みや弱み、改善課題を顧問先との協議を
通じて整理し、最終的に具体的改善施策が整理
されることになる。
そこで、この具体的改善施策の展開には、誰
が、いつまでに、何を実施するかの具体的アク
ションプランを盛り込むことが求められている
ので、留意が必要である。
.数値計画の策定
上記の改善施策を数値として落とし込んだも
のが、数値計画となる。いわゆる事業計画で求
められる、数量×単価といった積上げ計算によ
る売上・売上原価計画が策定され、それに応じ
た経費計画が策定されることとなる。
「売上は
前年比 %アップとしましょう」といった安易
な数値計画は、金融機関に提出すれば直ちにそ
の不備を指摘されるので、しっかりと根拠づけ
た計画を作り込むべきである。一般的には、
年程度の数値計画が求められている。なお、数
値計画においては、損益計画に加え、キャッシ
ュフロー計画、貸借対照表計画、更には、債務
償還年数見込みなども盛り込む必要がある。
.弁済計画の策定
数値計画が出来て改善計画が完了するのでは
なく、数値計画から導き出された今後のキャッ
シュフロー(営業利益+減価償却費±運転資本
等の調整)が、弁済計画に示す今後の弁済原資
となる。そして、この弁済原資をもとに、今後、
毎期いくらの元本弁済が可能となるかを示すの
が弁済計画となる。
一般に、中小企業の改善計画においては、債
務免除など、金融機関に損失負担を求める内容
は、金融機関としても受け入れることが難し
い。そのため、自ずと、元本返済の負担軽減な
どのいわゆるリスケジュール計画にならざるを
得ないだろう。もちろん、不要資産の処分を通
じて元本残高を減らす内容を盛り込んだ改善計
画を策定することは可能だが、担保付き資産で
あれば、その処分は容易ではない点に留意が必
要となる。いずれにしても、毎期の営業キャッ
シュフローの ∼ %程度を、元本弁済に充て
る計画を提示する必要がある。
.改善計画案の提示と同意取得
改善計画は、弁済計画に同意するという金融
機関の金融支援とセットで具体化されるもので
ある。従って、出来上がった(出来上がる寸前
の)計画案は、全ての金融機関に提示し、計画
同意に向け、ある程度の事前コンセンサスを得
ておく必要がある。この点、金融機関対応に関
する説明は、一義的には顧問先の社長が自ら実
施すべきものだが、そうはいっても、数値面の
改善施策については、社長が自ら金融機関を説
得できるよう、税理士も支援する必要がある。
例えば、信用保証協会が主催する経営サポート
会議においても、計画詳細を税理士が社長と共
に説明する機会をもつ場合もある。いずれにし
ても、金融機関の同意を得なければ、改善計画
の策定は完了しない点を留意すべきである。
一概には言えないが、改善計画策定開始から
完了まで、少なくとも ヶ月程度の期間を要す
るものと考える必要がある。
注)内容は、平成 年 月 日現在の法令等
に基づいています。
本事例紹介は、会員の業務上の諸問題解決
支援の一環として掲載しています。文中の税
法の解釈等見解にわたる部分は、執筆者の私
見(参考意見)ですので、実際の申告等税法
の解釈適用に当たっては、会員ご本人の責任
において行ってください。