歴史的な原油価格下落と

知の広場
2014年12月24日
歴史的な原油価格下落と
新興国債券投資の目利き
村上 尚己
マーケット・ストラテジスト
10月初旬に原油先物価格(WTI)が90米ドル/バレル
を下回ってから、WTIの歴史的な急落が始まった。石油
輸出国機構(OPEC)による生産量引下げへの期待が
高まる中で、OPEC内の不協和音が伝わり、サウジアラビ
アなどが減産を否定して原油減産が全く決まらない中、
供給過剰状態が長引く懸念が市場で強まり続けた。
そして11月末の米国の感謝祭の祝日前後に、OPECが
当面の生産目標を維持することが決まると、WTI下落に
更に拍車がかかり、ついに70米ドルを割り込み、2010年
以来の低水準まで下落。12月になっても下落は一向に
止まらず、12月半ばについに50米ドル台まで価格が下
がり、2カ月余りでWTIが約40%も下落する歴史的な急
落となった。
今回の原油価格は、供給要因すなわち米国のシェール
ガス革命による増産が起きる一方で中東の産油国の増
産が続く中、世界の原油市場の「供給過剰」の状態が長
期化する構図が強まったことがもたらした。原油などの
資源については、その開発に極めて長い時間がかかる
という特殊な供給事情に起因する、10年超の長期の価
格サイクルが観察される。1980年代半ばまで原油価格
が長期間上昇した時期に、各地域で資源開発が活発
になり供給過剰状態となり、その後1990年代を通じて約
10年近く原油価格が停滞し続けた(図表)。
【図表】 原油価格の長期推移
140
米
(ド
対
数ル
目/
盛バ
レ
)ル
52
20
8
3
73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13
年
データは1973年1月1日から2014年11月30日まで
原油先物価格(WTI)
出所:ブルームバーグ
当資料は、2014年12月18日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン株式会社が作成した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されてい
る情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するもので
はありません。また当資料の記載内容、データ等は今後予告なしに変更することがあります。アライアンス・バーンスタインはアライアンス・バーンスタイ
ン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等
の開発元または公表元に帰属します。
そして、原油価格低迷期に、各国の政府・企業による資
源開発も長期にわたり停滞する。そうすると需給構造
が変わり「供給不足」状態に近づき、そして2000年代半
ばから原油価格は再び急上昇しWTIは100米ドル前
後の水準が定着した。この原油価格上昇期が長期間
に及ぶ中で、2010年代初頭までにシェール革命を含
めたエネルギー開発が世界的に盛り上がった。つまり、
1980年代までと同様に、原油をはじめとした資源開発
による供給拡大がブームとなる場面が再び訪れたの
である。
ところが歴史は再び繰り返す。2000年代後半から米国
を含めた世界の企業によるエネルギー開発競争の激
化で供給拡大が長期間続いた結果、エネルギー市場
の需給構造に再び「供給過剰」が訪れたとみられる。そ
して、1990年代同様、約20年ぶりに原油・資源価格が
長期にわたり低水準で停滞する局面に変わっている
可能性がある。
原油価格停滞が長期化する中での投資戦略
ここ2カ月あまりの原油価格の急落は、市場の投機的
な思惑でもたらされたという見方が多い。ただ、ここで述
べた、原油・エネルギー市場の需給構造の変化という
10年超の長期サイクルが下向きに転じる中で、現在の
原油価格の大幅な価格下落が起きている可能性があ
る。こうした視点で、2014年後半に起きた原油価格急落
をとらえて、投資家は投資戦略を構築する必要がある
だろう。
11月20日コラム「新興国債券投資 ~高成長の終焉が
長期的な投資リターンを底上げ~」では、2000年代半
ば以降の新興国の高成長の終焉が、新興国債券投資
のリターンを長期的に押し上げる点に注目した。本稿
では2014年後半の原油価格の急落を資源開発という
供給側の要因で説明したが、需要側における中国など
新興国各国におけるブーム的な成長の終焉も資源市
場における「需給バランス緩和」に大きく影響している。
これらを合わせると、最近の原油価格急落は、供給・需
要側双方の長期的な需給要因が相互に影響しあって
いることが理解できるだろう。
最近の原油価格急落は、債券投資戦略の観点でどの
ような意味を持つのか。先日のコラムでは、新興国ブー
ムの終焉による新興国の名目経済成長率低下がもた
らす金利低下によって、新興国債券投資が長期的に
底上げされるフェーズが2014年から始まった可能性を
指摘したが、最近の原油価格の大幅下落はそのシナリ
オの蓋然性を補強する一つの材料と言える。
まず、資源価格停滞の長期化は世界的なインフレ率
抑制をもたらす要因になる。先進国では、原油安が米
連邦準備制度理事会(FRB)による2015年年央の利上
げ開始の妨げにはなる可能性は低いだろうが、デフレ
リスクに直面する欧州において、欧州中央銀行(ECB)
の金融政策運営には影響が及ぶ。ECBは、日本の二
の舞を防ぐためにアグレッシブな金融緩和に踏み出し
ているが、原油安で低下しているインフレ期待の上昇
を実現するためにECBの金融緩和は長期化するとみ
られ、そして脱デフレを成功しつつある日本銀行同様
のアグレッシブな緩和策も検討するのではないか。
そして、新興国では、2014年前半から過半の国におい
てインフレ率が低下しているが、ついに2014年末には
中国が予想外に金融緩和に転じ、インド準備銀行は将
来の金融緩和に踏み出すハト派姿勢を強めている。ブ
ラジルなどインフレに苦しむ新興国は、少数派となりつ
つある。
今後、中央銀行の政策スタンスが緩和方向に変わる新
興・資源国が更に増える可能性がある。なお、アライア
ンス・バーンスタインでは、オーストラリア準備銀行が
2015年に利下げを始めると予想している。そして、新
興・資源国経済の安定成長や通貨安定に、各国中央
銀行の政策判断の適切さが決定的な影響を及ぼす、
という視点が重要になる。ECBや日本銀行とともに、多
くの新興資源国の中央銀行が金融緩和策を適切に行
えるかどうかが、2015年以降の各国の経済動向に大き
く影響するだろう。
原油価格下落によって、産油国と原油輸入国の間で
の大きな所得移転が起きたことで、新興・資源国の中
でも勝ち組と負け組の差が既に大きくなっている。2015
年も同様の構図は続くだろうし、それに加えて、「ディス
インフレ」に直面する新興・資源国における中央銀行
の判断力が、各国経済のパフォーマンスや通貨の値
動きに更なるバラツキをもたらす可能性が高いというこ
とだ。
新興国への投資においては、各国の政治動向や産業
構造が主たる投資判断の材料になっていたが、それら
に加えて金融政策運営の透明性という要因が同様に
重要な材料になる。こうした意味では、例えばインド準
備銀行は、ラジャン総裁が就任し明確なインフレ目標
を掲げており、金融政策の透明性の高さが経済パ
フォーマンスを高める可能性がある。
より幅広い観点から経済と政治を分析し、さらには個別
企業の信用リスクの調査によって、新興国債券の個々
のリスクを適切に選別する「目利き」が、歴史的な原油
価格下落によってより高まっていると言えるだろう。まさ
に、アクティブ運用マネジャーの腕の見せどころであ
る。
アライアンス・バーンスタイン株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
【加入協会】一般社団法人投資信託協会/一般社団法人日本投資顧問業協会
http://www.alliancebernstein.co.jp
当資料についての重要情報
当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定投資信託の取得をご希望の場合には、販
売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるよう
お願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。
 投資信託のリスクについて
アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為
替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。
投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資
する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧
ください。
 お客様にご負担いただく費用:投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります
● 申込時に直接ご負担いただく費用 …申込手数料 上限3.24%(税抜3.00%)です。
● 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
● 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.0304%(税抜1.8800%)です。
その他費用…上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認く
ださい。
上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタ
イン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。
ご注意
アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いま
すので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金
融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行
う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクは
お客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品
によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なりま
す。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異な
りますので、その金額をあらかじめ表示することができません。