空間自己相関モデルをもちいた花粉散布の 空間パターン推定 ーブナの

空間自己相関モデルをもちいた花粉散布の
空間パターン推定
ーブナの花粉は本当に風で飛ぶのか?ー
富田 基史 (東北大院・農)・花岡創(岐阜大院・連農)
なぜ花粉散布を調べるのか?
• 集団遺伝学なアプローチ
– 集団の遺伝構造・遺伝的な分化を予測する
どのくらいの範囲で遺伝子流動がおこっているのか?
• 保全遺伝的なアプローチ
– 個体群が有性繁殖を維持するには一定の範囲に
どれくらいの個体が必要?
– 遺伝子汚染リスク評価(遺伝子組み換え作物など)
緑化植物・遺伝子組み換え作物の花粉はどこまで飛んでいくのか?
花粉が「どこから」「どれくらい」飛んで来るのか
定量的な評価が必要
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研究の目的
• ブナ(Fagus crenata Blume)の花粉散布パターンを推定する
– 「散布距離」「散布範囲」ではなく,花粉散布の空間的なパターンを
定量的に評価する
– 得られた結果から,花粉散布の空間パターンに影響しそうな要因
(今回は風向きのみ)の効果を検討する
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フィールド調査とデータの概要
•
岐阜大学位山演習林
(岐阜県・下呂市)
•
250m x 160mの調査地を設定
– ブナ個体数: 163 (DBH>10cm)
– 開花個体数: 126
母樹
受粉貢献度
•
2005年5月にブナが開花・結実
•
4個体から673種子を採集
– DNA解析による父性解析
– 78%の花粉親が調査地内
母樹・花粉親候補個体の位置図と父性解析の結果
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とりあえず距離・方位ごとに頻度をとってみる
受粉貢献度
近距離の個体からの
受粉が圧倒的に多い
母樹からみた花粉親の方位
受粉貢献度
母樹―花粉親間距離
距離 (m)
方位によって
受粉貢献度は違う?
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頻度を距離・方位ごとの個体数で補正する
受粉貢献度
近距離の個体からの
受粉が圧倒的に多い
母樹からみた花粉親の方位
受粉貢献度
母樹―花粉親間距離
距離 (m)
方位によって
受粉貢献度は違う?
(先ほどと傾向は違う)
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この解析の問題点
• 父性解析の結果は個体の空間分布によって影響を受ける
– 個体数が多い距離階級・方位には,花粉親と判定された個体も
多い
• 個体の受粉貢献度も様々な要因の影響をうける
– 距離が近い花粉親の頻度が高い
– 方位によって受粉貢献度は異なる?
– 花粉親の繁殖努力・個体間の開花期の同調性
…など
父性解析のデータから花粉散布パターンを定量的に
評価するのは難しい
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このモデルの基本的な考え方
• 「どこから・どれくらい花粉が飛んできたか」ではなく,
「各花粉親はどれくらい受粉に貢献できるか」を考える
– 母樹に対する相対受粉貢献度
相対受粉貢献度に影響する要因を推定する
相対受粉貢献度
(個体間距離・花粉親のサイズなど)
– 距離・サイズなどで説明できない
不確実性を含む
不確実性
• 階層ベイズモデルによる推定
– 多くの要因+不確実性を含むため,
一般的な手法ではパラメータ推定が困難
– ランダム効果
ランダム効果によって不確実性を
効果
推定できる
個体間距離・
+ 不確実性
サイズなど
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花粉親としての相対貢献度
母樹iの解析した種子のうち,
それぞれの花粉親の数Nijは,
相対受粉貢献度φijを期待値と
期待値と
する多項分布
する多項分布にしたがう
多項分布にしたがう
相対受粉貢献度φijは,
花粉親の
花粉親の繁殖努力Q
繁殖努力 jと
花粉散布カーネル
花粉散布カーネルf(r
の積で
カーネル ij|...)の
決まる
•
観測した
観測したデータ
したデータ
観測した
花粉親
Nij
•
観測していない
観測していない
プロセス
母樹iに
母樹 に対する
相対受粉貢献度
φij
繁殖努力
Qj
花粉散布
f(rij|..)
Ni!
N
P ( N i1 K N iJ ) =
φ ij
∏
∏ j N ij ! j
φ =
ij
ij
Q j × f (rij | ... )
J
∑Q
j
× f (rij | ... )
j =1
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花粉親としての繁殖努力
•
観測した
観測したデータ
したデータ
個体サイズ
Dj
•
花粉親jの繁殖努力Qjは
個体サイズ
個体サイズD
サイズ jで決まる
個体サイズDjだけで説明できない
ランダムな
ランダムな個体差βjが存在する
観測していない
観測していない
プロセス
繁殖努力
Qj
log Q j = α log D j + β j
α ~ Normal(0,10)
パラメータ
α
ランダム
個体差
βj
β ~ Normal(0,τ β )
i
1 / τ β ~ Gamma(0.01,0.1)
超パラメータ
τβ
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花粉散布パターン
•
観測した
観測したデータ
したデータ
個体間距離
rij
母樹から見た
花粉親の位置
Xij,Yij
観測していない
観測していない
プロセス
花粉散布
f(rij|...)
  rij
f ( rij | a, b,...) = exp − 
 a

1 / a ~ Gamma(0.1, 0.01)
パラメータ
a,b
•
散布される花粉の密度は
母樹と
母樹と花粉親の
花粉親の距離が
距離が離れるに
したがって減衰
したがって減衰する
減衰する
ただし,減衰のパターンは
場所によって若干異なる
空間ランダム
効果
ρ(Xij,Yij)
超パラメータ
τρ



b

 × ρ ( X ij , Yij )


b ~ Gamma(30, 60)
 ∑ log ρ (m, n)

 NEIGHBOR
2 
log ρ ( X , Y ) ~ Normal
,τ ρ 
8




1 / τ ρ2 ~ Gamma(0.01,0.1)
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  rij 
f (rij , X ij , Yij | a, b,...) = exp −  
 a

b

 × ρ ( X ij , Yij )


2次元の
次元の指数べき
指数べき乗分布
べき乗分布
•
母樹からの距離にしたがって,花粉親と
しての貢献度は減衰する
等方性の花粉散布カーネル
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  rij 
f (rij , X ij , Yij | a, b,...) = exp −  
 a

b

 × ρ ( X ij , Yij )


空間ランダム
空間ランダム効果
ランダム効果
•
母樹を中心に,空間を5x5mに分割
•
それぞれのセルは,距離で決まる
固定効果からの「ずれ」を表す
•
5m
各セルは,隣接8セルの平均値を期待値と
する正規分布を事前分布に持つ
条件付自己回帰(CAR)モデル
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散布カーネルのイメージ
5m
固定効果×ランダム効果
花粉散布の空間パターンを
表現する
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モデル全体の概要
観測した
観測したデータ
したデータ
観測した
花粉親
Nj
個体サイズ
Dj
観測していない
観測していない
プロセス
個体間距離
rij
繁殖努力
Qj
母樹iに
母樹 に対する
相対受粉貢献度
母樹から見た
花粉親の位置
Xij,Yij
花粉散布
f(rij|..)
φij
パラメータ
α
ランダム
個体差
βj
a,b
空間ランダム
効果
ρXY
超パラメータ
τβ
τρ
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MCMC推定
•
WinBUGS 1.4.2 + R2WinBUGS
– 3 chain; 150,000 step; 75,000 burn-in; 225 thin
– PentiumD 925 (3.0GHz), 1.0GB RAM, Fedora Core 6で
ほぼ3日
ほぼ 日くらい(2328個のパラメータ)
事後平均
2.50%
50%
97.50%
Rhat
k
2.88
2.20
2.89
3.61
1.28
1 / τ β2
1.77
0.53
1.20
4.99
5.12
1.08
0.09
0.41
6.51
1.37
0.48
0.32
0.47
0.65
1.04
0.15
0.09
0.15
0.20
1.48
1/ a
b
1 / τf2
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結果
開花期の風向と風速
風速(m/s)
確率密度
距離(m)
花粉散布パターン
北東と南西方向からの
花粉散布が多かった
花粉散布パターンと
風向はおよそ一致した
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できたこと・できなかったこと
• 花粉散布の空間パターンを定量的に示すことができた
– 従来は,多様な要因を考慮できなかったため,定性的な理解に
とどまっていた
– 空間パターンと同時に,花粉親としての繁殖努力のばらつきも
推定することができた
• 4つの母樹をプールして解析してしまった
– 地形の影響を考慮することができなかった
– 母樹・花粉親間の「相性」を推定することはできなかった
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