新商便り 1月号 日本の科学技術について 教頭 村上 浩二 昨年一番話題になったことと言えば、本県出身の中村修二さんが「青色発光ダイオー ド(LED)」の研究でノーベル物理学賞を受賞したことではないでしょうか。発光ダ イオードは、1962年に米ゼネラル・エレクトリック社の研究員だったニック・ホロニア ック氏が発見しました。その当時の発光ダイオードは、赤色しか作れず、機器のスイッ チが入っていることを示す程度の利用方法しかありませんでした。多 く の 科 学 者 が 発 光ダイオードを照明機器に利用したいと考え、青色発光ダイオードを発明しよ う と 研 究 し て き ま し た が 、 30年 も の 間 、 誰 も 成 功 す る こ と が で き ま せ ん で し た 。 当 時 の 研 究 の 主 流 は 、 セレン化亜鉛という物質を 発 光 部 分 の 材 料 と し て い ま した。しかし、中村さんは、多くの研究者と同じことをしていては、資金力の 大きな所に勝てないと思い、安定した結晶を作ることが難しいと言われていた 窒化ガリウムという物質を 材 料 と し て 研 究 を 続 け 、 見 事 に 青 色 発 光 ダ イ オ ー ド を 発明することができました。青色発光ダイオードができたことにより、色の三 原色である「赤」「青」「緑」がそろい、「白色」を始め色々な色を作ること ができるようになりました。現在は、照明機器だけでなく、テレビや信号、イ ルミネーションなどあらゆる所で使われるようになりました。ノーベル賞のホ ームページでは、今回の中村さんらの偉業を「彼らの発明は革命的なものであ る 。 白 熱 電 球 は 20世 紀 を 灯 し て き た が 、 21世 紀 は 発 光 ダ イ オ ー ド の 光 に よ っ て 灯さ れ てい くだろう。」と 賞賛しています 。 今回のノーベル物理学賞の受賞や惑星探査機「はやぶさ」など、近年の日本の科学水 準の高さを示す明るいニュースをよく聞きます。日本が誇る技術の一つに、ロボット技 術があります。ロボット技術は、他国も競って研究をしていますが、日本の研究者の根 底に、「ある共通の思い」があるといいます。それは、ロボットを開発するとき、二足 歩行にこだわっているところです。人は立っているときにじっとしているのではなく、 常に足の裏でバランスを取り、重心を移動させています。それが歩くとなればもっと微 妙なバランスが必要になり、より高度な技術を必要とします。それでも日本人は、人型 ロボットにこだわるのです。なぜ、人型ロボットにこだわるのか。それは、今から50年 以上も前の手塚治虫氏の漫画『鉄腕アトム』の影響が大きいと言われています。まだ携 帯電話やパソコンもなかった頃、原子力をエネルギーとし、感情を持っている人型ロボ ットが悪者と戦うストーリーは、当時の子供たちにとっては、21世紀に向けての夢の世 界だったと思います。漫画の中で出てくる多くの機器等は、現在ほぼ現実的なものにな っています。しかし、現代の技術を使っても『鉄腕アトム』に近づける人型ロボットは できていません。だからこそ、日本の研究者は、『鉄腕アトム』に憧れ、二足歩行にこ だわるのではないでしょうか。科学者の夢が、今の日本の技術を支えているのではない でしょうか。
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