15 酵素免疫測定法入門 ∼抗原・抗体反応の応用

15
酵素免疫測定法入門
∼抗原・抗体反応の応用
自然研究講座
片桐昌直
はじめに
酵素免疫測定法は、EIA(Enzyme Immunoassay)あるいは、ELISA (Enzyme-Linked
Immunosorbent Assay)とも呼ばれ、抗体の抗原に対する高い特異性と親和性を用い、種々の
試料からの微量の抗原に対する検出・定量法です。従って、この酵素免疫測定法の理解には、
抗原抗体反応の理解が不可欠です。一方では、この手法は現在 HIV や SARS などの抗体検出
による疾患診断やガン関連抗原の検出、妊娠診断などの医療分野や遺伝子組換え作物の検出
や食物アレルゲンの検出などの農学分野、さらには薬物検査などの警察分野など、幅広い分
野で使用されています。従って、この分野の実習は、単に免疫分野の一部(液性免疫)を学
ぶというのみならず、身の回りでの科学の理解にとっても重要な考え方を与えるものと考え
られます。
n
抗体、酵素、抗原抗体反応
抗体(イムノグロブリン G)の構造
VH と VL 部分の立体構造
免疫グロブリンの基本構造
①Fab 領域, ②Fc 領域, ③重鎖(N 端側から VH、CH1、ヒンジ部、CH2、
CH3), ④軽鎖(N 端側から VL、CL),⑤抗原結合部位, ⑥ ヒンジ部
n
抗原
一般に、分子量5,000以上の高分子が、抗原として認識され、抗体を生産します。つ
まり、抗原とは、抗体(イムノグロブリン)に結合するものです。
n
酵素免疫測定法に使われる酵素(西洋わさびペルオキシダーゼ)
ペルオキシダーゼ(Hydrogen peroxidase,Horseradish peroxidase,HRP)
反応
色原性基質+H2O2 ⇔酸化型色素+2H2O
起源
西洋わさび(Horseradish)
分子量,至適 pH
40,000, pH 6.5
基質特異性
色原性基質(水素供与体)については、特異性はない.
過酸化物としては H2O2, CH3OOH, C2H5OOH のみ
阻害剤と活性化剤
阻害剤:CN-,S--,F-,N3-(抗凝固剤として用いられるフッ素イオ
ンと保存料として用いられる NaN3 に注意!)
安定性
(シバヤギ
n
乾燥,冷蔵状態で数年間,水溶液で冷蔵 1 年間安定
ホームページ http://www.shibayagi.co.jp/technology_002_01.html より)
抗原抗体反応の性質
抗原抗体反応、つまり抗原と抗体の結合は、
右図の様に、共有結合以外の分子間に働くすべ
ての相互作用を使って結合しています。従って、
反応は、抗原・抗体の濃度以外にも、pH、イ
オン強度、温度、時間などに依存することにな
ります。
抗原・抗体反応に関係する相互作用
今回は、バイオラド社の「ELISA イムノ Explor キット」(カタログ#166−2400JEDU)
を少し改編して実験を行って頂きます。実験は、抗体検出の実験で、用いられる抗体は、ウ
サギで作成した、ウサギ抗ニワトリγ−グロブリンポリクローナル抗体で、従って、抗原は、
ニワトリγ−グロブリンというタンパク質です。γ−グロブリンとは、血清中のタンパク質
を電気泳動により分画したときの分画名で、抗体(イムノグロブリン)が含まれています。
ですので、今回の実験は、ニワトリの抗体をウサギの抗体と酵素で検出する実験です。臨床
検査の場合は、ヒト血清中の特定の抗原に対する抗体(例えば、肝炎ウィルスに対する抗体)
を、マウスのモノクローナル抗体を用いて検出しています。
■ 実験 酵素免疫測定法による、抗体の検出
操作
1.1次抗体(ウサギ抗ニワトリγ−グロブリン抗体)の希釈
下図の様にして抗体の希釈系列を作ります。200μL のリン酸緩衝液 pH7.4 をチューブ
に入れておき、原液から100μL の溶液をx3のチューブに入れ、フタをして転倒混和します。
その後、100μL を取り、次のx9のチューブに入れ混ぜます。これを繰り返し、3倍希釈系
列を81倍まで作ります。
100 ml
100 ml
100 ml
100 ml
x1(原液)
200 ml of リン酸緩衝液
x3
x9
x27
x81
2.12ウェルストリップ2つに、下図の様に印をつけます。
「+」は陽性コントロール、
「−」
は陰性コントロールを示します。また、「未知」は未知資料を示します。
x1 x1 x1 x3 x3
x9
x3
x9 x9 x27 x27 x27 x81 x81 x81 未知 未知 未知
3.マイクロピペットを用いて精製抗原(ニワトリγ−グロブリン)50μL をストリップ
のウェル24個全部に加えます。
4.5分間放置して抗原がウェルに吸着するのを待ちます。
5.洗浄します。
a.ストリップをペーパータオル上に上下逆に伏せて、逆さまのまま数回指先でたたき
中の液体を取り除きます。
b.スポイドを用いて各ウェルに洗浄液を満たします
c.ストリップ内の洗浄液をすべて捨てます。勢いよく液を捨てることがポイントです
d.再度ペーパータオル上で中の洗浄液をすべて取り除きます。
6.新しいピペット用チップを用いて陽性コントロール(+)50μL を(+)印がついた
ウェル3個に加えます。
7.新しいピペット用チップを用いて陰性コントロール(−)50μL を(−)印がついた
ウェル3個に加えます。
8.それぞれ新しいチップを用いて、各希釈抗体50μL を該当するウェル各3個に加えま
す。また、未知試料を「未知」と書いたウェル3個に50μL を加えます。
9.5分間放置して血清中の抗体が、標的(抗原)に結合するのを待ちます。
10.前述の洗浄方法を繰り返して、抗原に結合していない抗体(1次抗体)をウェルから
洗い流します。
11.新しいチップを用いてマイクロピペットで、2次抗体(酵素標識抗体)50μL をス
トリップの24個のウェルに加えます。
12.5分間放置して2次抗体が、標的(1次抗体)に結合するのを待ちます。
13.前述の洗浄方法を繰り返して、抗原に結合していない2次抗体をウェルから洗い流し
ます。
14.新しいチップを用いてマイクロピペットで、酵素基質(TMB)50μL をストリップ
の24個のウェルに加えます。
15.5分間放置したのち、1 moL/L 塩酸50μL を加え酵素反応を停止させます。
16.プレートリーダーで、450
nm の吸光度を測定します。
コロナ吸光マイクロプレートリーダー
MTP-310
17.得られたデータから下記表を完成させてください。
試料
吸光度(a)
(a)-(-)=(b) (b)/(+)*100=(c)
X1(1)
X3(0.3333)
X9(0.1110)
X27(0.0370
X81(0.00411)
(-)
0
(+)
0
100
未知試料
お渡しする方対数グラフに、横軸に希釈x1∼x81 までの抗体の濃度
つまり()内の数字、縦軸に(c)の値を取ってプロット。未知試料
の抗体の濃度、つまり希釈率を推定して見てください。
この実験に用いたキットは、学校向けにアメリカで開発されたキットで、30名が実験をお
こなうことが出来るるようになっています。
この実験を挟んで、酵素免疫測定法や抗体についての説明を行いたいと思います資料等は当
日配布予定です。
参考文献
1)バイオ・ラド社対応ページ
http://www.bio-rad.com/ja-jp/product/elisa-immuno-explorer-kit
2)シバヤギELISA解説ページ
http://www.shibayagi.co.jp/technology_002_01.html
3)抗体物語 井上 浄, 坂本 真一郎, 久保田 俊之 リバネス出版 (2005)
4)抗体科学入門(改訂版)
岡村 和夫 工学社
(2009)