8.J.J. Gibson の知覚理論と 身体化認知 なぜこういう話題を? (1

15/10/17
なぜこういう話題を?
8.J.J. Gibson の知覚理論と 身体化認知
(1)ギブソンの生態学的心理学 (2)身体化認知:現代における発展
(1)ギブソンの生態学的心理学
① ギブソンの人生 ② アフォーダンス ③ 直接知覚論 ④ 生態学的アプローチの思想的な意義
視覚的断崖
•  Eleanor Gibson 1910 – 2002 •  非常に尊敬された
発達心理学者。 •  赤ん坊は、視覚的
断崖の手前で止ま
る。 •  母親が笑っていれ
ば、さらに進む。 •  母親が怖がってい
れば進まない。 •  自分でもよくわからない。 •  しかし、私はマージナルなものに強く引きつけ
られる。 •  認知心理学の「辺境」が好きなのである。 •  芸術との境界、考古学との境界、哲学との境
界。 •  「科学なき哲学は不毛であり、哲学なき科学
は危険である」 ① ギブソンの人生
•  James Jerome Gibson 1904 – 1979
•  認知心理学の本流とは全く
異質な知覚理論を展開。
•  「アフォーダンス」概念を提唱
して「生態心理学」を切り拓い
た。 •  ゲシュタルト心理学とプラグ
マティズムの思想から大きな
影響を受けた。
•  妻のエレノア・ギブソンも心理
学者。視覚的断崖の実験で
有名。
① ギブソンの人生
•  1928年よりスミス・カレッジに勤務。 •  ゲシュタルト心理学の創始者の一人であるコ
フカが、ナチスを逃れてスミス・カレッジに奉
職していた。 •  コフカの主催するセミナーに参加。 •  第二次世界大戦中は航空心理研究部長とし
て、パイロットの選抜と訓練に従事。 •  1949年よりコーネル大学教授。
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① ギブソンの人生
•  The Percep<on of the Visual World (1950)
•  The Senses Considered as Perceptual Systems (1966)
•  The Ecological Approach to Visual Percep<on(1979)
•  最後の著作の出版直後に死去。
② アフォーダンス
•  アフォーダンスとは環境の事物の「価値」や
「意味」のことであり、それは環境の事実とし
て直接に知覚される。 •  知覚の目的は、環境のなかにアフォーダンス
を発見し利用することである。
③ 直接知覚論
•  包囲光配列は知覚対象や知覚主体が動くこ
とによってダイナミックに流動する。 •  網膜に投射される光は常にゆれうごき、静止
画像として定まることはない。
② アフォーダンス
•  “to afford”=「何かをすることができる」 •  金銭的な意味合いが強い。 •  ”I cannot afford it.”=金がなくて手が出ない。 •  Affordance=ギブソンの造語。 「環境に存在する、動物の行動を可能にする構
造」 水は飲むことをアフォードし、椅子は座ることを
アフォードする。 ③ 直接知覚論
•  包囲光配列(Ambient Op<c Array):知覚主体
を取り囲む環境にある、観察点に収束する光
の構造。 ③ 直接知覚論
•  包囲光配列の流動によってこそ知覚の変化
項と不変項が区別される。 •  生物にとって重要な環境情報とは、遠近関係
や表面の配置などである。 •  これらの構造は包囲光の流動にもかかわら
ずきわめて安定している。 2
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③ 直接知覚論
•  安定性は流動によってこそもたらされる。 •  包囲光配列の中には、大地のきめの密度と
その変化勾配のような、知覚の恒常性を保証
する「不変項」が埋め込まれているからである。
③ 直接知覚論
•  大きさの恒常性は、大地のきめの密度勾配
によって直接に与えられている。 •  そこには推論も計算もなく、ものの相対的大
きさは環境の構造から直接抽出される。 •  それは網膜像から外界の内的な表象が形成
される「情報処理」の過程ではない。
③ 直接知覚論
•  視覚理論の主流は、視覚を画像処理プロセ
スとしてとらえる。 •  だから、流動する光から安定した「画像」を得
るのは途方もなく困難な計算問題となる。 •  ギブソンの主張は、視覚の計算理論の誕生と
同時期に行われた。 •  誰もよく理解できなかった。誤解されまくり。 ③ 直接知覚論
•  安定した構造の例:大きさの恒常性
③ 直接知覚論
•  「情報処理informa<on processing」ではなく
「情報抽出 informa<on pickup」という用語が
用いられる。 •  生物が環境と関わるために有用な情報は外
界に存在し、生物はそれを獲得すればいい。 •  内的な「処理」は必要でない。=「直接知覚」
Marr(1982)のギブソン批判
(1)表面のような不変項の抽出は、厳密に情報
処理の問題である。 (2)そのような検出は難しい問題である。 ギブソンはこの2点を理解していない。
•  ギブソンは「見るという行為の見かけの単純
さに惑わされた思想家」である。 •  しかしこれは全くの誤読。天才なのに。
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Marr(1982)のギブソン批判
•  しかしギブソンの側にも問題がある。 •  ギブソンの本には、心理学者の神経を逆なで
するような表現がいくつも出てくる。 •  「網膜像は視覚にとって必要か」という章があ
る。 •  「異なった方向から入ってくるさまざまに異な
る強度を記録することが、視知覚にとっては
必要なのであり、網膜像の形成は必要ではな
い。」と言い放っている。 ④ 生態学的アプローチの 思想的な意義
•  心理学の世界では、ギブソンは尊敬されたが
理解されなかった。 •  しかし認知心理学を創設したナイサーは、早
い時期に「ギブソン主義者宣言」をして認知心
理学の批判者になった。 •  その後、むしろ哲学や人間工学の中で高い
評価を受けた。 ④ 生態学的アプローチの 思想的な意義
•  ギブソンの理論の背後には、「現象学」という
20世紀の哲学があると思われる。 •  主観と客観の問題を真剣に考える、というこ
と。知覚は世界の鏡像を造ることではない。 •  知覚は環境への適応のために進化した。 •  われわれは同じ「客観世界」に生きているよう
に感じる。 •  しかしそれは人間が環境のアフォーダンスを
共有しているからである。 4