教室活動紹介 ショートスピーチのススメ ヤギェロン大学 中野二郎 はじめに:発話能力を伸ばすための活動として、ショートスピーチを紹介する。会話の授 業では、ダイアローグ練習(変換、発展)、ロールプレイ、スピーチ、ディスカッション等 様々な方法が考えられるが、それぞれ如何なる能力を伸ばすための活動なのか、意識して 導入する必要がある。筆者はショートスピーチを以下のような目的を以て導入している。 目的:瞬発力(アドリブ力) 、談話構成能力の養成。 瞬発力:本稿では即時的に自身の考えを話す能力を指す。従来のスピーチは時間を充分に 与えられ、原稿をある程度記憶した上で、発表するものであるのに対して、ショートスピ ーチでは、学習者に充分な時間が与えられないため、実際の対人コミュニケーションに近 い状況に置かれる。 談話構成能力:談話(ディスコ-ス)を制御する能力。ショートスピーチではまず、「型」 に焦点を当てて練習するため、自ずと談話に意識を向けることになる。基本の「型」が習 得できたら、効果的に伝えるための談話構成を自身で考える等の工夫も可能となる。 原則:以下の通りである。 ・トピックがその場で渡される ・考える時間は1分のみ ・話す時間も1分のみ ・構成(型)重視 ・同じトピックを繰り返す ・辞書の使用やメモ禁止 繰り返しとなるが、考える時間が限られている、構成重視、繰り返すというのがこの活動 の“肝”である。 談話構成:モデルとして提示する構成は以下の通り。習得が進んだら、応用していく。 1 あいさつ⇒2 トピックの確認⇒3 トピックに対する自身の意見 4 意見の根拠となる理由、具体例、反対意見への反論⇒5 まとめ⇒6 あいさつ 教室活動:実際、教育現場で行う手順は以下の通りである。 1 ペアをつくる(A さんと B さん) 2 トピックを受け取る 3 1分考える(聞く方は休み) 4 1分スピーチ 5 Q&A、これも1分 6 もう一度、スピーチ! これが1サイクル。終わったら、次は聞き手だった学習者がスピーチを行う。 トピック:導入時は以下のような“深くない”トピックが望ましいと考える。 ・飼うなら、ネコがいい?イヌがいい? ・将来いなかがいい?都会がいい? ・無人島に一つ持っていくなら何? ・夏休みに行くなら、海がいい?山がいい? 但し、基本型を充分に習得できた学習者には、様々なトピックを投げかけていく。具体 的にヤギェロン大学文献学部(2 年生、3 年生)では、主教材の本文において、何らかの論 点があれば、ショートスピーチで自身の意見を述べる練習をしている。主教材である『ニ ューアプローチ 完成編』では以下の通り。 L1 カタカナ言葉:ポーランド語にも多くの外来語が流入しているが、それに肯定的か?否定的か? L2 鉄腕アトム(ロボット技術の発達):万能なロボットがいたら、何をしてほしいか? L3 食生活を見直そう:昨今のスローフード運動は続くか?ブームで終わるか? この活動の利点:まず初級後半から導入可能であることが挙げられる。進度に合わせて、 トピックを難しくする、談話構成に工夫を加える等のカスタマイズを行うことで上級話者 にも活用できる。次に、20 分程度の空き時間でできることも授業を担当する上で大きなメ リットとなる。日本語のスキルとしては、目的の項でも触れたように、瞬発力をつけるこ とで普段の会話のリアクションも速くなる、談話構成能力がつくことで、 「伝わる」話し方 ができるようになる等が挙げられる。また、本格的なアウトプット(スピーチ、小論文) は勿論、更にはインプット(読解や聴解等)の際にも必要な“予測する力”の養成に役立 っていくことが期待できる。 課題:以下の2点が挙げられる。 正確性の確保:特に学生数が多いクラスでは一人、一人に丁寧な FB をすることは不可能に 近い。正確性の確保のためには①録音して FB できるようにする、②スピーチの内容を深め て作文提出等の方法があるが、時間内に構成がまとまったスピーチができれば、この活動 の目的は達成されており、瑣末な文法的な誤りなどには触れないという方針が望ましい。 緊張を保つ工夫:6、7 名程度のクラスなら、全員に発表を義務付けることで練習の間の緊 張を保つことが可能であるが、大人数の場合、時間的にも集中力の面からも全員の発表は 難しい。練習時間の緊張を保つために①発表者を前もって決めず、練習終了後発表者決定 ②修了テスト等にスピーチを取り入れ、そのことを周知しておく等の方法が考えられる。 まとめ:活動として、ショートスピーチを紹介した。利点、課題は上述の通り。検証はで きていないが、初級後半か、初中級レベルで導入することで、以降の学習にもいい影響を 及ぼすと考えられる。他の学習者の前で話す、準備時間が限られている等学習者のストレ スになる要素が含まれているが、ポジティブに考えると、クラスや学習者が一皮むけるた めの「刺激」となり得る活動であるとも言える。 以上
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