正規分布の和を直接計算 1 正規分布の密度関数 独立な2つの正規分布に対して、和がやはり正規分布になることを示す。証明の方法はいくつか知られてい るが、直接計算しても導かれることをつぎで示そう。 確率変数 X, Y は独立であり、X ∼ N (µ1 , σ12 ), Y ∼ N (µ2 , σ22 ) ならば、X + Y ∼ N (µ1 + µ2 , σ12 + σ22 ) (証明)まず和の公式: ∫ fX+Y (z) = ∞ −∞ fX (z − y)fY (y)dy をもちいる。積分される関数は ) ( 1 (y − µ2 )2 (z − y − µ1 )2 − exp − 2πσ1 σ2 2σ12 2σ22 ) ( 1 (y − µ2 )2 1 (z − y − µ1 )2 = + } exp − { 2πσ1 σ2 2 σ12 σ22 fX (z − y)fY (y) = この指数部を計算していくと、 } } (z − y − µ1 )2 (y − µ2 )2 1 { 1 { + = 2 y 2 − 2(z − µ1 )y + (z − µ1 )2 + 2 y 2 − 2µ2 y + µ22 2 2 σ1 σ2 σ σ (1 ) ( ) 2 1 1 z − µ µ (z − µ1 )2 µ22 1 2 2 = + y − 2 + y + + σ12 σ22 σ12 σ22 σ12 σ22 ( ) B 2 B2 = Ay 2 − 2By + C = A y − − +C A A ここで A= 1 1 σ2 + σ2 + 2 = 1 2 22, 2 σ1 σ2 σ1 σ2 B= z − µ1 µ2 + 2, σ12 σ2 C= (z − µ1 )2 µ2 + 22 とおく。さらにこれを計算 2 σ1 σ2 する。 ) (z − µ1 )2 µ22 − + 2 σ12 σ2 ( ) 2 2 2 2 2 σ σ (z − µ1 ) (z − µ1 )µ2 µ (z − µ1 )2 µ2 = 21 2 2 +2 + 24 − − 22 4 2 2 2 σ1 + σ 2 σ1 σ1 σ2 σ2 σ1 σ2 2 2 1 2 µ22 σ2 1 σ1 2 (z − µ1 )2 2 = 2 (z − µ ) + µ − − (z − µ )µ + 1 1 2 2 σ + σ22 σ12 σ12 + σ22 σ12 + σ22 σ22 σ12 σ22 } { } {1 2 2 σ2 1 z − µ1 1 σ1 1 1 − 2 (z − µ1 )2 + 2 2 µ2 + − 2 µ22 = σ12 + σ22 σ12 σ1 σ1 + σ22 σ12 + σ22 σ22 σ2 −1 z − µ1 −1 = 2 +2 2 µ2 − 2 µ2 σ1 + σ22 σ1 + σ22 σ1 + σ22 2 −1 (z − µ1 − µ2 )2 = 2 σ1 + σ22 σ2 σ2 B2 −C = 21 2 2 A σ1 + σ 2 ( µ2 z − µ1 + 2 2 σ1 σ2 )2 ( 1 したがって指数部は ( )2 ( B )2 B 2 σ2 + σ2 B −1 (z − µ1 − µ2 )2 A y− − +C = 1 2 22 y − + 2 A A σ1 σ2 A σ1 + σ22 正規分布の密度関数は積分をすると1になることから、 ) ( √ (x − µ)2 exp − dx = 2πσ 2 2σ −∞ ∫ ∞ 右辺は µ に依存しないことに注意する。つまり ( ) √ 1 σ2 + σ2 B σ1 σ2 exp − 1 2 2 2 (y − )2 dy = 2π √ 2 2 σ1 σ2 A σ1 + σ22 −∞ ∫ ∞ したがって ∫ fX+Y (z) ∞ = −∞ = = fX (z − y)fY (y)dy ( ) ( ) B 2 1 σ12 + σ22 (z − µ1 − µ2 )2 (y − ) dy × exp − exp − 2 σ12 σ22 A 2(σ12 + σ22 ) −∞ ) ( (z − µ1 − µ2 )2 1 exp − √ √ 2 2(σ12 + σ22 ) 2π σ1 + σ22 1 2πσ1 σ2 ∫ ∞ 最後の式は X + Y ∼ N (µ1 + µ2 , σ12 + σ22 ) に対する密度関数であることを示している。(証明終わり) 問 1.1 定数 a, c に対し、確率変数 X が X ∼ N (µ, σ 2 ) ならば、 aX + c ∼ N (aµ + c, a2 σ 2 ) であることを示せ。 問 1.2 定数 a, b に対し、確率変数 X, Y は独立であり、X ∼ N (µ1 , σ12 ), Y ∼ N (µ2 , σ22 ) ならば、 aX + bY ∼ N (aµ1 + bµ2 , a2 σ12 + b2 σ22 ) であることを示せ。 2 密度関数の計算 正規分布の密度関数が積分して、1に等しくなることの証明は初等的にはたいへん難しい。多く用いられる ∫ ∞ のは、ガンマ関数 Γ(α) = xα−1 e−x dx, α > 0 において、Γ(1/2) = √ π となることがよく知られている。 0 またこの積分値を計算のために ϕ(x)ϕ(y) を考えて、この 2 変数関数 (x, y) の 2 重積分を極座標変換すること も積分の練習問題としてよく使われる。ここではある関数を微分して定数になるから、恒等式の関係を満たす ことがわかり、この極限を計算することで、正規分布の密度関数積分、あるいはパラメータ 1/2 のガンマ関数 計算値として得られることを述べる。この関係式は S.B.Daniel(Cambridge Univ.) による。 1 −x2 /2 e に対して 2π 密度関数 ϕ(x) = √ ∫ ∞ ϕ(x)dx = 1 を満たす。 −∞ 2 (証明)すべての x > 0 に対して (∫ ∞ e−t dt 2 )2 ∫ ∞ + 0 0 e−x (1+t ) π dt = 1 + t2 4 2 2 を満たす。なぜならば、変数 x で微分をすると、左辺の第 1 項は 2e−x 2 ∫x 0 e−t dt であり、これは第 2 項を微 2 分して変数変換したものに符号を変えたものに等しい。したがってその和はゼロとなる。すなわち元の第 1 項 と第 2 項の積分の和は定数であることがわかる。このとき x = 0 とすれば、 ∫ ∞ x → ∞ とおけば、 0 e−x (1+t ) dt → 0 だから、 1 + t2 2 2 (∫ ∞ e−t dt 2 )2 0 = ∫1 0 dt π = tan−1 1 = さらに 2 1+t 4 π となり、証明される。 4 問 2.1 一般 N (µ, σ 2 ) の場合には変数変換を行う。これを示せ。 問 2.2 ∫ ∞ ガンマ関数において Γ(1/2) = √ xe−x dx = √ π の関係式は正規分布の密度関数を積分することと同じで 0 あることを確かめよ。 問 2.3 2項分布においても独立ならば、和を保存する性質(再生性)をもつ。これを示せ。X ∼ Binom(n, p), Y ∼ Binom(m, p) ならば、X + Y ∼ Binom(n + m, p) が成り立つ。 問 2.4 幾何分布(負の 2 項分布) 、指数分布(ガンマ分布)などについてもこのような再生性をもつ。分布の密度関数 を調べて直接計算してみよ。 3
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