第9章 9.1 9回目 剛体の運動 (2) 慣性モーメント続き 重心まわりの慣性モーメントと、任意の点のまわりの慣性モーメントの関係 I = IG + M h 2 (9.1) となる。I はある回転軸のまわりの慣性モーメント、IG は重心を通る回転軸まわりの慣性モーメント、h は2つの 回転軸の距離、M は剛体の質量である。 この式は、2つの回転軸が平行な場合について言っている。 回転軸を z 軸 (x = y = 0) として、重心の位置を (xG , yG ) とする。 ∫ I= (x2 + y 2 )ρ(x, y, z)dxdydz (9.2) である。これを (xG , yG ) 中心で書き直せば、 ∫ ( ) 2 2 I= (x − xG + xG ) + (y − yG + yG ) ρ(x, y, z)dxdydz 自乗すると3項でるが、1 項目は、 ∫ ( I1 = 2 (x − xG ) + (y − yG ) 2 (9.3) ) ρ(x, y, z)dxdydz (9.4) これは IG 。 2項目は、 ∫ ( I2 = 2 (xG ) + (yG ) 2 ) ) ( 2 ρ(x, y, z)dxdydz = x2G + yG ∫ ρ(x, y, z)dxdydz = M h2 (9.5) なので M h2 。 3項目のクロスタームは、 ∫ I3 = (−2(x − xG )xG − 2(x − xG )xG ) ρ(x, y, z)dxdydz ∫ = −2xG (9.6) ∫ (x − xG ) ρ(x, y, z)dxdydz − 2yG (y − yG ) ρ(x, y, z)dxdydz この積分は、重心の定義から、 ∫ ∫ (x − xG ) ρ(x, y, z)dxdydz = M xG − xG ρ(x, y, z)dxdydz = M xG − xG M = 0 (9.7) (9.8) y を含む積分も同様。よって示せた。 9.2 運動エネルギー、仕事、角運動量、力積 回転体の運動エネルギーは、角速度 ω = θ˙ のとき、前のように回転体が質点2つのようなものであれば、運動 エネルギーは E= 1 1 I m1 (r1 ω)2 + m2 (r2 ω)2 = ω 2 2 2 2 32 (9.9) である。これは質点を増やしても同じなので、エネルギーはこの式でいい。これを時間微分すると、 I dE d2 θ dθ = 2 dt dt dt (9.10) よって、 d2 θ dE = 2 dt dθ ところで、N のモーメントで θ まわした時の仕事は N θ であるから、E = N θ で、 I I dE d2 θ = =N dt2 dθ (9.11) (9.12) となり、質点の場合と同様にエネルギー保存の時間微分は運動方程式を与える。 運動量と力積の関係については、接線方向の運動量に距離をかけたものが角運動量、というのは前にやった。mi の質点が複数個あるばあいで書くと角運動量 L は、 ∑ ∑ ∑ L= m i vi r i = mi (ri ω)ri = ( mi ri2 )ω = Iω (9.13) とかけて、I は慣性モーメントである。 運動方程式は dL = N, L = I θ˙ dt (9.14) L = mr2 θ˙ = mr2 ω = mrv∥ (9.15) と書ける。単一の質点であれば、 で、惑星で扱った面積速度を2倍して m をかけたものである。 質点の運動量であれば、力積によって増減するので、角運動量の増減は、加える力のモーメント×時間で決まる。 加わる力のモーメントがなければ L は保存する。 例題 実体振り子 糸でなく、剛体でできた振り子を実体振り子という 運動方程式は (I + M h2 ) d2 θ = −M gh sin θ dt2 (9.16) θ が小さければ sin θ = θ とすれば解けて、周期は、 √ T = 2π I + M h2 M gh (9.17) となる。 θ が大きくなるといろいろ難しい。まずは保存則を考えると、これは中心力でないので、角運動量保存は成り立 たない。エネルギー保存は dθ 1 (I + M h2 )( )2 − M g cos θ = E (9.18) 2 dt これを θ で積分すると、楕円関数が出てくる。 9.3 運動方程式 (3) 回転軸が動く これまでは回転軸が固定されている場合を考えてきたが、ここでは回転軸が固定されておらず、移動できる場 合を考える。 まず、3つの質点からなる系を考察する。3つの質点は、軽い棒でつながれていて、互いに力を及ぼしあう。ま ず最初に、互いの力だけが働いていて、外部からの力はないとする。そうすると、3つの質点の運動方程式は、 m1 d2⃗r1 = F⃗21 + F⃗31 dt2 33 (9.19) d2⃗r2 = F⃗12 + F⃗32 dt2 d2⃗r3 m3 2 = F⃗13 + F⃗23 dt となる。ところで作用反作用の法則があるので、これを3つ足した式は、 m2 d2 (m1⃗r1 + m2⃗r2 + m3⃗r3 ) = 0 dt2 (9.20) (9.21) (9.22) まえに使った重心の定義 rG = m1⃗r1 + m2⃗r2 + m3⃗r3 m1 + m2 + m3 (9.23) を使えば、 d⃗rG =0 (9.24) dt2 である。つまり、重心の速度は、外力がなければ一定である。重心の位置は、もともと静止していれば静止を続 (m1 + m2 + m3 ) け、等速運動していれば、等速運動を続ける。 次に、この系に偶力を加えてみる。m1 と m2 に逆方向の力を加える。そうすると、3つの質点の運動方程式は、 m1 d2⃗r1 = F⃗21 + F⃗31 + F⃗G dt2 d2⃗r2 = F⃗12 + F⃗32 − F⃗G dt2 d2⃗r3 m3 2 = F⃗13 + F⃗23 dt m2 (9.25) (9.26) (9.27) これを合計して得られる式は、 (m1 + m2 + m3 ) d⃗rG =0 dt2 (9.28) となり、やはり重心は、加速度がない。 次に、この系に外力を加える。m1 力を加えてみる。そうすると、3つの質点の運動方程式は、 m1 d2⃗r1 = F⃗21 + F⃗31 + F⃗ex dt2 d2⃗r2 = F⃗12 + F⃗32 dt2 d2⃗r3 m3 2 = F⃗13 + F⃗23 dt m2 (9.29) (9.30) (9.31) 単純に合計すれば、 d⃗rG = F⃗ex (9.32) dt2 なので、この3つの物体の重心の運動は、m1 + m2 + m3 の質点の運動と同じということになる。(回転を除く。) ⃗ を、重心のところに ± つけて、 重心の運動はわかったので、残りは重心まわりの回転である。これは、元の F (m1 + m2 + m3 ) 重心にかかる力と、偶力の和と考えればよい。(この操作は重心以外の位置でも可能だが、そうすると上の運動方 程式とつながらない。)重心周りの回転なので、モーメントは F r で、r は重心と F の作用線の距離である。回転 の運動方程式は前に求めたので、この場合は並進と回転の2つの方程式が求まって、それを解けばいい。 まとめると、回転軸が固定されていなければ、運動方程式は2つあって、並進 (3次元なので3方向) は、 d2⃗rG = F⃗ dt2 (9.33) d2 θ = N = F r sin ϕ dt2 (9.34) M 回転は IG のようになる。 34 9.4 運動エネルギー(再) 並進運動と回転運動の方程式が分離したので、この場合の運動エネルギーは、並進運動の運動エネルギーと回 転運動の運動エネルギーの和になるはずである。とはいえ運動エネルギーは線型でなく速度の自乗なので、この 予想は自明でなく、示しておく必要がある。 剛体を mi の質点の集合と思えば、運動エネルギー K は、 2K = ∑ ( mi d⃗ri dt )2 (9.35) rG 中心に書き直す。 2K = ∑ 3項出てくる。1項目は、 2K1 = )2 d (⃗ri − ⃗rG + ⃗rG ) dt (9.36) )2 d (⃗ri − ⃗rG ) dt (9.37) )2 ( )2 d d (⃗rG ) = M (⃗rG ) dt dt (9.38) ( mi ∑ ( mi これは重心まわりの回転の運動エネルギーである。 2項目は、 2K2 = ∑ ( mi となり、重心の並進運動のエネルギー。 3項目のクロスタームは、内積を使って、(余弦定理でも) 2K3 = ∑ ( mi d (⃗ri − ⃗rG ) · ⃗rG dt ) (9.39) 和を中にいれれば 2K3 = ) ∑ d (∑ d mi⃗ri − mi⃗rG · ⃗rG = (M⃗rG − M⃗rG ) · ⃗rG = 0 dt dt (9.40) よって示せた。 これは I = IG + M h2 の証明と同じであった。 また、例として、振り子の運動エネルギーは、 K= 1 2 1 1 1 1 Iω = IG ω 2 + M h2 ω 2 = IG ω 2 + M v 2 2 2 2 2 2 なので、「重心周りの回転」と「並進」の和になっていることもわかる。 35 (9.41)
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