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2014 年 12 月 18 日
No.12
数学を学ぶ (微分積分2)・授業用アブストラクト
§12. 一次変換と重積分
一般の有界閉集合上での重積分を計算するには、変数変換を行い、領域を「縦線領域や横線
領域に直してから」計算することが必要になる。ここでは、変数変換の中で最も基本的な一次
変換のみを考え、重積分の変数変換公式を導く。そのために、一次変換で写す前後で、領域の
面積がどの程度変化するのかを観察する。
一次変換の定義とその性質を述べることから始めよう。
● 12 - 1 : 一次変換とは
a, b, c, d ∈ R を定数とすると、各 (x, y) ∈ R2 に対して (ax + by, cx + dy) ∈ R2 を対応させ
る写像
F : R2 −→ R2 ,
(12 - 1 a)
F (x, y) = (ax + by, cx + dy)
が定まる。この写像を一次変換という。2 次正方行列 A を
(
)
a b
(12 - 1 b)
A=
c d
( )
x
で書くことにすれば、(12 - 1 a) の一次変換 F は
によって定め、R2 の元を列ベクトル
y
( )
(( ))
x
x
(12 - 1 c)
F
=A
y
y
で与えられる。したがって、一次変換は行列によって定まる写像であると言える。
y
例 12 - 1 - 1
F(x,y)= cosθ(x,y)+ sinθ(-y,x)
一次変換
F : R2 −→ R2 ,
( 1
1
1
1 )
F (x, y) = √ x − √ y, √ x + √ y
2
2
2
2
π
(= 45◦ ) だけ
は原点を中心とし、反時計回りに
4
回転する移動を表わす。より一般に、θ ∈ R とす
(x,y)
(-y,x)
θ
sinθ(-y,x)
O
cosθ(x,y)
x
るとき、一次変換
(12 - 1 d)
F : R2 −→ R2 ,
F (x, y) = ((cos θ)x − (sin θ)y, (sin θ)x + (cos θ)y)
は原点を中心とし、反時計回りに θ だけ回転する移動を表わす。
● 12 - 2 : 一次変換の性質
R2 の2点 A(x1 , y1 ), B(x2 , y2 ) に対して、座標が (x1 + x2 , y1 + y2 ) により与えられる点を
A + B で表わし、t ∈ R と R2 の点 A(x, y) に対して、座標が (tx, ty) により与えられる点を
– 67 –
tA で表わす:
(12 - 2 a)
(x1 , y1 ) + (x2 , y2 ) = (x1 + x2 , y1 + y2 ),
(12 - 2 b)
t(x, y) = (tx, ty).
このとき、一次変換 F は次の性質を持つ:任意の A, B ∈ R2 と任意の s, t ∈ R に対して、
(12 - 2 c)
F (sA + tB) = sF (A) + tF (B).
性質 (12 - 2 c) を線形性と呼ぶ。
線形性の幾何学的意味を考えよう。平面 R2 上に相異なる2点 A(x1 , y1 ), B(x2 , y2 ) をとる。
このとき、 A, B を端点とする線分 AB 上の点は
tA + (1 − t)B
(12 - 2 d)
(t ∈ [0, 1])
と表わされる。このとき、線形性 (12 - 2 c) により、
F (tA + (1 − t)B) = tF (A) + (1 − t)F (B)
(12 - 2 e)
が成り立つ。したがって、F は、線分 AB を 1 − t : t に内分する点を線分 F (A)F (B) を 1 − t : t
に内分する点に写すことがわかる (但し、F (A) ̸= F (B) を仮定している)。以上の考察から、大
雑把に言って、一次変換 F は線分の内分比を保つような写像である、と言える。
F を一次変換とし、D を R2 内の部分集合 (すなわち、図形) とする。このとき、(x, y) が D
内を自由に動き回るときに、F (x, y) が動き回る R2 の中の範囲のことを F による D の像とい
い、F (D) という記号で表わす:
F (D) = { F (x, y) | (x, y) ∈ D }.
(12 - 2 f)
右図で与えられる図形
)D(平行四辺形の内部
(
1
2
が定める一次変換
とその周)の、行列 A =
−1 −1
y
例 12 - 2 - 1
(12 - 2 g)
F : R2 −→ R2 ,
F (x, y) = (x + 2y, −x − y)
1
A
C
O
1
x
による像は
-1
(12 - 2 h)
F (D) = { s(3, −2) + t(−1, 0) | 0 ≤ s, t ≤ 1 }
B
となる。これは、4 点 O, A′ (3, −2), B′ (−1, 0), C′ (2, −2) を頂点とする平行四辺形の内部および
□
周を表わす。
● 12 - 3 : 行列式と平行四辺形の面積
(
)
a b
2 次正方行列 A =
に対して
c d
(12 - 3 a)
det A = ad − bc
を A の行列式という。
[例 12 - 2 - 1] と同様にして、det A ̸= 0 のとき、A が定める一次変換 F は任意の平行四辺形
を平行四辺形に写すことがわかる。
– 68 –
(
)
a b
以下、2 次正方行列 A =
は det A ̸= 0 を満たしていると仮定する。すると、一次
c d
変換
F : R2 −→ R2 ,
F (x, y) = (ax + by, cx + dy)
によって、長方形領域 R = [0, 1] × [0, 1] は O(0, 0), A(a, c), B(b, d), C(a + b, c + d) を頂点とす
る平行四辺形の内部とその周
D = { (x, y) ∈ R2 | (x, y) = u(a, c) + v(b, d), 0 ≤ u, v ≤ 1 }.
に写される。このとき、D の面積 µ(D) は行列式 det A の絶対値に等しい:
µ(D) = |ad − bc|.
(12 - 3 b)
一般に、一次変換 F による平行四辺形 ∆ の像 F (∆) は平行四辺形となるが、2つの平行四
辺形 ∆ と F (∆) の面積について、
(F (∆) の面積) = |det A| × (∆ の面積)
(12 - 3 c)
が成り立つことがわかる。このことは、一次変換 F は平行四辺形の面積を |det A| 倍に拡大・
縮小する写像になっていることを意味する。
● 12 - 4 : 一次変換と重積分
D を4点 O(0, 0), A(a, c), B(b, d), C(a + b, c + d) を頂点とする平行四辺形の内部とその周か
らなる有界閉集合とする:
D = { (x, y) ∈ R2 | (x, y) = u(a, c) + v(b, d), 0 ≤ u, v ≤ 1 }.
R2 上で定義された関数 φ(u, v), ψ(u, v) を
{
φ(u, v) = au + bv
(12 - 4 a)
ψ(u, v) = cu + dv
によって定義する。このとき、(u, v) ∈ R2 に対して (φ(u, v), ψ(u, v)) ∈ R2 を対応させる一次
変換 F : R2 −→ R2 が考えられる。F は長方形領域 R = [0, 1] × [0, 1] を D に写し、連続 (す
なわち、φ, ψ は連続) である。
f (x, y) を定義域に D を含む連続関数とする。
v
Rij
y
F
u
Dij
x
座標軸に平行な直線によって R を小長方形領域 Rij に分割し、その像 Dij = F (Rij ) によっ
て D を分割する。Rij たちによる R の分割を ∆ とおき、Dij たちによる D の分割を F (∆)
−→
−→
とおく。x-軸、y-軸に平行な直線は、F によって、OA に平行な直線と OB に平行な直線に写る
−→
−→
ので、F (∆) は OA に平行な直線と OB に平行な直線による分割である (したがって、座標軸に
– 69 –
平行とは限らないことに注意)。
“ リーマン和 ”の定義をまねて、各 Dij から1点 ξij = (xij , yij )
をとって、
(12 - 4 b)
S(f, F (∆), ξ) =
∑
f (xij , yij )µ(Dij )
i,j
を考える。|F (∆)| を分割 {Dij } を構成する平行四辺形の辺の長さのうち最大のものを表わす
ことにすると、|∆| → 0 のとき |F (∆)| → 0 となるので、重積分の定義と同様にして、
∫
∑
lim S(f, F (∆), ξ) = lim
f (xij , yij )µ(Dij ) =
f (x, y) dxdy
|∆|→0
|∆|→0
D
i,j
となることがわかる。一方、(xij , yij ) = F (uij , vij ) とおくと、
(xij , yij ) = F (uij , vij ) = (auij + bvij , cuij + dvij )
と表わされ、また、等式 (12 - 3 c) が成り立つことから、
∑
S(f, F (∆), ξ) =
f (auij + bvij , cuij + dvij )|ad − bc|µ(Rij )
i,j
と書ける。よって、
∫
f (au + bv, cu + dv)|ad − bc| dudv
lim S(f, F (∆), ξ) =
|∆|→0
R
とも書ける。以上より、次の等式が得られた:
∫
∫
(12 - 4 c)
f (x, y) dxdy =
f (au + bv, cu + dv)|ad − bc| dudv
D
例 12 - 4 - 1
R
D = { (x, y) ∈ R2 | 0 ≤ x + 2y ≤ 1, 0 ≤ −x + 3y ≤ 1 } とするとき、重積分
∫
(x + y) dxdy
D
の値を求めよう。
y
R = [0, 1] × [0, 1] とおき、F (R) = D となる一
次変換 F を見つける。これは
{
u = x + 2y
v = −x + 3y
1
y = 3x + 3
1
2
y = 3x
D
とおいて、これを x, y について解くことにより求
-1
O
1
y = - 2x
められる。計算して、
F : R2 −→ R2 ,
(3
2
1
1 )
u − v, u + v
F (u, v) =
5
5
5
5
であることがわかる。したがって、
∫
∫ (
(3
2 ) (1
1 )) 3 1 ( 2 ) 1 (x + y) dxdy =
u− v + u+ v ·
− −
dudv
5
5
5
5
55
5 5
D
R
∫ 1 (∫ 1
)
1
3
=
4u − v du dv · · · = .
25 0
50
0
– 70 –
x
1
y = - 2x + 2
2014 年 12 月 18 日
No.12
数学を学ぶ (微分積分2) 演習問題 12
12-1. 一次変換
F : R2 −→ R2 ,
y
F (x, y) = (x + 3y, 2x + 5y)
により、右図で表される線分 L と三角形の周および内部
∆ とはそれぞれどのような図形に写されるか。その像を
L
(x, y)-座標平面上に図示せよ。
1
∆
-2
O
-1
12-2. D = { (x, y) ∈ R2 | 0 ≤ 2x + y ≤ 1, 0 ≤ x − y ≤ 1 } とおく。
(
)
a b
(1) 行列 A =
をどのように定めると、一次変換
c d
F : R2 −→ R2 ,
F (u, v) = (au + bv, cu + dv)
((u, v) ∈ R2 )
は、長方形領域
∫ R = [0, 1] × [0, 1] を D に写すか?そのような行列 A を1つ与えよ。
(2) 重積分
x(x + 2y) dxdy の値を求めよ。
D
– 71 –
1
x
数学を学ぶ (微分積分2) 通信
[No.12]
2014 年 12 月 18 日発行
■ 第 10 回の学習内容チェックシート Q1 について
第 1 項目と第 2 項目の 2 番目の枠への解答が不正解なものが多かったです。
m ∑
n
∑
Q1 の第 1 項目の枠にはリーマン和 S(f ; ∆, ξ) の定義式を書き入れます。
f (ξij )µ(Rij )
i=1 j=1
とだけ書かれたシートが大半でした。µ(Rij ) は何を表わしますか。但し書きとして、µ(Rij ) の
定義を書き添えてください。
Q1 の第 2 項目の 2 番目の枠には、「細分」「R の面積」「体積」「長方形領域」など、実にさ
まざまな答えが書かれていました。いずれも不正解です。アブストラクトの 56 ページの 10-4
節を見てください。そこには、リーマン和 S(f ; ∆N , ξN ) が⃝
1, ⃝
2, ⃝
3 によらずにある値 γ に
限りなく近づいていく場合、この値 γ のことを f (x, y) の重積分という、と書かれていますね。
つまり、重積分はリーマン和 (S(f ; ∆N , ξN ) の N → ∞ としたとき) の極限なのです。
■ 演習 11-1 について
演習 11-1(1) の重積分の計算を
∫
1
2
(∫
x2
x
)
y
x3 dy dx で書き始めるなど、よくない書き出
しをしている人がまだいます。重積分はリーマン和の極限として定義されています。その
値を求めよ、というのがここでの問いです。実際の重積分の計算においては1変数関数の
積分を2回繰り返せばよく、リーマン和を求めてその極限をとるわけではありませんが、
ごく小さな小直方体の体積の和としてのリーマン和の極限を求めようとしているということを
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
意識することはとても大切です。そうすれば、どのような書き出しをすればよいのかがわかる
でしょう (前回の通信も参照)。
■ 演習 11-2(1) について
図示の仕方が不十分な解答が多かったです。例えば、次のような解答が沢山ありました。
• 曲線 y = |x2 − 4x| と直線 x = −3 との交点、および、直線 x = 1 との交点の座標が読み
取れるように描かれていない (その交点の座標を示す数値が y 軸上に記入されていない)。
• 曲線 y = |x2 − 4x| と直線 y = 1 との交点の座標が読み取れるように描かれていない。
• 斜線で影がつけられているだけで、どこが D なのかの説明がない (境界を含む・含まない
の説明もない)。
• 直線 x = −3 上の部分が破線になっている。
問 (2) で面積を計算するために領域を描いているわけですから、概形だけではなくどの点で
曲線と直線がどのように交わるのか、境界を含むのか含まないのか、x 軸や y 軸とどこで交わ
るのかなどの情報を、図の中に書き入れなければなりません。
■ 次回予告
今回は、一次変換という特殊な座標変換に関する重積分の変数変換公式を導きました。次回
は、一般の座標変換について重積分の変数変換公式を導きます。特に、極座標変換の場合にそ
の使い方を説明します。
– 72 –
2014 年 12 月 18 日
数学を学ぶ(微分積分2)第 12 回・学習内容チェックシート
学籍番号
氏 名
Q1. 次の表を完成させてください。ページ欄にはその言葉の説明が書かれているアブストラク
トのページを書いてください。
ページ
意味
p.
一次変換とは?
2 次正方行列 A の行 p.
列式 detA とは?
R2 の部分集合 D の
一次変換 F による像 p.
F (D) とは?
Q2. p, q, r, s を ps − qr ̸= 0 であるような実数として、平行四辺形
D = { (x, y) ∈ R2 | 0 ≤ px + qy ≤ 1, 0 ≤ rx + sy ≤ 1 }
を考えます。次の表を完成させてください。
解決方法・方針
長方形領域 R = [0, 1] × [0, 1]
の像が D に一致するような一
次変換 F を求めるには?
D 上で定義された連続関数
∫
f (x, y) の重積分 f (x, y)dxdy
D
を計算するには?
Q3. 次の
に適当な言葉や数字を入れてください。
• 一次変換 F は線形性と呼ばれる次の性質を持つ:
.
任意の A, B ∈ R2 と任意の s, t ∈ R に対して、
(
)
a b
• 2 次正方行列 A =
が与えられると、(x, y) ∈ R2 に対して F (x, y) =
c d
∈ R2 を対応させる一次変換 F が定まる。もし、det A ̸= 0
であれば、この一次変換 F は長方形領域 [0, 1] × [0, 1] を4点
,
,
を頂点とする平行四辺形 D に写す。D の面積 µ(D) は
,
に等しい。
Q4. 第 12 回の授業で学んだ事柄について、わかりにくかったことや考えたことなどがありまし
たら、書いてください。