「ふつうの海洋マントル」プロジェクトで実施された爆破実験

「ふつうの海洋マントル」プロジェクトで実施された爆破実験による
北西太平洋の最上部マントル構造
○一瀬建日・塩原肇・山田知朗・八木健夫・篠原雅尚(東京大学地震研究所)
杉岡裕子(海洋研究開発機構),歌田久司(東京大学地震研究所)
[はじめに]
「ふつうの海洋マントル」プロジェクトは最先端の海底観測装置を駆使して,マントル対流の大
部分を占める水平流部分の構造,すなわち「ふつうの海洋マントル」の構造を明らかにする事等を目
的にしたプロジェクトであり,2010-2014 年にかけて北西太平洋シャツキー海台の周辺で臨時アレイ観
測を実施した.
最近,Karato (2012)により LAB(リソスフェア・アセノスフェア境界)下面に厚さ約 1km のハン
レイ岩の層が存在するという仮説が提唱された.また Shito et al. (2013)によりアウターライズの海
洋プレート内には長さ約 10km,厚さ約 0.5km,速度異常約 2%の扁平な不均質構造が一様に分布してい
る事が示された.
これらの事は,海洋プレート下部周辺の構造を解明するためには 1km の解像度が必要であること
を示しており,本プロジェクトの当初計画にはなかったダイナマイトによる大容量海中爆破実験を
2014 年 6 月に実施した.
[データ]
観測点が稠密であり,センサ埋設型の新型広帯域海底地震計(BBOBS-NX)と自己浮上型広帯域海底
地震計(BBOBS)を設置しているシャツキー海台北西部において海中爆破実験を行った.SP1, SP2 では
400kg の爆破を各点 2 回,SP3 では 200kg の爆破を 4 回,SP4 では 200kg の爆破を 3 回実施した.観測
点及び爆破点の位置は図 1 参照. SP1,SP2 では測線長約 700km,SP3,SP4 では測線長約 400km である.
爆破実験終了後傭船にて BBOBS を回収し,9 月の KR14-10 において「かいこう 7000II」を用いて全て
の BBOBS-NX を回収した.回収した地震計のうち NM02, NM15 では上下動成分の記録が不良であったた
め,本解析では 8 点の上下動記録を解析に用いた.
[予備解析の結果及び考察]
8 観測点(震央距離 100〜670km)全てで P 波初動を確認できた.SP1,SP2 の爆破記録では P 波初
動は見かけ速度約 8km/s で良く揃っていた.一方,SP3 の爆破記録では震央距離が 240〜290km とほぼ
等しいにも関わらず到着走時に約 2 秒ものズレが生じていた.SP4 の爆破記録では震央距離 358km であ
る NM04,NM17 で約 3 秒もの到着走時のズレが生じていた.1 列に並んだ NM05,NM01,NM04 の初動は見
かけ速度 8km/s で良く揃っていた事から NM17 で観測された到着走時が約 3 秒早いという事が明らかに
なった.ほぼ全ての初動はマントル最上部を通過する Pn 波である事から,SP3,SP4 の結果は最上部マ
ントル(リソスフェア)の方位異方性の存在を示唆していると考えられる.
観測範囲内の速度構造を一様と見なしたときの P 波の速度の方位異方性を求めた.海中及び地殻
を通過する時間を 5 秒と仮定して,到着走時から最上部マントル内の P 波速度を求め,方位依存性を
確認した結果,明瞭な 2θパターンが見られ Vp(km/s)=8.06+0.31cos2(θ—136º)と推定された.この
結果は観測領域東方の海底孔内観測点による結果(Shinohara et al. , 2008)と調和的であった.講
演ではこれらの結果および LAB からの反射波に関する結果についても言及する予定である.
[謝辞]本研究の一部は科学研究費補助金(22000003)により実施されました.
図1
観測点(○BBOBS, ▽BBOBS-NX)と爆破点(☆)
図2
Pn 波速度の方位依存性