2014年5月20日 M 微分幾何学(藤岡敦担当)授業資料 1 §6. Levi-Civita 接続 Euclid 空間上のベクトル場は単に関数を幾つか並べたものとみなすことができるから, その微 分は普通の関数の微分のように行うことができる. これを多様体上のベクトル場に対して一般 化し, 接続というものを考えることができる. ここでは Euclid 空間の部分多様体の Levi-Civita 接続について述べよう. M を Rn の m 次元 C ∞ 級部分多様体, ι を M から Rn への包含写像とし, p ∈ M とする. このとき, p における接空間 Tp M は Rn の部分空間と同一視することができる. すなわち, p に おける ι の微分 (dι)p : Tp M → Tι(p) Rn により, Tp M を (dι)p の像と同一視し, Tι(p) Rn を自然に Rn と同一視するのである. 更に, Rn の標準計量を用いて Tp M の直交補空間を考えることができるから, Rn の直交直和分解 Rn = Tp M ⊕ Tp⊥ M (∗) が得られる. すなわち, 任意の v ∈ Rn は v = v1 + v2 (v1 ∈ Tp M, v2 ∈ Tp⊥ M ) と一意的に表され, v1 と v2 は直交する. 上の同一視により, X ∈ X(M ) は C ∞ 級写像 X : M → Rn とみなすことができる. このとき, X の各成分は C ∞ 級関数であるから, 成分毎に外微分を考え, X の外微分 dX を定め ることができる. dX は Rn に値をとる 1 次微分形式である. 更に, 上の直交直和分解を用いて, dX = ∇X + AX と表すことができる. ただし, 各 p ∈ M において ∇X は Tp M に値をとる 1 次微分形式で, AX は Tp⊥ M に値をとる 1 次微分形式である. 特に, ∇ は X(M ) × X(M ) から X(M ) への写像を定める. ∇ が M の Levi-Civita 接続である. 以 下では ∇ の性質を調べて行こう. なお, この写像は X, Y ∈ X(M ) に対して (∇X)(Y ) のように 表すべきであるが, 習慣に従い ∇Y X と表す. ∇Y X を X の Y に関する共変微分という. また, ここでは詳しくは述べないが, A は M の第二基本形式というものを定める. 定理 X, Y, Z ∈ X(M ), f ∈ C ∞ (M ) とすると, 次の (1)∼(4) がなりたつ. (1) ∇Y +Z X = ∇Y X + ∇Z X. (2) ∇f Y X = f ∇Y X. (3) ∇Z (X + Y ) = ∇Z X + ∇Z Y . (4) ∇Y (f X) = (Y f )X + f ∇Y X. 証明 (1), (2), (3): ほとんど明らか. (4): まず, d(f X) = df · X + f dX. ∇ の定義より, ∇(f X) = df · X + f ∇X. §6. Levi-Civita 接続 2 よって, ∇Y (f X) = ((df )(Y ))X + f ∇Y X = (Y f )X + f ∇Y X. 直交直和分解 (∗) は M の Riemann 計量を定めることにも注意しよう. g をこの Riemann 計量 とする. すなわち, g ははめ込み ι による誘導計量である. X, Y ∈ X(M ) とし, これらを上のように X, Y ∈ C ∞ (M, Rn ) と同一視しておく. 各 p ∈ M において AX , AY は Tp⊥ M に値をとることに注意すると, dhX, Y i = hdX, Y i + hX, dY i = h∇X, Y i + hX, ∇Y i. よって, 次がなりたつ. 定理 X, Y, Z ∈ X(M ) とすると, Xg(Y, Z) = g(∇X Y, Z) + g(Y, ∇X Z). 上の定理のような性質のことを ∇ は g を保つ, または計量的であるなどという. §2 においても触れたが, 多様体上のベクトル場に対しては括弧積というものを定義することが できる. ここではもう少し詳しく述べよう. X, Y ∈ X(M ) とする. (U, ϕ) を M の座標近傍とし, ϕ = (x1 , x2 , . . . , xm ) と表しておくと, X, Y はこの座標近傍を用いて X= m ∑ i=1 ∑ ∂ ∂ ξi , Y = ηi ∂xi ∂xi i=1 m と表すことができる. f ∈ C ∞ (M ) とすると, Y (Xf ) = Y ( m ∑ i=1 ∂f ξi ∂xi ) ( ) ∂f = Y ξi ∂xi i=1 ( ) m ∑ m ∑ ∂f ∂ = ξi ηj ∂x ∂xi j i=1 j=1 ( ) m ∑ ∂ξi ∂f ∂ 2f = ηj + ηj ξi . ∂xj ∂xi ∂xj ∂xi i,j=1 m ∑ 同様に, ) m ( ∑ ∂ηi ∂f ∂ 2f X(Y f ) = ξj + ξj ηi . ∂xj ∂xi ∂xj ∂xi i,j=1 §6. Levi-Civita 接続 よって, 3 ) m ( ∑ ∂ξi ∂f ∂ηi ∂f X(Y f ) − Y (Xf ) = ξj − ηj . ∂xj ∂xi ∂xj ∂xi i,j=1 以上の計算より, XY − Y X ∈ X(M ) を ) m ∑ m ( ∑ ∂ηi ∂ξi ∂ XY − Y X = ξj − ηj ∂xj ∂xj ∂xi i=1 j=1 により定める. これを [X, Y ] と表し, X と Y の括弧積という. M 上のベクトル場を ι の微分で写したとき, 括弧積がどのように表されるのかを調べてみよう. まず, ι を上の座標近傍と Rn の座標 (y1 , y2 , . . . , yn ) を用いて ι(x1 , x2 , . . . , xm ) = (y1 , y2 , . . . , yn ) と表しておく. このとき, n ∑ m ∑ ∂yk ∂ (dι)∗ X = ξi ∂xi ∂yk k=1 i=1 である. 同様に, (dι)∗ Y = m n ∑ ∑ k=1 i=1 ) m ( n ∑ ∑ ∂yk ∂ ∂ηi ∂ξi ∂yk ∂ ηi ξj , (dι)∗ [X, Y ] = − ηj . ∂xi ∂yk ∂xj ∂xj ∂xi ∂yk k=1 i,j=1 ここで, ) ( ) ( )} m ( m { ∑ ∑ ∂ηi ∂ξi ∂yk ∂ ∂yk ∂ ∂yk ξj − ηj = ξj ηi − ηj ξi ∂x ∂x ∂x ∂x ∂x ∂x ∂xi j j i j i j i,j=1 i,j=1 に注意すると, [X, Y ] = (dY )(X) − (dX)(Y ) = ∇X Y + AY (X) − (∇Y X + AX (Y )) = ∇X Y − ∇Y X + AY (X) − AX (Y ). [X, Y ] ∈ X(M ) だから, 次がなりたつ. 定理 X, Y ∈ X(M ) とすると, 次の (1), (2) がなりたつ. (1) [X, Y ] = ∇X Y − ∇Y X. (2) AY (X) = AX (Y ). 上の (1) のような性質のことを ∇ は捩れがないなどという. Levi-Civita 接続は一般の Riemann 多様体に対しても定義することができる. このときも接続は 計量的で捩れをもたないものとして特徴付けられる. §6. Levi-Civita 接続 4 関連事項 6. Lie 微分 Lie 微分とは一般には多様体上のテンソル場というもののベクトル場による微分として定義さ れるものである. ここではベクトル場のベクトル場による Lie 微分について述べよう. M を n 次元 C ∞ 級多様体とし, X ∈ X(M ) とする. 簡単のため, X は完備であると仮定する. す なわち, 任意の p ∈ M に対して R で定義された X の積分曲線 γ ∈ C ∞ (R, M ) で γ(0) = p とな るものが存在する. 積分曲線の定義より, 任意の t ∈ I に対して γ 0 (t) = Xγ(t) である. このとき, X の生成する 1 パラメータ変換群 {ϕt }t∈R が存在する. すなわち, 任意の t ∈ R に対 して ϕt は M から M への C ∞ 級微分同相写像で, 次の (1)∼(3) がなりたつ. dϕt (p) (1) 任意の p ∈ M に対して Xp = . dt t=0 (2) 任意の s, t ∈ R に対して ϕs ◦ ϕt = ϕs+t . (3) (t, p) ∈ R × M から ϕt (p) ∈ M への対応は直積多様体 R × M から M への C ∞ 級 写像を定める. 特に, ϕ0 は恒等写像で, 任意の t ∈ R に対して ϕ−t = ϕ−1 がなりたつ. t 1 パラメータ変換群の定義より, 各 p ∈ M に対して線形同型写像 (dϕ−t )ϕt (p) : Tϕt (p) M → Tp M が定まる. そこで, X, Y ∈ X(M ) に対して LX Y ∈ X(M ) を d (LX Y )p = (dϕ−t )ϕt (p) (Yϕt (p) ) dt t=0 (p ∈ M ) により定める. LX Y が Y の X による Lie 微分である. 実は, LX Y は括弧積 [X, Y ] に一致する. 実際, X を座標近傍を用いて X= n ∑ i=1 ξi ∂ ∂xi と表しておくとき, ϕt (p) は Landau の記号を用いて ( ) ϕt (p) = x1 + ξ1 (p)t + O(t2 ), x2 + ξ2 (p)t + O(t2 ), · · · , xn + ξn (p)t + O(t2 ) (t → 0) と表されることを用いて計算すればよい. よって, Y の X による Lie 微分は括弧積 [X, Y ] の幾 何学的表現とみなすことができる. 上の Lie 微分の定義において Y の部分を一般のテンソル場に置き替えれば, テンソル場の Lie 微 分が得られる. 例えば, M 上の 1 次微分形式 ω の X ∈ X(M ) による Lie 微分 LX ω を考えると, LX ω は M 上の 1 次微分形式で, 任意の Y ∈ X(M ) に対して (LX ω)(Y ) = X(ω(Y )) − ω([X, Y ]) がなりたつことが分かる.
© Copyright 2024 ExpyDoc