Title Author(s) Citation Issue Date Type 消費支出における職業効果の分析 神田, 祐一 一橋研究, 7: 1-6 1961-07-25 Departmental Bulletin Paper Text Version publisher URL http://hdl.handle.net/10086/6764 Right Hitotsubashi University Repository 消費支出における職業効果の分析 神 田 祓 一 序 消費支出は,基本的な要因たる所得,価格などの他に,社会的な条件によっても大きな影響を受けると考 えられるが,このような側面をも考慮に入れて分析を行った例は,あまり見当らないようである.小論は, このような社会的条件による差のひとつの例として,人々の従事する職業の相違が消費支出に及ぼす差を分 析しようとするものである.総理府統計局の「家計調査」による「世帯主の職業別の収入と支出」にかんす るデータをもとにし,5大費目にたいして職業効果を導入したエンゲル函数を計測し,分析をすすめること にした.1)以下の分析は,いくつかの単純化された仮定のもとになされたため,欠陥も存在する.得られた 結果は,暫定的なものとみなさるべきである.ただ分析当初に予期した結果は得られたことを附記しておく. より精密な分析は今後にゆずりたい・ 1 モデルの設定 分析の意図は,消費支出とその決定要因との関係を把えるエンゲル函数の中に,職業効果を導入すること である.したがって,個々の費目にたいする消費支出を,総消費支出,価格などの連続的な説明変数と,職 業という質的な要因とによって説明するための方法として,共分散分析を用いることにした.採用されたモ デルは,時間をくり返しに用いた・以下の1元配置の共分散分析によるモデルである. (1.1) θる∫=α十β〃zゴ十6‘十ξるゴ (る=1,…,ア;ゴ=1,…,c) ここで添字茗は職業を示し,γは職業がア種類あることを示す・またゴは,時間,すなわち当該年度を示 す.各変数は,通常のエンゲル函数の函数型にならって対数値である・したがって,吻はパという職業に 従事する人の第ブ年目におげる1ケ月平均の当該費目にたいする支出,yσは同じく,総消費支出, b‘は苞 という職業が当該費目の消費に及ぼす効果である・またξσは残差項であり,平均ゼロの正規分布に従うこ とを仮定する.このモデルによって,職業効果の有意性,すなわち (1.2) ∬o:6、=62=62=…=6。=0 という仮説を検定し,これが有意となった項目については,bるの推定値を求めることにした.またゴ=1,…,● 1) この分析にたいしては,溝口敏行氏をはじめとする多数の人々から,有益なるコメントをいただいた. ここに感謝の意を表したい.ただ,小論に含まれるかも知れぬ誤りは,すぺて私個人の責任である. 工 一 橋 研 究 第7号 はくり返しを示し,これには,各年次ごとのデータを重ねあわして用いることにした. ところで,分散分析を経済データに適用する際のひとつの大きな困難は,データの分割表の枠の中に含ま れるサンプル数が異るため,残差項ξηの等分散性が保証されないことである.この困難を回避するため, この分析では,(1.1)におけるα,β,6z@=1,…,のの推定値をサンプル数でウェイトをつけた加重回帰 の方法によって求めることにした. このモデルにおいて,今ひとつ問題となることは,変数の時間的変動を分散分析におけるくり返し手法で 処理したことである.経済変数の時間的変動は,むろんランダムであり得ない.このため,説明変数として, 価格体系の変化,トレンド項などを導入する他,時間的効果τゴ(ゴ=1,…,のを導入した2元配置モデル (1.3) θz∫=α十β防ゴ十6乞十ZJ (ゼ=・1,…,γ;ゴ=1,…,o) を用いるべきである・(1.3)は,連続的説明変数が1個の場合である.ところが,τゴを加えたことによって (1.3)の加重回帰による推定のための計算は,驚くほど複雑となる・少くとも通常の電動計算機では不可能 である.このため,(1.3)を加重回帰によらない通常の回帰分析の手法によって処理するという方法はある. しかし,これによって推定値の有効性は失われてしまう.以上のごとき事情のため,あえて(1.1)にもとつ く分析を行うことにした・また時間的な変動にたいする考慮としては,費目別の支出,及び総支出をそれぞ れ費目別物価指数と綜合物価指数でデフレートし,これら変数の物価変動による比例的な動きを除去するこ とにした.他方,価格体系の変化や,トレンド的要因は無視した.またθ亙やyガは世帯人員1人当りの値 であり,τで示される職業は世帯主の職業である.結局,(1.1)を詳細にかきなおしてみれば, (…)嘉,−A(毒、)β・騨 となる.(1.1)は(1.4)の両辺を常用対数値になおしたものである.ここで 疏ゴ:第ゴ年において,世帯主が職業zに従事する世帯の当該費目にたいする1ケ月平均支出 Yεゴ:同じく総消費支出 ハ句:第ゴ年において,世帯主が職業Zに従事する世帯の平均家族数 P」:当該費目物価指数の第」年の値 Pノ:綜合物価指数の第ゴ年の値 であり,Iog・4=αである.もしも,仮説(1.2)が受容され,職業効果が存在しないことになれば,(1.4) は通常の型のエンゲル函数となる・次に分析結果に移ろう. 皿 分 析 結 果 分析に用いられたデータは,総理府統計局「家計調査年報」の「世帯主の職業別全世帯1ケ月平均の収入 と支出(全都市平均)」の昭和29年から33年まで5ケ年のものである.またデフレータとして,同年報昭 和33年度記載の中分類別消費者物価指数(昭和30年基準,全都市)を用いた.費目別支出は費目別指数で, 総支出は綜合指数でそれぞれデフレートしたことは前言したとおりである.また職業分類は統計局の分類を そのまま用いた.5大費目のうち,食料費については,主食類(穀類)と副食類(その他)とにわけたデー タが利用できるので,両方について計測を行った. 表2.1.はエンゲル函数の計測を示す.費目ごとの推定値のうち,上段は職業効果を導入しなかった場合, 2 消費支出における職業効果の分析 すなわち,(1.1)においてbz=0(⇔1,…,のとおいた場合の結果である.下段は職業効果を導入した場合 の結果である.またF値に+の付された費目は,職業効果が1%で有意な費目,付されないものは5%で 有意でないものである.またβの推定値の括孤内の値は標準誤差である. この結果,食料費のうち穀類,及び被服費をのぞき,すべて1%で有意であり,穀類と被服費は5%で有 意でないことがわかった.有意となった費目にっいては,職業効果の推定値を求めた.この結果が表2.2に 示される. 得られた結果について若干の注釈を加えよう.まず食料費のうち,主食類にかんしては職業による支出の 差異は存在しない・他方,副食類にかんしては職業効果が存在する.そしてこの両老を綜合した場合,職業 効果が存在し,職業による支出のパターンは,副食類の場合とほぼ同じであるとみなしてよい.次に問題と なるのは,住居費の支出パターンである.表2.2.をみれば,社会的にみて低階級と考えられる職業の人々の 方が高階級の職業に従事する人々より支出額が大である.この一見常識的でないパターソは,「家計調査」 データが,持家世帯と,非持家世帯とに分けて集計されていないという,データ上の制約に負うものと考え られる・また両世帯が分離されていないこのデータにおいても,住居費がさらに家具什器(耐久消費財など) と家賃地代に分けて集計されているならば,分析結果は恐らく家具什器については表2.2の結果と反対のパ ターンを,また家賃地代は表2.2の結果と同じようなパターンを示すと考えられる、従ってこの両者を綜合 した住居費にかんしては,家賃地代のパターンが家具什器のパターンをりょうがして表2.2のごとき結果が 表われたというべきであろうか. 次に,光熱費と雑費について.光熱費にかんしてはほぼ常識をうらづける結果が得られたと考えられる・ 雑費にかんしては,さらにミクロの段階までくだって分析をすすめぬかぎり,支出パターンの特質は把握で きないようである. 皿 若干の問題点 以上の分析には,大別してふたつの制約が指摘できよう.ひとつは分析結果にかんするものであり,今ひ とつは分析方法上の問題である. まず分析結果にかんしては,住居費,雑費の両者はさらにミクロの段階までおりて分析をすすめなければ, 職業効果にかんして明瞭な特質を読みとることは困難である.他の費目についても同じようにさらにこまか く類別したデータについて分析を行えば,興味ある結果が得られると思う.次に,総消費支出を所得と関係 させた総消費函数を計測し,これにかんして職業効果を分析することも興味のあることである・しかし,こ の分析は,全世帯を対象としたデータにもとついているため,一般世帯,すなわち職業分類では商人職人, 経営者,自由業者,その他,無職に該当する人々の実収入にかんするデータが得られなかったので,行わな かった・以上,分析結果にかんするふたつの制約はいずれもデータ上の制約によるものである・ 次に分析方法上の問題としては,時間的変動をくり返し法で処理したことである.モデルに含まれる変数 は時間的に独立ではあり得ないので,この方法にはかなりの無理がある(溝口氏の指摘による)・しかし,2 元配置においてウェイトをつけた推定値を得ることはきわめて困難である.やむを得ず時間効果を無視した・ 時間効果は価格体系の変化やトレンド項を導入することによってかなり減じられると考えられる(辻村江太 郎氏の指摘による)が,これらの変数を導入するだけでも計算上かなりの困難を伴う.このような試みは今 3 一 橋研究 第7号 後にゆずりたい・最後に,分析に用いた共分散分析法の数学的側面を附録として加えよう・ 附 表 表2.1. エンゲル函数の計測 (+は1%有意を示す) ☆一_」 β 食料費(穀類) 食料費(その他) 食料費(綜合) 住 居 費 光 熱 費 被 服 費 雑 費 1 IA 命 .1216 (.0621) 1決定係数IF値 2.281×108 .1139 9,636x102 .2929 一 .0200 (、0633) 3.3581 2.9839 .8045 (.0735) .1979 1.577 .7945 ・8915 (.0744) .1224 1.326 .9896 .3422 (.1298) 2.1062 1.2015 一 .5877 (.1362) 1.27×102 1.591x10 .別32 一 2.5549 2.790x10−8 .7350 1.5274 (.1642) − 3.1727 6.720×10−4 .9548 一 1.0252 9.436×10−2 6.310×10−1 .6880 .7097 (.1301) − .2000 4.788◆ 3.407+ .5638 1.3596 (.1617) .9338 (.1240) 1.125 5.750+ 23333+ .9282 1.5046 (.1276) 一 2.8521 1.406×10 3 .8438 1.6875 (.1332) − 3.5256 2.982x10−4 .8980 1.5098 (.1776) 一 2.4092 3.888×10−8 .7841 、1.5408 (.1545) − 2.5334 2.996x10−8 .9774 .348 4.670+ 表2.2.職業効果の推定値 食料費 (その他) 食料費 (綜 合) 住居費 光熱費 雑 費 常用労務者 一 .0145 一 .0110 十.0489 一 .0551 臨時・日雇労務者 − 。0426 − ,0134 十.0795 − ,0446 − 民 間 職 員 − .0107 − .0205 − .0045 十.0029 十.0065 官 公 職 員 − .0178 − .0228 十.0026 十.0110 十.0195 商 人 職 人 十.0153 十.0082 − .0194 十.0250 − .0088 経 営 者 十.0284 十.0260 − .0679 十.0113 − .0373 自 由 業 者 十.0201 十.0085 − .1146 十.0696 − 0.433 そ の 他 十.0108 十.0080 十.0076 十.0432 − .0333 無 職 十.0246 十.0763 十.0392 十.0682 − .0298 十.0244 .0581 附 録 サンプル数でウェイトを付けた場合の共分散分析の方法:最初にくり返しの伴わない2元配置のモデル, すなわち (1.3) θε」=・α十β〃‘ゴ十6‘十¢ゴ十ξ‘ゴ(る=1,…,r;ゴ=1,…,¢) について述べよう.小論の分析では,b¢は職業効果,¢ゴは時間効果で,γ,¢はそれぞれこれらの要因の水 4 消費支出における職業効果の分析 準数である.θ伽助は2元表の枠の中のサンプル平均として与えられている,枠(Z,のにおけるサンプル数 をπηで示すことにしよう.そこで,α,β,bz@=1,…,め,¢ゴ(ゴ=1,…のを推定するためrこは,次の平方 和をこれらのパラメ{タにかんして最小ならしめなければならない. 4.1) Σ%‘」(θ‘ゴーα一β助一疏一Zブ)2 ザ 変数の加重平均を以下の記号で示すことにする.まずサンプル数の行和,列和,総和の記号としてそれぞれ Σ吻ゴ=ηz・,Σ翫ゴ=舵・ゴ,Σ物ゴ=π・・ 」 ゴ が を用い,次に各変数の行平均,列平均,総平均を,それぞれ (Σ翫」θの/伽=θか,(Σ物」θの/π・ゴ=θ・ゴ,(Σ%zブθの/π・・=a・ ノ エ リ (Σπ働の/η‘・=〃‘・,(Σ物ゴ〃のμ・1=的,(Σ物溜の/π・・=ツ・ 」 ‘ が とする・6‘,ちにかんする仮定として,ウェイトを付さない場合の仮定に対応させ (4.2) Ση/ブ6ドΣ舵z.6ド0,Σ窺ブZゴ=Ση・」¢ゴ=O z” ε ジ ノ を採用する1).この仮定のもとで,(4.1)をα,β,6/(』1,…,の,¢∫(グ=1,…,6)にかんして最小ならし めることにより,正現方程式 (4.3) 6≧=σ・一β跡. (4.4) θか一企一勧乞.−3‘一Σ(物舎〃/πの=0,ゴ=1,…,γ ’ (4.5) θ.ゴー∂一βμゴーΣ(物」;Z/拓D一舎プ=0,ゴ=1,…,o ’ (4.6) (Σ翫溜の/η..一企一β(Σ微ゴ抗ゴ2)/π..一(Σπ砲‘.εの/九.一(≧]πづ〃・鋪」)/π・・=0 づ’ ワ ‘ ノ を得る.このぴ十¢十2)個の方程式を解くことにより,パラメータの推定値が得られる.ここで(4.4)の 第5項以下及び(4.5)の第4項から(γ+3)項目までは,自乗和にウェイトを付したための修正項であり, このため計算はきわめて煩雑となる.そこで次に,むを無視し,時間的変化をくり返しに使った1元配置モ デル (1.1) θ‘ゴ・=α十β2ノるゴ十ξ‘∫ (ぜ=1ジ・・,γ;ゴ=1,… ,o) を考えてみる.仮定 (4.7) Σ%るゴb炉Σ翫.b声0 蓼 る のもとで2),加重自乗和 (4.8) Σ物」(θσ一α一β批ゴーbD2 び を最小ならしめ,正規方程式 1) 2元配置の分散分析との類推で,仮定(4.2)の両式のウェイト,たとえばb‘のウェイト,τ儒.はすぺての るの値についてほぼ等しい値をとらなければならないことがわかる.またちのウェイトη.∫についても同 じである.したがって,サムプル数が行和毎,列和毎にほぼ同数となるように2元表を適当に統合する必 要がある(この点は宮川公男氏に負う). 2) 1元配置の場合には,モデルの仮定(4.7)が本来サムプル数の相違を考慮してなされているので,b‘の ウェイト物.は‘の値について異っていてかまわない. 5 一 橋 研 究 第7号 (4.9) 4=巳・一白ツ. (4.10) 6z=(θか一《克・)一声}(”τ’一鈷’) (4.11) Σ物ゴθ儒鋤ゴー愈Σ物鋤ブー嵩Σ翫ぴ」2一Σ3‘Σ物肪ゴ=0 ガ ガ が ‘ 元 を得る.これを解いて,βの推定値として (4.12) β={Σ]?τ¢ゴ(yzゴー2ノか)(θ‘ゴーθ乞・)}/{Σγ碗ゴ(”ZJ−yか)2} ‘グ が を得,これを(4.9),(4.10)に代入して,α,6τ@=1,…,のの推定値∂,;‘@=1,…,γ)を得る.これらの 推定値によっては説明されないθσの変動部分,すなわち残差平方和は,旬の全変動と推定値によって説明 される部分の差として次式であらわされる. (4.13) Σ]物ゴξ¢12=Ση包砲」(θzゴー塗一勘/ノーbの=Σ微1θ包」2_Σ物吟ゴぼ十勧るゴ十3∂ 8’ η り η (γo一アー1) (㌍o) (γ十1) =Σ%吻ゴ2一丑1ぼ,β,舎の η (γ¢) (γ十1) 括孤内は自由度である.品は回帰によって説明される部分である,一方,仮説 (1.2) 」ぼo:61=b2=…=6ア のもとでは,モデルは (4.14) θ亙=αo十βoyzプ十εεゴ(o) で与えられる.これは,通常の加重回帰の方法で推定値が求められる.この推定値をαo,β①としよう.こ れらの推定値にょっては説明されないθηの変動部分は,θ/」の全変動と,回帰(4.14)で説明される部分 との差として (4.15) Σ物1ξ/ゴ(o)2=Σ物JW(θzノーα〇一βo”の=Σ物胸ゴ2一Σ翫元(αo十βo”の 念1 η η るフ (夕o−2) (γc) (2) =ΣπzゴθzノーRo(αo,βo) ∂ ぴc) (2) と表わされる.Roは回帰による説明部分である.(4.13),(4.15)にもとづき共分散分析表を作成する(表 4.1.). 表4.1.共分散分析表 変動因1・由度1平均平方已値 αo,βo 2 b‘ (ゲ十1)−2=γ一1 1e1−Ro81= ゲー1 (ア6−2)一(γ一1) 残 差 =ア6−r−1 6 Ση‘角」2−R1 82=η ro一γ一1 F=旦 82
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