経済のための数理基礎8 8 連立 1 次方程式の解 では、連立方程式の解の存在と、その解法を考察してみよう。ここでは、n 個の未知数 x1 , · · · , xn に対 し、m 個の1次方程式が連立された方程式を考えよう。 定義 8.1. 連立 1 次方程式 に対し、 a11 a21 A= .. . am1 a11 x1 + · · · a1n xn = b1 a21 x1 + · · · a2n xn = b2 .. . a x + · · · a x = b m1 1 mn n m a12 ··· a1n a22 .. . am2 ··· .. . ··· amn a2n .. , . x1 x2 x= .. . b1 b2 b= .. . xn bm と行列で表記すると、Ax = b という等式で表される。このとき、(m, n) 行列 A をその連立方程式の係数 行列と呼ぶ。また、A の右側に b を一列加えた (m, n + 1) 行列 (A b) を拡大係数行列と呼ぶ。 拡大係数行列 (A b) を階段行列に変形して、その階数を考察してみよう。まず、通常の係数行列の階数 を r とする。つまり、rankA = r である。 a11 a21 (A b) = .. . a12 a22 .. . ··· ··· ··· a1n a2n .. . am1 am2 ··· amn b11 b12 → .. . bm c1j1 d1 c2j2 .. . crjr O = (C d) dr+1 d2 .. . dr と基本変形できる。注意として、Ax = b の解は、Cx = d の解と一致することに注意しよう。 この時重要なのは、dr+1 の値である。 1. dr+1 ̸= 0 のとき、すなわち、rank(A b) > rankA = r のとき、Cx = d の方程式からは、dr+1 = 0 · xr+1 = 0 となってしまうため、矛盾となる。つまり、この方程式は解を持たない。 2. dr+1 = 0 のとき、すなわち、rank(A b) = rankA = r のとき、xr+1 = t1 , · · · , xn = tn−r という n − r 個の任意定数で置き換えると、帰納的に x1 , · · · , xr もこれらの任意定数を用いて書き表せる。 つまり、r 行目は crjr xr + crjr +1 t1 + · · · crn tn = dr という方程式を表しているが、crjr ̸= 0 なのだから、この 1 次方程式は一意的に解を持つ。以降、下 から順に 1 次方程式を解いていけば、解が求まる。注意としては、x というのは一意的な解を持つ わけではない。xr+1 , · · · , xn は任意定数で置き換えたので、ここに不定性が残っている。この不定 の解の個数 n − r をこの連立方程式の解の「自由度」と呼ぶ。また、n − r 個の任意定数を含んだ形 の解を「一般解」、任意定数に特別な値を代入した解を「特殊解」と呼ぶ。 1 以上の事から連立方程式の解について、以下のことが言える。 定理 8.2. A を (m, n) 行列とする。n 個の未知数 x からなる連立 1 次方程式 Ax = b が解を持つための 必要十分条件は、 rank(A b) = rankA が成り立つことである。このとき、一般解は n − rankA の自由度を持つ。 注意 8.3. このことから、感覚的に理解していた n 個の未知数に対し、m < n となる m 個の方程式の連 立では、解が一意に決まらないことが理論的に示される。 例 8.4. 次の連立 1 次方程式の一般解を求めてみよう。 x1 − 2x2 + 3x3 − 4x4 + 5x5 −x + 3x + x + 7x − 3x 1 2 3 4 =6 = −4 5 2x1 − 2x2 + 11x3 + x4 + 8x5 3x − 3x + 23x − 5x + 25x 1 2 3 4 5 まず、拡大係数行列の階数を求めてみよう。 1 −2 3 −4 −1 3 1 7 (A b) = 2 −2 11 1 3 −3 23 −5 1 0 → 0 0 =4 = 32 5 6 1 −2 3 −3 −4 0 1 4 → 0 2 8 4 5 25 32 0 3 14 −2 3 −4 5 1 0 4 −3 3 3 2 −6 0 2 −2 4 6 1 −2 2 → 0 0 −12 8 0 −4 5 6 3 2 2 9 −2 −8 7 10 14 −3 −4 5 1 0 4 1 0 0 6 3 2 2 −1 2 4 0 0 0 となるため、 rank(A b) = rankA = 3 となり、この方程式は自由度 2 の一般解を持つ。このとき、x4 = c1 , x5 = c2 とおくと、 x3 − c1 + 2c2 = 4 により、x3 = c1 − 2c2 + 4 である。以下、 x2 + 4x3 + 3x4 + 2x5 = 2 から、x2 = −7c1 + 6c2 − 14 であり、 x1 − 2x2 + 3x3 − 4x4 + 5x5 = 6 からは、 x1 = −13c1 + 13c2 − 34 と表せるため、任意定数を用いて、一般解が x1 −13 13 −34 x2 −7 6 −14 x3 = 1 c1 + −2 c2 + 4 x 4 1 0 0 x5 0 1 と表される。 2 0 上記の問題が特殊解を求めよ、という場合ならば、任意定数をたとえば c1 = 0, c2 = 0 にとって、 −34 x1 x2 −14 x3 = 4 x4 0 0 x5 が特殊解の一つである。無論、他にも任意定数の取り方によって無数の特殊解がある。 例 8.5. 次の連立 1 次方程式の一般解を求めてみよう。 x1 + 2x2 + 3x3 + 4x4 −2x − 2x + x − 2x 1 2 3 =5 4 x1 − 4x2 − 18x3 − 9x4 2x + 6x + 13x + 6x 1 2 3 4 = −6 = −2 =a が解を持つように a の値を定め、その解を求めてみよう。 解を持つかどうかは、拡大係数行列の階数でわかるので計算すると、 1 2 3 4 5 1 2 3 −2 −2 1 −2 −6 7 0 2 (A b) = 1 −4 −18 −9 −2 → 0 −6 −21 2 6 13 6 a 0 2 7 1 0 → 0 0 2 3 2 0 0 7 0 0 4 5 1 2 6 4 → 0 2 0 0 5 5 −8 a − 14 0 0 3 4 7 0 0 6 1 0 4 6 −13 5 4 −7 −2 a − 10 5 4 1 a−6 となる。よって、a = 6 のとき、rank(A b) = rankA = 3 となり、方程式は自由度 1 の一般解を持つ。これ を求めるため、x3 = 2c とおく(分数を出さないための配慮)。これより、x4 = 1, x3 = 2c, x2 = −7c − 1, x1 = 8c + 3 となる。よって、 x1 8 3 x2 −7 −1 = c + x 2 0 3 x4 0 1 3
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