第11章 テクノロジー・アフォーダンス

第11章
テクノロジー・アフォーダンス
教育工学
• 教育工学の独創的な考えの一つ
– 教師の代わりをするという目標(ラムスデン 1960)
• 教師の代用は無理であることを我々は知っている.
• デジタル技術の発達
– 教師の役割は,変化しつつある(いかに学習の外的
条件を与えるか).
– いつ・どこで・何を・どのように人々が学ぶのかは,根
本的に変化した.
– 学習,教育,研修の方法を見直し,テクノロジーがどう
すればそれぞれを支援できるのかを判断する必要が
ある(レスニック 2002).
アフォーダンス
• アフォーダンス(affordance)
– 私たちの学習や知覚能力を広げるテクノロジーの性
質や働きと定義する.
• データを検索する場合の高速性のように経済的なものか
もしれない.
• 非同期コミュニケーションや共同作業を支援してくれる社
会的なものかもしれない.
• メッセージを豊かに表現できるメディアミックスのような情
緒的なものかもしれない.
– 情報環境が人間に与える「意味」と捉えることはでき
ないだろうか.
デジタル時代の学習
• デジタルリテラシー
– デジタル技術を使いこなせること.
• 情報通信技術を理解し,活用できる能力があること.
• 人が何を学習するかに対するコンピュータの影響
– 学校のカリキュラムは絶えず更新されなければならない.
– 新しいテクノロジー
• 「何を学ぶべきか」だけでなく「何を学ぶことができるか」
• 伝統的な教授メディア(黒板,紙,鉛筆,本)や配信方法の制限
によって,除外されていた考えや題材を導入できるようになる.
デジタル時代の学習
• コンピュータシミュレーション
– 火山,竜巻,地震など
• 現象の背景にある数学を調べることができる.
– フラクタルを活用した実世界の物体の理解.
• 以前は,大学生の段階でしか紹介されなかった.
• 早い時期に学校の学習で紹介できるかも知れない.
• 「知るべきこと」を減らし「知らないことを学ぶ方略」
– 情報の利用法を知っているといった,より方略的な学
習者になるための学習
• 機械的な暗記などの学習よりもずっと重要である.
デジタル時代の学習
• 人がどう学ぶかに対するコンピュータの影響
– 教師の役割
• 講義者からコンサルタントとなって,子どもたちがより活動的に自
立できるように学校を再編する必要がある(レスニック 2002).
• 数学,理科,語学,社会科等の教科毎に分ける代わりに,複数の
分野を横断したテーマやプロジェクトに焦点をあてるべきである.
– 情報環境学部のプロジェクト科目がこれに相当する.
– インターネット
• 調査のための主要な情報源である.
• 多モード(multi‐modal) 音,画像,ビデオ,動画も配信可能である.
– リスニング能力,グラフを読み取る力,動画を把握する力を磨く必要が
ある.
• 学習を支援するために必要な刺激はどのモードなのかを考える
必要がある.
デジタル時代の学習
• いつ,どこで学習するかに対するコンピュータの影響
– 学校
• 最もゆっくり変化する文化組織の1つである.
• 幼稚園から高校まで,月曜~金曜の午前8:30~午後3:00まで
行われる.
– 教室
• 教師が話したり黒板に書いたりして新しい情報を与える.
• 子どもが聞きやすいように,見やすいように設計されている.
– 起業家精神のアプローチ(レスニック 2002)
• 学年に分けたり,時間単位の授業に分けたりしない.
• すべての学年が一緒に長期間のプロジェクトに参加する.
• テクノロジーは,知識創造社会の発展を支援する.
インターネットの衝撃
• インターネット
– 情報社会における必要不可欠なツールである.
• 多くのコンテンツが,Webで利用可能(Web‐enabled)である.
• 預金,株の売買,買い物,手紙のやりとり,調査,研修講
座の受講等
– ビジネス
• マーケッティング,採用,広告,顧客サービス等
– 重要な国家目標
• デジタル時代のテクノロジーを使える人を増やすこと.
• インストラクショナルデザイナーは,ある分野で学んだ知
識が,他の分野でも利用できる機会を得ることができた.
テクノロジーの挑戦
• オンライン学習の問題点
– 対面コミュニケーションの機会が減る.
• チャットや掲示板による議論,あるいは他の共同作業のための
テクノロジーを通じて社会的関係を強化できる.
– インターネットは強力な教育ツールである.
• 伝統的な教育や研修と同じように開発と実践の規則に従わな
ければならない.
• 十分な教育機能を有する実践とすぐれたIDが必要である.
• 情報格差(digital divide)
– インターネットにアクセスできる人とできない人との格差
が生じる.
– インターネットにアクセスできず,知識がなく,使い方の
研修を受けられない人々は,圧倒的に不利になる.
テクノロジーの挑戦
• コンテンツの検証
– 巨大なネットワーク
• クリントン元大統領は,「何百万の学童のための普通の百科事
典」と呼んでいた.
• 扱いにくく,むらがあり,信頼性のない情報源である.
• 情報を有益な知識システムに変換するためには,大きな努力
(労力)が必要となる.
– インターネット
• 大部分においてインストラクションではない.
• 膨大な情報をもたらすリソースである.
• インストラクションとして定義した,「学習を促進するための外的
事象を整備すること」に活用できる.
• いつでも,どこでも,やりたい時に,学習者が勉強できる柔軟性
と便利さを提供する.
• 他の学習者を含む広い範囲の情報源にアクセスできる.
テクノロジーの挑戦
• 低下するコスト
– 私たちは,最小のコストで質の高いインストラクション
を望んでいる.
– オンライン学習は,伝統的な教授メディアよりも開発
や実装費用が必ずしも安いわけではない.
• 学習や研修のために必要な時間を削減できる.
• 旅費や宿泊費を節約できる.
• 長期的に見ると投資回収率を良くできる可能性がある.
– 短期間に,更新,修正,再放送が可能である.
– マルチメディアを開発する場合は,初期コストや維持
費が高くなる.
テクノロジーの挑戦
• テクノロジーへの対応
– 電話線
– ケーブルテレビ
– 衛星放送
– ブロードバンド
• 効率的な協調作業
– Webとネットワーク技術
• 教室を越えた資源と時間や場所の違う学習者がつながる
ことを可能にした.
テクノロジーは何ではないのか
• デジタル技術
– 教師が教室にどのように取り入れれば良いのか分
からなければ,学習への効果は期待できない.
• 暗号化技術
– 私達のプライバシーを守る.
– テロリストの情報通信も隠してしまう.
• インターネット
– 子どもたちが,公衆道徳や倫理に反するアクセスも
可能である.
テクノロジーは何ではないのか
• オンライン学習の2つの原則
– 看板方式(just‐in‐time)または対象者を狙った配信
(targeted delivery)
• 教育的な負荷がユーザにとって大き過ぎず,必要以上の余分
な情報を省いている.
– モジュール学習
• 各自のペースで教材を使って学習を進めることが多い.
• オンライン学習や研修
– 実践的なハンズオン型研修や学習に取って代わるもの
ではない.
– デジタルリテラシー
• 技術的な熟練度を高める事だけを意味していない.
• デジタルの善悪を学ぶ事である(知的所有権の尊重,セキュリ
ティの配慮,プライバシーの尊重など).
学校学習におけるテクノロジー
• 大学
– 高等教育機関では,全面的にインターネットを採用.
– オープンコース
– MOOCs(Massive Open Online Courses)
– 日本ではJMOOC
– 反転学習(Flipped Learning)等
• 高等学校
– 日本では,佐賀県の県立高校がタブレット型端末を
導入した例が話題になっている(平成26年).
教授方略・メディア・実施方法
• 教授方略(instructional strategy)
– 学習を設計・支援するために教育者やインストラク
ショナルデザイナーが利用できるツールや技術.
• 教授メディア(instructional media)
– 教授メディアは,オーディオ,ビデオ,フィルム,テキ
スト,写真,アニメーション,グラフィックス等,コミュ
ニケーションができるさまざまなインストラクションの
方法である(同じ土俵で扱えなかった).
– マルチメディアはこれらのメディアの組み合わせ,同
じ土俵で扱えるようになった(パソコンの進化).
• 50%も記憶保持率を高められた例もある.
教授方略・メディア・実施方法
• メディアには属性(attribute)がある.
– テキスト
• 多くの情報を与え,簡単に復習できる手段を与える.
• 読解力が高く,抽象的な表現や考え方を比較し扱う能力
にすぐれ,議論を発展させる能力が高い学習者に適して
いる.
– 画像
• テキストや音声を支援・強化し,具体的な表現を提供する.
– ビデオ,映画,アニメーション
• 手続き的なスキル,対人的スキルを教えたり,具体的な例
を伝えるのに最適である.
教授方略・メディア・実施方法
• インストラクションの実施方法
– 読み書きが苦手な学習者には,文章中心のテキストを開発す
べきでない.
– 録音は,知的技能を教えるための唯一のメディアにするべきで
ない.
– 講義は,運動技能を訓練するために適した方法ではない.
– 言語情報が目指される学習成果であるときには,印刷かナ
レーションで情報を提示できる実施方法が選ばれなければな
らない.
– 態度の学習は,映像やアニメーションのような人間モデルを表
示できるメディアによって最もよく支援できる.
• メディア・実施方法
– やる気にさせたり,以前の内容を思い出させたり,新しい学習
刺激を与えたり,生徒たちの反応を活気づけたり,適時な
フィードバックを提供したり,練習を促したり助けたりする機能
を評価する必要がある.
学習のための認知的ツール
• 認知的ツール(cognitive tool)
– さまざまな状況や領域で使用できるコンピュータツー
ルであり,認知プロセスに関与し,それを容易にする
もの.
– 利用者の思考プロセスを支援し,ガイドし,拡張する
ための心理的または計算的な装置である.
• 認知的ツールの例
– データベース,表計算ソフト,意味ネットワーク,エキ
スパートシステム,マルチメディア教材,コンピュータ
会議,コンピュータプログラミング,文脈依存ツール
学習のための認知的ツール
• 認知的ツールの設計
– 認知心理学の最新の研究をもとにしなくてはならない(レ
ウサー).
• 認知的ツールと学習環境(ケラー,パーキンス)
– ふさわしいレベルの挑戦的課題を提供すること.
– 学習者が自己管理できているという感覚を維持できるよ
うにすること.
– 学習者の高いレベルの好奇心を導き出すことに気を付
けて,学習意欲の状態に開く関心を向ける.
– 自動的に履修管理やクイズや試験の採点ができる管理
機能を持たせるべきである(ジョナセン).