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集合に群構造が入ることと選択公理
alg-d
http://alg-d.com/math/ac/
2014 年 8 月 9 日
定理. 選択公理 ⇐⇒ 任意の非空集合 X に群構造を入れることができる.
証明. (=⇒) X が有限集合の時は自明 (Z/nZ を考えればよい) だから,X は無限集合と
する.Pfin (X) := {x ⊂ X | x は有限集合 } とする.選択公理より,|X| = |Pfin (X)|,即
ち全単射 X −→ Pfin (X) が存在する.
※ 実は「任意の無限集合 X に対し |X| = |Pfin (X)|」は選択公理と同値である.証明
は基数の性質の定理 9 を参照.
よって Pfin (X) に群構造を入れられることを示せばよい.
自然な同一視 P(X) = 2X で考えると
Pfin (X) = { f ∈ 2X | 有限個の x ∈ X を除いて f (x) = 0 }
である.2 = {0, 1} = Z/2Z は体だから,それの直積である 2X は自然に環となる.この
とき明らかに Pfin (X) ⊂ 2X は (加法についての) 部分群である.故に Pfin (X) に群構造
を入れることができた.
※ 同じことだが,直接演算を定義しても証明できる.Pfin (X) 上の二項演算を対称差
△ で定義する.(これが 2X での加法に対応する.) 即ち
x△y := (x ∪ y) \ (x ∩ y) = (x ∪ y) ∩ (xc ∪ y c )
である.すると (Pfin (X), △) は群になる.
. .
. ) x△∅ = ∅△x = x より ∅ ∈ Pfin (X) が単位元.x△x = ∅ より x−1 = x.故
1
に結合律を示せばよい.x, y, z ∈ Pfin (X) に対し
(x△y)△z = [(x ∪ y) ∩ (xc ∪ y c )]△z
= ([(x ∪ y) ∩ (xc ∪ y c )] ∪ z) ∩ ([(x ∪ y) ∩ (xc ∪ y c )]c ∪ z c )
= ([(x ∪ y) ∪ z] ∩ [(xc ∪ y c ) ∪ z]) ∩ ([(xc ∩ y c ) ∪ (x ∩ y)] ∪ z c )
= ([x ∪ y ∪ z] ∩ [xc ∪ y c ∪ z]) ∩ ((xc ∩ y c ) ∪ (x ∩ y) ∪ z c )
= (x ∪ y ∪ z) ∩ (xc ∪ y c ∪ z) ∩ (xc ∪ y ∪ z c ) ∩ (y c ∪ x ∪ z c )
= (x ∪ y ∪ z) ∩ (x ∪ y c ∪ z c ) ∩ (xc ∪ y c ∪ z) ∩ (xc ∪ y ∪ z c )
= (x ∪ [(y ∪ z) ∩ (y c ∪ z c )]) ∩ (xc ∪ (y c ∩ z c ) ∪ (y ∩ z))
= (x ∪ [(y ∪ z) ∩ (y c ∪ z c )]) ∩ (xc ∪ [(y c ∩ z c ) ∪ (y ∩ z)])
= (x ∪ [(y ∪ z) ∩ (y c ∪ z c )]) ∩ (xc ∪ [(y ∪ z) ∩ (y c ∪ z c )]c )
= (x ∪ (y△z)) ∩ (xc ∪ (y△z)c )
= x△(y△z).
故に結合律が成り立つ.
(⇐=) 整列可能定理を示す.X ̸= ∅ を任意の集合とする.単射 λ −→ X が存在しない
ような順序数 λ が存在するので,そのような λ を 1 つ取っておく.
※ λ := {β : 順序数 | 単射 β −→ X が存在する } と置けばよい.順序数・濃度の簡単
なまとめを参照.
仮定により X ∪ λ を群にすることができる.(その積を · とする.) このとき
任意の x ∈ X に対して,あるα ∈ λが存在して x · α ∈ λ
が成立する.
. .
. ) x ∈ X とする.写像 f : λ −→ X ∪ λ を f (α) := x · α で定義すれば,これは積
· の性質により単射となる.よって,λ の取り方から Im f ̸⊂ X でなければならない.
故にある α ∈ λ が存在して x · α = f (α) ∈
/ X ,即ち x · α ∈ λ である.
さて,直積 λ × λ に辞書式順序を入れる.するとこれは整列順序になる.そこで
g : X −→ λ × λ を
g(x) := min{⟨α, β⟩ ∈ λ × λ | x · α = β}
と定義すると,g は単射であり,よって X は整列可能である.
この定理を見てすぐに思いつくのは,「群」の部分を環や体などの別の構造にしたらど
うなるか,という問題である.まず次の 2 点に注意する.
2
(1) Pfin (X) ⊂ 2X は積についても閉じている.故に Pfin (X) は (単位元を持たない) 可
換環になる.
※ P(X) の ∩ が 2X の積に対応している.勿論,先ほどと同様に直接 (Pfin (X), △, ∩)
が環になることを示すこともできる.
(2) ⇐= の証明には積 · から得られる写像が単射であることしか使っていない.特に,
積·が
任意の x, y, z に対して x · y = x · z =⇒ y = z
任意の x, y, z に対して x · z = y · z =⇒ x = y
という性質を満たしていれば先の証明は実行できる.(この条件を満たすことを消約
(cancellative) と言うことにする.)
(1)(2) より次の系が分かる.
系. 次の命題は (ZF 上) 同値.
1. 選択公理
2. 任意の非空集合に消約亜群 (亜群=magma=二項演算を持つ集合) の構造を入れる
ことができる.
3. 任意の非空集合に消約半群の構造を入れることができる.
4. 任意の非空集合に消約アーベル半群の構造を入れることができる.
5. 任意の非空集合に quasigroup (∀a, b∃x, y(a · x = b, y · a = b) を満たす消約亜群)
の構造を入れることができる.
6. 任意の非空集合に loop (単位元を持つ quasigroup) の構造を入れることができる.
7. 任意の非空集合にアーベル群の構造を入れることができる.
8. 任意の非空集合に (単位元の存在を仮定しない) 可換環の構造を入れることができ
る.
更に,次のことも分かる.
定理. 次の命題は (ZF 上) 同値.
1. 選択公理
2. 任意の集合に単位的可換環の構造を入れることができる.
3. 任意の無限集合に整域の構造を入れることができる.
4. 任意の無限集合に体の構造を入れることができる.
3
証明. 4=⇒3 と 3=⇒2 と 2=⇒1 は明らかだから,1=⇒4 を示せばよい.その為には無限
集合 X に対して |X| = |Q(X)| を示せばよい.
まず明らかに |X| ≤ |Q(X)| である.α ∈ Q に対して
Aα := {αx1 · · · xn | n ∈ N, xi ∈ X} ⊂ Q(X)
と置けば
(∪
) ∪
Aα ≤ ℵ0 · |A1 | = |A1 |
Aα = |Q(X)| ≤ Pfin
α∈Q
α∈Q
だから |A1 | ≤ |X| を示せばよい.
有限集合 Y = {x1 , . . . , xn } ⊂ X に対して BY := {xe11 · · · xenn | ei > 0} と書く.この
∪
とき A1 =
|Y |
BY である.今,|BY | = ℵ0
= ℵ0 だから
Y ∈Pfin (X)
|A1 | =
∑
Y ∈Pfin (X)
|BY | =
∑
ℵ0 = |Pfin (X)| · ℵ0 = |X| · ℵ0 = |X|
Y ∈Pfin (X)
である.
参考文献
[1] Does every non-empty set admit a group structure (in ZF)? - MathOverflow
[2] H. Rubin and J. Rubin, Equivalents of the axiom of choice, II, North Holland,
1985.
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