14.1 フーリエ積分の収束問題 応用数学総合 14.1 77 フーリエ積分 (続き) と デルタ関数 (第 14 回) フーリエ積分の収束問題 1. 復習 非周期的な関数に対して,適当な仮定の下で,−∞ から ∞ までが 1 周期だという考えを推し進めて,フーリエ級 数展開に対応する式として非周期的な関数のフーリエ積分表示 ∫ 1 f (x) = 2π ∞ {∫ ∞ f (y) e −∞ −iwy } eiwx dw dy (14.1) −∞ を導びくことができた.この (14.1) は,例えば,全区間で絶対積分可能 ∫ ∞ −∞ |f (x)| dx < +∞ (14.2) であり,さらに連続微分可能であるという仮定の下で成り立つ. (14.1) は,外の指数関数を中に入れて f (x) = 1 2π ∫ {∫ ∞ −∞ ∞ } f (y) eiw(x−y) dy dw (14.3) −∞ と書き表すことができる. 2. フーリエ・サイン積分とフーリエ・コサイン積分 f (x) は実数値関数であるとして,(14.3) を変形する.オイラーの公式 eiw (x−y) = cos w(x − y)+i sin w(x − y) を 使えば (14.3) は, 1 f (x) = 2π ∫ {∫ ∞ −∞ } ∞ ∫ i f (y) cos w(x − y) dy dw + 2π −∞ ∞ −∞ {∫ } ∞ −∞ ∫ f (y) sin w(x − y) dy dw ∞ である.f (x) が実関数であるでから,上の式の虚数部分は 0 である. また, −∞ 関数であることに注意すれば,実関数に対するフーリエ積分表示は 1 f (x) = π ∞ {∫ ∞ ∫ −∞ 0 f (y) cos w(x − y) dy は w の偶 } f (y) cos w(x − y) dy dw と変形される.さらに,cos w(x − y) を展開すると,上の式 (14.4) は f (x) = 1 π ∞ {∫ ∞ ∫ } f (y) cos(wy) dy −∞ 0 となる.これより A(w) = cos(wx) dw + ∫ 1 π ∞ f (y) cos(wy) dy, B(w) = −∞ 1 π ∫ 1 π ∞ {∫ ∞ } f (y) sin(wy) dy sin(wx) dw −∞ 0 ∫ (14.4) ∞ f (y) sin(wy) dy, (14.5) −∞ とおくと, ∫ ∫ ∞ f (x) = A(w) cos(wx) dw + 0 ∞ B(w) sin(wx) dw (14.6) 0 となる.この式は周期関数を sine, cosine 関数で展開した式に相当する.(14.5) の積分 A(w), B(w) のそれぞれ を f (x) のフーリエ・コサイン積分, フーリエ・サイン積分という. ∫ ∞ {∫ ∞ 問 1 実関数 f (x) に対して −∞ に対しても成り立つことを示せ. −∞ } f (y) sin w(x − y) dy dw = 0 であったが,この式は複素数値関数 f (x) 78 3. 例題 単一パルス f (x) = y 1 1 ( |x| < 1 ) (14.7) 0 ( |x| > 1 ) −1 0 1 x のフーリエ積分を考える. f (x) は偶関数であるからフーリエ・サイン積分は B(w) = 0 であり,フーリエ・コサイン積分は, ∫ ∫ ∫ 1 ∞ 2 ∞ 2 1 2 sin w A(w) = f (x) cos wx dx = f (x) cos wx dx = cos wx dx = · π −∞ π 0 π 0 π w である.これから ∫ ∞ f (x) ∼ 0 2 A(w) cos wx dx = π ∫ ∞ 0 sin w cos wx dw w (14.8) である. (参考) 式 (14.8) に対応してパラメータ L に依存する関数 ∫ 2 L sin w cos wx SL (x) = dw π 0 w で定義しよう.このとき,定理から 連続点 x では lim SL (x) = f (x) ということになる.L に適当な値を与えて L→∞ SL (x) のグラフをいくつか描いて収束の様子をみると次のようになる. PSfrag replaements PSfrag replaements PSfrag replaements PSfrag replaements S4 (x) 1 1 S8 (x) 1 1 S16 (x) 1 1 S32 (x) 1 1 SL (x) は L の値が大きくなっても f (x) の不連続点 x = ±1 の近くでは関数値が振動し,極限 いことがわかる.この現象をギブスの現象という. 4. フーリエ積分の収束に関する注意 フーリエ積分の収束に関するいくつかの注意を述べる. 1 に一様収束しな 2 14.1 フーリエ積分の収束問題 79 以下で, f (x) は (14.2) を満たす絶対積分可能な関数であると仮定する.(14.1) の中の積分を ∫ ∞ f (y) e−iwy dy F (w) = (14.9) −∞ を考えると |f (y) e−iwy | ≤ |f (y)| であるから, f が区分的な連続関数であっても, (i) F (w) は常に存在し, (ii) F (w) は w の連続関数であり,さらに, → ∞ のとき,F (w) → 0 となる, 1 F (w) を f (x) のフーリエ変換という.ここで述べた性質がフーリエ変換で得られる関数の ことがわかる.( √ 2π (iii) |w | 基本的性質である.) 上のことから,フーリエ積分の収束は,広義積分 lim L, M →∞ 1 2π ∫ L F (w) eiwx dw −M が収束して極限が f (x) と一致するかという問題に帰着する. 易しくするために,M = L として L → ∞ のときに f (x) と一致するか,という問題を考える.(このような広義 積分をコーシーの主値積分と言う.) 1 2π ∫ ∫ L 1 F (w) dw = 2π −L L {∫ } ∞ f (y) e ∫ 1 = 2π −L iw(x−y) −∞ {∫ ∞ } L f (y) −∞ dy dw e iw(x−y) dw dy ( 積分順序を交換する ) −L ( ) ∫ L eiL(x−y) − e−iL(x−y) sin L(x − y) iw(x−y) ∵ dy e dw = f (y) x−y i(x − y) −L −∞ ∫ ∞ ∫ ∞ sin L(x − y) sin Lz ここで y − x = z と変数変換すれば f (y) dy = dz であるから,最終的に f (x + z) x−y z −∞ −∞ 1 = π ∫ ∞ フーリエ積分の収束問題は極限 lim L→∞ 1 π ∫ ∞ f (x + z) −∞ sin Lz dz z (14.10) に帰着することになる. 紙数の関係で先を急ぎ,結果は次のようになる. [定理] f (x) が −∞ < x < ∞ で絶対積分可能で,任意の有限区間において区分的になめらか ( C1 級 ) であるとす る.このとき, ∫ L {∫ f (y) e lim L→∞ } ∞ −L −∞ iw(x−y) dy dw = f (x) { } 1 f (x − 0) + f (x + 0) 2 ( x が連続点のとき ) (14.11) ( x が不連続点のとき ) 80 14.2 デルタ関数 1. デルタ関数 デルタ関数は理論物理学者のディラック (Dirac) によって導入された.工学では,力学における単位衝撃力や電気 回路における単位パルス電流などを表現するインパルス関数 (impulse function) という別名でデルタ関数が広く使 われている.例えば,線形システムへのインパルス入力に対する応答関数のラプラス変換が伝達関数である. デルタ関数 δ(x) の述べ方はいろいろあるが,最もよく使われてい直感的な説明は次である.デルタ関数とは, δ(x) = であって, ∫ ∞ (x = 0) 0 ( x ̸= 0 ) (14.12) ∞ δ(x) dx = 1 (14.13) −∞ となる関数である. (14.12), (14.13) の意味するところは,デルタ関数 δ(x) は,原点以外では 0 であり,デルタ関数の全積分が 1 で あるということである.x を時間変数だと考えると,最初の時刻 x = 0 において瞬間的に零でなく,その大きさ (面 積) が 1 となる関数の直感的な表記である. デルタ関数を決定づける最も重要な性質は,実軸上で定義された任意の関数 f (x) に対して, ∫ ∞ (14.14) f (x) δ(x) dx = f (0) −∞ となる性質である.デルタ関数を任意の実数 a だけ移動すれば,上の式は ∫ ∞ −∞ f (x) δ(x − a) dx = f (a) (14.15) となる. 以上のように記述されたデルタ関数は,決して微分積分学で扱われるような意味での関数ではない.このことを明 確にわきまえておく必要がある.積分の定義よれば,ただ一点 x = 0 以外で 0 である関数の積分は,x = 0 におけ る関数値によらず 0 であり,(14.13) は成り立つはずのない式である. 現代数学では,デルタ関数は超関数 (distribution, hyper function) という数学理論の枠組みの中で精密な議論が なされている.超関数の勉強をする余裕のない工学や物理の学徒は,一般に次のように考えればよい. (14.13) を満たす適当な関数列があり,その:::::::::::::::::::: 極限において (14.14) ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: が成り立つが,極限関数それ自体は存在しない. しかし便宜上,極限関数があるかのようにして極限関数を δ(x) としているだけである.したがって,δ(x) それ自体 仮想的であるが,積分 (14.14) は具体的な意味を持つ.δ(x) がわからなくなったら,そのような関数列を思い起こ は:::::: せばよい. 2. ディリクレの積分核 フーリエ積分の収束問題において, DL (x) = 1 sin(Lx) · π x ( L 正数 ) なる関数が現れた.これをディリクレの積分核という.DL (x) は偶関数であるから, ∫ ∞ −∞ DL (x) dx = 2 π ∫ 0 ∞ sin(Lx) dx = 1 x L L また, lim DL (x) = であるから,DL (0) = と再定義すれば lim DL (0) = ∞ である.さらに,x ̸= 0 に対 x→0 L→∞ π π 14.2 デルタ関数 81 して lim DL (x) = 0 となることがわかる.証明を省いて図を見せる. L→∞ 10 8 2.5 6 2.0 4 1.5 1.0 2 0.5 -6 -4 2 -2 4 6 -6 -4 2 -2 4 6 -0.5 -2 D8 (x) D32 (x) 最後に,f (x) が全区間で絶対積分可能で滑らか (1 回連続微分可能な) 関数ならば, ∫ ∞ 1 f (x) DL (x) dx = π −∞ = 1 π ∫ ∞ f (x) −∞ ∫ ∞ −∞ sin(Lx) dx x f (x) − f (0) 1 · sin(Lx) dx + x π ∫ ∞ f (0) −∞ sin(Lx) dx x → f (0) (L → ∞) ∫ ∞ となる.ここで,連続関数 g(x) に対して lim g(x) sin(Lx) dx = 0 というリーマン・ルベーグの定理を適用 L→∞ −∞ { } した.こうして関数列 DL (x) は,デルタ関数の属性をもつ.これらのことをまとめて記号的に, lim DL (x) = δ(x) L→∞ と書き留める.何度も注意するがこれは微積分学での意味での関数列の極限ではない. 3. 熱伝導の積分核 最初の時刻において原点に単位熱量をおいたとき,時間の経過とともに熱は拡散する.こ の現象の数学モデルに対応するデルタ型関数列として 2 2 1 UT (x) = √ e−x /T πT (14.16) がある.この関数列では, lim UT (x) = δ(x) T →0 である.これを確かめるには,(14.12), (14.13), (14.14) をチェックすればよい. まず,(14.12) は,x ̸= 0 のとき lim UT (x) = 0 となることは容易にわかる.(下図参照) T →0 次に,(14.13) は,T > 0 のとき ∫ ∞ 1 UT (x) dx = √ π −∞ ∫ ∞ −∞ 1 −x2 /T 2 1 e dx = √ T π ∫ ∞ e−z dz = 1 2 −∞ である. 最後に,(14.14) を確かめる.f (x) は全区間で絶対積分可能で,連続関数とする. ∫ ∞ 1 f (x) UT (x) dx = √ π −∞ 1 = √ π → f (0) ∫ ∞ e−x /T 1 f (x) dx = √ T π −∞ ∫ 2 ∞ 2 ∫ ∞ f (T z) e−z dz −∞ { } 2 1 f (T z) − f (0) e−z dz + √ π −∞ (T → 0) 2 ∫ ∞ −∞ f (0) e−z dz 2 82 3.0 T = 0.05 2.5 2.0 1.5 1.0 T = 0.16 0.5 T = 0.70 -4 -2 2 4 3. ラプラス変換論におけるデルタ関数 デルタ関数を必ずしも全区間で考える必要はない.考察している範囲でデルタ型の関数列を考えればよい. 例えば,ラプラス変換では,区間 [0, ∞) で定義された時間 t の関数を考察の対象とする.このとき, ϕa (t) = a e−at (t ≥ 0) 0 (t < 0) (14.17) 8 (14.18) 6 はデルタ型関数列で, lim ϕa (t) = δ(t) a→∞ ∫ ∞ と考えることができる.実際,右図と ∫ ϕa (t) dt = 1 より, ϕ8 (t) 0 ∞ f (t) ϕa (t) dt = f (0) となることは容易にわかる.特にデルタ関数のラ [ ] プラス変換は L δ(t) = 1 である. 4 (例) x(t) に関する定数係数微分方程式で記述されるシステムにインパルス入力 2 lim a→∞ 0 x ¨ + a x˙ + b x = δ(t) ( a, b 定数 ) ϕ2 (t) の伝達関数は, x(0) = x(0) ˙ = 1 のもとでラプラス変換 X(s) = L [x(t)] 1 s2 X + a s X + b X = 1 1 より X = 2 であるから伝達関数は s + as + b 1 G(s) = 2 s + as + b である.g(t) = L −1 [G(s)] とするとき,任意の入力 f (t) に対する入力, x ¨ + a x˙ + b x = f (t) の解は, ∫ 0 となる. t f (τ ) g(t − τ ) dτ x(t) = 2 3 4
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