病院の在宅医療

特集
開業医とどう向き合う?
病院の在宅医療
病院の在宅医療への参入が広がり、在宅療養支援病院は
ついに1000施設を突破した。地域の開業医を “競合” とするか、
“パートナー” とするか、経営陣の手腕が問われる。(江本哲朗)
January 2015 NIKKEI Healthcare
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開業医とどう向き合う? 病院の在宅医療
特集
入院料・入院医療管理料の要件に、
(a)
ころが増えており、在宅医療の空白地
消費税増収分を財源とす
二次救急医療施設の指定、
(b)救急告
帯も減ってきている。
る新たな財政支援制度や、
病院の
在
宅
医
療 成功
連の点数が 2014 年度診療報
在宅後方支援機能が明確に
の カ条
一.地域の診療
所
足りない機 に
能を補う
一.医師・看護
師の協力
取りつ
け
に
は
全力をか
ける
一.地域
の在宅
構築の動 医療ネットワー
ク
き
に
乗
り遅れな
い
齢者住宅における在宅医療関
高
酬改定で大幅にダウンした影響で、一
在宅医療に参入する病院は、なぜ増
示病院、
(c)在支病または在宅療養後
こうした状況で今後、病院は在宅医
介護保険を財源とする市
時の “在宅バブル”は崩壊。在宅医療部
えているのか。理由の一つとして挙げ
方支援病院として患者を年3件以上受
療にどのように向き合えばいいか。
町村の地域支援事業に
門を縮小する開業医も登場した。一方
られるのが、地域包括ケアシステムにお
け入れている実績─のいずれかを満
まずポイントとなるのは、地域の診療
よって、在宅医療のネッ
で、中小病院が在宅医療に新規参入す
ける病院の果たす役割がはっきりして
たすことが設けられた。また(3)
に対応
所を “競合”にしないよう、彼らに足りな
トワークづくりを後押し
るケースは着実に増えているようだ。
きたことだ。
して、
「在宅復帰率70%以上」が高いラ
い機能を積極的に担うことだ。例えば、
する考えだ(63ページ
編集部が2014 年12月、地方厚生局
地域包括ケアシステムは、住まいを
ンクの入院料の要件とされている。
比較的安定している患者は開業医に紹
別掲記事参照)
。事業
の公表データを基に集計した結果、在
中心に医療・介護サービスを切れ目なく
病院の経営支援を行う(株)ナレッジ
介しつつ、頻回の訪問が必要になって
の委託先は地区医師
宅療養支援病院(在支病)の届け出を
提供する仕組み。この中で病院は、在
ハンズ(東京都港区)代表取締役の井
きたら病院の在宅部門が引き継ぐのは
会や地域包括支援セ
している病院は1040 施設で、ついに4
宅療養中の患者の容体が急変した際
内徹氏は、
「国の誘導もあり、在宅医療
一つの選択肢になる。また、訪問看護
ンターが中心になる
桁の大台に乗った(図1)
。
に早めに受け入れ、短い入院期間で治
の後方支援機能を強化する病院が増え
だけを手がけて在宅医をバックアップ
とみられる。
「強化型」の数自体は、単独・連携タ
療し、元の療養の場に戻すことで在宅
ている」と話す。高度急性期の患者が
する手もあるだろう。在宅医療が盛ん
日本医師会常任
イプともに前年より減っているが、これ
生活をできるだけ長く継続させる役割
集まらず、入院単価が低い病院は、地
で空白地帯がないのであれば、後方支
理事の鈴木邦彦氏
は2014 年度改定で要件が厳格化され
が求められている。
域包括ケア病棟・病床に移行した方が
援機能に特化する考え方もある。
は、
「特に今後、高齢化が急速
たため。従来型の在支病はここ1年半
2014 年度改定では、まさにこの役割
増収につながるケースが多い。また、在
もしこうしたバックアップに徹するこ
に進む都市部では、外来中心の開業医
弱で200施設以上増えている。また、改
を評価する地域包括ケア病棟・病床が
宅療養中の患者は退院先としてかかり
とで在宅部門の採算が取れなくても、
も在宅医療に携わらないと支えきれなく
性期後の患者と、開業医からの高齢の
定では在宅患者を受け入れる病床を確
新設された。厚生労働省が地域包括ケ
つけ在宅医の下に戻しやすいため、後
「在宅医療の充実を自院の入院単価アッ
なる。地域に密着した中小病院が開業
急性期患者を主に受け入れている。一
保する200床以上の病院を評価した「在
ア病棟・病床に求めている役割は、
(1)
方支援機能の強化は平均在院日数の
プにつなげる」という目的を見失わない
医の在宅医療をバックアップする体制
般病棟から地域包括ケア病棟・病床へ
宅療養後方支援病院」が新設されたが、
急性期後の患者受け入れ、
(2)在宅患
引き下げにもなる。
ようにしたい。よほど多くの在宅患者が
を築いていかないといけない」と話す。
の移行は、収入が減少する上、専従の
この届け出も254 施設に上った。在宅
者の急変時の受け入れ、
(3)在宅復帰
集まらない限り、在宅医療より入院医療
既存の在宅医との連携は維持しつつ、
リハビリ職の配置がネックになることか
医療に関わる病院の裾野が広がってい
支援 ─ の三つだ。
の拡充の方が病院経営のウェートは大
こうした新たな動きに乗り遅れないよう、
ら行っていないが、
「実質的に地域包括
ることがうかがえる。
(2)に対応して、地域包括ケア病棟
ただ、後方支援機能を強化しようと
きいからだ。
目を光らせておく必要がある。
ケア病棟と同じような役割を担っている」
しても、在宅医療の担い手が少ない地
さらに井内氏は、
「そもそも24時間対
以上のポイントを押さえ、在宅医療を
と同院診療部長の原睦展氏は話す。
域では思うように進まない。また、在宅
応ができずに在宅療養支援病院を届け
通じて地域での存在感を高めている病
医がいたとしても、既にほかの病院と強
出られなかったり、届け出ても実質、在
院を見ていこう。
固な連携を築いているケースもある。
宅患者がいないようなところも多い」と
自前で在宅医療に取り組む病院は増
指摘する。在宅医療を始める際に多く
えているが、多くは様子を見ながら徐々
の病院が直面するのは、内部の職員の
に広げざるを得ないのが実態だ。理由
図1◉在宅療養支援病院の届け出件数
〈参考〉在宅療養後方支援病院……254施設(2014年)
(件)
1200
1000
計1040施設
■ 強化型在支病(単独型)
■ 強化型在支病(連携型)
■ 従来型在支病
137
148
800
138
600
442
344
335
200
0
350
264
400
7
11
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
315
588
2008~2013年のデータは7月1日時点(厚労省調べ)
。
2014年のみ地方厚生局が公表している11月1日もしくは12月1日時点の届け出データを編集部が集計
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NIKKEI Healthcare January 2015
急性期機能の維持に貢献
小畠病院が在宅医療に取り組んだ
小畠病院(広島県福山市)
きっかけは2010 年 4 月、近隣に開設さ
れた定員42人の高齢者住宅の事業者
反対だ。医師・看護師の協力を得るた
は地域の開業医に「患者を取られてい
めには相応のインセンティブを与えるな
「在宅部門を本格的に立ち上げたの
と打診されたこと。当時は外来診療の
る」と思われ、紹介入院が減るリスクを
ど、対策を凝らす必要がある。
は5 年前。それが今は、病院の機能を
延長でかかりつけ患者に往診に行く程
支えるために欠かせない存在になった」
。
度で、院内に在宅医療を行う基盤は全
医療法人玄同会・小畠病院(112床)院
くなかった。
介元の患者を奪わないように、競合と
2014年
むつひろ
訪問看護を通じて開業医と連携
1年で収益の柱に成長
回避するため。
「在宅医療を行う際、紹
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2013年
開業医に気を遣う病院
3
在宅医療ネットワーク創設の動き
から、
「入居者に訪問診療をしてほしい」
なる診療所がないかどうか、かなり気を
また、地域の在宅医療連携にも新た
長の小畠敬太郎氏はこう語る。
だが「将来、病院は退院支援に力を
遣っている病院は多い」と井内氏は話
な動きが出てきている。国は将来、高齢
同院は10対1一般病棟と20対1医療
入れなくてはならなくなる」との小畠氏
す。最近は、外来中心の開業医であっ
化が急速に進むことで増加する在宅医
療養病棟が1 病棟ずつのケアミックス
の判断から、まず小畠氏と原氏が訪問
ても昼休みを使って訪問診療に行くと
療の需要に供給が追いつかないとして、
病院。一般病棟は、基幹病院からの急
診療を開始した。2006 年に特殊疾患
January 2015 NIKKEI Healthcare
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