中古住宅販売の低迷は在庫不足が原因 ~イエレン議長

景気循環研究所レポート
景気循環週報(米国)
2014 年 5 月 22 日
○トピックス
中古住宅販売の低迷は在庫不足が原因
~イエレン議長の懸念は杞憂に~
イエレン議長、住宅の弱
さから目が離せないと発
言
最近の住宅関連の経済指標の推移は、強弱まちまちな結果となってお
り、先行きに対する悲観論も少なくない。イエレン FRB 議長は、5 月 7 日
の議会証言で、「今年の住宅市場の活動はこれまでのところ期待にそぐわ
ないものとなっており、目が離せない」と発言した。イエレン議長はこれ
まで、労働市場の弱さを緩和策継続の論拠としてきたが、失業率が大幅に
低下する中、新たな問題点を提起することで、早期のゼロ金利解除観測を
打ち消そうとしているようにみえる。
嶋中 雄二
景気循環研究所長
宮嵜
浩
シニアエコノミスト
03-6213-6573
miyazaki-hiroshi
@sc.mufg.jp
福田
圭亮
シニアエコノミスト
03-6213-2608
fukuda-keisuke
@sc.mufg.jp
本週報は、嶋中雄二の見方に基
づき、宮嵜・福田が執筆を担当し
ています。
そこで、米国の主要な住宅関連指標を見ると、新築住宅着工件数は、振
れを伴いながらも、上昇基調を維持している一方、中古住宅販売件数は、
減少を見せている(図1)。
(百万件)
1.3
1.1
図1.住宅ローン金利と住宅関連指標の推移
新築住宅着工許可件数
(左目盛)
(百万件)
8.0
7.5
新築住宅着工件数
(左目盛)
0.9
7.0
6.5
0.7
6.0
0.5
'13/7
0.3
5.5
5.0
中古住宅販売件数
(右目盛)
0.1
(%)
-0.1
3.0
-0.3
4.0
4.5
4.0
'12/12
3.50
住宅ローン金利
(左・逆目盛)
3.5
13/5
5.0
'13/8
4.66
6.0
7.0
景気循環研究所
東京都千代田区丸の内 2-5-2
三菱ビルヂング
01
02 03
04
05
06 07
08
09 10
(注)点線は11年1月~12年12月までの傾向線。
(出所)米商務省『Housing starts』
1
11
12
13 14
15
2014 年 5 月 22 日
全米不動産協会のプ
中古住宅販売件数については、13 年 7 月のピーク時から 14 年 3 月時点まで
レスリリースは、住
で、実に 15%も減少している。同指数は、様々な要因により減少したとみら
宅ローン金利の上昇
れるが、ここでは、全米不動産協会のプレスリリースを振り返ることで、そ
と悪天候を指摘
の手がかりを探してみたい。
表1の通り、13 年 6 月以降のプレスリリースを見ると、13 年 6~8 月には、
住宅ローン金利の上昇による駆け込みが指摘されており、13 年 9 月には、金
利上昇の影響で販売が減少したことが記されている。全米不動産協会は、金
利と住宅価格の上昇で、販売は 13 年 8 月に一旦ピークをつけた可能性がある
と指摘した。
13 年 12 月から 14 年 2 月にかけては、例年にない気温の低下などの悪天候
の影響で、販売活動の停止や取引の遅れが発生したことが指摘されている。
その他で目に付くのは、Qualified Mortgage Rule(QM ルール)の影響で
ある。QM ルールとは、ドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法の
下、すべての住宅ローンを対象に、支払い能力の審査を義務付けたものであ
る。同ルールでは、住宅ローンの支払いは、月収の 43%を超過してはならず、
全米不動産協会によると、販売件数の 6~8%程度が同ルールの影響を受ける
としている。
また、いずれの月のプレスリリースにおいても、在庫不足と厳しいローン
審査についての指摘が簡単に触れられている。
表1.中古住宅販売件数(全米不動産協会)のプレスリリースの注目点
・13年6月
・13年7月
・13年8月
・13年9月
・13年10月
・13年11月
・13年12月
・14年1月
・14年2月
・14年3月
住宅ローン金利の上昇は販売に影響するだろう。
住宅ローン金利の上昇は購入者の契約完了を急がせる。
リピートバイヤー(注1)がキャッシュを使っている。
投資家は割安物件をみつけられなくなっている。
住宅ローン金利の上昇は購入者に契約完了を急がせた。
一旦ピークをつけた可能がある。
減少は予想通り 金利上昇と住宅価格上昇の影響。
来月は政府機関閉鎖の影響が予想される。
トレンドが横ばいとなることが予想される。
Qualified Mortgage ルール(注2)の影響が間もなく表れる。
通常より寒い気温の影響を受けた。
悪天候の影響を受けた。一部は春まで活動停止となろう。
1月からスタートのQualified Mortgage ルールにより販売
件数は、6~8%が脅威にさらされる(記者会見)。
引き続き悪天候影響を受けた。一部は取引が遅れているだけ。
住宅着工件数の増加により、中古のタイトな在庫が緩和される。
(備考: いずれのプレスリリースにも在庫不足と厳しいローン審査の指摘あり)
注1.リピートバイヤーとは、初回購入者でも、投資家でもない者。
注2.Qualified Mortgageルールは、ドッド=フランク法のもと、すべての住宅ローンを対象に、支払い能力の審査を義務
付けたもの。住宅ローンの支払いは月収の43%を超過してはならない。主に所得の低い初回購入者や大型の住宅ロ
ーン(Jumboローン)を組む購入者に影響。
(出所)NARプレスリリースより景気循環研究所作成
巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
2
2014 年 5 月 22 日
中古住宅販売の弱さ
このように全米不動産協会のプレスリリースは、中古住宅の販売低迷を考
は金利上昇と悪天候
察するうえで、示唆に富む指摘が多い。ただし、プレスリリースで強調され
だけでは説明できず
ている住宅ローン金利の上昇と悪天候の影響は、中古住宅販売の落ち込みを
説明するうえで、補完的なものでしかない可能性がある。
まず、天候要因についてみると、寒波や大雪などの悪天候の影響は、中古
販売件数より、現場での作業を伴う新築住宅着工件数の方が大きいと考えら
れる。新築住宅着工件数が増加基調を維持するなか、中古住宅販売件数は減
少しており、天候以外の要因も大きく影響したとみられる。
また、住宅ローン金利の上昇についても、中古住宅販売件数の落ち込みと
関係が薄い可能性がある。図2は中古住宅販売件数を、全額現金による購入
と住宅ローンによる購入に分けたものである。住宅ローン金利は、13 年の 5
月から 6 月にかけて大きく上昇した。住宅ローンによる購入は、13 年 7 月を
ピークに減少しており、住宅ローン金利上昇の影響が疑われる。しかし、金
利上昇の影響を受けない全額現金による購入についても、13 年 8 月をピーク
に減少している。これは、中古住宅販売の減少の主因が、住宅ローン金利の
上昇ではない可能性を示唆している。
( 百万件)
図2.中古住宅販売件数の内訳
2.40
2.20
'13/7
住宅ローンによる購入
(右目盛)
(百万件)
3.80
3.60
3.40
2.00
11~12年傾向線
1.80
'13/8
3.20
3.00
1.60
11~12年傾向線
1.40
1.20
全額現金による購入
(左目盛)
2.80
2.60
2.40
10
11
12
13
14 (年、月)
(注)販売統計とは別調査(NARが毎月実施)の現金購入比率をもとに算出。
(出所)全米不動産協会(NAR)
1.00
在庫不足で、中古住
宅販売低迷
では、13 年の夏頃から見られる中古住宅販売の低迷の主因は何か。次頁図
3は、中古住宅販売件数と在庫月数の関係を示したものである。06 年に住宅
バブルが崩壊した際は、在庫月数が上昇し、供給過剰の状態となった。一方、
足元では、中古住宅販売件数が減少するなか、在庫月数は低水準を維持して
おり、供給不足が生じていることを示している。13 年に入り、住宅価格の上
巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
3
2014 年 5 月 22 日
昇が顕著となるなか、住宅購入希望者が競って中古住宅を購入したため、13
年夏頃に手頃な購入物件が急速に不足したのではないかと考えられる。
(百万)
図3.中古住宅販売と在庫月数
7.00
(カ月)
中古住宅販売件数
(左メモリ)
23.0
6.00
18.0
5.00
4.00
在庫月数
(右メモリ)
在庫月数
(90年以降平均)
3.00
13.0
8.0
2.00
1.00
3.0
68 71 74 77 80 83 86 89 92 95 98 01 04 07 10 13 16
(注)在庫月数=在庫残高÷月次販売件数
(出所)全米不動産協会(NAR)
在庫不足は、投資家
の間で顕著に
(年)
在庫不足は、投資家の間で特に顕著となっているとみられる。図4は、中
古住宅販売件数に占める投資家の割合と全額現金による購入の割合を示して
いる。13 年以前は、全額現金による購入の割合は、ほぼ、投資家の動向に左
右されてきた。それが、13 年前半から乖離が生じている。表1の 13 年 7 月
のコメントにみられるように、差押物件などが減少する中で、収益性の高い
物件が減少し、投資家は、割安物件を見つけられなくなっている。
(%)
(%)
図4.投資家と全額現金購入者の比率
36
26
24
投資家による
購入割合
(右目盛)
34
32
22
20
30
18
28
16
全額現金
による購入割合
(左目盛)
26
24
14
投資家でない者が
現金買い
22
2010
2011
2012
(注)景気循環研究所にて季節調整
(出所)全米不動産協会
巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
4
2013
2014
(年、月)
12
10
2014 年 5 月 22 日
供給が増えれば中古
このように、住宅販売市場の大半を占める中古住宅販売は、供給面の制約
住宅販売は回復へ。
を受けて、低迷しているとみられ、需要面は引き続き堅調であると考えられ
イエレン議長の懸念
る。
は杞憂に
中古住宅の在庫不足は、新築住宅の需要へと波及する可能性があり、新築
住宅着工件数は、引き続き高い伸びを示すとみられる。今後は、新築住宅着
工の増加に伴い、住宅の住み替えが進み、中古在庫の供給が徐々に増える中、
中古住宅販売は緩やかに増加していくと予想される。イエレン議長の懸念は、
杞憂に終わる可能性が高い。
(以
(14.5.22 福田
巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
5
上)
圭亮)
2014 年 5 月 22 日
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