特集 「 データによる 制御時代 」を どう乗り切る? 医療提供体制の再構築に向け、データ重視の流れが強まっている。 データによる政策誘導を進める国の動きに、現場はどう向き合えばい いのか。病院での取り組み事例から、 そのヒントを探る。 (庄子 育子) March 2015 NIKKEI Healthcare 67 「 デ ー タ に よ る 制 御 時 代 」を ど う 乗 り 切 る ? 特集 TREND 強まるデータ重視の流れ 国は政策誘導の “切り札”として活用 題は、 「制御機構がないままの医療提供 度の創設や地域医療構想の策定が実 にかくデータを使いこなすことが肝心」 体制」にあると指摘。民間病院が多く政 現した。 と語るのは、医療機関の経営コンサル 府が強制的に改革できない以上、 「デー ほかにもデータ重視の流れは、診療 ティングを務める河合医療福祉法務事 タによる制御機構をもって医療ニーズと 報酬の改定論議にも及び、2014年度改 務所の河合吾郎氏。今後、いわゆる 提供体制のマッチングを図るシステムの 定では、データ提出加算の対象範囲が 2025 年モデルの実現に向けて医療制 確立」が必要であるとした(図1) 。 拡大されたことなどが記憶に新しい。 度改革は勢いを増していくことが予想 「この提言はわれわれにとって、実は また、特筆すべきは、医療提供体制 される。医療費が増え続ける現状を踏 の実態が明らかになるにつれ、 標を定めるとともに、その実現に向けた 告制度」がスタート。地域の医療資源 渡りに船だった」 。そう打ち明けるのは の再構築に向けたデータの活用は既に まえれば、診療報酬の大幅なプラス改 戦々恐々とした思いを強めてい 施策を描く。 を的確に把握する取り組みが始まった。 厚生労働省のさる幹部。そもそも、同 国家プロジェクトに位置づけられている 定は望み薄。一方で、全病院にデータ る医療機関は少なくないようだ。今年4 地域医療構想の策定で注目されるの 地域医療構想の策定後は、確実に実 省では近年、データの収集を進めて医 点だ。データを活用していかに改革を 提出加算の届け出が義務化される可能 月から各都道府県で順次策定が進む は、 「データ重視」の視点が前面に押し 行に移されるよう、データに基づき各都 療の現状を可視化し、その上で、 「デー 進めるかを検討する調査会が、昨年 8 性も高く、 「正確なデータ抽出のスキル 地域医療構想(ビジョン)に関しての話 出されている点だ。2025年の医療需要 道府県で進捗状況を定期的に評価し、 タによる制御」を医療政策のPDCAサ 月に政府の社会保障制度改革推進本 が求められる」 と河合氏は言う。 だ。地域の医療ニーズに応えられない や各医療機能の必要量の推計には、人 適宜施策を見直すなど、PDCAサイク イクルに反映する施策を目指してきた。 部の下に設けられた。 医療機関にとって厳しい時代を生き 医療機関は早晩、淘汰されることになる 口予測データのほかに、DPCデータや ルを効果的に機能させることも求めら データに基づく政策決定が進めば、各 かもしれない。 レセプトデータを活用することが確定済 れる。それと連動して、医療提供体制 方面のステークホルダー (利害関係者) 地域医療構想の策定は、2025 年に みで、具体的な計算方法は全国一律と の整備権限が都道府県に付与される。 が大きな影響を与えることは困難となり、 こうした政策動向を見る限り、医療 が大切となる。 向けた医療提供体制の再構築を進める なる見込み(12ページ「NEWS」参照) 。 政策決定プロセスがより合理的になる 機関はデータによる制御からはもはや逃 次ページ以降では、自院の現状を分 ため新たに取られる政策手法。各都道 つまり、各都道府県でおおよそこのぐら との理由からだ。そこに国民会議の報 れられないと言っていいだろう。 「デー 析し、的確にデータを経営に生かして 府県は、原則として二次医療圏を単位 いといった “お手盛り”の数字を設定す ここまでデータが重視される背景に 告書の後押しもあり、病床機能報告制 タ重視の方向性を恐れるのではなく、 と いる事例を紹介する。 とする「構想区域」ごとに、2025年時点 ることは通用しない。 は、政府の社会保障制度改革国民会議 の医療需要を推計し、それに見合った 地域医療構想の “精度” を高める観 が2013年8月にまとめた報告書がある。 医療機能別の必要病床数などの整備目 点から、2014年10月には「病床機能報 同報告書では、日本の医療の大きな課 そ 国民会議報告書に沿って進む改革 社会保障制度改革国民会議報告書(2013 年 8 月 6 日) 〈抜粋〉 ○今般の社会保障制度改革を実現するエンジンとして、政府の下に、主 として医療・介護サービスの提供体制改革を推進するための体制を設 け、厚生労働省、都道府県、市町村における改革の実行と連動させて いかねばならない。その際、まず取り組むべきは、各二次医療圏におけ る将来の性別、年齢階級別の人口構成や有病率等のデータを基に各地 域における医療ニーズを予測し、各地域の医療提供体制がそれに合致 しているかを検証した上で、地域事情に応じた先行きの医療・介護サー ビス提供体制のモデル像を描いていくことであり、こうしたデータ解析 のために国が率先して官民の人材を結集して、先駆的研究も活用し、 都道府県・市町村との知見の共有を図っていくことであろう 68 NIKKEI Healthcare March 2015 ● 病床機能報告制度がスタート ( 2014 年 10 月∼) これを受けて ○地域の将来的な医療ニーズの客観的データに基づく見通しを踏まえた 上で、その地域にふさわしいバランスのとれた医療機能ごとの医療の必 要量を示す地域医療ビジョンを都道府県が策定することが求められる 残るには、データ分析により自院の強み や弱みを知り、経営に生かしていくこと Excelで行う自前解析の勧め 図1◉社会保障制度改革国民会議報告書の指摘と現在の政策動向 ○医療政策に対して国の力がさほど強くない日本の状況を鑑み、データ の可視化を通じた客観的データに基づく政策、つまりは、医療消費の格 差を招来する市場の力でもなく、提供体制側の創意工夫を阻害するお それがある政府の力でもないものとして、データによる制御機構をもっ て医療ニーズと提供体制のマッチングを図るシステムの確立を要請す る声が上がっていることにも留意せねばならない データをいかに使いこなすか →報告するのは、四つの医療機能区分(高度急性期、急性期、 回復期、慢性期) と選択した機能に応じた診療内容や実績 が分かるデータ ● 都道府県ごとに地域医療構想を策定へ( 2015 年 4 月∼) →人口予測データ、DPCデータ、 レセプトデータなどに基づき、 2025 年の医療需要を正確に予測し、対応する地域の医療 提供体制を構築 ● 政府の社会保障制度改革推進本部の下に、 「医療・介護情 報の活用による改革の推進に関する専門調査会」を設置 (2014 年 8 月∼) ● 中央社会保険医療協議会で、 データの収集と分析に基づく診療報酬の検討が加速 → 2014 年度改定では「データ提出加算」の対象範囲拡大、 「短 期滞在手術等基本料 3」の設定にDPCデータを活用 データを使いこなすと言っても、医療 ているDPCデータの分析についても、 機関には実に様々なデータが存在する。 汎用ソフトの「Excel」のみで、実は相 必要なデータ、分析方法は目的によって 当高度な分析が行える。 変わるため、 「このように活用したいから、 日経ヘルスケアでは昨年11月に、 『す こうしたデータ分析を進めていく」とい べてExcelでできる! 経営力・診療力 うストーリーをあらかじめ立てておくこ を高めるDPCデータ活用術』を刊行。 とが肝心だ。また、 データ分析を確実に 本書は、DPCデータ分析の入門書で、 診療の質や経営の質の向上につなげて DPCデータをExcelのみを使って集計・ いくには、分析結果を組織内に広く浸 分析し、徹底的に使いこなすコツを詳 透させ、職員の行動変容を促す仕組み しく解説している。Excel初心者であっ を整備することが求められる。 ても、分析スキルの習得が十分可能。 データの分析に関しては、必ずしも 今年 4 月以降、本書を使った実践セミ 複雑なシステムの構築が不可欠なわけ ナーも定期開催する予定だ(66ページ ではない。例えば、詳細な情報が集まっ 参照) 。 日経ヘルスケアが発刊 したDPC 分析の入門 書と、本書を使って2 月に静岡市内で行った 講義の様子 March 2015 NIKKEI Healthcare 69 日経BP書店へ
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