特集 高齢者住宅 入居者獲得の 新常識 高齢者住宅の入居者獲得競争が激しさを増している。高齢 者のニーズも変化する中、従来のコンセプト設定や営業戦略 を見直したい。 (末田 聡美、茂木 俊輔=フリーライター) January 2015 NIKKEI Healthcare 49 高齢者住宅 入居者獲得の新常識 特集 帯は下がっており、低価格競争には限 重度化や早めの住み替えニーズに対応を コンセプト設定や営業の見直しで入居率アップ 界が来ている。安いだけでは集客でき ず、中身での差別化が必要だ」と(株) スターコンサルティンググループ代表取 締役の糠谷和弘氏は話す。 事業者間の集客競争が激しくなっている高齢者住宅市場。入居者のニーズや入居 利便性の良さや、アクティビティーの ルートは変化しており、従来の営業方法やコンセプト設定の見直しが必要だ。入居 充実といった強みが、重症度にかかわ 者を獲得するための七つの新常識を紹介する。 らず特に有利になるようだ。 「高齢者住 宅の転居理由の1、2位は、食事の質が 低いことと日中のプログラムがないこと。 院に営業に行っても、多くの高 者向け住宅や有料老人ホームが増えて ムラプランニング&オペレーティング代 事業者は活動の機会を提供した上で、 齢者住宅事業者や紹介会社 いる。背景にあるのは、サ付き住宅への 表取締役の田村明孝氏によれば、2005 入居者が過ごし方を自由に選択できる が来ているため、相手にされない」 「近 参入の活発化だ。登録数は、2014年11 年には年間8万戸に上った介護保険施 ようにするのが大事だ」 (糠谷氏) という。 場では集客できないため、都心部から 月時点で全国5070施設、16万3160戸。 設や特定施設などの開設戸数は、総量 バスツアーでの見学会を開催している」 開設ペースは減速しているものの、2011 規制などの影響でここ数年で平均約4 「入居が進まないので体験入居の無料 年10月の制度開始から急増したため、 万戸まで減少(図1) 。代わりに増えてき 高齢者住宅を取り巻く状況が変化す キャンペーンをしているが、いつまで続 地域によっては充足したと実感してい たのが、サ付き住宅や住宅型有老ホー る中、通り一遍のアプローチだけでは入 ければよいのか……」 。2014年11月、東 る介護・医療関係者は少なくない。 ムであり、高齢者数や要介護者数の伸 居者確保は難しい。取材から浮かび上 びを考えれば、 まだ需要はあるという。 がってきたのが、七つの新常識だ。 ただ、 「医療対応や看取りといった、 まず欠かせないのが、市場環境や地 「病 7 入居者獲得のための つの新常識 「建築費高騰の一方で、全体的に価格 TREND 京都内で開催された高齢者住宅の営業 担当者たちの懇親会では、出席者の口 「建てれば埋まる」は幻想 開設半年前には営業開始を 1 2 3 4 5 「施設」の代わりはもういらない、 「住宅らしさ」を意識せよ →手厚い医療・介護対応力か、将来に対する安心感獲得か、入居者のニーズは二極化。 利便性や広さ、地域との交流を求めるケースも増加 開設直前からの営業では遅い、計画時点から営業は始まる →地域住民を巻き込み、一緒に仕様を決めるのも手。開設後は3カ月で満室を目標に ケアマネ営業だけでは効果薄、病院の地域連携室や地域住民を狙え →施設紹介が苦手なケアマネジャーは多い。医療対応力を特徴とするなら急性期病院の 地域連携室や老健施設へ、早めの住み替えニーズを狙うなら近隣住民をターゲットに ハード推しのパンフや施設見学会はインパクトなし、一味違う戦略を →建物・設備の説明より、 「どんな生活が送れるのか」 「どんな人を受け入れられるのか」が 具体的に分かるようなPRを。困難事例への対応などを盛り込んだ事例発表会を開けば、 ケアマネジャーやソーシャルワーカーの信頼獲得も 見学者対応力 が低いと機会損失を生む、案内スキルを上げる訓練を →飛び込みの見学者が増えているため、誰でもある程度対応できるように、 シナリオ形式 の見学者対応のマニュアルを作るのも手 6 「 『住宅』だから何もしない」はNG、介入はせずとも参加できる場の提供を 7 「低価格帯なら入る」はウソ、高くても差別化図ればニーズあり →高齢者住宅の転居理由の一つは「レクリエーションがないこと」 。 入居者が過ごし方を自由に選択できるよう、 レクリエーションや集う場の充実を →建設費高騰などの影響で、値下げ競争には限界も。2 人部屋や広めの居室のニーズも 拡大しており、地域の中で強みを持てば高価格帯でも入居者獲得は可能 からこんな厳しい現状が聞かれた。 地域や住民のニーズから外れた施設 高齢者住宅に本来欠かせない役割を果 域住民のニーズを把握した上で、他施 入居率低迷に悩むサービス付き高齢 が増えているという事情もある。 (株) タ たせず、要介護 1〜 2 程度の軽度者ま 設との差別化を図ること。営業も開設 話す。患者の退院先探しに時間的猶予 どんな状態に改善したかを紹介するよ でしか対応できない住宅が多く、それら 直前に動き出す事業者は多いが、それ がないケースが多いため、即紹介しても うな事 例 発 表 会を開くと、ケアマネ が苦戦している」と田村氏は指摘する。 では遅すぎる。 「開設後3カ月もたつと、 らえる可能性がある。 ジャーやソーシャルワーカーの信頼を一 2014 年度診療報酬改定では、急性期 地域住民の興味は薄れる上、空室が多 「訪問時には、退院先の決定権を握っ 気に獲得できる」と船井総合研究所医 病院などからの在宅復帰が促進されて ければ見学者は不安になり、 ますます入 ている職員を見極め、その人に何度も 療・介護支援部の管野好孝氏は話す。 おり、今後の高齢者住宅にとって、重度 居は進みにくくなる。開設半年前には アプローチすべきだ」と中川氏。そのほ “見学者対応力”の向上も欠かせない。 者対応力の向上は必須条件になる。 営業を開始し、3カ月で満室を目指すべ か、在宅復帰率が高い在宅強化型など 最近では、飛び込みの見学者も増えて 軽度者向けでも、入居者のニーズに きだ」 と糠谷氏。 の介護老人保健施設や、待機待ちの要 いるため、誰でも説明できるようにスタッ 変化が出てきた。 「最近は、将来に備え また営業先といえばケアマネジャー 介護者が多い特別養護老人ホームも、 フ教育などを通じて対応力の底上げを て早めの住み替えの希望が増えており、 中心となりがち。だが、 (株)船井総合 営業先として優先度が高いという。 図るとよい。 「案内時には、入居後の過 広めの居室や2人部屋から契約が決ま 研究所医療・介護支援部の経営コンサ なお、PR方法として住民向け勉強会 ごし方を提案しつつ、見学者の不安を る傾向がある」と(株)コミュニティネッ ルタントである中川洋一氏は、 「施設サー や施設見学会は定番だが、 どの施設も 聞き出し、それらを取り除いていくのが ト(東京都千代田区)の「ゆいま〜る高 ビスに精通していないケアマネジャーは 同様のことをしているため、一味違う戦 ポイントだ」 (糠谷氏) 。 島平」ハウス長の古賀眞由美氏。“低価 結構多い。例えば、医療対応力を強化 略が必要だ。例えば重度者対応が強み 次ページ以降では、開設時からの集 格”を武器に、面積基準ギリギリの狭い したサ付き住宅なら、急性期病院の地 なら、ケアの質の高さをアピールする。 客に成功している高齢者住宅の戦略を 居室の住宅を建てる事業者もいるが、 域連携室を回るのが一番効果的だ」と 図1◉高齢者住宅・施設の開設数の推移(2014年10月時点) (万戸) ■ サービス付き高齢者向け住宅 20 15 ■ 高齢者専用賃貸住宅 ■ 住宅型有料老人ホーム ■ 介護老人保健施設 ■ 特別養護老人ホーム ■ グループホーム ■ 介護付き有料老人ホーム ■ 介護療養型医療施設 介護保険3施設や 特定施設などの開設数が 減少する一方で、 サ付き住宅などが急増 10 82795 3301 45176 24403 5 0 2001 02 03 04 05 06 提供: (株)タムラプランニング&オペレーティング 50 NIKKEI Healthcare January 2015 07 08 09 10 11 12 13 14(年) 「困難事例に対して、 どんなケアを行い 紹介する。 January 2015 NIKKEI Healthcare 51 日経BP書店へ
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