『公共経済学講義:理論から政策へ』 数学付録:凸集合と分離定理1 須賀晃一[編] c ⃝Koichi Suga, 2014 発行所:有斐閣 2014 年 6 月 25 日 初版第 1 刷発行 ISBN 978-4-641-16445-1 1 須賀晃一(編)『公共経済学講義:理論から政策へ』(有斐閣,2014 年)の【数学付録】を項目別に公開 しています。本書を読み進めて頂くに際してのご参考に,ぜひご利用下さい。 1 凸集合と分離定理 1 凸集合 経済学では,Rn の部分集合の中で凸集合と呼ばれる集合が,特に重要な役割を果たす. Rn の任意の 2 点 x, y を端点とする線分は {αx + (1 − α)y|α ∈ R, 0 ≤ α ≤ 1} によって定義される.閉区間と同様に [x, y] で表す. Rn の部分集合 A は,任意の x, y ∈ A に対して,x と y を端点とする線分がもとの A に 含まれるとき,すなわち x, y ∈ A =⇒ [x, y] ⊂ A ならば凸集合と呼ばれる. αx + (1 − α)y は x と y の凸結合といわれ,2点 x,y の (1 − α) : α の内分点を表す (図 1 を参照せよ).凸集合とは,その集合に属する任意の2点の凸結合が,再びもとの集合に属 するという性質をもった集合である.1 次元の場合,区間は凸集合である.2次元では,線 分,円や三角形の内部は凸集合である.だが凸の形をした集合は凸集合ではない (図 2 を参 照せよ).上で述べた近傍は凸集合になっている. x αx + (1 − α)y αx y (1 − α)y 図 1: 凸結合 任意個の凸集合 Aλ (λ ∈ Λ) が与えられたとき,それらの共通部分 ∩λ∈Λ Aλ は凸集合であ るが,和集合 ∪λ∈Λ Aλ は一般に凸集合ではない. Rn の部分集合 A が与えられたとき A が凸でないなら,最小限の点を加えて凸集合にす る.次のような手続きを考えよう.与えられた集合を含むあらゆる凸集合 Aλ (λ ∈ Λ) を集 め,凸包と呼び,Cv[A] で表す.すなわち Cv[A] = ∩λ∈Λ Aλ 2 y x αx + (1 − α)y x αx + (1 − α)y αx + (1 − α)y y x y (a) (b) (c) 図 2: 凸集合 図 3: 凸包 3 である. 凸集合の別の例として,凸錐 (convex cone) と超平面 (hyperplane) を取り上げる.まず, 錐の定義を与える.Rn の任意の x に対して,{αx|α ∈ R+ } によって定義される集合を x によって定まる射線 (ray) という.n = 2 のとき,射線は原点から引かれた x を通る半直線 になる.Rn の部分集合 A が,任意の x ∈ A に対して,x によって定まる射線がもとの A に 含まれるとき,A は錐 (cone) という. Rn の部分集合 A は α, β ∈ R+ , x, y ∈ A =⇒ αx +βy ∈ A が成り立つとき,凸錐という. 2 つの集合 A, B ⊂ Rn に対して, A + B = {x + y|x ∈ A, y ∈ A} と定義する. A,B が凸集合ならば A + B も凸集合である. 次に,a = (a1 , a2 , . . . ,an ) ∈ Rn , a ̸= 0 および B ∈ R に対して, H = {x = (x1 , x2 , . . . ,xn ) ∈ R |a · x = n n ∑ ai xi = b} i=1 を定義し,Rn 内の超平面と呼ぶ.そして,a = (a1 , a2 , . . . ,an ) を H の法線ベクトルとい う.1 つの超平面 H は,Rn を 2 つの半空間 (half-space) H+ = {x = (x1 , x2 , . . . ,xn ) ∈ Rn |a · x ≥ b} H− = {x = (x1 , x2 , . . . ,xn ) ∈ Rn |a · x ≤ b} に分け,H は H+ と H− の共通部分となる.図 4 は (a1 , a2 ) = (−1, 1),b = 2 のケースを図 示したものである.超平面は −x1 + x2 = 2 で表される直線である.n = 2 の時平面内の直 線,n = 3 のとき空間内の平面となる.法線ベクトルは H と直交するベクトルである.図 4 より明らかなように,H+ , H− は凸集合であり,H = H+ ∩ H− も凸集合である. もう 1 つ注意しておくべき点は,超平面が同じでも法線ベクトルの方向によって H+ と H− が入れ替わることである.上の図 4 の例と同様で,(a1 , a2 ) = (1, −1), b = −2 としてみ よう.これから同一の直線(超平面) の式が導かれるが,H+ と H− の位置は図とは逆にな る.例えばそれらの式に原点を代入してみれば容易に確認できよう.つまり,超平面を挟ん で法線ベクトル側(法線ベクトルが指し示す方向にある半空間) が H+ であり,逆側が H− なのである. ∑ さて,2 つの非空集合 A, B ⊂ Rn に対して,1 つの超平面 H = {x|a · x = ni=1 ai xi = b} が存在して, x ∈ A =⇒ a · x ≥ b x ∈ B =⇒ a · x ≤ b が成り立つとき,超平面 H は A, B を分離するという.図 5 を見よ. 4 x2 (-1,1) −x1 + x2 = 2 H+ 2 H− x1 -2 図 4: 超平面 図 5: 分離超平面 補助定理 1 集合 A ⊂ Rn は非空閉凸集合で原点を含まないとする.このとき超平面 H = {x|a · x = b} が存在し,任意の x ∈ A に対して a · x > b が成り立つ. 補助定理 2 集合 A ⊂ Rn は非空凸集合で原点を含まないとする.このとき原点を通る超平 面 H = {x|a · x = 0} が存在して,任意の x ∈ A に対して a · x ≥ 0 が成り立つ. これら 2 つの補助定理を用いて,分離定理が証明できる. 定理 1 (分離定理 I) 2 つの集合 A, B ⊂ Rn は非空凸集合であるとする.このとき,A ∩ B = ∅ ならば,これ らを分離する超平面が存在する. 定理 2 (分離定理 II) 集合 A ⊂ Rn は非空凸集合であり,A ∩ Rn++ ̸= ϕ とする.このとき A と Rn+ を分離する 超平面が存在し,その法線ベクトル a ̸= 0 は ∀x ∈ A : a · x ≤ 0 かつa ≥ 0 を満たす. 5
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