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道民カレッジ「ほっかいどう学」大学インターネット講座
「北海道のシマフクロウ~その生息を絶やさぬために~」
講師:札幌大学 地域共創学群 教養学系
早矢仕 有子 教授
◇講座内容◇
・絶滅の危機に瀕しているシマフクロウの生態、保護の取り組み
・シマフクロウが生息する川や森の復元の様子
・北海道に暮らす私たちとシマフクロウの関わり方を提案
◆シマフクロウの形態と生態
・札幌市円山動物園で飼育されているシマフクロウのクック君。
・2010年に生まれたオス。
・シマフクロウは全長が70cm、翼を広げた長さが180cm、体重は4kgを上回る、世界最大級の
フクロウ。
・全身たっぷりの柔らかい羽毛で覆われているので、実際よりも肉付きがよく見える。
・頭に耳のように見える羽があるが、これは飾り羽で、本物の耳は羽毛に隠れて見えない。
・2つの大きな目は近くで見ると引き込まれるような鋭い目をしている。
・クック君は猛禽類野生復帰施設という、非公開の施設で暮らしているが、飼育員によるガイドツ
アーが開催されており、一般の方も見ることができる。
・クックは釧路市動物園で生まれて円山にやってきた。
・これからメスを迎え入れて繁殖させる予定。
・シマフクロウはずっと釧路市動物園だけで飼育されてきたが、この円山動物園と旭山動物園にも
やってきた。
巣穴の説明(VTR再生)
◆シマフクロウの巣穴
・繁殖するのには巣穴は欠かせない。
・この中で子育てをする。
・将来の繁殖に備えて置いている。
・本来は大木のウロを巣穴にするので、それに似せて作ってある。
・これは環境省が使っているもので、野生のシマフクロウの生息地の木にくくりつけて繁殖をさせ
ている。
・野生のシマフクロウは主に川の魚を食べて暮らしている。
◆シマフクロウの分布
・このオレンジの部分がシマフクロウのいる場所。世
界的な分布はとても狭く、アジアの北東部に限定さ
れている。
・ロシアの沿海地方(日本海の沿岸)、北海道、クナ
シリ、サハリンといった島に棲んでいる。
・シマフクロウという名前は、体の縞々ではなく、「蝦
夷が島」の「島」という意味で、北海道にも棲んでい
るという意味。
◆絶滅危惧種選定
・シマフクロウは世界的に絶滅の危機にあり、国際自然保護連合ではシマフクロウを近い将来、野
生で絶滅する危険性が高い「絶滅危惧種」に選定している。
・北海道も同様で、さらに絶滅の危険性が高い種類に選ばれている。
・明治時代には函館の近郊や、昭和20年代までは札幌市の近郊、中心部にも生息していたが、20世
紀後半から分布と個体数がすっかり衰退し、1971年に国の天然記念物に指定され、1984年から国
の保護事業が始まっている。
・保護活動の成果もあり、いまはおよそ140羽に回復している。
・それでもまだ絶滅危惧種には変わりない。
◆絶滅危惧種になった要因
・ひとつはシマフクロウの食料がなくなったこと。
・シマフクロウは川の魚(サケ科の魚)を主食にしている。
・シマフクロウの生息地を流れる川にダムができて、魚が遡上できなくなるケースが増えている。
・本来人の手が加わらない川には、川の両側に河畔林があって、川に魚が棲んでいて、シマフクロ
ウはそれを狩りして暮らしている。
・ところがコンクリートで固められた川が増えてしまい、魚の生息に適さなくなり、川が直線化さ
れてしまうと、川流の出口に土砂が溜まってしまい、生き物が棲めなくなってしまう。
・もうひとつの原因は、シマフクロウの棲む森林が失われたこと。
・シマフクロウは川沿いの天然の森林に暮らしている。その北海道の天然の森林は次々と失われて
しまった。
◆シマフクロウの繁殖つがいの行動圏
・行動圏はひとつがいでおよそ15平方キロ、すべて
川沿いの森林で出来ており、そこで一年中暮らし
ている。
・シマフクロウのつがいが行動圏の中で使っていた
場所の84%が針広混交林という、天然の森林。
・シマフクロウは広葉樹の大木のウロを利用して繁
殖している。そのようなウロがないと子育てがで
きない。
・だから天然の林がなくなると、普段生活している場
所、子育てする場所も失われてしまう。
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◆シマフクロウの保護
・国によるシマフクロウの保護事業は1984年から続いている。
・食料不足を補うための魚の給餌
・子育て場所を提供するための巣箱の設置
・1羽1羽個体の識別をするための足環の装着。
・人為給餌は、最初は根室の1か所で始まった。徐々に十勝、大雪山系、日高、道北に拡大し、2014
年の3月現在で、12か所の生息地で給餌が実施されている。
・これまでに約300個の巣箱がシマフクロウの棲む森に設置されてきた。
◆巣箱・給餌の効果
・大きな成果を挙げている。
・現在、北海道に生息している繁殖つがい、カップルは40組から50組、その多くが子育てをしてい
る。
・シマフクロウの巣立ち雛がどのくらいいるかとい
う移り変わりを表したグラフ。
・保護事業が始まった1980年代半ばよりは明らかに
2013年までに、回復のきざしを見せている。
・緑の部分は人為的に国が給餌をしている場所で生
まれた子どもの数で、オレンジがそれ以外の場所で
すが、給餌をしている部分で生まれた巣立った雛が
全体の半分近くを占めている。
シマフクロウ給餌の様子(VTR再生)
◆ヒナのエサの量
・ふ化から巣立ちまで1羽がだいたい30kgのエサを食
べる。
・ヒナが生まれてから巣立つまでの59日間で、親が巣に
運んだエサを重さで表している。
・大部分が給餌で人工的に与えている魚で占められてい
る。
・この生息地は十勝にあり、1986年に給餌を始め、つが
いが交代しながら縄張りを受け継いでおり、これまで
に25羽のヒナが巣立っている。
・そのうち1羽は親の縄張りを引き継いで、5羽は新天地に移って、次の世代を生んで育てている。
・30年にわたって繁栄している家族で、それは給餌と巣箱に支えられていると言える。
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◆足環装着の効果
・巣立った雛には足環を付けている。
・色や文字の組み合わせで、どこでいつ生まれた個体
かということがわかる。
・北海道のほとんどの生息地で足環を付けており、こ
れまで継続している。
・親元から旅立った後、その若鳥の行き先が分かる。
・100km近くを移動しているものもいる。
・一昨年初めて2羽の娘を生んで育てた。そこは1960
年代から生息記録が途絶えていたところ。
・シマフクロウが最も生息数の多い知床から十勝ま
で、160kmぐらい移動してきた若いオスもいる。
・足環があるからこそ、どこから来たのかがわかるわけで、これも保護事業の大きな成果。
・保護事業が始まって30年、野生の中でもそろそろ30歳を超える個体が出ているので、このまま数
十年に及ぶ生涯を追い続けることもできる。
・ちなみに動物園では42歳まで生きた例もある。
◆保護事業の課題
・給餌と巣箱によってシマフクロウと人との距離が不
自然なくらい縮まってしまった。
・本来シマフクロウは森に棲んでいて夜行性なので、あ
まり人目につく暮らしをしていないが、給餌と巣箱を
人が用意することで、特定の場所にシマフクロウを引
き寄せて人目に触れるということになる。そこにシマ
フクロウを見たいという人が来るようになっている。
・毎年どのくらいの人がシマフクロウを見に来ている
かを表したグラフ。
・2000年から2013年の間に5倍以上に人が増えている。
・年間でいくと800人ぐらいの人が来る。
・シマフクロウに関心を持つ人が増えることは嬉しいが、給餌池や巣箱に人が近付きすぎる現状は
暮らしを妨げてしまう。
・そのために国の保護事業は、ずっとシマフクロウがどこにいるかという生息状況は、情報を非公
開にしてきた。
・しかし、見に来た普通の一般の人たちが情報を公開してしまうことで広まっている。
・どうしても一部の生息地では人が集中してしまい、放置しておけない状態になっている。国は給
餌場所や営巣地の周辺を立入禁止にして、人を近づけない努力をしてきた。
シマフクロウ生息地立ち入り禁止区域(VTR再生)
・ヒナのいる巣に人が近づくと親は警戒して、巣に戻ることも餌を取りに行くこともできない。
・侵入者に対して罰則を科すことができない現状では生息情報を公開できない。
・マフクロウと人の生活の場が重なってしまい、事故に遭う危険が高まっている。
・特に交通事故と感電事故は、保護事業が始まってからずっと、シマフクロウの死因のトップを占
めている。
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感電防止の止まり木と効果(VTR再生)
◆森と川の復元
・30年間ずっと給餌と巣箱に依存し続けているという保護事業というのは、けっして理想的ではな
い。
・本来、給餌と巣箱というのはあくまで応急処置で、何とかシマフクロウが持ちこたえている間に、
彼らが自活できる自然環境を整えていくのが保護の理想。
・失われてしまった自然環境を復元するというのは易しいことではないが、それでもそんな環境を
取り戻す努力が徐々に広がっている。
◆森を取り戻す試み
・シマフクロウの生息地のおよそ8割は、林野庁が管理する国有林にある。
・その国有林で天然の林の伐採が進んだことが、シマフクロウを絶滅の危機に追いやった要因のひ
とつ。
・1995年から国有林のシマフクロウの生息地を保護林とし、その中の天然の林は伐採しないように
なった。
・保護林の中で少しずつ、なくなってしまった広葉樹林を復元するための植樹を始めている。
・天然の森林が針広混交林なら針広混交林を使う。
・針葉樹の造林地を作るために天然の森林が減ったので、その広葉樹を復元する試みをしている。
広葉樹の復元植樹区域(VTR再生)
◆広葉樹復元の効果
・広葉樹は、葉っぱを虫が食べて、川に落ちた虫を魚が食べて、その魚をシマフクロウが食べると
いう食物連鎖につながる。
・広葉樹は大木になるまでに100年以上かかり、そこまで大きくなるとシマフクロウの巣穴になる
ようなウロができる。
・このような植樹は100年先を見据えた試みとして続けるべき。
・生態系のバランスがくずれて、現在エゾシカの数が増えすぎている。広葉樹の葉っぱや樹皮を好
んで食べてしまうので、一生懸命植えて育てていても結局育たないという問題が起こっている。
◆川の環境を取り戻す取り組み
・森の復元に比べると着手が遅れているが、知床でそのような取り組みが始まっている。
・知床には北海道のシマフクロウのおよそ4割が棲んでいるが、その主食になるサケ科の魚の遡上
を邪魔しないようにダムの改良が始まっている。
サケ科魚類の遡上を妨げない知床ダムの改良(VTRの再生)
・環境がよくなると、シマフクロウだけでなく、同じように魚を食べるオジロワシやオオワシ、ヒ
グマも、人に依存しないで野生の暮らしに戻っていくことができるはず。
・残念ながら知床以外の場所では進んでいないのが現状。多くのシマフクロウは、知床よりも自然
の恵みの乏しい生息地で、巣箱や給餌に依存して暮らしている。
・知床で蓄積されてきた手法が他の地域にも拡大することが望まれる。
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◆自然の恵みの乏しさ
・十勝川は、源流部から河口までに大きなダムだけで15個ある。全然魚が行き来できない状況で、
十勝川に棲むシマフクロウは、給餌に依存して暮らしている。
・広葉樹を一生懸命植樹しているが、伸びてもシカに食べられて、なかなか育たないという苦労を
している。
◆私たちはどのように関わっていけば良いのか
・野生動物を保護するときに地元の北海道民が理解し、協力しないと、発展させることはできない。
・シマフクロウを大切に思う気持ちが、行政を後押しして、保護の原動力になっていく。
・道民に参画してもらうことを促進するために、イン
ターネットの閲覧サイトを使って公開を始めてい
る。
・このアドレスとQRコードからアクセスすると、巣の
中の子育ての画像が出て、コメントがあるので、シ
マフクロウの生態についてもわかる。
・普段このような姿は見ることができないが、シマフ
クロウを身近に感じてほしい。
・巣の近くや給餌池をみんなが見ることで侵入者を抑止する効果も期待している。
・将来的には、この巣や給餌池の周辺の画像を公開し、広い範囲のシマフクロウの動きをライブで
見せることを目指している。
・繰り返しになるが、シマフクロウに悪影響を及ぼさない範囲で、行った人が観察できる機会を提
供することが必要。
◆公的管理の望ましい姿
・専門知識を持った方が、管理者として施設に常駐し、シマフクロウについての正しい知識を普及
させながら、勝手な行動をしないように、管理するというのが理想。
・人数や時期の制限は、考えていかなければいけないが、人数を制限し、知識を持った人が案内す
るという形であれば、不可能ではない。
・北海道では釧路市動物園、旭山動物園、円山動物園でシマフクロウを見ることができる。
・最寄りの動物園でじっくり見てほしい。
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