凍結保存したカイメンからの共生微生物の電気回収 ○小山純弘・西 真郎・徳田真紀・上村萌佳(海洋研究開発機構), 石川陽一(エイブル(株)), 瀬谷 敬((株)アナログテクノロジー), 張 成年(水産総合研究センター), 伊勢優史(名大臨海実験所), 秦田勇二・藤原義弘・坪内泰志(海洋研究開発機構) 1. はじめに カイメンは、抗腫瘍、抗ウイルス、抗バクテリア、そして、抗真菌活性を有する幅広い化学物質を 合成するため、特に医薬として有用な生物活性物質の探索に用いられている。生物活性物質を大量に 生産する直接的な方法がカイメン由来共生微生物の単離培養であることから、これまで数多くの研究 グループが単離培養を試みている。しかしカイメン由来共生微生物の単離培養はサンプルの鮮度に強 く依存する。そこで演者らは、深海底などサンプリングが極めて困難な場所に棲息するカイメン凍結 サンプルから、生きた共生微生物を電気化学的に回収する手法を開発した。 2. 実験方法 酸化インジウム/ガラス(ITO)電極またはガリウムをドープした酸化亜鉛/ガラス(GZO)電極を作用 電極、対極に白金電極、参照極に銀/塩化銀電極をそれぞれ配置した 3 電極チェンバーを作成した。 三浦半島沿岸で採集したオオパンカイメン(Spirastrella insignis)を−80℃から解凍後、70%EtOH およ び 3 種抗生物質含有人工海水で体表部を殺菌処理した。すりつぶしたカイメンを 3 電極チェンバーに て、−0.3-V vs. Ag/AgCl, 2 時間, 9 ºC で印加し、カイメン由来共生微生物を透明作用電極上に付着させた。 ±20mV vs. Ag/AgCl, 9MHz 正弦波変動電位を 20 分 9 ºC にて印加(細胞剥離装置, ABLE, Co., Ltd.)する ことで、透明作用電極上から微生物を剥離回収した。微生物の電気化学的な誘引付着および剥離回収 を 2 回繰り返した後、得られたカイメン由来共生微生物叢の知見を得るために、16S-rRNA 遺伝子を指 標とした次世代シーケンスを試みた。最後に、2007 年富山湾水深 986m(NT07-20)から捕獲した深海 性カイメンの凍結保存サンプルを用い、共生微生物の電気回収の可能性についても検討した。 3. 結果 −80℃で約 1 ヶ月間、人工海水中で凍結保存したオオパンカイメンを解凍、すりつぶした後、共生微 生物の密度および生存率を SYTO9 と PI の蛍光二重染色で測定した。共生微生物の密度および生存率 はそれぞれ 4.2 ± 0.2(× 108 cells/g tissue)、75 ± 7% (Mean ± SEM; n=4)であった。すりつぶしたカイメンサ ンプルを−0.3-V vs. Ag/AgCl にて 2 時間印加した結果、透明作用電極上にカイメン由来共生微生物の付 着が確認された。付着したカイメン由来共生微生物を回収し、寒天培地上で培養するとコロニーが形 成された。さらに、すりつぶしたカイメンサンプルを 15 分間, 121 ºC にてオートクレーブ処理すると、 透明作用電極上にカイメン由来共生微生物が付着しなくなることも確認できた。 透明作用電極上に付着したオオパンカイメン由来共生微生物について、16S-rRNA 遺伝子による菌叢 解析を試みた。得られた配列情報を精査した結果、27 門のバクテリアおよび 2 門のアーキアが確認さ れた。ITO および、GZO 電極双方に付着させた各種カイメン由来共生微生物叢を、すりつぶしたカイ メンサンプルからの直接 DNA 回収時とそれぞれ比較した結果、99.9%以上の微生物叢が class レベル で一致することが明らかとなった。以上の結果から、透明電極基板上に付着したカイメン由来共生微 生物は、カイメンサンプル内に存在する微生物叢をほぼ反映していると考えられた。
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